彼岸の入り口 後
前回までのあらすじ
長くなりそうだから前後編に分けることにした作者は実質1話だから次の日に投稿すると宣言。
しかし思うように纏まらず書き直し、なんやかんやいつもと同じ日数開いてしまったのだった。
ボス部屋前にて休憩中、私たちはダームさん、ドゲザさん、エターシャさんの3人が今日までに収集した敵戦力の確認を聞くことになった。
「と言っても、ほとんど何もできずに負けちまってたからほとんど情報はないんだけどな」
ドゲザさんのその前置きから解説が始まった。
まず、敵の見た目。
だいたい人型らしい。ただし、腕が3対、つまり6本あるんだって。
次に開幕直後の行動。
今回のボスはボス部屋に入っただけでは動かないが一定距離に近づいた時点で戦闘が開始する。
最初は基本的に6本の腕でなぎ払いやら叩き潰しやらをしてくるらしい。
単なる物理攻撃だからパターンさえわかればどうにでもなるんだって。
そして最後に、その後の行動。
どうやらHPの減少に連れて攻撃が苛烈になっていくのを確認したんだと。
なんでも、魔法弾を飛ばしてきたみたいだよ。
それもHPの減少に伴い数が増えていくのだとか。
「後、これが一番重要だがあいつ毒が効かねえ。完全耐性を持ってやがるみたいだ」
「それに関しては意味があるのはドゲザさんと僕だけだけどね」
「それと、アンデッドでもないみたいだからポーション投げてもダメージは入らないよ」
ここまでが3人だけで集められた最大限の情報だった。
少なくない?と思われるかもしれないが相手は108人で倒すボス。
たった3人でそこまで判明させられたのならかなり頑張ったのだと予想できる。
私たちは少ないようで多い情報を聞いた後しばらくゆっくりしてからボスの扉を開く。
ギギギ……ギギギ……ギギ……
錆び付いたような音を立てながら巨大な扉が開かれた。
今、私たちがいる場所は洞窟の中。
この扉はその出口なのだろうか?
扉が隙間を空けるに連れて私たちの目には光が舞い込んでくる。
そして、開ききった扉の先の風景は先程私たちが抜けてきた花畑のような光景だった。
しかし、違いがあるとするならばこちらは花が枯れていなかった。
全てではないが、赤く細い花がその花弁を開き風にゆらゆらと揺れていたのだ。
そして
そんな花畑の中にひとつ、似つかわしくないものが存在する。
それは私たちから50メートルは離れている場所にいるだろう。
だが、それだけの距離がありながら顔まで容易に確認できるその巨体は目測ではあるが10メートルは超えている。
服は着ていない。だがそこにいやらしさはない。なぜならそいつの体が黒一色で体の下半分は地面に埋まっているからだ。
そいつの目は肌のように真っ黒だった。人間の目、というよりかは犬みたいな、動物のような目をしていた。
だが、それに可愛らしさや安心感などは微塵も見出せない。
どちらかというと不安を煽るような目をしていた。
口も人間のように横に裂けているものではなく、丸い口でそれを大きく開けていた。
腕は情報通り6本あるようだった。今はだらりと下げられている。
突入前、ダームさんたちはあいつのことを6本腕の人間と答えた。それを鵜呑みにしてしまったからこそ、私は少し衝撃を受けていた。
大きく真っ黒な体、前傾姿勢、そして顔はーーーー
「………ハニワ?」
私がそれの姿を確認しているとアスタリスクさんの声が聞こえてきた。
「あれを見て抱く感想はたったそれだけなんですか………」
「………確か、随分前にテルのやつが買ってきた土産にあんなものがあったような気がする」
「少なくとも、ハニワではないと思いますよ?」
「………だろうな」
そんな冗談を言いながら私たちはその黒い巨人に向けて歩き始める。
「そういえば、あれの名前ってなんなんだ?」
「【鑑定】によれば名前は『ケオルネ』レベルは不明だったよ」
ガトのこぼした問いに即座にエターシャさんが答える。
あの巨人はケオルネというらしい。
こういう時、神話などの名前を直接引用してくれれば何かわかりそうな気もするのだが、どうやらそこまで甘くはないみたいだ。
それから先、誰かが何かを言うことはなく一歩一歩足を進めるだけだった。
私たちとケオルネの距離が10メートルを切った、その時だった。
ついに奴が動き始める。
FUROROROROと叫び声のようなものをあげながら、巨大な腕を振り回し始めた。
体が大きい生き物は動きが鈍重。
ケオルネもその例に漏れずそれほど素早く動くわけではないが、体が大きいため結果的に攻撃範囲も広くそれなりの速度でこちらに向かってくる腕。
手は鉤爪のような形になっており私たちを引き裂かんと腕を振り抜く。
叩きつけるような攻撃の度に爆発でもしたのかと思うような振動を響かせる。
しかし振り下ろしはまだいい。
問題はなぎ払いだ。
こちらは体が大きいし腕も長いため非常に避けづらい。
幸いにして威力は見た目よりはないみたいだが、散発的に放たれるこれを捌きながら戦うのは骨が折れる。
ここは……
「私が右側をやりますので」
「………俺が左側を止めよう」
一瞬のやりとり。
それだけでお互い何をやるか理解する。
私はこちらから見て右側、つまり敵の左腕の攻撃をみんなに向かないように対処する。
そしてアスタリスクさんは同様に左側をだ。
すでにリンさんなんかは私たちが何がしたいのかを一瞬で理解して敵の攻撃に対する警戒度合いを落としている。
信頼してもらえているのだろうが、少しプレッシャーだな。
なにせ、こんなに大きな人の攻撃をさばいたことはない。
だがまぁ、きっとなんとかなるだろう。
「ヒメカ、しっかりつかまっていてくださいね」
「くぅ」
私は自分の腰にぎゅっと抱きついているヒメカに声をかける。
本当はこの戦いが始まる前にどこか安全な場所に避難させておこうとしたのだ。
しかし、ヒメカがどうしても離れてくれなかったのでこうしてもらっている。
いつもは頭の上なのに今は腰にしがみついているのはそっちの方が回避などがしやすいからであった。
そして右側の担当になってから最初の攻撃が来る。
左腕でのなぎ払い。
あの大きさなら手前の方で力を上にそらすことができれば……
「こうやって自動的にみんなの頭上を通ることになりますよね」
使っている力が大きければ大きいほど小さなズレが致命的なズレになる。
それこそ、みんなから離れた場所で数十センチでも上にそらせればそれだけでみんなには絶対に当たらない高さまでになる。
それなりに速度が出ているため修正も難しかろう。
「皆さんは攻撃に集中してください。腕の攻撃は私とアスタリスクさんで対処します!!」
「ありがとうボスの嬢ちゃん!おいエターシャ、お前はバフをかけ直したらその2人についてやれ!」
「任せて、万が一にも間違いが起こらないようにしっかりサポートするよ!」
「それじゃあ僕とフセンさんは防御は考えずに攻撃しましょう!リンさんは好きに動いてください!」
「結局、いつも通りってことだね」
「フセンさん、俺はどうしますか?」
「とりあえず私についてきて!」
「教官さんは僕についてください。ドゲザさんも出来る限り攻撃を!」
「任せて起きたまえ。君のことはしっかり守り通すとしよう」
腕の攻撃は私たちが対処するがそれ以外の攻撃は知らない。
出ている情報だけでもHP減少による魔法攻撃が絡んでくるはずであり、アタッカーの人たちはそれぞれ護衛役を付けて攻撃を始めた。
おっと、叩きつけ。
こればっかりは私たちがしっかりタゲ取って対処するのがいいよね。
私は振り下ろされて手元まで降りてきた黒い腕を全力で切りつける。
それのついでに……くらえ【無慈悲な宣告】だ!
へぇ〜、このスキル、レイドボス相手でも問題なく使用できるんだ。
この戦場には他の敵はいないし、これは結構時間短縮になりそうかな?
「魔法弾、確認!」
ダームさんが叫ぶ。攻撃役はしっかりと役目を全うしてくれているらしい。
その証拠にダメージ蓄積による魔法弾の攻撃が始まった。
赤紫色を揺らめかせるその魔法弾は戦場にいる私たちに無差別に降りかかる。
初めは一つずつだった。
「ふん、この程度、筋肉の前では無力に等しいのだよ」
ダームさんに向かったそれを教官さんは体で受けた。
「ちょっとあの人大丈夫なのですか?」
それを見た私はちょうど近くに来ていたエターシャさんに問いかける。
エターシャさんは私の足元にどこか見覚えのある粘土のようなものを設置しながら答えてくれた。
「教官の種族は腐っても妖精系だからね。特に教官の種族は魔法耐久力がずば抜けて高いんだよ。下手なことするよりああやって体で受けた方が被害は少ないの。あ、それとここに「人形の体」置いておいたから、ダメージ受けたら使って」
ああそうだ。これ、どこかで見たことあると思ったらチュートリアルの時にNAVIさんが使ってくれたアイテムじゃん。
どこで入手したんだろうか?後で聞いてみよう。
「ガトくん、防いで」
魔法の準備で忙しいフセンちゃんはその場から一歩も動かずに魔法弾は全てガトに任せて攻撃に専念する。
ガトも期待を裏切らないように必死にそれを防御し続けた。
そして、魔法弾がついに私の方に来た。
「きゅぅ〜ん」
「おや?どうしたのですかヒメカ?」
そろそろ腕の一本でも飛ばないかなと思いつつ迫り来る腕を滅多切りにしながら魔法弾をどうしようか考えていた時、ついに私の相棒ヒメカ?
が動いた。
私の腰から手を離し、今しがた落ちてきた腕にしがみつき直したのだ。
それに驚いた私は魔法弾の回避がギリギリなものになってしまう。
「ちょっとヒメカ!?」
「くうぅぅぅん!!!」
バチッ!!
ヒメカが気合いを入れるように叫び声をあげると、黒い腕に桃色の電光のようなものが走った。
ヒメカにあんな力があったなんて、知らなかった。
しかしあれはなんだろう?
従魔ステータスを見た限りそんなスキルはなかったような……?
あ、もしかして【因果応報】とかいうスキル?
でもヒメカはそれとは別に【断絶】というスキルがあってダメージは入らないはずなんだよね。
なら何のために?
私がそう思いながら見ているとヒメカが黒い腕に持ち上げられていってしまう。
「あぁ、ヒメカ、そこは危ないから早く降りてきてください!!」
「きゃぅ!!」
私が戻ってくることを促しても一向に降りてこないヒメカ。
再び、あの電光が走った。
「メーフラ様、どうやらあのくまの攻撃、それなりに効いているみたいだ。本人もやる気みたいだしやらせてやったらどうだ?」
私が心配してみているとリンさんが近づいてきてボソッとそれだけ言って戻った。
彼女の放つ矢は的確に空中の魔法弾を撃ち落とす。
私とアスタリスクさんがそうしたように、リンさんは魔法弾の対処を優先してくれているみたいだ。
私たちの方に魔法攻撃は飛んでこなくなった。
「何でぇ、魔法の攻撃がこなくなればこっちのもんよ」
ドゲザさんがケオルネに取り付いて溶解液をぶちまける。
毒は効かないらしいが溶解液は物理ダメージ。小さいがダメージは通る。
「ラスト、僕のことはいい。全力であれを叩き潰せ」
ダームさんはインベントリから棘金棒を取り出してラストに手渡す。
ラストは一瞬迷うような仕草を見せたがすぐにそれを握りしめてケオルネの根元に向かっていった。
それを見て私も思いつく。
「ヒメカ、腕に取り付くのは危険なので取り付くなら一度戻ってあの人たちみたいに根元の部分にしなさい」
「くぅん」
よかった。今度は了承の合図だ。
ヒメカは黒い腕が地面に近くなったところで飛び降りて一匹で戦場を駆ける。
腕からの攻撃も魔法攻撃も飛んでこないヒメカは何にも阻まれることなく目標へ取り付くことに成功した。
そしてまた定期的に桃色の雷光を光らせることになる。
こうして私、アスタリスクさん、リンさんの3人で敵の行動を縛り他のメンバーが攻撃をし続ける。
そんな半ば作業じみたことが始まって少し経った頃だった。
かなり敵のHPが削れてきたのだろう。
その時には魔法弾の総量が既に数十を超えておりリンさんが攻撃に参加する頻度が少なくなってくるほどだった。
そんな時、ケオルネの行動パターンが変化した。
今までは6本の腕を交互に一定のタイミングで攻撃してきていたのだが、そのうちの4本が攻撃をやめたのだ。
「みなさん気をつけて下さい!!腕が4本、別の行動をするつもりです!」
それにいち早く気がついた私は攻撃役のみんなに注意喚起を促す。
私は攻撃の間隔が大きくなり余裕を持ったことによってその腕が何をしようとするのかを深く観察することができた。
4本の腕のうち2本が突然、空中に浮いていた魔法弾を掴み取りそのまま地面に深く突き立てられた。
それに伴いケオルネの体がかなり前傾する。
首を傾げながら地面に手を突っ込む様はまるでそこにある何かを探しているかのようだった。
その行動は30秒ほど続いた。
その間、魔法弾以外の攻撃は来ず、リンさん以外は楽をできる状態だった。
相手は動かない。だが、何かをやっているのは明白だ。
みんなが皆警戒をしながらも攻撃の手は緩めない。
30秒経った時、ケオルネは満足したように腕を引き抜いた。
すると、先ほどまで奴が腕を突っ込んでいた穴の中から何かが這い出てきた。
両方色は焦げ茶色で人型。
しかしどこからどう見ても人間ではない。
片方は大きな手と長く伸びた爪が特徴的だった。
もう片方は焦げ茶色でもほとんど黒というような色で大型犬の顔のようなものを持っていた。
そして体の表面はギザギザしていた。
這い出てきたそいつらは即座に近くにいた私とエターシャさんに襲いかかってきた。
敵の攻撃が緩くなり楽できていた私はそいつらを切る。
爪を弾き、体当たりを避け、胸のあたりに剣を突き立てた。
するとそいつらは剣を両手でがっしりと掴み、ニッコリと気持ち悪いぐらいの笑みを浮かべーーーーーーーーーーー
その勝ち誇ったような顔のまま跡形もなく破裂した。
近くにいた私はその一撃をもろに食らってしまうことになる。
「油断しました……」
「………メーフラ、大丈夫か!?」
「心配しなくとも、ちゃんと生きていますよ〜」
しかし、左腕は壊されてしまったけどね。
「メーフラさん、足元のやつ使って!!」
「ありがたく、使わせてもらいますね」
はぁ、本当に油断した。
人間は死んだところで爆発なんてしないから完全に意識の外側だった。
私はそのことに反省し次から警戒するように心がけながら足元にあった「人形の体」を使った。
このアイテムの効果は人形族の欠損している部位とHPを両方回復してくれるアイテムだ。
私のインベントリに未だストックがある人形の手足では部位欠損は回復してもHPは回復しないのでかなりありがたい。
「みなさん、さっきの人たちは倒すと破裂するみたいです。気をつけてください!!」
「だってさガトくん、次の2匹がもう供給されたけどどうする?」
「拘束……は手が足りないですよね。もう次の補充にかかってるみたいだし」
ケオルネは私に向かってきた二体の魔物を放った後すぐに同じような行動に移っていた。
そしてまた、空中の魔法弾を掴み地面に腕を突き立てている。
使う腕は4本のうち2本ずつ、交互に使う感じだ。
そして驚きなのが出てくる魔物すべての見た目が違うことだった。
敵の戦力が少しずつ増えていく。
こうなってしまうと私のつけたダメージ倍加の紋章のデメリット効果が目立ち始める。
一度外すべきか?
いや、現状追加の魔物は問題なく処理できている。一度外すと次に外せるのは十分後だ。
回数制限のある行動は慎重にすべきだ。私はそう判断してここは保留した。
「チッ、これじゃあ取り付き続けることもできねえか」
「わわっ、ドゲザさん、これそろそろやばくない!?」
増え続ける魔物に対処が追いついていないから少しずつ増え続けるのだ。
あれから少し時間が経ったが、今は20ほど魔物が残っている。
「あー、こうも敵が増えると一気に吹っ飛ばしたいんだけど…」
「ああもぴったりくっつかれるとFFが怖い」
「んだよねぇ」
「案ずるな!!小娘よ!!それは我輩がなんとかしてみせよう!!」
「あ、教官さんでしたっけ?具体的には?」
「エリア内の味方の被魔法ダメージをすべて肩代わりするスキルがある。我輩の筋肉が他の味方へのダメージをすべて受け止めてやろう」
「えっ、でもそれじゃあ……」
「わかっておる。我輩がこの場で一番の役立たずだってことは。だから、こういうところで一つ、見せ場を作りたいのだよ」
「しかし敵がどこまで湧いてくるかわからない現状味方を失う可能性のある行動は……」
「フセンさん、そのことに関しては問題ないとあなたの姉が言っています」
何かドラマ的な展開が始まったフセンちゃんと教官にダームさんが声をかける。
そちらの方を見てみるとリンさんが親指を立てている。
「案ずるな我が妹よ。魔物の追加は後10で打ち止めだ!」
「なっ、リンねぇどうしてそう言い切れるの!?」
「何故なら魔法弾の数がもう10しか残っていないからだ」
「どうやら、あの魔法弾はHPの減少とともに増え続けて最大値になるとその総数を犠牲にこの魔物たちを生み出すみたいなんです」
「つまりどういうことなのリンねぇ!!」
「つまりは魔法弾の総数108以上は出てこない可能性が高いということだ!今はおよそ100出ている。もうそろそろ追加は切れるはずだ!」
「わかったよ!教官、お願いしてもいいですか?」
「うむ、我輩に任せたまえ」
話はまとまったみたいだ。
フセンちゃんは即座に魔法の準備に入る。
教官も同様だ。
私は依然としてケオルネの近接攻撃を捌く作業だ。
1度目の魔物の掘り出しの際は攻撃してこなかったが2回目以降は普通に攻撃しながら腕突っ込むようになったのでな。
それから時間にして5分程度経過した頃だろうか?
すべての準備が整った。
「フセンさん、おそらくこれで最後です!!」
「教官さん、準備できてるよ!」
「うむ、我輩はいつでも構わないよ」
「じゃあいくよ、3、2、1、……吹き飛べぇ!」
フセンちゃんが使った魔法は火属性魔法の【ツイストフレイム】というらしい。
その名の通り炎の竜巻を引き起こす魔法だ。
フセンちゃんがその魔法を放つと私たちの視界が赤く染まる。
このレイドダンジョンの風景はただでさえ赤かった。
しかしそれを塗りつぶすかのような赤い力の奔流が私たちを包み込んだ。
その力によってケオルネが地面から掘り起こした魔物たちは次々とその命を散らし最後の抵抗として体を爆散させる。
本来なら私たちもあの魔物と同じようにこの炎に焼かれて大ダメージを受けるはずだったのだろう。
だが、私たちが被るはずの被害はとある1人が全て請け負った。
「ぬうううううん。ふはははは、今こそが、我輩の筋肉が輝く舞台!君たち、我輩の屍を超えてあの魔物を打ち倒すのだ!!ぬおおおおおおおおおおお!!!」
炎の渦の中央に彼はいた。
両腕を体の前で組み筋肉を強調するポーズ付きで………
あの人、戦いの最中に何をやっているんだ……
彼が私たちが受けるはずの炎ダメージをすべて引き受けているのだ。
多少のことは目を瞑ろう。
それから少しして炎の渦は姿を消す。
「よしっ、これで全滅だね」
「ふしゅううううううう」
「あ、教官生きてる」
「やっぱあいつ魔法耐久だけは高えな。呼んでみて正解だったぜ」
教官は見事全員分の炎をその身に受けて生き残った。
魔物を一掃するという名目で放たれた魔法はそれなりに威力があったはずだ。もしかしたら【蓄魔】を使ったかもしれない。
にもかかわらず10人近い数の攻撃を受けておいて未だ健在。
魔法耐久は高いとのことだったが、もはやその域を超えているだろう。
「しかし、流石にギリギリであるな。HPが1割切っているのである。エターシャ君、治療を頼む」
「はいはい、頑張ってくれたからそのくらいはね」
即座にエターシャさんが教官の治療に入った。薬品なども出し惜しみなしだ。
あっちはもう大丈夫だろう。
それよりケオルネだ。
先ほどの魔法、当然ケオルネも焼かれている。それだけでどうこうなる相手ではないがこれまでの戦いでかなりのダメージを蓄積していた。
魔法弾も、108の魔物もすべて捌き切った後その先に何があるのか。
その答えはすぐに現れた。
FORORORORORORORORORORO!!
ケオルネが耳に響く叫び声をあげる。
その次にその丸い口を私たちの方へ向けてきた。
ケオルネの口に何か力が集まっていく感じがする。
「気をつけろ、口から何か吐き出すつもりだ!!」
未だにケオルネの体にぺったりくっついたドゲザさんの注意喚起。
その位置からどうやって顔を確認したのだろうかと不思議に思う。
ケオルネは何やら吸引音のような音を響かせながら今までは真っ黒な穴としか言いようのなかったその口を白く光らせた。
「ラスト!!足場を作ってやるから塞げ!!」
「わ゛がっ゛だ!ま゛がぜで」
ダームさんが前進してケオルネまで目と鼻の先、というところまで来て地面に杖を突き刺す。
すると彼の目の前の地面がせり上がり高台のようなものを作り出す。
彼の相棒であるラストはその上に乗っかっており、ラストはその体でケオルネの口を塞いだ。
そして口から何かが吐き出される前に自らの首を切り落とした。
「ダーム゛、ごれ゛、わ゛だじ、も゛っ゛でで」
ラストは目玉だらけの頭をダームさんにキャッチさせるとニッコリと笑いかける。
多分、あそこが本体で体は付属品か何かなのだろう。
あのままだと体は無くなりそうだが、2人に全く執着といったものが感じられなかった
そしてケオルネの口がもうこれ以上ないというほどに輝きを放ち、光線のような何かが発射された………のだろう。
そしてそれは着弾地点で爆発する……という性質でもあったのだろう。
口元をラストの体で塞がれていたがために発射と同時に大爆発を起こして自らの顔に大きな傷跡をつけていた。
FO……RORO……
ケオルネの叫び声にもう力はなかった。
「みんなー!後一息だよ!畳みかけよう!」
見るからに弱っているケオルネ。私たちもここで全てを吐き出して押し切ってしまうつもりで攻撃を仕掛ける。
ダームさんは土でできた大槍を
ガトは慣れない手つきで大剣を
フセンちゃんは雷の連射を
ドゲザさんは溶解液を
教官は拳を
エターシャさんは何やら瓶を
リンさんは無数の矢を
アスタリスクさんと私は剣を
それぞれケオルネに叩きつけた。
「これで、終わりだああああああ!!」
それはダームさんの声。
普段ゆったりとしていて、指示や注意勧告以外、自分の感情を叫ぶということをあまりしない彼の叫び。
きっとダームさんはこのレイドボスになんども挑み続けてきたのだろう。
ドゲザさんと一緒に来ていた、みたいな話が出ていたがどうせ初めは1人で潜っていたはずだ。
それも、何度も何度もだ。
でなければ、地図も何も持たずにあの花畑や洞窟をまっすぐ歩けるはずがない。
そうやって幾度となく挑戦し続けたからこそ、この場の誰よりも勝ちたいという気持ちが強かったはずだ。
だからダームさん……
先に、謝らせてください………
『システムメッセージ
:レイドボス『彼岸の罪人ケオルネ』の討伐を完了しました。11/108
ラストアタック:ヒメカ(主人:メーフラ)』
………うちのヒメカが、すみません………
「くうぅぅぅぅぅぅん!!!」
うつぶせに倒れた黒い巨人の上で一匹の子ぐまが勝鬨の声を上げた。
Q、番外編は別途にページ作れば?
A、クリスマスの話、1話目の前に移動させて章で区切るとかしようと考えています。
面白かった、続きが読みたいという方は
ブックマーク、pt評価をよろしくお願いします
………という言い回しを最近よく見るのですが、流行っているのでしょうか?
とにかくお願いします。
感想も待ってるよー





