飛び出せ!PKの森!
「よーし! やっと動けるようになりました」
「おめでとうございます。よくお耐えになられましたね」
人形の再起動ロールがやっと成功したらしい。今の時間を見たら2:36。期待値考えると割と早めに再起動できた感じだ。
私は腕が動かせるようになった為パパッと弟のVR装置の方にメッセージを送ってからチュートリアルを再開する。
「それでは、改めてチュートリアル人形編の説明にはいります」
人形編ということは種族によって違うのかな?
「基本的なことは大体ヘルプを開いてもらえばわかるようになっているので、時間があるときにでも読んでおいてください。ここで説明するのは人形という種族の欠点などです」
おー、雑だね。でももう2時間半も待たされているからね。チュートリアルはパパッと済ませたいのが本音だから嬉しいよ。
「人形は物質系に属しているため回復魔法が効果をなしません。注意してください。また、薬品の類も効果をなさないので注意してください」
成る程。こんな感じなんだね。
というか実際に動いたりすることがないなら動けない間にそういう説明をしてくれれば早く終わったのにね。
「また、物質系に限った話ではありませんがあなたには破損の概念が存在します。ご自分の体を確認なされてください」
「自分の体ですか? あっ、左手と両足がない?」
私の左腕と両脚は根元から存在していなかった。
どうりでさっきから再起動できたはずなのに動けないわけだ。
「はい。あなたには欠損や破損の概念が存在します。部位に一定以上のダメージが入った際にこの状態に陥ります。この状態を解除するためにはアイテム「人形の体」などを使用する必要があります。また、これは例外でありますが進化の際には欠損などは全て再生します」
なるほど。要するに回復魔法を受けられず欠損破損がある私は専用アイテム以外での回復が大切になってくるわけか。
「では、実際に使ってみましょう」
NAVIはそう言うと私の目の前に1つのアイテムが出現した。
小学生の図工の時間で見た粘土の塊のようなアイテムだ。
「使ってみてください。破損部位に押し当てることで使用可能です」
私がその粘土のようなものを掴んで左足にくっつけてみると粘土は勝手に形を変えて脚になった。
「わあっ、直りました。ちゃんと動けます」
「残念ながらチュートリアルで使用できる『人形の体』はそれだけです。残りは自分で調達してください」
「わかりました。どこで手に入るのですか?」
「それはお答えできません。ただ、ここが人形族のホームということだけは言っておきましょう」
「そうですか」
「ではこれにてチュートリアル人形編を終わります」
「長い間拘束してしまってごめんなさい。そしてありがとうございます」
「大丈夫です。これが仕事ですので」
それ以上NAVIの声は聞こえてこなかった。
目の前には
『チュートリアルを完了しました。インベントリにアイテムが贈られます。』
の文字が浮かび上がっていた。
私はUIからインベントリを確認する。
そこには確かにアイテムが入っていた、のだが。
初級HP回復薬 15
初級MP回復薬 15
……さっきこれ使えないって説明受けたばっかりなんだけどなぁ。
「いいや。売ればお金になるかもしれないからと前向きにいきましょう」
ここで立ち止まっていても仕方ない。ただでさえ出遅れているのだから。
そう思い私は左足だけで立ち上がる。
かなりバランスが悪い。
歩くのにも苦労しそうだ。
私はケンケンで少しの間適当に歩いてみた。
片足と片腕がない感覚は新鮮で何度かよろめいたが、自慢の体幹が転倒だけは防いでくれた。
「あ、これは使えそうですね」
私は、木の棒を、手に入れた。
ある程度歩いたところで私はちょうどいいサイズの木の棒を手に入れることに成功した。
これを杖代わりに歩くとかなり楽になった
いざとなったら武器に使えそう――――っていうかさっきまでの私何も武器なしだったじゃん。
危ないあんな状態では騎士団長級以上が来たら死んじゃう。
「でも今は武器を手にしましたからね。騎士団長? ばっちこいですよ」
私はぴょんぴょんしながら森をさまよった。
とりあえず目標は「人形の体」の入手方法を探るか森から出ること。
どこに向かうでもなく適当に移動した。
「――。――――」
「――。――――――――!」
^・・ーーー・・・」
「あれ? 何か誰か言ってます?」
何か声が聞こえる。私は声が聞こえた方向に跳ねていった。
すると見えたのは3人組。1人は私と一緒の女性で2人は男の人だ。
みんなみすぼらしい装備をしている、が、それは私が言えたことじゃないな。
「すみません」
私は第一村人が発見できたことが嬉しくて話しかけた。
「うわっ、人形ってことは……プレイヤーだ!!」
「みたいだな。こんな短時間に2人も見つかるなんて俺たちは運がいいな」
「この人はさっきの人と違って片手と片足がないみたい。楽勝ね」
あれ? 思ってた反応と違う?
「あの、ちょっと聞きたいことがあrーーーって危なっ」
森の出口でも聞こうとしたら問答無用で切りかかってきたんですけど!!?
この人たちもさっきのセリフからするにプレイヤーだよね? どうして私を攻撃するの?
「あの、私は魔物じゃないんですけど?」
「ぎゃははっ、だっせえ! こいつあの状態で攻撃はずしやがった!!」
「うるせえ! こいつが急に動いたのが悪いんだよ!」
あれ? あれれ? まさか問答無用で殺しにきている?
見た感じこの人たちは人族陣営だよね?
一応このゲームは魔族と人族で分かれているって聞いたけど私の弟は基本的には協力するみたいなこと言ってたしなぁ。
ってことは……この人たちはMMO名物PKプレイヤー?
そっか。設定的に敵陣営のプレイヤー攻撃しても犯罪者扱いにならないらしいし魔物型だと良心の呵責もなさそうだしね。
「ほらっ、さっさと仕留めるぞ。別に何もしてこないだろうが一応全員でやるぞ」
リーダーらしき男の言葉に3人はそれぞれ武器を抜きはなった。
2人はみすぼらしい剣、女性は杖だ。
杖ってことは魔法使いかな?
「そっちがその気ならこっちだって考えがありますからね!!」
私も杖代わりにして居た木の棒を構えた。
それを見た3人は「それで戦うつもりかよ」とでも言いたげに露骨に笑いをこらえる動作を見せた。
対する私は敵の品定め。
……全員兵士級。つまり雑魚だね。
ぱぱっと悪い人は成敗しちゃおう。
私はまず真っ先に一番何してくるかわからない女性の首に向かって木の棒を振り抜いた。
3人はその動きに反応すらできない。
「ぎゃんっ、」
「あれ? 即死しません」
ならばと返しの棒で逆側からもう一閃。
あ、女性が倒れて動かなくなった。HP全損ですね。
「ちょっ、こいつ見た目に似合わずステータスかなり高いぞ!! 油断すんなよ!」
「ああ、まさか油断してたとは言え1人やられるとは」
男たちが今更反応している。
2人はほぼ同時に剣を振り上げて私に斬りかかる。
だがそんなぬるい剣撃、目をつぶってでも当たるわけがない。私は片方の剣を身をかがめることで、そしてもう片方の剣を棒で受け流すことで回避する。
そして受け流された方の男がバランスを崩したところの喉を一閃、怯んだところを後頭部にさらに一撃。
首元への打撃が2発で落ちると思ったが男はまだ動くみたいだ。
さらに追撃してやるとさすがに動かなくなったけど。
「これで一対一ですね」
「ひっ、なんなんだよお前!魔族プレイヤーじゃないのか!!?」
「はい? 魔族プレイヤーですよ?」
「ならなんでそんなにつよっ、」
「戦闘中にお喋りに夢中になるのは良くないですよ」
悠長に会話に乗ってきて意識がおろそかになったところを一撃。さらにもう一撃――――ってあ!! 木の棒折れちゃった。
アイテムの耐久がなくなったせいか私の手の中から木の棒が粉々に砕けて消え失せる。
「ぐはっ、焦ったが武器を失ったなら今がチャンスだ。2人の仇、取らせてもらうぞ。くらえ【スラッシュ】!!」
私の木の棒がなくなって一転攻勢、ここからは男のターン……っということにはならなかった。
近づいてくる男の手を私は取って勢いをつけて投げ飛ばした。
男は背中から叩きつけられる。
「武器がなくなっても、兵士級の攻撃が当たるほど私は弱くないですよ」
そして叩きつけられ仰向けになっている男の喉を踏みつけた。
男は暴れたが少しするとHPが全損したのかポリゴンの結晶となって消え去った。
気づけば先に倒した2人もいつの間にか消えていた。
「勝ちましたか。っと、これは……?」
勝利の余韻なんてものはない。相手が弱すぎたため戦いにすらなっていなかったからだ。
だから私の目はすぐにそれを捉えた。
――――――――――――――――
武器 青銅の細剣
物理攻撃力+5
耐久 167/300
一般的な青銅製の細剣。
――――――――――――――――
素材 人形の腕
人形の腕。何かに使えるかも?
――――――――――――――――
素材 草
未鑑定の草。毒があるかもしれない。
――――――――――――――――
「ドロップアイテムですか。どうやらプレイヤーを倒すと持っているアイテムを落とすタイプのシステムみたいですがこれは……」
落ちていた3つのアイテム。そのなかでやはり私の目を一番惹きつけたのは2番目の「人形の腕」だった。
私はインベントリに入ったそれを早速アイテム化してみた。
そこには肩から先の腕が現れた。
私はそれを自分の左肩に押し当てる。すると腕は簡単に私の腕になった。
「やっぱり回復アイテムでしたか。それにしてもこれを持っていたのと先ほどの会話を考えると……先に犠牲になってしまった人がいたみたいですね」
少しだけ悲しい気持ちになった。しかしこれはゲームだ。
それも1人用ではなくオンラインだからこういったことは日々の光景だろう。
願わくば犠牲になった人形プレイヤーが気にしないことだろう。
「あっと、そういえばさっきの人ステータスがどうとかと言っていた気がします。UIにもステータスという項目がありますし」
そもそもレベル制のゲームだったことを私はここで思い出した。
私は自分が思っているよりも深く『THE・剣豪』に染まっていたらしく、ステータスの概念を忘れていた。
私はUIからステータスの項目を確認する。
――――――――――――――――
PN:メーフラ
種族 錆つき壊れた人形Type Ancient
裁縫士
LV 6
HP 1500
MP 150
STR 31
VIT 30
INT 24
MND 40
DEX 39
AGI 31
LUK 12
SP ー
――――――――――――――――
ほえ〜。
その程度の感想しか湧かないステータスだった。
というのも、他の人のステータスがわからないのでこれがどのくらいなのかがわからないのだ。
気になる点があるとするなら種族名とSPくらいかな?
えっとNAVIが困ったらヘルプを見れば大体書いてあるって言ってたっけ?
私はUIからヘルプを開きSPについて調べる。
『SPについて。SPはメイン職のレベルが上昇した際に得られるポイントです。プレイヤーはこれを自分のステータスに自由に振り分けることができます。ただし、魔族プレイヤーはSPを得ることができません。』
つまり私には関係ないポイントというわけだ。
そういえばステータスといえばスキルだよね?UIにはその項目もあるしこっちも一応確認しておこうかな?
――――――――――――――――
習得済みスキル。
【人形の体】LVー
【裁縫】LV1
――――――――――――――――
今のところこの2つだけですか。ちなみにこのスキルの効果は?
――――――――――――――――
【人形の体】
回復魔法を受け付けない。
薬品を受け付けない。
暗視能力。食事不要。疲労無効。
状態異常に対する耐性大
――――――――――――――――
【裁縫】
裁縫する際に様々な補正がかかる。
――――――――――――――――
「ふむ、これだけですか? というかスキルはどうやったら増えるのでしょうか? これはヘルプ案件ですね」
『スキルは所謂特殊技能です。使用することでレベルが上がっていきます。スキルはその職に応じて与えられます。新しいスキルが欲しい場合は専用のアイテムを使う、クエストをクリアするなどで可能です。また、人族プレイヤーはSPを使用することによって基本的なスキルを取得することが可能です。』
魔族に厳しい世界。
魔族に育成の自由はないのだろうか? SPないからステータスも決まった成長しかしないしスキルも条件を満たさないと取れない。
なるほど、堅護はこういったちょいちょい不遇な部分を見て諦めたんだね。
そうやって自分の状況を確認しているとまた会話が聞こえてきた。
その方向を見ると人族の4人組が歩いてきているのがここからでもかろうじて見えた。
どれも人族だ。
「また人族ですね。剣が3、杖1ですか。ちょっと顔を出してみて襲ってくるようなら戦いましょう。幸い、全員兵士級の実力しかなさそうですから襲ってこられても対処は簡単です」
私は手に入れたばかりの青銅の細剣を杖代わりにしながら人族たちに近づいた。
「魔族プレイヤー目視、やるぞ!」
「「「おお!!」」」
なんだか、この人たちも好戦的。
私は剣を構えて前のめりに、そして左足だけで前に倒れるようにして跳んだ。
イメージとしては地面とほぼ平行にジャンプする感じだ。
そうして相手の距離を縮めて刺突。狙うは先頭にいる男の喉元。
「速っ、、ぐふっ、」
あ、即死した。木の棒は思っていたより攻撃力が低かったみたい。
それとも、レベルが上がったから? わからないけど好都合だ。
私は左足で着地、そして着地時の前屈みの状態から体重移動で体をくるりとコマのように回して近くにいた男の首を切りつけた。
しかしバランスが悪い状態での攻撃と攻撃直後というだけあってギリギリ相手の対応が間に合ってしまう。
私の細剣は相手の持っていたブロードソードと激突した。
「こいつ、っ舐めるな!!」
男は防御を続行。その間に私の後ろにいる彼のお仲間さんの女性が私に向けて剣を振りかぶる。
私は一度目の前の男を無視して後ろの女性に向けて振り向きざまに攻撃を加える。
私の細剣は女性の手首を大きく切り裂く。
だがゲーム故か切り離されたりしなかった。女性は驚きながらも私を切ろうとする手を止めない。
それならばと私は膝を曲げて身を低くした。
しかし相手の行うのは切りおろし。これだけでは回避できずに攻撃を受けてしまう。
しかし私は慌てずに次の行動に移る。
女性の剣の鍔に私の細剣の柄を叩きつけた。すると私を捉えようとしていた女性の剣の軌道は私を飛び越え先ほど私の攻撃をギリギリで防いだ男性の方へ。
幸か不幸か一応防御体勢だったのでその攻撃は防ぐことができたみたいだ。
だけど、私の次の一撃は防げない。
足元からえぐるように繰り出される最速の突きをかわす手段を相手は持ち合わせていなかった。
仲間の攻撃を受けて体勢を崩した男。
攻撃を仲間に当てさせられて体勢を崩した女。
その2人は崩れたところに致死の一撃をもらってしまった。戦闘不能だ。
残るは杖を持った男が1人。
男は顔を青ざめさせながらも杖を前に突き出して叫ぶ。
「来るなぁ【アクアランス】!!」
突き出された杖の先から水を固めて作ったような槍が私に向けて撃ち出された。
速度はそれなりだ。大体騎士級の一撃と見ていいだろう。
その程度じゃ私にかすらせることすらできない。たとえ左足一本であっても、まっすぐにしか進まない魔法なんて避けられない方がおかしい。
私は横に跳んで水の槍を回避する。
そして空中にいる間に体を90度回転させた。
私の跳躍の先にあるのは森の中ということもありそこら中に生えている木だ。
私は跳躍の先で木を足場にして跳躍、魔法使いの男に近づいてその勢いのまま喉を刺突した。
戦闘終了だ。
UIからアイテムの確認フェイズに移行するよ。
今回は4人倒したからアイテムが4つ――と思っていたが違った。
アイテムが9つだった。ドロップ数はバラバラらしい。
手に入ったアイテムの中に1つだけだったが「人形の足」があったので使って右足も修復しておいた。
これでやっと普通に動けるよ。
そして「人形の腕」が2つ手に入った。この結果から最低でも人形プレイヤーが2人ないしは3人ほどやられていることを知った。
あれ? 人形狩りのイベントでもあってるの?
他の6つのアイテムは薬品が3、未鑑定の草が2、青銅の剣が1だった。
それらはそのままインベントリの肥やしになっている。
「よしっ、普通に歩けるようになりましたしこのまま森を出ましょう。どっちに行けば出られるかわかりませんが同じ方向に歩き続ければそのうち出られるでしょう」
私は手足が揃ったことでテンションを上げて進行した。
ちなみにだが、レベルは9まで上がっていた。
私の森の進軍は現実の時間が6時になるまで続いた。
そしてそのあたりでセーフティエリアなるものを見つけてそこでログアウトした。
その間、普通の魔物もいるにはいたけど戦ったのは基本的に人族のプレイヤーだけだった。
逆にいえば人形のお仲間は見つからなかった。
ちょっとだけさみしい……
今日中に4〜5話くらいまで書き上げたい所存です。