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陽の前進


私が話しかけるとその女性――――メーフラさんはゆるりと振り返って私を見る。

そして何かに気づいたような顔をして見せた。私からみたらゆっくり振り返るところとか、私の容姿に気を取られているような動作とかで彼女を強い人間と思わない。


もしかしてネットの情報に踊らされているだけなのかも?

そう思いはしたがここまで来てしまったからには当初の目的を押し通すしかないと思い次の言葉を紡ぐ。


「メーフラさんであっていますよね? 少し尋ねたいことがあるのですけど……」

「あなたは弟のお友達の人ですよね? 今日の朝、家の前で待っていた。それで、何の用事でしょうか?」


私の正体は一目見ただけで看破された。

だがそこは驚くべきことではない。なにせ私は1号同様一切見た目をいじっていないからだ。いや、むしろこの展開を望んでいたまであるため、私は私のままここにきていた。

もし、相手が朝にあった女の子であるということに気づいてくれれば、彼女の弟である堅護君と交流があることには気づく。

そうなれば私を無下に扱ったりはしないかもしれない。

そんな打算があって私は見た目をいじる―――――正体を隠す――――ことなく接触したのだ。


だから驚くべきところはそこではないのだ。


真に驚くべきところ、それはメーフラさんの口から「弟のお友達」と出てきたこと。

これで私は姉公認の堅護君のお友達になっているということになる。そしてそれならいずれ家に押しかけても不審に思われないだろう。

本当ならもっと、「弟の彼女さん」とか言ってほしかったがここはこれで満足することにした。


焦ってはいけない。


「少し聞きたいことがありまして……単刀直入に聞きます。あなたの弱点はなんですか?」


私がそう聞くとメーフラさんは少し考えるようなしぐさをする。そしてすぐに「やっぱり、切れないものは大体苦手です」と答えた。

それを聞いた私はそっかー切れないものが苦手かー、とはならない。そんな弱点意味はない。

なにせ私も堅護君も、あとついでにあの女もちゃんと切れるものに分類されるであろうからだ。


「もっと他にはないんですか?」

「ふふっ、弟に弱点を聞き出してくれとでも頼まれましたか? いいでしょう、他ですと………やっぱり雨の日とか苦手ですね。洗濯物が乾きませんので……」


違う、そうじゃない。メーフラさんはわざとやっているのだろうか?

いや、わざとやっているんだろうな。私は堅護君に頼まれて行動しているわけではないのに、その可能性を示唆している、ということは弱点を知られることを恐れているともとれるのだから。

だからそうやって差しさわりのない答えを一応提示することで私の追求から逃げようとしているのだ。


そう考えた私は問いかけ方を変えることにした。




「では、質問を変えますが………あなたは、どうやったら倒せるのですか?」



これでどうだ?この問いかけ方ならあいまいな答えを返すことは難しいはず。少なくとも一つは答えが返ってくるだろう。

そう考えて投げかけた質問、それに対してメーフラさんは嗤った。

にっこりと、ほほ笑むように。

そしてはっきりと先の質問に対する答えを自信をもって私に告げてくる。



「簡単なことです。私より相手のほうが強ければ、私は倒されます」


それが世界の理だと言い切るように告げられたその言葉には、メーフラさんの絶対の主張が現れているようだった。

ならばと私は次の質問を投げつける。


「あなたは万を超える軍隊をたった一人で殲滅したと聞きます。それは、あなた一人が軍隊より強かったと、そういうことですか?」

「たまに聞かれますけどそれは誤解ですよ。私は別にあの時一人で戦っていたわけではありませんし、何万の敵がいようとも一度に相手にする人数は私を取り囲んだ最前線の敵だけです。そしてその取り囲んできた敵より、私一人のほうが強かった。だからあの時私は一人で前線を張れたのです」


一つ一つ、諭すように説明されるがあまり納得できなかった。

彼女の言っていることはもっともらしい言い草だったが、それでも囲まれた状態で勝てたという説明にはなっていない。

その言い方では単純に彼女自身の戦闘能力の高さを否定していないのだ。


少しらちが明かないと思った私は細かいやり取りを抜きにして核心を突きにいく。


「それでは次の質問、私や堅護君、それとフセンさんだっけ? この三人であなたに挑んだ場合の勝率って今はどのくらいだと思いますか?」

「あなたがどのような特殊能力を秘めているかはわかりませんが、少なくともあなたを除いた二人なら今のところ負けはしないでしょう。そしてあなたを加えても、見た感じそれほど変わると思えません。少し残酷ですが、私とあなたたちにはそのくらいの差はあります。まぁ、私のかわいい弟はその差を何とか奇策で埋めようとしてくれているのですけどね」


きっぱりと勝てないだろうといわれた私は少しムッとする。それだと堅護君が弱い人みたいじゃないか。

あの女のことを下に見るのはいいだろう。

私のことを甘く見るのもいいだろう。

でも、堅護君を安く見るのはいくら実の姉だからと言って黙認はできなかった。


「それなら参考までに、私とあなたの実力の差を見せてくれませんか? 2人は強い強いっていうけど私はまだ見たことなくて……」


でも、見ている限りそんなに強そうには見えない。

今でも前触れもなく動いて私の腰にある剣を抜くと同時に突き出したらそのまま突き刺さってしまいそうな、そんな雰囲気すらある。


「それは私とこの場で戦うということですか? ええ、いいですy———」


だから私は了承の合図と同時に最速で右手を動かして腰から剣を引き抜き、その流れのまま思いっきり横に振りぬいた。

私たちは先ほどまで会話をしていた。

だから二人の距離はかなり近い。そして私の今の獲物はショートソードであり、リーチは十分にある。

加えてこの不意打ち、みんなが祀りあげていたメーフラさんに、私の刃が届くと、そう確信した。


だが、そんな結果はいつまでたっても訪れなかった。


メーフラさんは、剣を抜くことなくその柄で私の剣を受け止めていた。


「えっ―――――」

それを認識した私はすぐに剣を引き戻して再度、別の方向から切りかかる。

だが、それはわずかな体捌きでよけられる。メーフラさんは、その間に私のほうを見ているだけだった。


そのことに焦った私はがむしゃらに剣を振り回した。


そもそも、私は剣術というものを一切やったことはない。だから技術なんてものは初めからないのだ。

だからこうやって適当に振っても、考えて振っても大して変わらないのだ。


私は一心不乱にメーフラさんに向けて剣を振り回す。


対する彼女は未だに鞘から剣を抜かないまま、柄だけで私の剣を受け続けていた。


「なんで!?」

「これが現状の私とあなたの差です。正直に言ったら少し酷い物言いになりますが、あなたと剣で勝負しろと言われたら大きく動く必要も、剣を抜く必要も、そして目を開けている必要すらありません」


そう言ってメーフラさんはゆっくりと目を閉じた。

薄目すら開けていない。一目見ただけであの視界は真っ暗なのだろうとわかるほどはっきりと目を閉じた。

だが、それでも、私の剣はあの柄に阻まれ続けている。

剣のほんの一部分、本来なら握るためにあるその部分で、延々と私の攻撃を受け続けていた。


それを見た私は確かに、絶対的な差があるということを知る。


そして今の私たちでは絶対に彼女には勝てないだろうということも。


私は攻撃の手を止めた。


するとメーフラさんは目を閉じたまま首をかしげて


「もういいのですか?」

と言った。


「ええ、もう十分にわかりました。おそらくですけど、それでもまだかなり余裕を持っているのでしょう? だったらこれ以上は無駄です。それよりもっと建設的なことをしたいのです」

「例えば?」

「そうですね……あなたは先ほど、敵が自分より強ければ負けるといいました。ということで一つ教えてください。どうすれば強くなれますか?」


今の打ち合い――――私が一方的に打っていただけだが――――で分かったことはいくら奇策を重ねても現状の私では彼女に傷一つつけることはできないということだった。

1号のクラスは神官で、サポートを重点的に伸ばすつもりだからあまり近接戦闘をやる想定はする必要はないとも思ったが、それでもある程度強くなっておいて損はないだろうと思った。


だから私はメーフラさんにどうすれば強くなれるかを聞いた。

ネット上で、誰よりも強いとされている彼女なら、強くなるための方法を知っていそうな気がしたから。


「簡単ですよ。一つ一つ、覚えていけばいいのです」

「覚えて?」

「はい、心を、技を、体を、何でもいいです。一つ一つ覚えて、積み重ねる。それだけで人は強くなれます。なぜなら、強さとは積み重ねの総合値のことですからね」

「そうなんですか?」

「あなたが私の言葉をどう受け取るかはわかりません。しかし、少なくとも私はそう信じています」


それならば、あなたは今まで何をどれだけ積み重ねてきたのか。

それは心の中でつっかえて、外に出てくることはなかった。あれほどまで技を積み重ねた人間の苦労は、きっと言葉程度では言い表せないだろうとわかっていたからだ。


まっすぐ私の目を見て断言したメーフラさんの言葉を、私は信じてみようと思った。そのくらいの真剣さが、彼女の表情にはあった。

それに、その理論は私の中にも少なからずあったものだったから、すとんと胸に落ちたのだ。


人間関係とは好感度の積み重ねでできている。

その積み重ねが高い人ほど好意的に見られるし、低い人ほど相手にされない。それとおんなじだと思った。


「貴重なご意見、ありがとうございます。私もあなたに負けないように、これからより一層積み重ねていこうと思います。そしていずれあなたの弟を―――――」


そこまで言いかけて、やめた。

今の私じゃ全く足りない、積み重ねが足りないと思ったからだ。自分にはこれを言う自信がなかったと言い換えてもいい。

そんな私の様子を見たメーフラさんは、聖母のようなほほえみを見せて軽く腕を組んだ。

すると彼女の長いスカートのすそを少しだけまくり上げてその下から小さなクマがはい出てきて、組まれた腕の上に乗っかるように身を預けた。

メーフラさんはそれでは座りにくいだろうと思ったのか、一度腕を緩めてそのクマのお尻がすっぽりと腕にはまるように調整してあげている。


そんな彼女はやっぱり隙だらけに見えるが、この状態で切りかかられても何の問題も無く対処するだろうと考えられた。

そもそも、スカートの中にクマがいることすら私に気づかせないで戦うほど差があるのだ。

不毛なことはやるべきではないだろう。


そんな慈愛に満ち溢れたメーフラさんは、にっこりとほほ笑んだままこちらを見ているだけだった。


彼女を見ているとなんというか、無性に甘えたくなってくる。

さすが堅護君のお姉さん、その身からとてつもない安心感が漂っている。

だから、私は不覚にも彼女のやさしさに甘えてしまおうと思った。


「あの、差し出がましいお願いではあるんですけど………もし、もしよかったら私のこと、少しでいいから鍛えてくれませんか?」


言い切ってからしまったと思った。

よくよく考えてみたら彼女と私は敵同士の関係にあたるのだ。このおねだりは、敵に塩を送れと言っているようなものだった。

それに気づいてから少し背中につーっと汗が伝うような錯覚に陥った。

さすがに図々しすぎたと反省した。


だが、そんな私の心のうちを完全に無視してメーフラさんは一言。


「ちょっとだけならいいですよ。と言っても、心と体は自分で鍛えるしかないので、私が教えられるのは技くらいですけどね」


その聖母のような笑みを絶やさぬまま、優しい声でそう言ってくれた。



















―――――――――――彼女の名前は高峰 創華  


またの名をメーフラ




私の想い人のお姉さんで



私の想い人の最大の敵で



そして私の師匠となった人だ















その日から毎日少しだけだけど、人類最強格が私に技を教えてくれるようになった。

これで堅護君の役に立てる! これで堅護君に褒めてもらえるようになれる!! これで―――――堅護君の――――に―――――――――








この前ニュースを見ていて台湾で同性婚が―――みたいな話を聞いて「凛さん財力もあるし台湾まで飛ぼうとか言いだしそうだな」と思ったのであった。それから少し調べてみたけど割とあるみたいだね、そういう国。


Q,陽ちゃんそのうちお姉ちゃんにダメだしされてボコられそう

A、そのうちじゃなくて毎日少しだけボコられます


Q、饅頭怖いになるのかな?

A,そういえば創華さんは斬れない強い相手を好きになるという習性があるから――――まぁ、割とそんな感じかも?


Q,曰く背中に目がある、マジックミサイル避けの魔法を使う、心臓はミスリル、血は水銀

A、それは人間なの? いや、人形だから人間じゃないしプレイスタイルによってはそうなっていたかもしれないけどさ………


Q,陽ちゃん、やばいやつかと思ったけど割とまとも?

A、犯罪は侵さないし尽くすしでいい娘だとは思いますよ


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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
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