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白と黒と人形の決闘


結論から先に申し上げさせていただきますと、私、メーフラは現在レイドボスになっております。


何を言っているかわからないでしょうが、そういうものだと思って受け入れてください。

レイドボスって何?っていう人がいましたら、UIのヘルプの項目に詳しいことが記載されていますのでそれを参照してください。



………まぁ、そういうことなんでよろしくお願いします。







〈〈プレイ中の全ての方にお知らせします。プレイヤー名「メーフラ」により初めてのプレイヤーレイドが誕生しました。これによりヘルプの項目にプレイヤーレイドの項目を追加します。〉〉


そのアナウンスが世界中に向けて発信されていると脳が認識した時にはもうすでに手遅れだった。

私の種族は今までの物よりさらに物騒な種族名になりそれ相応のステータスが手に入った。そのシステムの声が聞こえたとき私は反射的に雪姫のことを凝視したらあの娘、にやにやとした顔でこちらを見てきていた。

絶対に知っててやったよね?


「ねぇ雪姫さん? さっきの歯車はなんだったのですか?」

「あれ? あれは『永劫回帰エターナルギア』って言って結構すごい歯車なのよ。長時間は持たないけど爆発的に出力を上げることができるわ。まぁ、そこらへんは言ってしまえば設定でしかなくてシステム的な話をするならば人形族や機械族の存在を一段階上へ引き上げるアイテムってところかしら?」


存在を一段階引き上げるというのはつまり通常プレイヤーはボスに、ボスプレイヤーはレイドボスになるということなのだろうか?

理屈はわからないでもないが、なぜ私がそれを使わされたのかはいまいちよくわかっていない。

しかしまぁ、強くなる分には特に問題はないかなと思い私は先ほどの歯車はプレゼントであったと素直に受け取った。

しかし、そうなるならそうなると初めに一言言ってほしいものだよね。


私は軽く能力の確認をしてから先に進む。

レイドボス化したことによる能力的な恩恵はかなりのもので、スキルの効果をフルに使えばそこら辺を歩く雑魚敵にはさほど時間を取られないようになった。

ちなみに、私はレイドボスでもかなり攻撃特化な能力をもらっていたよ。


私がそれなりに戦えることが分かってからは、また雪姫が雑魚を引き受けることになった。私としても戦いたいとかいう感情は湧かなかったので彼女の好きにさせることにした。

結果、私はまた後ろをついて歩くことになった。

少し手持ち無沙汰になった私はずっとスカートの中で腰にしがみついていたヒメカを外に出して抱っこしてあげる。

VRだから蒸れたり臭いがしたりはしないとは思うけど、それでもずっとそこっていうのはつらいだろうからね。


「くぅ~」

「おはようございますヒメカ。お加減はいかがですか?」

「きゅぅん」

「はいはいわかりました。撫でてほしいのですね。よしよし………」

「くぅくぅ」


ヒメカとお話をしながら歩いていると不意に前から声をかけられた。


「ちょっとメーフラちゃん? 私を無視して二人で楽しそうだね?」

雪姫はわかりやすいくらい拗ねていた。こういう一面を見ると本当に人間臭いと、AIなのかと思ってしまう。あの会社も罪深いね。まぁ、あんまり悪く言うことはできないんだけどさ。

彼女はある時を境に大量に押し寄せてくるようになった魔物をたった一人で倒し続けている。正直、私があそこに飛び込んだら命があるか怪しいくらいの戦場になっているのだが、彼女はまだまだ余裕がある様子だった。


その証拠に拗ねてこちらに話しかけてくるんだからね。


私は仕方ないなと思いながら雪姫に気になっていたことを聞くことにした。


「そういえば雪姫さん、これから会いに行くのはどんな方……神様なのですか? 先ほどから出てくる魔物に統一性が見受けられないので想像ができません」

「ここに住んでいるのはざっくり言えば虚無の神様よ。そしていま私が倒している魔物はほかの神様の眷属とかだったりするから統一感がないのはそういうことね」

「他の神様ですか?」

「そう、強すぎる彼を絶対に戦わせたらいけないと判断したほかの神様たちが行く手を阻むために配下を派遣しているの」

「でも、雪姫と同格なんですよね? もしかして、あなたも結構危険だったり?」


私がぽろっと口からそうこぼすと彼女は不服そうな顔をこちらに向けた。そのタイミングで集まってきていた魔物を全て倒し終わったみたいだ。

雪姫は刀を鞘に納めてこちらに近づいてくる。近づいてくる間もその表情は不満げだ。

というか今気づいたんだけどここの魔物ってほかの神様の配下らしいんだけど、神様の雪姫がそれを倒して後で確執とか生まれないんだろうか?

神様の人間関係はわからないけど、せっかく用意したものを無遠慮に壊されては普通は怒るものではないのか?


「失礼ね。私がもし全てをかけて戦ったところで世界中から動植物が消え去るか逆に増えまくるかするくらいだわ。でも彼はそうではないのよ」


雪姫はそう言ってどこからともなくこぶし大の石を私に手渡してきた。

また怪しいアイテムかなと思い真っ先に【鑑定】をかけたがただの石ころだった。雪姫はどうしてこんなものを?そう思ったところで解説が入る。


「ねぇ、メーフラちゃんはこの石をこの世界から消したらどうなるか知ってる?」

「えっと………この世界からなくなるのでは?」

「うん、それはそうね。というかそもそもどうやったらこの石は消えるのかな?」


どうしたらこの石は消えるかと言われて私は思考を巡らせた。

砕石機にかければ粉々にすることはできるけど、きっとそういうことじゃないんだよね?粉々ではなくて消滅………


「ものすごく熱してみるとか?」

「あはは………それは気化しているだけで消滅とは違うよね。まぁ、答えを一つ示すなら反物質というものを物質に衝突させれば物質が消滅するらしいんだけどね………問題はその時消滅した質量に応じて大量のエネルギーが生じることなんだ」

「エネルギー?」

「そう、この石一つでそうだなー………国一つは吹き飛ぶんじゃないかな? 知らないけど」


えっ!? この石ころ一つにそんなポテンシャルが!? 

私はびっくりして片手でつかんでいた石ころを取り落としてしまう。しかしそれは地面に落ちてしまう前にもう片方の手に抱きかかえられていたヒメカが見事にキャッチしてくれた。


そしてそれはそのままヒメカの宝物として一生を過ごすことになった。


それはさておき、あの石ころが国一つと言われてもスケールが大きすぎて実感がわきづらい。しかし何やらかなりやばいことだけはわかった。


「その顔はまだよくわかっていないって様子ね。じゃあヒントをあげるわ。そこのクマちゃんが持っている石ころは国を亡ぼす爆弾に変わります。さて、その爆弾の材料はどこで採取できる?」


爆弾の材料? それは石ころだから――――――————えっと、お外に出れば大体どこでも手にはい………る?


「彼の危険性が分かったかな? そう、彼は物質なら何でも消滅させて爆弾にできる。世界は物質の塊、つまり彼の武器は世界そのものってことだね。まっ、みんなそれに気づいて恐れているみたいだけど優しい彼は絶対にそんなことをしないわ」


だからあなたも安心して一緒に会いに行きましょう?

雪姫はそう締めくくって進行を再開した。初めは煌びやかさが目立つ城内であったが、上に上るにつれてだんだんと簡素になっていく。

普通お城というのは主のいる部屋付近が一番豪華になるものではないのか?そう思いはしたが、先ほどの雪姫の話を聞いた後だともしかしたらこの城は城主が望んで建てたものではなく、その神を恐れたほかの神様が機嫌を取るために建てたものだったりするのかな? なんて考えも浮かんでくる。


魔物の不統一性という一つの事象の背景を知るだけでそんなことを考えてしまう。


私たちが城に入ってどれくらい時間がたっただろうか? おそらくゲーム内で4時間、つまり現実での一時間は経過しているだろう。

いや、二時間経過していてもおかしくないかもしれない。

城の窓から見える景色は変わらず月夜のためそれからどれだけ時間がたったのかを推し量ることはできない。すべて感覚によるものだ。

ここでVRマシンの機能のほうを使えば確認もできようが、さすがにそれはゲームの没入感を損ねる行為であるため自重した。



その時、雪姫がふととある扉の前で足を止めた。


「ついたわ」

「ここまでお疲れ様です雪姫さん。そういえば聞き忘れていたのですがこの先にいる「彼」の名前ってなんていうのですか?」

「彼の名前?」


雪姫は首だけをこちらに向けて、その手は目の前の扉を押していた。

両開きの扉は雪姫のどこからそんな力が来ているかがわからない細腕によって押し開けられる。ギギギと軋むような音を響かせ扉が開き、その先の部屋が私の視界に入ってくる。

その先は城の外装から、玄関からしたらあまりにも簡素な部屋だった。


一般市民が使うような小さくて装飾のないベッド、本が詰まった下部に収納スペースがある本棚、服でも入っているのだろうと予想ができるタンス、どれも高級品には見えなかった。むしろ安物にさえ見える。

だが、ここは城だという事実があれはきっと高いもののはずという先入観を抱かせる。


雪姫は扉を開き終えるとにっこりとほほ笑みながら部屋の中へと視線を向けた。


「彼の名前はヴァニ、さぁ起きてヴァニ、私が来てあげたわよ」


ヴァニ、それが雪姫と対をなす神の名前らしい。

雪姫はその名前を口にするとき、今まで私が聞いたことがないほど柔らかな声を出した。彼女はゆったりとした足取りでベッドに向けて歩き出した。

そしてそのふくらみを軽くつかんで前後にゆする。

しかし布団の中からは「う~ん」とうなるような声が聞こえてくるだけで一向に起き上がる気配はなかった。


その光景を見ていた私は勝手に人の部屋に入るのはどうなのだろうかと少し躊躇したが、ここまで来たのだから少しだけでも雪姫の彼氏の顔を見てやろうと思い部屋の中に足を踏み入れた―――――――――その時、世界が消失した。

気づいたときには私は真っ暗な空間、どこまでも続く真っ白な床がある空間に放り出されていたのだ。

きっと何かのフラグを踏んでしまいここへ転移させられたのだろう。この現象はそう説明づけることができるが、一瞬まるで世界がなくなったかのように感じたのだ。


そしてなぜだろう?


この場所にいるととても不安な気持ちになる。



「ふわぁ……ついに客が来たか………んじゃあ、相手しないとなぁ」


気怠そうな声が前方から聞こえてくる。周囲の確認を行っていた私がその声につられて前を見ると背の高い男がこちらを見ていた。

髪の毛は黒く短い、目はうっすらとだけ開かれていて目じりには涙が見える。眠いのだろう。

その片方の手はポケットに突っ込まれたままであり、とてもじゃないがこれから戦おうと思っている人には思えなかった。


だが、その見た目とは対照的に私の体は動いていた。


それまでは両手で優しく抱き留めていたヒメカを素早く頭の上に放り投げて剣を抜き放つ。本当ならヒメカをどこか安全な場所に避難させたかったのだけど、そんな余裕はなかった。


「あの布団の中身があの人、ということでしょうね。雪姫さんは手加減してくださったので勝負になりましたが、これはきついかもしれません」

「ん、お前剣士か。じゃあこいつで相手してやるよ」


相変わらずやる気の感じられない声。

布団の中身の人―――――ヴァニが手を振るとその手の中に黒刃の剣が現れた。ヴァニはこちらが戦う準備ができていると判断したのかすぐさま切りかかってきた。

その速度はいつぞや見た雪姫の全力と比べると遅かった。だから何とか対処ができた。


その一撃はいつぞや受けた雪姫の全力と比べると軽かった。だから簡単に受け流せた。


ヴァニの初撃をきれいに受け流すと彼はすごく意外そうな顔をして次の行動に移っていた。

だがそれも普通に回避ができる。

次も、その次も、私は奥の手を使うまでも無くさばき続けることができた。


「ふあぁ……やるなぁ」

「ちゃんと起きたらどうですか? 今のままではいつまでたっても私には届きませんよ?」


剣を数度交えてわかったことがある。

それはヴァニは雪姫と同格の存在として作られているため同格のスペックのAIを搭載しているが、別に同格の技量を搭載しているわけではないということだ。


剣の速度はかなり速い。私の全力の時より少し遅いくらいだが、それを連発してくるのだから化け物と言ってもいいだろう。

だが、その反面技量はまだまだ改善点が見られる。

多分だけど帝級に届かない、王級くらいしかない。だから私でも簡単に対処ができる。


ヴァニは相手のスタイルに合わせて戦う趣味でもあるのか剣と体術以外での攻撃をしてこない。雪姫が教えてくれたあれはやらないみたいだった。

だからこそ、私にも勝機はあると踏んだ。私は敵の技量の底を見切ったのでそろそろ攻撃に出ようと考えていた。


ちょうどその時、ヴァニの剣が私の剣を透過して私に迫る、が、難なく回避に成功する。


「今のも避けられるのか」

「それは剣の力ですか? しかし剣がすり抜けてくるのは見慣れた光景です。私の知っている剣士はそれをただの技量だけで成して見せましたよ」

「剣、っていうよりは俺の力なんだが……まぁいい。しかしまぁ、お前もここまで来られただけのことはあるなあ……」


奇襲気味に使われたその力が通用しなかったことに驚いたみたいで素直にお褒めの言葉をいただいた私はついに攻撃に転じる。

ヴァニの剣を回避する瞬間に一歩分踏み込み下から上に相手の体を切り上げる。相手の攻撃のタイミングに合わせて攻撃しているためこれを剣で受けることはできない。

ヴァニは私の一撃をどうにかして避けるしかなかった。彼は強引に後ろに下がって間合いを外して回避した。だが、人体の構造上後ろに下がるより前に進むほうが速くできる。


一対一の戦い、同じ射程の武器を使っている状況において下がるというのは負けを認めるのと同義だ。

私はここまで積み上げてきたアドバンテージを大切にしながらもどんどん攻めていく。そうなると先ほどまでとは一転、今度はヴァニが防戦を強いられる。



向こうは私以上の身体能力を以てして強引に防御を成立させているが、その動きはだんだんと余裕のないものになってきている。

だが、不思議とヴァニから焦りというものは感じられない。いまだに眠そうなまま戦っているというのはそう感じられる要因の一つとしてあるのだろうけど、それにしたって余裕がありすぎる。

そのことに不気味さを覚えながらも私は油断なくヴァニを追い詰める。


ここで今勝っているからといって不用意に踏み込みすぎてはいけない。あらゆる可能性を考慮して慎重に攻めるべきなのだ。


「あー、ダメだなこりゃ………俺の負けか……」


隙を作らず一方的な攻撃が続いたとき、ヴァニがあきらめたようにつぶやいた。私からしたらまだ余裕そうに見える。

だがどうにもこの戦いを捨てた様子が見られた。


「もう諦めるのですか?」

「ん、お前の勝ちだ」

「全然勝った気になれません。まだ余裕なのではないのですか?」

「………素直に勝ちを受け取っておけって」


ヴァニは持っていた剣を消失させてポケットに手を突っ込みながら私に向けてそう言った。対する私はまだ構えを解かない。

剣で圧倒できたからと言って勝ったとは思っていなかったからだ。なにせ、雪姫が言っていた能力も使っていない。


私が剣を納めなかったからヴァニはまだやる気があると思ったのだろう。煩わしそうにこちらを見てため息をついた。


「………そうか、引かないか。なら、じゃあな」


ヴァ二がそう言って指を鳴らした次の瞬間、彼を中心として炎の波が周囲に向けて放出された。


あ、これ、避けられない。


昔の2Dゲーム風に言うなら全画面攻撃といったところだろうか?

MOHの魔法は基本的に術者を起点として発動して範囲と距離によって威力が増減する法則があるらしい。それ故、威力の高い魔法は単体を狙った小さなものとなり、今発せられた広範囲を焼き尽くすという魔法に威力はほとんどない。

これはプレイヤーの多様性を尊重した運営が決めたルールであり、広範囲の避けられない攻撃ですべての敵を焼き尽くすということは許されないはずだった。


………のだが――――――――これはなんだろうか?

その炎の波はご丁寧にヴァニの後方や上方まで埋めつくしており絶対に回避は不可能と思われた。にもかかわらずその威力は直撃すればただでは済まないことが容易に予想された。


案外威力がないとか―――――――――――――は、きっとないよね。

向こうはこれで勝負がつくと考えている感じだし。



私はそれを見て納得した。

なるほど、雪姫は戦士タイプだとしたらヴァニは魔法使いタイプの神様ってことかと。

………そういえば、ここに私を連れてきた雪姫はいまいずこへ?

そう考えたとき、私の前に真っ白な彼女が降り立った。迫りくる波から私を守るように立ちはだかった。


そしてすぐに私を包み込むように植物の壁を作り出した。


それによって私の視界はさえぎられているが外ではまだ炎が燃え盛っているのだろう。轟々とした音が聞こえてくる。


少しするとその音は鳴りやんだ。同時に私を包み込んでいた植物も姿を消した。

それによってふたたび視界を得た私が見たものは相変わらずめんどくさそうに突っ立っているヴァニと、体を焼かれた雪姫の姿だった。

彼女のその白い肌には大きなやけどがついていた。


そんなになってまで私を守ってくれるなんて―――――――――やばい、ちょっとドキドキしてきた。

………抱きつくくらいなら大丈夫かな?



雪姫の体についてしまった焼け跡は数秒もすれば完全になくなってしまった。恐ろしい回復力だ。何かしたわけではないように見えたからきっとただの自然治癒なんだろう。

ヴァニはそんな雪姫に微妙に顔を引きつらせながら話しかける。


「なんでお前がここにいるんだよ」

「貴方に逢うついでに私の新しいお友達を紹介しに来たのよ。それなのに殺そうとするんだもの、酷い神様もいたものね」

「あぁ、お前の……道理で……」

「剣術のことを言っているなら違うわよ? 彼女、初めから私より剣がうまかったの」

「冗談だろ? それで?」

「貴方に逢いに来たって言ったでしょ? 話、聞いてなかったの?」


ヴァニはそれを聞いた後「ふわぁ」と大きくあくびをしながら指を鳴らす。

すると先ほどまでそこまであった広大な空間はなくなっており、いつの間にか私たちは元の部屋まで戻されていた。

ヴァニはベッドの上に腰掛けており、雪姫はその隣に立っている。そして私は入り口の扉を越えたところで立ち尽くしていた。


「俺には会えた、そのお友達とやらも見た、ならもう用はすんだろう?」


眠いから早く帰ってくれと言わんばかりに彼は主張した。放っておいたら今にも体を倒して横になってしまいそうだ。

だが雪姫は引かない。


「いいや。あなたが私のお友達をいじめたから報復っていう新しい用事ができたわ」


彼女はそう言いながら刀をヴァニに突き付けた。

それは普段使いの刀の方ではなく、彼女が本気で戦うときに使う方の刀だった。薄い緋色の半透明の刀身はいつ見ても美しい。


「おいおい、さすがに俺でもそれで斬られたらただじゃ済まねえんだけど」

「あら? ならこの書類にサインすればすべて水に流してただで済ませてあげるわ」


ヴァニの反応を待っていて、そのセリフを用意していたかのように雪姫は言いながら一枚の紙と万年筆を取り出した。

ヴァニは何を書かされるのかとその書類に一通り目を通した後、深いため息をついた。


「俺の見間違えじゃなかったら『婚姻届』って書いてあるんだけど?」

「奇遇ね、私もそう見えるわ」

「何のつもりだ?」

「結婚しましょう。私の友達をいじめた責任を取りなさい」


うわぁ、雪姫とんでもない爆弾を用意してた。まさかあれに署名してもらうためだけに今日私はここにつれてこられたの?

そして初めの方、戦いに参加せずに隠れてピンチになるのを待っていたの?

私のドキドキを返してほしいものだ。

ヴァニは呆れたように口を開く。


「はぁ、責任ねぇ………えっとそこのこいつの友達の――――」

「あ、私メーフラと言います」

「メーフラ、お前をいじめた責任とやらを取ろうと思う。何か欲しいものとかあるか?」


責任取れということで結婚しろという雪姫の強引な攻撃は私自身に何かお詫びをするということで躱そうとするヴァニ。

そこには先ほど剣を交えたときの余裕は見受けられない。案外必死に逃げようとしている。


「………ほしいものは思い浮かびませんがひとつ気になることが」

「なんだ?」

「どうして雪姫をもらってあげないのですか? 他に好きな人でも?」

「他に誰がいるってわけでもねえよ。でもなぁ、………」


ヴァニは雪姫の顔をちらりと見た。雪姫は早くサインしてくれと期待した目でじっとヴァニのことを見ていた。

私にとって謎だったのが、何故雪姫のアプローチをヴァニが避けているのかということだ。

あんなにかわいい子が迫ってきているのだから、普通は男としてはうれしいのではないのだろうか?すぐに手を出してしまうものではないのだろうか?

私に言い寄ってくるクラスの男子もほかの女子に告白されたらなんやかんや言ってすぐにくっついてしまっている覚えがある。


雪姫に何か不満でもあるのだろうか?


私がそのことに関して聞くとヴァニは難しそうな顔をする。


「不満、か。ない、わけでもないが……」

「でも拒絶するほどではないのですよね? でしたらなぜ?」

「そうよ! 早く私のことをもらいなさい!」

「う~む……」


どうにも踏ん切りがつかない様子のヴァニ。ここまで想ってくれている女の子の想いを無下にするとは何事か!と怒ってやりたかったのだが、それを言おうとしたところで私も大して変わりのないことをやっていることに気が付いた。

思えば、私もずっとアスタリスクさんの想いを受け止めてあげずに受け流し続けているんだよね。


彼は今も頑張っているっていうのに、私より弱いって理由だけで報われないのはかわいそうに思えてきた。


………まぁ、今は私の話はどうでもいい。目の前の男女の話だ。


「ヴァニさん、さっきほしいものはあるかと聞きましたよね?」

「ん、思いついたのか?」

「はい、とある簡単な質問に対する答えが欲しいのですけど、いいですか?」

「その質問とは?」


即決しないあたり、質問に雪姫関連のことを入れてくるくらいは予想していて予防線を張っている節があるヴァニ。

このまま何故雪姫を娶ってやらないのかとか聞いてものうのうとした答えしか返ってこないだろうと思われた。

だから一般的な話を聞こうと考えた私はその質問を投げかける。


「はい、男性は女性のどういうところに惹かれるのでしょうか? 結婚したいと感じる女性って、どういう人でしょうか? 一般的な意見で構わないので答えていただけると助かります」


ヴァニは少しだけ悩んだ後、「一般論かは知らないが」と前置きをして答えてくれた。


「男は基本的に女に安らぎを求めているんだと思う。隣にいて安心できる、そういうやつと結婚したいと思うんじゃないか? 俺はあれだからよく知らないけど、こんな答えでいいか?あ、それと単純に見た目がいいとかか?」

「はい、ありがとうございます。しかし、その話ですと雪姫と一緒にいて安心できないということになるのでしょうか?」

女性目線の話で悪いが雪姫の容姿はかなりのものだ。なら、問題があるとするならばもう一つの部分、一緒にいるときの安心感が足りないからヴァニは雪姫のことをもらわないのだろうかと思った。


「こいつが隣にいて安心? 出来たらそいつは化け物のような存在だな」


女の子に対する発言にしてはえらく酷い批評を雪姫が受ける。

ヴァニはそう言って苦笑して話を締めくくろうとした。だが、彼の口から出た言葉を雪姫は取り逃さなかった。


「なら、この世界で一番の化け物のあなたは私と一緒にいて安心できるってことね。よかった、ならこの書類にサインして」






話が一巡して戻ってきた。



それから先、私がログアウトするときまで雪姫とヴァニの攻防は続いた。私はまた特にやることがなかったので戦闘時からずっと頭の上にしがみついていたヒメカをおろして遊んでいた。




いろいろ考えたけど、メーフラさんの能力は読者には隠すことにした

弟陣営の詳細な情報とかもね


Q,「ん〜、あと五世紀だけ・・・・・・・・・」

「そんなに寝たら日が暮れてしまいますよー」

日が暮れるじゃすまないんですがメーフラさんのこれはボケ?それとも天然?

A,多分天然


Q,>「えぇ、貰って。そして使って、いや、使いなさい」

あ、これ絶対ヤバいやつですね

A、進化系のアイテムの中で最上級の物です


Q,中途半端な部分はコピペミス??

A,日にち分けて書いてたのと一回書きかけでデータが消えたので入力し忘れたのだと予想します。修正しておきます


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