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まさかこんなことになろうとは誰が予想したでしょうか?


私はそいつを侮っていたのかもしれない。

初めはいくら大きくてもただの蜘蛛だから問題のない相手だと思っていた。

しかし忘れていたわけではないがここは現実の世界ではない。


現実の世界では当たり前のことでもここでは当たり前ではなく、逆もまた然りだ。


ネザータラントはカサカサとこの部屋の中を縦横無尽に走り回りながらこちらに糸を吐きつけてくる。

私、蜘蛛の糸ってずっと尻のところから出てるものかと思ってたんだけど違ったみたいだね。



この部屋は目の前の蜘蛛が強く立ち回れるように作られているのだろう。

いくつもの太い柱のような石が設置してありネザータラントはそれを足場に駆け回る。

時には隣の石柱に飛び移ることもある。


そうやって私から距離をとって一方的に糸を吹き付けてくるのだ。

まだ捕まるようなことにはなっていないがこちらの攻撃も届いていない。

千日手の様相を呈していた。


だが長い戦いの均衡もいつかは崩れる時がくる。

戦いの最中、部屋の陰に隠れて窺うように見ていたヒメカの方に蜘蛛の糸が飛んで行ったのだ。



ヒメカのステータスはなんやかんやでかなり高くなっている。

しかしそれイコール戦闘能力が高いというわけではない。ヒメカは戦いの経験というものが全くない。

そのためある程度のものには当たらないはずの蜘蛛の糸が当たってしまう。


「きゃぃん!!」

「あぁっ、ヒメカ大丈夫ですか?!」


蜘蛛の糸が当たったからだろうか?ネザータラントの動きが変わった。

奴は先ほどまで執拗に追いかけ回してきていた私を無視し始める。

そしてそのかわりに糸に捕らえられて身動きが取れなくなっているヒメカの方にゆっくりと歩き出した。

地面に降りてのしのしとヒメカに迫るネザータラント。

私はその無防備な後ろ姿に向けて剣を突き刺す。


しかし、ダメージは入ったようではあるが私を無視するのは変わらない。

ネザータラントは攻撃を受け続けながらも前へ進み続けた。


そしてついにヒメカの元にまでたどり着く。


「くぅぅぅぅぅん!!?」


ヒメカが恐怖で悲鳴をあげる。

ネザータラントはその声を無視してさらに糸を吐きつけヒメカを簀巻きにしてしまう。

真っ白な蜘蛛の糸からヒメカの顔だけが見える、ミノムシのような状態にされていた。


そしてそれを前足で持ち上げるとネザータラントは上を向いて口を大きく開いた。



「くぅ、くぅ、くぅ!」

「まさかヒメカを食べるつもりですか!?それはさせません!!」


そこまでされたらこれから先何が起こるか私にも簡単に理解できた。

私は次々と敵の体を切りつけた。

だがやはりその行動をキャンセルすることができない。レベルやステータスが足りていないからかそれだけで仕留め切ることはできない。



ネザータラントがヒメカを持っている手をゆっくりと口に近づける。

「きゅぅぅん!!」


ヒメカが必死になって脱出しようとする。

ケオルネの時に見た桃色の雷光が蜘蛛の手から発せられる。

だがそれでも相手の動きを止めることすらできない。


いや、もしかしたらどんな攻撃でも止められないのかもしれない。

痛覚がなく、その機能を損なわれない限り動き続けるのかもしれない。


私はネザータラントの前足を全力で切りつけた。

だがそれでも足りなかった。


そしてついにーーーーーーヒメカがネザータラントのその大きな牙によって噛み付かれた。












「くぅううううううううううううううううん!!」

「あぁ、ヒメカ、ごめんなさいごめんなさい」


苦しみの声に鳴くヒメカに私は心から謝った。私がもっと強ければ、私がもっと早くあれを倒せればヒメカが苦しい思いをすることはなかった。


蜘蛛の口の中で生涯を終えることがなかった。


「くうううううぅぅぅぅぅん!!」


ごめんねヒメカ、私が不甲斐ないばっかりに………


「くぅぅぅぅぅぅん!!」

「うぅ、あなたは絶対に許しませんからね」

「くぅうううううん!」


……あれ?ヒメカ、結構耐えるな。

そういえば、ヒメカって被ダメ0なんだっけ?アスタリスクさん曰く数値書き換えによってHPを増減させられることもあるとかなんとかだったけど、あれって言ってしまえばただの物理攻撃だよね?


ということはこれ、もしかしてヒメカ死なない?



ネザータラントは糸を巻きつけた相手を確実に仕留めようとする習性でもあるのかヒメカに牙をつきたてようとしている。

だが、ヒメカのスキルによってその攻撃は無効化されている不毛な争いが行われていた。



「くぅ?」


ヒメカも途中でそれに気づいたみたいだ。

唯一出ている頭が傾き蜘蛛の顔を不思議そうな目で見ている。



「………おや、これもしかして楽勝なのでは?」




もし、ネザータラントが相手を糸に捕らえたという条件で捕食行動を取り始め、それを完遂するまで動かないというのならこれはいわばはまってしまった状態にある。


私は少々いたたまれない雰囲気に苛まれながらネザータラントの体を容赦なく切りつける。


うん、やっぱりダメージは入っているけど回復はしないね。



………ヒメカ、ちょっとの間辛抱しててね。







私は奈落に入る権利を手に入れた。











ネザータラントさんの致命的な欠陥によって私は下層のさらに下、奈落に降りることに成功した。

ちなみに穴を降りている最中にいきなり転移的な移動方法が入ったので帰り道は分かっていない。


でも多分ボス部屋は壁に沿うように螺旋階段のようなものがあったからあそこから脱出できると思う。


私は剣をしまいツルハシを取り出してヒメカにカンテラを持たせて歩く。


「ヒメカは今日はいっぱい頑張りましたからね。ご褒美をあげちゃいましょう」


ボス討伐に一躍買ったヒメカに街で購入した果物をあげる。

ヒメカは嬉しそうにそれを受け取った後、頭を突っ込むようにして食べ始める。

食べ終わる頃にはヒメカの顔は無果実の果汁でベトベトになっていたため適当な布で拭いた。


そうやって多少の休憩を挟みながら私は奈落を突き進む。

光っている場所を見つけて壁を叩いてみると「ウーツ鉱石」「奈落の石」というものを入手した。

あまり聞いたことのない金属鉱石だがきっといいものだろう。

後、ごく稀にだが「聖銀鉱石」もあったよ。これは低確率のハズレ枠というところだね。


私は最初の採掘ポイントを見つけてからは片っ端から鉱石を採掘して帰ることにした。

そのためにいっぱいインベントリ枠を空けてきたのだ。

しかしそうやって一心不乱に歩いているとやはり遭遇するのが奈落の魔物だ。



こちらは上の方のアリだけ〜っていう感じではなく豚とか狼みたいなやつとか蜘蛛とか、それに見たこともない浮遊物質とか色々だった。


「くぅぅん!!」

「ちょっとヒメカ、あまり危ないことをしないでください!」


ヒメカは先ほどのボス戦で味を占めたのか蜘蛛を見つけたら突撃して糸に絡め取られるようになっていた。

まぁ、それでヒメカの目論見通り捕食行動に入ろうとする蜘蛛もどうかと思うけどね。


ヒメカのおかげで蜘蛛型の魔物は何の問題もなく倒すことができている。

というかヒメカ、ちょっと糸に絡め取られるのを楽しんでいない?


ちなみに私の感覚ではこの奈落で一番やばいと思うのは浮遊物体だ。

不定形でどこに目があるかわからないがこちらを見つけるとフヨフヨ浮きながら延々と近づいてくる。

一度左手で触ってみたが一瞬で左手がダメになった。

それどころか物理攻撃も通用しないのであれを見つけたら逃げるようにしている。

幸いにも追いかけてくる速度は遅いので簡単に逃げられる。



そうやって採掘しているうちにいい時間になってきたので私は引き上げる。

ちょうどアイテムインベントリもいっぱいだからね。


だが、ちょっと問題もあった。


いや、別に問題じゃないか。単純に帰ろうとした時にボス部屋のネザータラントが復活していたのだ。


………うん、まぁどうなったのかは言わないでいいよね?


ボス部屋の螺旋階段を上りきると気づけば下層の大穴の前にいた。

私はそこから少しだけ戻りセーフティエリアにてその日はログアウトした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今日の戦果


奈落大蜘蛛の顎 1

奈落大蜘蛛の大爪12

奈落大蜘蛛の糸玉6

奈落蜘蛛の糸 21

奈落蜘蛛の顎 2

奈落魔狼の牙 1

奈落魔狼の爪 4

奈落魔狼の肉 10

奈落魔狼の毛皮 8

奈落豚の背脂 2

ウーツ鉱石 64

ウーツ鉱石 64

ウーツ鉱石 64

ウーツ鉱石 3

奈落の石 64

奈落の石 58

聖銀鉱石 4



ボス:奈落への試練ネザータラント(LV80)の討伐

ボス:奈落への試練ネザータラント(LV80)の討伐


LV18→29 (進化可能)




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





そして次の日の朝、今日はいつも通り家事を進めながらいい加減夏休みの宿題を終わらせるべきだろうなと考えていた。

なにせ、夏休み後一週間しかないしね。


ちゃんと夜コツコツ進めてはいたが今年はゲームを結構やっていた時間があったため例年より遅れていた。

だから今日はゲームをするのを控えて一気に残っている部分を終わらせようと考えていた。


それでそのとき気づいたんだけど………うちの弟、堅護って夏休みの宿題やっているのだろうか?


ちょっと聞いてみようかな、ちょうど起きてきたみたいだし。


私は朝食をテーブルの上に並べながら何気ない感じで堅護に聞いてみた。


「ねぇ堅護、聞きたいことがあるのですが」

「どうしたんだよそんな改まって」

「夏休みの宿題は進んでいますか?」

「あ゛!!」

「………今日はゲームはやめておきましょうか」

「………い、一時間くらいなら……」

「ダメです!」

「そんなぁ、昨日新しいイベントの発表があったから一緒に頑張ろうって栞さんと約束してたんだよ!」

「あ、栞ちゃんは夏休みの最後に一気にやるタイプだからどうせ終わっていません。ということですので栞ちゃんの家に行って一緒に宿題を進めてきてはどうですか?わからないところを教えてもらうという名目でイチャイチャしてきてくればいいのですよ」

「そ、それは俺にはハードルが高いというか……」

「じゃあ、今日の昼頃に行くと伝えておきますのでちゃんと行くのですよ」



私は自分の目の前にある丼を水につけて一度流しに放置して逃げるようにその場を離れた。


一緒に夏休みの宿題、そのくらいのイベントなんでもないようにこなしてもらわないと付き合うまでいくのは夢のまた夢だ。

このくらい頑張って欲しいところだ。


私はそう考え、堅護に拒否権を与えないように逃げるように部屋から出て朝の家事を進める。

その時、栞ちゃんの予定を確保しておくのも忘れない。


「え〜っと、まずは『栞ちゃんは夏休みの宿題は終わっていますか』っと」


私がそれを送信して洗濯物を干していると返信が来ていた。


『わかってて言ってる?』

『要するに終わっていないのですね?』

『うきゃー!!嫌なこと思い出させないでよぉ_:(´ཀ`」 ∠):』

『そんな栞ちゃんに朗報です』

『お、なになに?創華ちゃんが全部やってくれるの、ありがとう٩( 'ω' )و』

『いいえ、私はやりませんが』

『代わりに弟をそちらに送ります』

『ん、つまり今日堅護くんが遊びにくるってことでいいんだね?』

『そういうことです。お勉強を手取り足取り教えてあげてださい』

『り』



私は栞ちゃんの了承を得たことを確認してから下に放置していた洗い物を終わらせるべく階段を下りリビングの方へ戻る。


そこに堅護はいなかった。

代わりに上の階からバタバタと何か入念に準備している音が聞こえた。


もっと二人には仲良くなって欲しい。

私はそう思いながら洗いものを片付けたのだった。


ちなみに二人が夏休みの宿題をやる描写をするという予定は今のところありません

次回はイベントの話。


Q、たった3体で大量のドロップ品?

A、世界単位で挑むダンジョンの魔物のドロップ品を独り占めしてるからね。


Q、ミスリルのことについて

よくある設定で魔力が関係しているとかなんとか、物理特化だと微妙?

A、軽くてそれなりに丈夫な金属っていう設定もあるから普通に優秀。魔法付与とかしたら強いのも事実


Q、神様もストーカーなんですね!!

A、いつも一人でさみしいから構って欲しいだけんだけどね



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