表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/95

実は、結構ドキドキしちゃったり?


アスタリスクさんとの待ち合わせ場所はコスモールの街の西門前にした。

こちらの都合で呼び出しているのだしこちらから出向くのが当然だと思ったからだ。


街の中に入らなかったのはお金がとられるから……というわけではなく、人が多くすれ違いが起こることを避けるためだ。


今日の私のインベントリには剣が一本だけ、それと35着の自作の服が入っていた。

本当は全部試したかったのだが、こればっかりは倉庫がケイオールの街にあるので仕方がない。


私は今日の午前中に候補となる35着を選んで持ってきていた。

待ち合わせは現実の時間で今日の正午。


MOH内では時間の流れは違うけど、VRマシンの方の機能で外の時間はいつでも確認が可能だ。


服を選んだ私はケイオールの街を出発してひたすら走り続けた。

いつもなら襲いかかってくる魔物は切り倒すのだが今日は無視して横をすり抜ける。

幸いにも道中に狭い道などはないので魔物を避けることは簡単だ。


魔物を無視して走り続けた私がコスモール西門にたどり着いたのは予定より一時間早いくらいの時間だった。








の、だが



「あの、すみません。待たせてしまいましたか?」

「………ああいや、俺も今来たところだ」


アスタリスクさんはもう既にそこにいた。

一時間前、というのは外の時間での話だ。ゲーム内では四時間も前になるのに彼はもう既に待ち合わせ場所でスタンバイをしていた。


いったいいつからここに立っていたのだろうか?

聞くのが怖い。

ただ待たせてしまったことを申し訳なく思う。

だから私は少しだけ意地悪っぽく問いかけた。



「全く、そんなに私とのデートが楽しみだったのですか?」


今日の集いは名目上「デート」ということになっている。

なぜ私がそんな文面でメールを送ったのかは甚だ不明であるが、そういうことになっているのだ。


「………ああ、そうだな」


アスタリスクさんは照れながらもしっかりと頷いた。

うー、そこまではっきりと言われるとこれ以上何も言えないんだけど………


これはただファッションショーをやりますと言えない雰囲気だ。

少しは言葉通りデートをやらなきゃいけないかもしれない。


ただ、その前にある程度当初の目的は達成しておきたい。


「アスタリスクさん、今日のデートの服装、あなたが決めていただけますか?」

「………俺が?」

「はい、今から着替えるので少し待っててください」

「………着替えるってここでか?」


アスタリスクさんは辺りを見渡した。

ここは大きな街の出入り口の一つということもあってそれなりに人通りが多い。

女子が着替えるには適さない場所だとでも思ったのだろう。


しかし着替えるといってもUIから装備を変えるだけだ。

別に裸になるというわけではないからそこは気にしないで欲しいものだ。

あまり気にされすぎると逆に恥ずかしくなってきそうだから。


私は説明が面倒だったのでそのままUIから装備を変更した。

先ほどまで着用していたのはいつぞやのワンピース。

私の服装はそれからチャイナ服のようなものに変貌した。


「どうですか?」

「………あ、あぁ……似合っているぞ」

「そうですか、ありがとうございます。候補はあと34着持ってきているのでじゃんじゃん見せちゃいましょう」

「………34?」

「はい、いっぱいあるので一番好みの私を選んでくださいね?」


私が手元を操作すると

私の姿がチャイナ服からメイド服に早変わり。


白と黒を基調としてスカート丈は膝のちょい下くらいまである清楚系なやつだ。

だから胸元も開かずぴっちり隠してある。


頭にはヘッドドレスをつけてワンポイントも完璧に仕上げられたと思う一品だ。

私の種族は人形だからかなりマッチしている。


「どうですかご主人様?」


私は口調も服装に合わせて問いかける。

するとアスタリスクさんがなぜか一歩遠ざかった。

あれ?引かれた?



「………ご主人様はやめてくれ。……ちょっと、刺激が強すぎる」

「そうですか。でもこれ作るの苦労したんですよ?」

「………そうか……似合っているぞ」

「ーーーーーーーッ!!」



ああもう、心臓に悪い。

こういう時ばっかりは私に「そうか」って名前をつけた両親を恨んでしまいそうだ。

アスタリスクさんも狙ってやっているのではないかと疑ってしまう。


意外かもしれないが、私は実は異性にあまり名前で呼び捨てされたことはない。


私のことを名前で呼ぶ異性は父親と、親戚のおじさんと、それとクラスのさほど親しくもない原田という男くらいだ。

その人たちもその人たちで私のことを「ちゃん」付けで呼ぶため呼び捨てというのは本当にされない。


だからこうして呼び捨てにされることに慣れていないのだ。


この場合、アスタリスクさんは私の名前を呼び捨てにしてるつもりはないんだろうけど、それでも反射的に心臓が少しだけ跳ねてしまう。


アスタリスクさんを付き合う対象としてみているわけではないが、否応無く意識させられる。


「じゃ、じゃあ早く次に行きましょう。いっぱいあるのでどんどん消費しないといけませんからね!!」


少しだけ気恥ずかしさを覚えた私は次の服を装備しようとしてーーーーーーー少しだけ手を止め冷静になる。

前二つはアイテム欄の上から一つずつ順番に見せていたのだが、その順番でいくと次に行くのは少しだけ、少しだけだが露出が高めのものになっている。

なんとなくだが今これを着るのは良くない気がする。

なんというか、こっちの心境的に……



私の指はその一つ下の服に伸びた。


私の服がメイド服から割烹着に変わったーーーーーーー途端アスタリスクさんの目が少しだけ大きく開かれた。


「それだ」

「はい?」

「………あ、すまない。なんでもない」

「え、えぇ、それで、どうでしょうか?」


アスタリスクさんがまだ何も言っていないのに何か言っていた。

突然のことで上手く聞き取れなかったが、それでもその声がいつものものと少し違い、強い意志が宿っているものだと感じられた。


あ、もしかして、この服に一目惚れでもしたのかな?


私がそう思いアスタリスクさんの方を見ると彼はいつになく情熱的な面持ちで私の方を見つめ返す。



………うん、彼はこれが気に入ったみたいだね。



「さて、そろそろ行きましょうか?」

「………後32着はいいのか?」

「やる意味あります?」


私がそうやって微笑むと彼は観念したように「………ないかもしれないな」

と笑った。

やっぱり、これが一番気に入ったみたいだ。


割烹着姿の人間が屋台に立っていて違和感があるか?

と聞かれると微妙なところではあるが、お祭りとかに行くとたまーに見るから大丈夫だろう。


「さて、エスコートをお願いしてもいいですか?」

「………上手くできないと思うが?」

「いいんですよ。今日付き合ってもらっているのはこちらなのですから、好きな場所に連れて行ってくれれば」


私がそういうと彼は数秒間俯いて考えた後ーーーー

「………お前は、お前はどこに行きたい?」


と不安げに聞いてきた。

私は頬を緩ませて返す。


「もしかして、女性と一緒にお出かけするのは初めてですか?」

「………すまない。こういうことには経験がなくて……」

「責めているわけではありません。ただ、そうかなーって思っただけですよ。それで、私の行きたい場所ですか?そうですねー………せっかくだし、何も考えずに歩き回ってみましょうか」

「………わかった。どっちにいく?」

「せっかく自然がいっぱいあるので街の外がいいです」

「………ならこっちか」



私とアスタリスクさんは目の前の門とは逆の方向、つまり街から離れるようにして歩き出した。

彼は少し遠慮をしているのか私よりほんの少しだけだが後ろを歩こうとする。

彼は女性の扱いにとことん慣れていない様子だった。


「………メーフラは…」

「はい?私がどうかしましたか?」

「………俺と違って経験が豊富なのか?」

「…………あ、鳥が飛んでますね!」



未だに交際経験は0ですが何か?


正直にそう答えると負けたように思えたので強引に話をそらしにかかった。

しかしあまりに露骨だったのが原因だろう。

すぐに私の本心はバレてしまう。



「………ふっ」

「あー!!今笑いましたね!!!」

「………気のせいだ」

「嘘!絶対に笑いました!!」


経験のなさを笑われた私はムキになってアスタリスクさんに食ってかかった。

私は自分で言うのもなんだけどモテないわけではない。

現に目の前の男からは結婚を前提とした交際の申し込みまでされている。

だからなのか目の前の女性経験皆無男と一緒にされるのは癪だった。


「………案外、子供っぽいところもあるんだな」

「どう言う意味ですかそれ?」

「………気に障ったなら謝る」


なんというか、微妙に私の方が弄ばれ始めている気がする。

私は冷静さを取り戻すために小さく深呼吸をした。すると先ほどまであった心のムカムカが晴れたような気がして、さっきまでのやりとりがバカらしくなってきた。


だから私は笑った。

彼も笑った。



ああ、ちょっとだけ楽しいな。


アスタリスクさんと歩いている時間がそう感じてきていたその時だった。







「はーっはっはっは!!世界の意思の体現者であり正義の執行人である俺様、参上!!」


草陰からいきなり一人の男が現れた。

男はガチガチのフルプレートメイルで顔は見えない。

男の大きな声はその兜の中で反響して独特の調べを奏でていた。


「さぁ!今日も極悪を成す2人がノコノコと俺様の前に姿を現したぞおおおお!!」


そしていきなり現れたそいつはほぼ横並びで歩く私たちに向けて剣を向けてくる。

それをされて初めて私はその男がレッドネームのプレイヤーであることに気がついた。

レッドネーム、それはPKをするプレイヤーを表すアイコンだ。

ゲームのシステム上、他陣営のプレイヤーは攻撃してもレッドにはならない。

ということは目の前の男は同陣営のプレイヤーを攻撃するタイプの人間だということがそれで読み取れた。


こういう人には話しかけても無駄なことが多いのだが、一応話が通じるかもしれないので話しかけてみよう。


「あの、私たちに何か用ですか?」

「うむ、俺様が正義でお前らが極悪!!打ち倒す他は無し!!」

「私たちが極悪……ですか…どうして?」



私が悪人扱いされるのは、まぁまだ納得がいく。

みた感じ目の前のプレイヤーは人族プレイヤーだから魔族プレイヤーを悪と断じても間違いではないかもしれない。

ただ、それだとアスタリスクさんはどうだろうか?


彼の言い方では私たち両方が悪い人みたいな言い方だがそれだとアスタリスクさんはなんで?


私が疑問に思い聞いてみると男は大声で叫ぶように答えてくれる。


「それわあああああ!!貴様らがああああ!カップルだからに決まっておるだろうがあああああ!!」

「はい?」

「カップルは悪だ!男女の愛というのは所詮幻想である!貴様らにはなぜそれがわからん!!」

「いや、一般的に愛というものは美しいものだとされていますが……」

「なら、貴様は俺様を愛し一生付き従うと誓えるのか!!?」

「いいえ、あなたはちょっと、お断りさせていただきたいです」

「ほらみたことか!!俺様を愛さず他の男を愛する貴様は極悪人だ!!」

「えぇ……」

「………メーフラ、どうやら会話をしても無駄みたいだ」

「ですかねぇ」

「………あれは話を聞かない人間だと思う」


私もそう思います。

たった数回であるが言葉を交わした感じ会話があまり成立しているようには思えない。

多分あの男には何か譲れぬものがあってそれに基づいて全てを判断してるのだと思う。


そういう人ーーーーというかキャラがTHE・剣豪にもいたからわかる。


「リア充死すべし慈悲はないいいいいいいい!」


男はもう話すことはないとでも思ったのかこちらに切りかかってくる。

仕方ない。一応デートの途中だし倒させていただこうかな?

それにしても世界には色々な怖い人がいるんだなぁ………


私がインベントリから一本だけ持ってきていた剣を取り出そうとすると(今日はファッション重視のため装備していなかった)アスタリスクさんが私より先に前に出た。


「………全部、俺がやる」

「あら、守ってくれるのですか?」

「………あぁ、お前には戦わせない。………絶対に」

「では、ここは任せます」


アスタリスクさんが私の前に立ち狂人のようになってしまった男と対峙する。

あ、初めから狂人だったね。


アスタリスクさんが前に来るとなんというか、安心感が半端ないな。

絶対に守ってくれそうというか、そんな感じがする。

アスタリスクさんは守るということを優先するためか私の前から動こうとはしない。

多分だけど近づいてきた時を一刀で仕留めるんだと思う。


対する男の動きはーーーーーーー普通に近づいてくる。

ただ、その動きに微妙に違和感を感じた。

あれはーーーーーー


「あ、アスタリスクさん」

「………わかっている」


男を見て気づいたことをアスタリスクさんに伝えようとしたがあんなに露骨にやられると気づかない方が難しい、か。


男はその激情とは裏腹に動きは冷静でゆっくり近づいてくる。

剣は下にだらりと下げて、あと少しすればお互い間合いに入るだろうという感じだ。


そして剣が届く間合いに入ったーーーーーとなった瞬間、アスタリスクさんは剣を素早く振った後に半歩だけ後ろに下がった。


彼が下がると彼の前をヒュンと何かが素早く通り抜ける。


「やっぱり、予想通りでしたね」

「………久しぶりに見たな」

「自然剣でしたっけ?」

「………正式な名前は付いていなかったはずだ」

「技量的に、同じ畑の人間だった可能性大ですね」

「………もう、確かめようがないけどな」


アスタリスクさんはいつものように間合いに入った敵の首を一瞬で捉えた。

だが、相手も相手で間合いに入り自分のHPが全損するまでの間に一回だけ剣を振っていた。


自然剣、と一部のものが勝手に呼んでいるその技は剣聖級の人間が時たま使っているやつだ。

その技の真髄は相手の認識の外に出た一撃を加えること、またそのような動作にある。

誰もが無視する路傍の石のようになりきる剣。


戦いにおいて怖いのは意識の外側からの攻撃。

それを全力で狙いにいく技が自然剣と呼ばれているものだ。



だが、これに弱点がないわけではない。

というか、王級以上がほとんど使わないことからわかるように明確すぎる弱点が存在する。


というのもこれ、使おうとしているのがバレた瞬間に敗北が決まるのだ。


詳しくは説明しないが、体の動かし方で剣を意識の外側に持っていくのが基本のこの技、いくら自然体を装っても王級以上にはバレる。

そして相手に『自然』であるように見せて認識させないようにするために必要な動作と現在の体の位置を逆算されて簡単に相手に次の動作がバレるようになる。


結論言うとこれを使って勝てるのは王級なりたてくらいなものだ。

間違っても剣神相手に使うと今みたいに簡単に殺されるだけだからみんなは使わないようにしようね。


私だってあれをやりながらアスタリスクさんには勝てないよ。

剣神の戦いは一周回ってある意味力技の真っ向勝負的なものでないと通用しないのだ。



「さて、ではデートを再開しましょうか」

「………そうだな」

「それにしても」

「………どうかしたのか?」

「今日の戦い、全部あなたが担当するつもりですか?」

「………ああ、お前は俺が守る」

「それだと、私が剣を持つ意味はありませんね」

「………そうだな」

「しかし困りました。それだと手が少し寂しいですね………」

「………?」


私があからさまに手を空けて振ってみたがアスタリスクさんの頭の上にはクエスチョンマーク。

相変わらず、こういうところは察しが悪いことだ。


私は何も言わずに彼の左側に立ち近くにあった手を取り握った。


「………あっ」

「さっきの男の人曰く、私たちはカップルらしいですよ?それに、今日はデートです。こうしないと、逆に不自然でしょう?」

「………そうか」



私の言葉ににっこりと微笑みながら私の手を握り返してくれた彼の手は大きく暖かかった。



MoH七不思議の一つ、モテない男たちの怨念!

その男の周りには彼女のいないものたちの怨念が渦巻いているせいでカップルは近づいただけでダメージを受けるとか!?

と言う設定を作ったはいいが使う機会がなかったのでここで消化



あ、デート回はここで終わりです。続きはありません







たまには童話ジャンルを覗くのもええなぁ


………白雪姫の話とかぶっ飛んでて楽しかったですよ



Q、アスタリスクさんマザコンなの?

A、その素質はある


Q、メーフラさんの手のひらでコロコロされるアスタリスクさん可愛そう………

A、創華ちゃんもちょっとずつ意識し始めているっぽいですけどね。案外落ちるの早いかも?


ブックマーク、pt評価をよろしくお願いします。

感想も待ってるよー………最近少なくて寂しいからね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

doll_banner.jpg
お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
― 新着の感想 ―
[一言] へー、ふーん…(ニヤニヤ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ