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絶望の知らせ



メーフラさんの弟子になってから約ひと月、正確には三週間と三日が経過した。

あの日から毎日現実時間換算で一、二時間ほど稽古をつけてもらっている。メーフラさんの教え方は非常に丁寧で、センスのない私でもめきめきと力をつけているのが実感できるほどだった。

昨日、メーフラさんが真っ白な少女に引きずられてどこかに連れ去られるというトラブルがあって今日はなしということになっているが、きっと明日からはまたいつものように稽古をつけてもらえるはずだ。


……というか、さらっとメーフラさんに有無を言わさず連れ去ったあの少女はいったい……?



それはそれとして、私は学校から帰るといつものようにVRマシンに横たわってMOHの世界にログインする。


私がログインを果たしてフレンドリストを確認するとガトの横にオンラインという表示が出ていた。

彼の家は私の家より学校から近いため、必然的に彼のほうが早くログインすることになってしまったのだろう。

この一か月の中で私のレベル上げはある程度終了しており、いまだに堅護君よりレベルが低いとはいえそれは誤差と言っていい範囲に収まっていた。

だから今はメーフラさんに勝つためのアイテムやスキルをそろえるためにクエストやダンジョンの攻略をするのが主な活動になっている。

堅護君たちの見解では小細工なしのガチンコ勝負だと絶対に勝ち目がないので、アイテムなどの性能を高めるなどしてワンチャンスを作っていこうということだった。


その意見には私は大いに賛成だ。


一応、私は二人に内緒でメーフラさんの稽古を受けることにしているからそれを強く主張することはできないが、長くいれば長くいるほど彼女には勝てないという気持ちしか浮かんでこなくなるのだ。

ちなみに、私がメーフラさんと毎日会っていることを内緒にしているのはあとで公開して堅護君を驚かせたいという気持ちもあるが一番はメーフラさん本人に

「あの二人には内緒ですよ?」

と言われてしまったからだ。


なんでも、自分から勝つための技を与えるのは違うし、自分の教えた技を使う相手に負ける気はしないから変に期待させないように教えないほうがいいらしい。


だから私がやるしかないのだ。メーフラさんの技を全て解き明かしてその弱点を探す、それは稽古をつけてもらえる私が一番うまくやれるはずだから。


そう決意を新たにしたところで私は堅護君を探す。

と言っても、フレンドリストから『今どこにいるの?』とフレンドメールを送って合流するだけなのだが………あ、しまった。手が滑って全部カタカナになっちゃった。

まぁいいや、探しているっていう意味が分かれば何でも。


私がメールを送って少ししてから堅護君の方から返信が来る。

『防具屋ー、何か使えそうなものがないか見てるけど、何もなさそうだからもう出るところ。そっちは昨日ログアウトした場所でいいの?』


堅護君の方からきてくれるというので私はこのままここで待っていればよさそうだ。

『うん、待ってるね』

そう返信して私はそこでじっと待っていた。

すると例の女がログインしてくる。昨日は全員同じ時間、同じ場所でログアウトしたため私の目の前に突然現れる。

その女―――こっちではフセンとか言ったな――――はこちらの世界に降り立つとすぐに周りをきょろきょろと見渡して私の姿をその視界に収める。


「あ、陽ちゃん、ガト君はまだかな?」

「彼なら今こちらに向かっている途中です。もう来るところかと―――――あ、来たぁ!」


通りの向こうから堅護君がやってくるのが見える。

あぁ、彼は今日もかっこいいなぁ。

雑踏の中でも私の目は彼の姿を見逃さない。対するフセンは「え~? どこ~?」と言ってまだ見つけられていない様子だ。

この部分だけ見てもどちらが堅護君にふさわしいかわかるだろう。


彼は私たちのところまで小走りで来ると待たせて悪かったと謝ってくる。

あぁ、堅護君謝らないで! あなたは何も悪くないの。あなたにそんな申し訳ない思いをさせている罪な私を許してください!


と、それはそれとして今日の予定は堅護君のクエストを進めることだ。

そのクエストの内容はパーティを組んで指定されたダンジョンをクリアすること、加えてパーティメンバーに一定以上の被ダメージを受けさせないというやつだ。

つまり私は今日、堅護君から姫プレイを受けないといけないわけだね。

あー、クエストなら仕方ないなぁ。必要なことだからなー


「じゃあさっそく行こうか」

「レッツゴー!!」


準備自体は全員昨日の時点で終わらせているのですぐに出発することができる。

そして肝心の今日攻略するダンジョンというのは『水の封印洞』と呼ばれているものだ。

昨日情報サイトでちょろっと調べた感じだと鍾乳洞がきれいなダンジョンだった。鍾乳洞は稀にデートで訪れるカップルがいるということもあり、私は今からテンション爆上げだ。


場所はここからそれなりに離れているので乗り物での移動だ。

しかし私はまだ騎乗用の馬を持っていないので堅護君の馬に乗せてもらうことになる。


「今日もごめんね?」

「気にしないでいいって」


一言断りを入れてから私は堅護君が操る馬に乗る。

私はその後そのお馬さんの体を軽くなでて「いつもありがとうね。今日もよろしく」と声をかけた。

この馬には本当に感謝している。

なにせあなたのおかげで私は堂々と堅護君にしがみつくことができるのだ。

それに、こうやって馬を撫でていたら「陽さんは動物が好きなんだね」と堅護君にも割と好印象だったのだ。

その時にわかったことだが堅護君の家はペットを飼えないらしい。


彼が言うにはおそらく頼めば何とかならないことはないかもしれないが、そんなことで姉に迷惑をかけたくないんだって。

お姉さん思いなんだね。そんな思いやり深いところも大好きだよ。


私は数十分ほど堅護君の操る馬に乗って夢心地になる。

しかし楽しい時間というのはすぐに終わってしまうものだ。実際にはそれなりに時間がたって距離もあったんだろうけど、私にとっては一瞬で目的地についてしまった。

私たちの前には大きな洞窟が口を開けて入場者を待っている。

鍾乳洞がメインとなってるダンジョンのせいか入り口にいてもなかなかに涼しく感じる。ひんやりとした風が洞窟内から吹き付けてきて少しだけ心地よい。


私たちはその雰囲気を少しだけ楽しんでから洞窟内に足を踏み入れる。


洞窟内には蝙蝠や半魚人、あとなんかよくわからないイカのような魔物が主だった。一応獣系もいたけどその数は多くない。

私はいつ敵が襲い掛かってきてもいいように腰の剣を抜剣しておく。

メーフラさん的には納刀状態もそれはそれで長所があるらしいが、敵地では基本的に抜いた状態のほうが対応力の関係上やりやすいとのことだからだ。

ちなみに、私のクラスは神官の正統派上位職の司祭――――――になるつもりだったのだけどなぜか狂信者とかいうよくわからないクラスになってしまった。

狂信者は司祭と同じく神官がLV50になった時にクラスチェンジする可能性があるクラスで、稀にクラスチェンジタイミングでこのクラスにつかされる人がいるみたいだ。

問答無用でクラスを選ばされた私としてはそれってゲーム的にどうなの? と思ったりもしたが、性能が悪いわけでもなし、回復ができないわけでもないので黙認することにしている。


むしろ個人にかけられるバフ魔法は司祭の物より数段強いものを習得できているのでこちらのほうが良いまであった。

反面、範囲魔法は軒並みごみ性能になってしまったけどね。




それはそれとして、今、私たちは堅護君を先頭にしてフセンが魔法、私が堅護君に支援魔法と回復魔法をかけ続けて進むというのを続けている。

問題があるとするならばフセンとかいう女の魔法が蝙蝠にあまり当たらないところだ。(・д・)チッ、堅護君が頑張って守ってくれているというのに使えない奴だ。

数発外すならともかく、一匹の蝙蝠を落とすのになんで平均二発撃たないといけないの?


その詠唱時間はだれが稼ぐと思っているの?


私は少しだけ軽蔑のまなざしでそいつを見ようとするが、堅護君が振り返ったので自重した。

彼にはかわいいだけの私を見てほしいからね。


「案外何とかなりそうだな」

「高峰君が守ってくれてるからね!」

「あの、陽さん………何度も言うようだけどこっちではその名前は……」

「あら? ごめんなさいえっとガト君♪」


プレイヤーネームで呼ぶのは慣れていないわけではないが、堅護君のことをちゃんと呼びたいと思っているのでたまにわざと間違えている。

だが、この呼び方をするのは実は一日最大一回、周りに誰もいないときにしている。

それと、この世界では堅護君が「陽」って呼んでくれるから楽しい。


私がうれしくて顔を熱くしていると堅護君たちがダンジョン攻略を再開する。

洞窟型のダンジョンだったが、前情報通り鍾乳洞的な風景に変わってくる。イメージとしてはスロベニアのしゅ…しゅろ……しゅて……しゅこ……度忘れしたけどまぁ、あんな感じだ。結構大きくて歩く分には何も問題はないので風景を堪能しながら私たちは歩いた。


そうして風景を楽しんでいたのがいけなかったのだろうか?


「陽さん!!」


突然、堅護君が私の名前を力強く呼んだ。

えっ!? そんなお熱い呼び方……まさか堅護君、私のこと………


「後ろ! サハギン!!」


はいはいですよねー、そんなに早く落ちてくれるわけないよねー

石柱にでも隠れていたのか私たちが通り過ぎた後に後ろから襲い掛かってきたのだ。そして、回復役の私は一番後ろにいたため真っ先に襲われてしまうことになる。

堅護君は何とか寸前で気づいて声をかけてくれたけど、フセンが邪魔でこちらには来れない。そして今回のクエストは私が被ダメすると堅護君に迷惑がかかる。

ここは自分で何とかするしかない。幸い、メーフラさんの教えのおかげで私の手には常に剣が握られていた。


サハギンは銛を持っていて、私を串刺しにせんと襲い掛かってくる。

私はその銛の穂先に己の剣の柄を合わせる。これはメーフラさんが私に対してやったことと同じで、技の名前は【鉄華】というらしい。

ぶっちゃけて言えば柄受けなんだけど、これは日本刀とかの持ち手が長いものでなくても安全に使えるように調整された技なんだと。私はまだ西洋剣まででしかできないけど、メーフラさんくらいになるとナイフの持ち手でもできるらしい。


そしてこの技の最大の利点は剣の刃先を使わないこと、それによって最速で反撃に移ることができるのだ。逆に弱点は防御能力がそれほど高くないので同格以上の相手には使うのが難しいこと、それと重量級の武器には使いにくいことだ。


私はサハギンの銛をはじいて逆にこちらから突きを繰り出す。

私の剣はサハギンの左肩に突き刺さった。しかしそれだけでは致命傷にならないし、サハギンも何とか反撃を仕掛けてくる。だが、左肩を突き刺された状態での反撃のため片手での突きだ。

それを察知していた私はその場で開脚して体を真下に落とす。その際、上半身も前のめりにして少しでも姿勢を低くして間違いが起こらないようにする。


サハギンの銛は私の頭上を通り抜ける。


その結果を確認するより早く私は引き戻していた剣を横に振りぬいた。体勢が悪いためそれほど速度も威力ものっていないが、それでも確実なダメージを与えることができる。

しかし悲しきかな、私のSTRのステータスでは適正レベルのダンジョンの魔物を倒すのには時間がかかる。

仕方ないからおいしいところはお前に譲ってやるよ。



「とどめ任せましたよ」

「まっかせてー!! 陽ちゃんから離れろー!!」


フセンの手から電撃が放たれサハギンを貫く。フセンは魔法の威力だけは信用していい。

なにせ、このパーティの火力のほぼすべては彼女が担っているのだ。堅護君曰く、彼女の火力はおそらく人族一だそうだ。

メーフラさんも直撃すればただじゃすまないだろうとみられている。


まぁ、直撃すればの話だけどね。

正直、蝙蝠にもあの命中率ならメーフラさんには当たらないだろう。


フセンの魔法はサハギンを貫き、そのまま絶命させる。


戦闘が終わると間に合わなかった堅護君が心配そうにこっちを見てくる。

「大丈夫だった?」

「その言葉だけで幸せ………じゃなくて大丈夫、一ポイントもダメージを受けてないからこのままいけるよ」

「それにしても陽ちゃんすごかったねー、まるでメーフラちゃんみたいだったよ」


いや、メーフラさんならまず不意打ちを受けることはないだろう。スルーしたように見えても彼女なら気づいていただろうし、なんなら振り返ることすらせずに切り伏せたはずだ。

それを考えると不意を突かれた上に一人じゃしとめきれない私は彼女に遠く及ばない。


フセンはメーフラさんの友達らしいが、よっぽど私のほうが彼女のことをわかっているような気がして、少しだけ優越感を得られた。


それはそれとして、こいつ余計なことを言う。

これで私とメーフラさんのつながりがばれたらどうするつもりなのだろうか?


「あはは……そんなことありませんよー」


とりあえず誤魔化した。

幸いにも二人は大して気にならなかったみたいでそのまま先に進もうという雰囲気になっていた。

その時だった。



〈〈プレイ中の全ての方にお知らせします。プレイヤー名「メーフラ」により初めてのプレイヤーレイドが誕生しました。これによりヘルプの項目にプレイヤーレイドの項目を追加します。〉〉




その世界にいる、全てのプレイヤーの耳に声が響く。

それは当然、ここにいる私たちにも届けられた言葉というわけで―――――――


「………メーフラさん、何をやっているんですか……あなた負けるつもりないでしょ?」


私は二人に聞こえないくらい小さな声でそう呟いた。

堅護君は絶望した顔をしていた。


そんな顔もまた庇護欲を掻き立てられてかわいい


何やってるんだメーフラアアアアア!!誰が原因でこうなったのかは言うまでも無く………


陽ちゃんの修行風景は全カットすることにしました。書いてても技の説明になって面白みがないからね


Q,凛さん、台湾までーってまだ言ってなかったの?

A,露骨に迫ると気持ち悪がられそうと思って根回しだけはやっている状態です


Q,陽さんまさかの近接神官に?

A,狂信者は自爆特攻技も覚えるから一対一なら近接もできなくもないかな?


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