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狂った生徒H


「皆さん、今日からうちのクラスに新しいお友達が増えます。仲良くしてあげてくださいね」


いつものようにメーフラさんの剣術指導を受けに行ったら唐突にそんなことを言われた。いろいろと意味が分からない。

まず「皆さん」と言われても私一人だけだし、「うちのクラス」と言われてもほかにクラスがあるわけでもないし、ぎりぎり「新しいお友達」は多分新しいお弟子さんのことなのだろうと予想はつくがそれだけだ。

私が首をかしげると、メーフラさんが「入ってきてください」と言って外にいる誰かに促す。


今日はいつもの草原ではなくメーフラさんたちのギルドのギルドホームに備え付けられている訓練場にお邪魔していた。

そこにメーフラさんの言葉に促されて入ってくる人が一人。

半透明で今にも消え入りそうな印象を持つその少女は、おどおどした様子で入ってきて私のことをちらちらとみてくる。

じろじろ見て私の機嫌を損ねないように、そんな意図が見て取れる動作に私は少しだけイラっとした。


どうしてこんな人がメーフラさんの指導を受けることになったのだろうか?

こういってはなんだがとても向いているとは思えなかった。


「はい、こちら幽霊のイズミちゃんです。そしてあちらは人形の陽さん、お互いに仲良くしてあげてくださいね。さて、紹介も終わったことですし今週から週2で来てくれる特別講師をお招きしています。というわけでアスタリスクさん、お願いします!!」


その幽霊の紹介もほどほどに続いて入ってきたのは割とガタイの良い男だった。

身長はメーフラさんと比べて頭一つ分くらい高く、髪は短く切りそろえられていて清潔感を感じさせる。

顔は無表情だが彫りが深く、まっすぐなその目はその男の意志をそのまま体現しているようだった。

堅護君ほどではないが、いい男なのではないだろうか?まぁ、見た目なんていくらでも調整できるから参考にならないんだろうけどね。


彼も私を見たが、一瞥しただけでそれ以上は何もしなかった。

そういったさっぱりしたところも割と好印象だった。まぁ、堅護君ほどじゃないけど。


「………アスタリスクだ。土日は来ることになった。よろしく頼む」

「えっと、陽です。メーフラさんにはいつもお世話になっています!」


小さく頭を下げてあいさつされたので私も返した。しかしこの人、メーフラさんとはどういった関係で?

………そういえば、メーフラさんの情報を集めているときに銀色のフルプレートメイルの男の情報が時たま入ってきていたわね。

もしかするとあれの中身だったりするのだろうか?

だとするとえーっと、確か情報ではメーフラさんに勝るとも劣らない強さを誇る――――なんていわれていたっけ?


私が頭の中で情報を整理しているとメーフラさんからさっそく稽古を開始するとのお達しがあったので私は意識を切り替える。

正直、彼女の稽古は別のことを考えながら受けても身に入らない。これにだけ打ち込んでこそ意味があるものなのだ。中途半端にやっては強くなれない、ひいては堅護君の役に立てなくなるのだ。


「さて、イズミちゃんは今日が初めてだということでまずはどれくらいできるのかを確認しましょうか」

「は、はい! 頑張ります!」


幽霊少女のイズミは自前の剣を抜くとぎゅっと握りしめて前に向けて構える。


へっぴり腰、力の入れすぎ、重心ブレブレ、がちがち……それを見ただけでも実力がある程度推し量れるというものだ。

私は期待をしないで見ていた。

メーフラさんは例のごとく剣も抜かずに突っ立っているだけだ。しかしこちらは隙が無い。

素人なら隙だらけだと感じてしまいそうだが、彼女はイズミだけでなく私や、隣にいるアスタリスクさんが切りかかったところで容易に対処できるように用意している。


「行きます。 やぁ!」

そんなメーフラさんにイズミは大きく剣を振りかぶってまっすぐ突っ込んだ。


メーフラさんはそれを咎めてしまえばいいものを優しく受け流すだけでとどめて相手の出方を見続ける。


イズミは何度か攻撃を受け流されたところで息をあげて脱力したように剣をおろした。


「もう終わりですか?」

「………」

「まあいいでしょう。ではさっそく指導に入りましょうか……と、その前に陽さん、あなたには今日はこれです」


イズミとメーフラさんとのやり取りを見ていた私にメーフラさんはとあるものを手渡してきた。それは一本の棒だった。

直径20cm、長さは60cmくらいだろうか?

両端はきれいに切りそろえられたみたいにつるぺただ。


私はメーフラさんにこれを立ててその上に乗ったまま素振り、というかなり難易度の高い訓練を要求された。

彼女曰く、どんな時でもバランスを崩さないようになれとのことだった。本来ならここにメーフラさんからボールとかが投げ入れられたらしいのだが、初めての人がいるからそっちを先に処理するからひとまずそれだけやっていてくれということだった。


仕方なしに私は棒を垂直に立ててその上に飛び乗った―――――――が、その衝撃だけで棒はバランスを崩して倒れそうになってしまい私はあわてて飛び降り地面に着地する。

むっ、これ結構難しいわね。まず棒の高さがそれなりにあるから乗るのが難しい。その上棒自体が固定されていないからめちゃくちゃぐらぐらする。

とりあえずもう一度―――――――やっぱりうまくいかないなぁ。


私がそうやって四苦八苦しながら訓練に励む姿を特別講師のアスタリスクが見ている。

メーフラさんが向こうに行っているから一応こっちを見ておこう程度の視線だった。そういえば、彼も教える側の人だったね。


「すみません、先生。うまく棒に乗れないのですが、何かコツとかってありますか?」

「………バランス感覚は体を動かす個々人の感覚に依存しているといってもいいからな。これといったものを示すのは難しい」


その言葉に私はなんだよ特別講師使えねえなと内心毒づいた。


「………が、理論的には自立している物体は横からの力が働かなければ倒れることはないはずだ。お前は横から飛び乗ろうとしているイメージがあるのが気にかかる」


しかしその評価は少し早計だったかもしれないと思った。一応ながら指針を示してくれたのでそれに従ってみる。

私の持論ではあるが、誰かに師事を乞うときには何も考えずにその言葉に一度は従うべきなのだ。


確かに私は飛び乗ろうとしていた。

なにせ高さが60cmあってそこまで足をあげるより飛んだ方が速いと思ったからだ。しかし考えてみれば太さが20cmかつ固定もされていないこの不安定な足場に乗るには、効率よりも丁寧さが求められる。

私ははしたないと思いながらも足を広げて棒の中央に置いた。

そして置いた足にまっすぐ力をかけて体を持ち上げる。すると私の体は簡単に棒の上に乗っかった。少しぐらぐらするが、そこは何とかバランスをとって耐える。

一応、これまでも体幹を鍛える特訓はしてきたのだ。化け物みたいなメーフラさんほどではないが、それなりにしっかりバランスはとれる。


棒の上に立つことに成功した私はゆっくりと剣を振る。


別にこれはバランスが崩れそうだからゆっくり振ったというわけではなく、ちゃんと思い通りの動きができることを確認するためにゆっくりだ。

腕にずっしりとした感覚、剣を振るために腕を前に出したために棒が少し前に傾く。それを阻止するために後ろに少しだけ体重をかける。しかしその当たり前のバランスをとる動作も、狭すぎる足場が困難にする。

そもそも、剣を全力で振るときなどは基本的に足はある程度開いている。

ぴったり足を閉じて剣を振るほうが少ないのだ。


私は三回剣を振ったところで重心配分を間違えて棒から落ちてしまう。


「思った以上に難しい………けど、これも堅護君にすごいとほめてもらうため、役に立って喜んでもらうため…………フフフ……」

おっと、ちょっと心の内が口から漏れてしまった。私は緩んだ口角を引き締めなおして再び棒に乗っかろうとした。

その時だった。


「うぅ、これ以上はもう無理です」


そんな声が少しだけ距離をとった場所でメーフラさんの指導を受けているイズミから聞こえてくる。ちらりとそちらを見ても大したことはしていない。

にもかかわらず早々に音を上げるその態度に本当に何故あの人がここにいるのだと疑問に思いそれと同時に不快感を覚えさせてくれた。

メーフラさんは疑うべくもなく剣の達人だ。いや、達人という枠に収まるかすらわからないほどの剣の鬼だ。

そんな彼女の直々の指導はそれこそ、お金を払ってでも受けたいという人はいくらでもいるだろう。

にもかかわらず、あのイズミという女はただで受けさせてもらってすぐに弱音を吐く。私からしたら何のためにここにきているのかがわからないレベルだ。

きっと、メーフラさんは優しいから何か庇護欲を掻き立てられるような態度を見せられて断れなかったとかかね。

それでイズミのほうはメーフラさんの教えを享受して楽に強くなろうとか考えていそうね。


その証拠に―――――――



「もっと簡単に強くなれる方法とかないんですかね………」


とか言っている。かなりの小声だったが、私は耳だけは昔からいいのだ。メーフラさんにも聞こえないほどの小さな声だったが、私の耳は聞き逃さない。

まぁ、あれじゃもって3日くらいでしょう。そう思って私は訓練に戻ろうとしたら私よりはイズミに近いがメーフラさんよりは離れているアスタリスクさんが小さくつぶやいた。



「………簡単に強くなれる方法か? ………ない、ことも無い、がな」

「本当ですか!?」


どうやらアスタリスクさんにも聞こえていらしく、彼は隠す気も無くその言葉を発した。そしてすぐにその言葉に食いつくイズミ。その行動にも浅ましさが現れていてますます不快な気持ちになる。

だが、簡単に強くなる方法には私も少しだけだが興味がある。


棒に足を掛けながら聞き耳を立てる。


「えっ、なんですかアスタリスクさん。簡単に強くなる方法?」

「………ああそうだ」

「そんなものあるんですか? 私初耳なんですけど?」


おや、メーフラさんすら知りえない強くなる方法か。それは期待度が上がってきたぞ。


「お、教えてください! どうしたら強くなれるんですか!!?」


お前は「強くなりたい」じゃなくて「簡単に強くなりたい」だろうが。偉そうにするなよ。


「………簡単な話だ。狂えばいい」

「狂うですか?」

「………あぁ、狂い、そこに強さを求める理由を見いだせれば後はその狂気によって勝手に強くなっていく」

「成程、だから陽さんは上達が早いのですね」

「………それは知らないが、あの娘の目には少なくない狂気があるのは確かだ。あれは、強くなれる」


私? 私が狂っている?


…………否定する必要はないね。確かに私、愛に狂っているかもしれないわ。

でもそれはきっといいことだと思うし、彼への気持ちは日増しに大きくなっていくばかり、もう自分にも止められないわ。

成程確かに、狂ったら勝手に強くなるかもしれないわ。うふふ、堅護君堅護君堅護君、あなたの陽はこんなにも頑張っています。だからいっぱいほめて下さい。

『あぁ、陽は頑張り屋さんだね。俺は君のそんなところが大好きだよ(幻聴)』

うきゃーー!!テンション上がってきた!!そんなに褒められたらもっと頑張るしかなくなっちゃうじゃない!

棒の上に乗っかった私はぶんぶんと剣を振り回す。そしてバランスを崩して頭から落下した。が、この程度じゃ私は止められない。

再び棒を立て直して乗りなおす。

そして落ちて、乗って、落ちて、乗ってと繰り返す。繰り返していくうちに落ちる頻度が減ってきた。

これも堅護君のおかげ。あぁ、堅護君、あなたの陽は今もまた成長しています!!








舞い上がった私は自分を磨くために剣を振り続けた。その時の集中力は尋常でないものであり、それゆえに

「私が知りたいのはそんなことじゃなくて………」

なんていう小さな言葉はまったく気に掛けるものではなかった。





次回投稿は割と早くなりそうです。今回出てきたイズミとかいうやつが今のところもやもやするだけのキャラなんでな


Q,ドゲザさんとエターシャさんはどこへ?ってのは



とーさんふーとーあぷでーぎるどーにて


今日相談役になってくれたほかの2人とドゲザさんとエターシャさんはその日のうちに私たちのギルドに入ってくれた。

とありますが


第一回箱舟会議にて


私たちのギルドってこの4人+ラストちゃんの1人で全員。

となっていますので…

A,あぁ、ドゲザさんたちがその日のうちに入ったっていうのは間違いです。初めの予定を曲げてドゲザさんたちの加入タイミングを少しずらすことにしたのですが、書いている最中そのことを忘れてそのまま入力して投稿してしまいました。

私の間違えで混乱させてしまったこと、申し訳ございません


Q,背後を『見ている』のではなく、周囲の地面から伝わる振動を感じとって行動しているにちがいない。

A,メーフラさんは戦闘中、目の前で切り結んでいる敵より視界から外れようとしている敵をしっかり見ています。彼女の眼や耳は自分が持っていない情報を収集するために使うことを第一としているため、おかしな行動をしていると目を付けられます。

わかりにくくて申し訳ないのですが、要約するとメーフラさんは戦闘中常に不意打ちだけを警戒しているということです。


Q,プレイヤーとはいえ、レイドボスなのにゾンビアタック可能なんですか……?ゾンビアタックなんて、損害を度外視すればどんなボスであれ倒せるのでゲームバランスが…

A,街というリスポーン地点真横で逃げもせずに戦い続けたあいつが悪いんやで


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