彼岸
遅くなってすみません
………最近始めたブロスタとゼルダが、楽しかったんや………
ヒメカの可愛らしい咆哮がスーッとその空間を通り抜けると、そこにいたものたちは戦いが終わったのだと理解した。
ヒメカはその後私の足元までやってきて両手を上にあげて後ろ足でぴょこぴょことジャンプしてみせる。
すごく褒めて欲しそうな顔だ。
私はヒメカの脇の下に手を入れて持ち上げて抱っこしながら頭を撫でる。
「よしよし、頑張りましたね」
「くぁぁ♪」
頭を撫でるとヒメカは気持ちよさそうに目を閉じた。
おーよしよし、お前は可愛いやつだなー
……
「ところで姉ちゃん」
「はい、何でしょうか?」
「何でヒメカが戦いに参加してたの?」
「勝手に飛び出して行きました。私は知りません」
「じゃあ、ラストアタックをかっさらってった件については?」
「それは……タイミングが良かったのでしょう」
「でも姉ちゃん、前ヒメカの能力確認した時与ダメも被ダメも0になるとかいってなかったっけ?」
「………」
「説明を求む」
そんなこと言われたって、私にもわからないんだよぉ。
お姉ちゃんがなんでも知っていると思ったら大間違いだよ!
そう思いながら私はステータスを開きその中にある従魔ステータスを確認した。
そこにはいつのまにかレベルが24まで上がっているのといくつかのスキルが増えていた。
「あ、何やらスキルが増えていますね。何々……」
――――――――――――――――
N:ヒメカ
種族 トラベアー
LV 24
HP 26664
MP 2664
STR 66
VIT 66
INT 12
MND 66
DEX 10
AGI 30
LUK 88
SP ー
習得スキル
【断絶】
【因果応報】
【親愛】
【共鳴】
【心の瞳】
――――――――――――
【共鳴】
周囲のトラベアーを呼ぶ
ーーーーーーーーーーーーー
【心の瞳】
対象のカルマ値データを取得する
ーーーーーーーーーーーーー
増えていたスキルは二つだったが、一つは仲間を呼ぶことができるスキル。
そしてもう一つが限定的な鑑定能力だった。どちらも関係があるとは思えない。
それにしてもヒメカ、思った以上にステータスが高い。
私のHPが今……4万強だからヒメカは私の半分は打たれ強いことになる。
「むぅ?どちらも攻撃系ではありませんね?どういうことでしょうか?」
「………どうしたメーフラ、何か困りごとか?」
私がヒメカのステータスを見ながら首を傾げているとアスタリスクさんが話しかけてきた。
彼はこの戦い、一度たりとも攻撃を受けることがなかった。
竜の素材でできているという鎧も綺麗なままだ。
そんな彼は悩む私に何か力になれないかと言ってくれた。
だから私はダメ元でどうしてヒメカが敵にダメージを与えられたのかわからないか聞いてみた。
すると彼は少し考えるような動作をした後すぐに
「………その、くまのスキルの説明を見せてくれないだろうか?」
と言ってきた。
断る理由もないので私はアスタリスクさんと肩を並べるように立ちステータスのヒメカのページを開いた。
彼は私が肩を寄せるように近づくと何故か一歩逆側へ遠ざかる。
むぅ、それじゃ見にくくない?
私がそんな目で見ると彼は逆に「勘弁してくれ」と言った風に小さく首を振った。
あれ?私彼に告白されたんだよね?ってことは私のことを好いてくれているんだよね?
なら何故遠ざかる……普通好きになった人には近づきたいものじゃないの?
まぁ、今はいいや。
そこには先ほど私がみたものと同じものが映し出されている。
アスタリスクさんの要望通り私はスキルの詳細を上から見せてあげる。
――――――――――――
【断絶】
与ダメージと被ダメージが0になる
ーーーーーーーーーーー
【因果応報】
対象のカルマ値をHPに与える
ーーーーーーーーーーーー
【親愛】
主人およびそのパーティメンバーへの【断絶】が無効になる
ーーーーーーーーーーーー
【共鳴】
周囲のトラベアーを呼ぶ
ーーーーーーーーーーーーー
【心の瞳】
対象のカルマ値データを取得する
ーーーーーーーーーーーーー
「私としては【親愛】あたりが怪しいと思うんですけどね」
一応自分の意見も添えておく。ヒメカがダメージを与えられない問題の一番にして唯一の障害が一番上に書かれている【断絶】のせいだ。
それが限定条件があるとはいえ無効化される【親愛】はかなり怪しい。
私の意見を聞いた後、アスタリスクさんは少しだけ言いづらそうに
「………俺は【因果応報】の部分が怪しいと思う」
と言い切った。
「して、そう思う理由は何ですか?」
「………それ以外にダメージを与えられそうなものがないからだ。いや、おそらくだがこのスキル、ダメージスキルではない」
「それはどういうことでしょう?」
「………このスキルの説明には『カルマ値
をHPに与える』とある。カルマ値が何かはよく知らないが、設定されている何らかの数値を与えるのだろう? それは果たしてダメージなのか?俺はそこに違和感を感じた」
ふむ、言われてみればそうかも。
カルマ値、というのはこのゲーム内の各キャラに設定された非公開データだ。
これは人に親切にしたり特定の行動をとったりすることで上昇し、逆に悪行を積むと減少していく。
カルマ値は0を初期値としてプラスなほど善人、マイナスなほど悪人として認定されるのだ。
ヒメカの【因果応報】はこの数値を対象に与える能力。
悪人なら間違いなくダメージが入るだろう。
だが、善人ならその数値はプラス、つまり回復効果になる。
アスタリスクさんが問題視しているのはこの時の処理の話なのだろう。
非公開データ次第でプラスにもマイナスにもなるこのスキルは果たしてダメージスキルなのか?ということだ。
条件によってダメージ、回復が切り替わっていると言えばそれまでだが、当面疑うことができるのがここくらいしかないのだと言う。
「これは、要検証ですね」
「………すまないな。力になれなくて」
「いいえ、結構参考になりました。ありがとうございます」
「あ、話はまとまったかな?」
アスタリスクさんとの会話が終わった頃、ダームさんがラストに抱え上げられた状態で話しかけてくる。
担ぎ上げられているダームさんはどこか脱力した状態であり、ラストからは絶対に離さないという意志を感じられた。
「はい。もう大丈夫です」
「それならちょっとここで待ってもらっていていいかな?クエストを終わらせたいんだ」
「了解です。ゆっくりしてきてください」
「ありがとう。助かるよ」
ダームさんはそう言うとケオルネがいた場所を通り抜け1人先へ行ってしまった。
あの先に、彼の今回の冒険の目的となるものがあるのだろう。
それを察していた私たちは誰も何も言わずにその背中を見送った。
ダームさんが戻ってくるまでの間、私たちはゆっくり談笑をすることとなった。
★
ラスト・アインリーンは元は生きた魔族であった。
彼女の生まれ自体はなんの不自由もない魔族の一般家庭。
父母ともに彼女の誕生を喜んでいたし、彼女もまた、そんな家庭に不満というものは持っていなかったという。
両親の言うことを聞き、たまには外に出かけて公園で同年代の子供と遊んで、日が傾いてきたら家に帰りそのことを母に話す。
そんなありふれた毎日。
ラストにとってそれが何よりの幸せであり、その幸せはずっと続いていくものだと思っていた。
しかし、何事にも変化は訪れる。
変わらない幸せというものは存在しない。
ある日のことだった。
ラストの父は賭博というものを知った。
彼は友人の誘いにより渋々やったようだったが、家に帰るときにはもう既に賭け事の虜になっていた。
しかし、家族に知られれば何を思われるかわからない。
ラストの父はその事実をひた隠しにした。
初めはうまくやっていた。
そこそこの額で小さなスリルを楽しんでいた。
だが、次第にそれでは満足できなくなる。
隣の客が一度に大量の金を財布に入れているのを見て、自分ももしかしたら……
そんな思いを抱き始める。
そして、文字通りの賭けに出た。
初めは浮いたお金を賭けるだけだったラストの父は、遂に生活費の一部に手を出した。
その日はーーーーーーーー運良く勝利した。
ラストの父はさらに賭博の魅力にとりつかれた。
そこからは早かった。
賭ける額が倍、倍に増えていく。
彼の友人の言葉もそれを後押しするものになっていた。
友人はラストの父にこう言い切った。
「負けたらどうするかだって?そりゃあ、前賭けた時の倍額かけて勝てばそれまでの負けは全部返ってくるだろ?負けたらまた倍額だ。いつかは絶対に勝つんだからその時やめれば負けはねえよ」
その理屈は正しかった。
勝った場合掛け金が倍になるのなら、そうやって賭けていけばいつかは負け分は取り返せる。
しかし、それは倍をかけ続けられるだけの資産があるものの話だ。
一般家庭に生きるラストの父がそれをやるだけの金はなかった。
そうやって、どんどん賭けの金額が膨れ上がり………
そしてもうこれ以上ない、というところまで膨れ上がったところで、ラストの父は負けた。
しかし彼は諦めなかった。
即座に賭場内にて借金をし、負け分を取り返そうとした。
もう、取り返しはつかないところまで来ていた。
その日、ラストが家に帰ると入口の前に見知らぬ魔族の人たちが3人程立っていた。
ラストはそれがいい来客ではないことを本能で察知した。だが、そこは彼女の家、逃げるわけにはいかない。
逃げたところで、行く場所がない。
ラストは意を決して前に出る。
そしてラストが見たものは顔を腫らし、手の骨を砕かれた父親の姿と、部屋の隅で身を縮める母の姿。
母はなぜこんなことになっているのかわからないという困惑顔でただただ事の成り行きを見守るだけしかできないでいた。
ラストは悲鳴をあげながらその場にへたり込んだ。
そこで、その場にいたものがラストの存在に気がつく。
そして3人はいいものを見つけた、というふうにラストの父に悪い笑みを見せた。
ラストは、父親の借金のかたとして売られた。
馬車にて何処か遠くの街へ連れて行かれる筈だった。
しかし、彼女を乗せた馬車は餌を見つけた飛龍によって襲撃される。
ラストは、馬車の主人に迷わず餌として差し出された。
ラストは終わりを悟った。
どこで、何を間違えたのだろう。飛龍の鉤爪が肩に食い込んだ時、走馬灯で幸せだった時のことを思いながら目を閉じた。
しかし、ラストには次があった。
続きがあった。
彼女が次に目覚めたのは腐臭漂う薄暗い場所。
周りにはアンデッド系の魔物がひしめいていてラストは身を小さく縮めようとする。
だが、思うように手足が動かない。
手を見ようとして、ない。
足を見ようとして、ない。
体を見ようとして、ない。
何もなかった。
自分がどうなっているのかわからなかった。
その状態で、何日も何週間も何ヶ月も何年も経過した。
殺してくれと叫ぼうとしたが声がうまく出ない。
周りのアンデッドたちはラストを仲間と認識して殺してはくれなかった。
ラストは気が狂いそうになりながらそこにあり続けた。
彼女の心にはただ、「何故」があった。
長い間、ラストはその問いを続けた。
彼女は、その動かない体がその答えの鍵になっていることにはついぞ気がつかなかった。
そしてある日ーーーーーーーー
「あぁ、僕、こういうの放っておくのは無理なんだよね」
ボロボロのローブを羽織り杖を持った骸骨が虚空を見ながらそう呟き、すぐさま地面に転がっていたラストに目を向け抱き上げた。
「ーーーーーー」
「ちょっとまってね。今、体を作ってあげるから」
その骸骨は、終わりがないように思えたその場所での日々を断ち切ってくれた。
ラストの目には、その骸骨が輝いて見えた。
☆
僕はラストの設定と自分との出会いを思い出しながらレイドマップ、「彼岸の入口」を進む。
いや、確か調べた設定ではケオルネがいた場所が境界線であれがいた場所を越えればその先は彼岸、つまりあの世なんだっけ?
よくわからない。
僕はUIからクエストの項目を確認する。
クエスト名は「救済」
死して尚現世に留まり続けたラスト・アインリーンの魂を体の場所にまで連れて行ってあげるというクエストだ。
つまり、この先に行けばラストの魂は体に帰る。
そして僕はラストというメイン兵力を失うわけだ。
僕はラストをちらりと見た。
僕の顔はこの世界では骸骨のものであり、表情筋はおろか皮膚すらない状態なのだが、、、
「どう゛が、じだ」
「いいや、父親のやっていたのが賽子博打だったから目が21個って、逆に安直すぎて怖いなって思っただけだよ」
「ぞう゛」
ラストは分かっているんじゃないかってくらい僕の表情を読み取る。
あ、もしかして目がいっぱいあるからよく見える?
僕はクエスト詳細に示された地点まで歩き続ける。
まぁ、正確には担がれている僕が指示してラストに歩いてもらうっていうのが正しいんだけどね。
ケオルネがいた場所から少し歩いた場所、彼岸花が一層生い茂るその場所が目的地だった。
ラストにはそこで止まってもらい僕はラストから降りる。
そこでクエストが更新された。
そこには要約すると「ここ掘れワンワン」と書かれていた。
大丈夫、これも想定内だ。
僕は土魔法を使う。使う魔法は【クリエイトホール】。
僕のお気に入りの魔法でその効果は地面の一部を空洞にするというもの。
要するに落とし穴を作る魔法だ。
この魔法のいい場所は土とか石以外は撤去しない点だ。
故に指定場所に何か埋まっていた場合蓋を残して掘り出すことができる。
「ラスト、ちょっとそこに立って貰えるかな?」
「わ゛がっ゛だ」
ラストは僕の指示に逆らわない。
無茶なことでもやろうとしてくれる。
まっ、それはゲーム内の相棒NPCだからだけどね。
ラストは僕が作った落とし穴に落ちる。
きっと今の彼女が落ちた先に、本来の彼女があるはずだ。
ラストがズボッと地面の下に消えた後、穴の中から光の柱が立った。
目の端で「クエストが更新されました」という通知が来るが光のせいでうまく見えない。
全く、こちとらアンデッドだから光は苦手なんだっての。
僕は光が収まるまで目を離さずに見続けた。
そしてやがてその光は勢いを失いーーーーーまた、赤い景色が戻ってきた。
穴の中から、見慣れない細くて白い腕が穴の淵にかかり体を持ち上げる。
僕がそれを黙って見ていると、やがて穴の中からは可愛らしい女の子が現れた。
クリーム色の長い髪、小さな手足。
腰から生える二対四枚の羽。
ぱっちり開いた目と水色の瞳。
そして、
首にかかっている眼球で作られたようなネックレス。
僕にはそれが誰なのかすぐに分かった。
「ラストか」
「うん」
「………」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。じゃあ、ここでお別れだね」
「えっーーーーーーー?」
ラストはこれでもう完全な死者だから、向こう側には戻れないだろう。
そう思い別れを切り出したら心外だという顔で見られた。
「なんでお別れ?」
「えっ……てっきり、そういうものかと思ったんだけど」
「私も一緒に帰るよ?」
「でもラストはこっちにいたほうがいいものなんじゃないの?」
僕がそういうとラストは少しだけ口を噤んでやがて
「うっ、うわあああああああああああああん。ダーム゛が、いじわる、ずるうううううううう!!」
大声で泣き始めた。
ポロポロと大粒の涙をこぼし、僕のローブにしがみつく。
僕はどうしていいかわからずにとりあえずラストの背中を撫でた。
今までだったらつぎはぎの体でどこか突っかかりがあった背中は今は滑らかだ。
「わだじも、いっじょ、がえるうううううう!!おいでがだいでえええええ!!」
「ああ分かったから。置いてかないから泣き止んで!!」
よくよく考えれば、僕達生者が死者の国まで来ているんだ。
死者があっちにいても誰も文句は言わないだろう。
「ぞもぞも、だーむ゛も、あんでっどだから、わたじどいっじょのじじゃでじょおおお!!」
「はいはいそうだね。じゃあ帰りは僕が担いであげるから一緒に帰ろうか」
「………ぅん」
僕はラストをおぶってみんなが待っている場所まで歩いた。
みんなは変わり果てたラストの姿に驚いていたけどやっぱり美少女なのが大きいのか簡単に受け入れられていた。
特に、エターシャさんや今日初めてあったフセンさんはすごくラストの世話を焼きたがっていた。
子供が好きなんだろう。エターシャさんなんかはレーナちゃんに構いすぎて「嫌!」って言われたともいうし………
時に、このレイドダンジョンだがボスを倒しても先への道が解放されるだけで入口までの転移とかが解放されたりはしない。
つまり僕達は歩いて外まで出なければならないのだ。
その間、ラストは僕の背中から降りることはなかった。
僕に肉はなく背中も硬くて乗り心地は良くないだろうに、彼女はとっても楽しそうだった。
「えへへ、連れてってくれてありがとダーム。大好きだよ」
聞こえないように小さく言ったのだろうが僕の耳はそれを拾ってしまった。
少しだけ照れる。
その後僕は彼岸の入口を抜けるまで心の中で「あれはNPCあれはNPC」と何度か唱えて平静を取り戻した。
Q、ケオルネの大きさは?
A、書いてあると思いますが今回は大体高さ10m強くらいです。正確には13メートルです。
人数によって変わります
Q、ヒメカはダメージを与えられないはずでは?
A、これ以降ヒメカの攻撃について言及はされないと思うのでここで解説しておくと【因果応報】のスキルの数値変動はダメージによる「加減」ではなくスキルによるHPの「書き換え」によって成立しております。
というのもトラベアーという種族の基本コンセプトは「情けは人の為ならず」であり、いいことをしてきた人には優しく、悪いことをしてきた人には厳しく当たるキャラです。
カルマ値がプラスのキャラに対しては回復しかしないけど、カルマ値がマイナスなキャラには延々とHPのマイナスをし続けるという種族になっております。
Q、ラスアタがオトモは狩人あるあるやな
A、翼膜とかよく壊してくれるよね
Q、弓の人のお相手候補とか……
A、凛さんはどうだろうかなぁ……
これにてダームさん&ラスト編は終わりです。
次もサブキャラとの話を書こうと思うのですが順番が決まっていませんのでこのキャラを先に見たいというのがある方は感想で!!
誰も何も言わなければそのうち出そうと思っていた一番やばい奴に創華ちゃんを突っ込ませます。
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