彼岸の入り口の入り口
私たちが待つこと小一時間でメンバーは全員揃った。
いや、早いな。
ガトとフセンとか人族の街の方にいたんじゃないの?あの距離をどうやって1時間で移動してきたというのだろうか?
もしかして、私が知らないだけで歩く以外の移動方法がある?
リンさんなんか宣言通り五分で到着したし……
私の呼んだ増援は初めにリンさん、そしてガトとフセン、最後にアスタリスクさんの順番で到着した。
リンさんは軽装、ガトとフセンは見慣れた姿だったがアスタリスクさんは以前見たときに比べてなんというか、装備が充実していた。
全身白銀の甲冑を装備してフルフェイスの兜をかぶってやってきた彼はどことなく歴戦の勇士感を醸し出していた。
「アスタリスクさん、その格好はどうしたんですか?」
「………この世界では数値が大切だと聞いた。だからとりあえず数値が優秀な竜の装備で全身を固めた」
「なるほど、そうでしたか」
竜の装備って何?
私まだそんなものお目にかかったことないんだけど。まさかあなた、私よりこのゲームにハマってやり込んでいる?
うぅ……私なんて未だに防御力1のおしゃれ限定装備をメイン装備枠に入れているというのに……
装備にはメイン装備枠と見た目だけを変えられるおしゃれ装備枠の2枠ある。
前者は装備に記された数値がちゃんとステータスに反映されるが、後者は文字通り見た目だけの変更だ。
おしゃれ装備枠に何か放り込んでいる間は他のどんなものを装備しても見た目が一緒になる。
そのため、一定以上のプレイヤーは自分が何を装備しているのかを誤魔化すためだったり、単純に見た目を良くするためにこのシステムを採用している。
だが、私は防具らしい防具は今まで持ったことがなかったのでメイン装備の方に【裁縫】で作ったおしゃれ着を使っているのだ。
ちなみにこれ、素材で数値が変わるらしく店売りのやっすい布で装備を作ると一律で防御力が1になる。
そのため現在、私が防具と言えるアイテムは『浄化のドレス』だけになる。
これは宝箱から出た布で縫ったものだからね。ちゃんと防御力持ってるよ。
具体的には30もある。
布の装備の30倍だ。
しかもこれ、装備の特殊効果で汚れないというおまけ付きだ。
まぁ、ゲーム内だからそもそも汚れとか気にしてないんだけどね。
そんなこんなで私はアスタリスクさんのガチ装備を見て少しだけ恥ずかしくなったので浄化のドレスを装備し直すことにした。
私の衣装は一瞬で入れ替わる。
「おぉ!メーフラ様、それはあの時のドレス!!」
「これから戦いに行くみたいですからね、なるべく強い防具をつけようと思いまして」
「………可憐だ」
「ありがとうございます」
お世辞ももらったことだしそろそろ本題に入ってもらおうかな。
私はダームさんに説明を促した。
彼はこちらを見て何か口元をカタカタ動かした後、深呼吸をして話を始めた。
「さて、予想以上に戦力が集まったからこれ以上の人員は補充せずにそのまま行こうと思うよ。今日はみんな集まってくれてありがとう。先に礼を言っておくよ」
「そんなことはどうでもいい。メーフラ様を使うというのにくだらん要件だったら許さんぞ」
「はい、単刀直入に言います。1人じゃ無理な相手がいるので皆さん助けてください」
「ふむ、そういうことなら構わないよ。筋肉はみんなを助けるためにあるからね」
みんなを代表して筋肉さんが答えた。
ところで、当然のごとく馴染んでいるけどこの人名前すら教えてもらってないんだよね。
うわっ、胸を張って答えたと同時に内部から薄く発光し始めた。
何この謎の生物………
「ところで、私たち初対面だけど、そっちの人たちの紹介とかないの?」
私が薄く光る筋肉に若干戦慄しているとフセンちゃんが手を挙げてそんなことを言い出した。
グッジョブ、フセンちゃん。あなたはやっぱり私のお友達だよ。
「おっと、いけねぇ。まずは自己紹介からだな。でもそれはメンバーが集まり切ってからの方がいいんじゃねえか?」
「いや、さっきも言った通りこれ以上の戦力は集めない。下手に弱い奴を連れて行ってあの人たちの邪魔になったら逆効果だ」
「そんなにあいつらつええのか?」
「メーフラと同じような奴が3人と思えばいいよ」
「………さて、自己紹介だったな。俺の名前はドゲザメシ。見ての通りスライム系で今の種族は「劇毒スライム」だ。よろしくな」
自己紹介はドゲザさんから始まった。彼の種族は前はただの毒物スライムだった記憶があるから、どうやら知らない間に進化したみたいだ。
しかし相変わらず物理耐久が高く毒物を投げかける攻撃方法は変わらないらしい。
「じゃあはいはい次は私!私はエターシャ!!人形系で「治療人形」です!みんなをバシバシ元気にしちゃうからね」
何気に知らなかったエターシャさんの種族は治療人形というらしい。
スキルは味方を回復させたり時には敵にデバフをかけたりとサポート向けの種族らしい。
………あれぇ?
わたしのとき、そんなやさしいしゅぞく、なかった!!
「僕はダームスタチス。アンデッドのスカル系で種族が「墓場の管理者」だ。よろしく」
そして何かかっこいい種族名をもらっているのがダームさん。
墓場の管理者という種族はアンデッド系の魔物を呼び出して使役する種族なんだって。
「うむ、我輩は妖精系で「異形化土邪妖」のキョーカンという。そこの皆には教官と呼ばれている。君たちも気安く呼んでくれたまえ」
ノームってあんなにごついんだ
へー
てっきり私、もっと小さくて可愛い妖精がノームって種族だと思ってた。
こう、うちのヒメカくらいの大きさのさ………
それにしても名前はそのまま教官なんだね。
「私はリリンベル。弓を使う」
リンさんはそんなそっけない態度で説明を終わらせた。
「………アスタリスク。剣を使う」
アスタリスクさんもそれに便乗………ではないわね。多分素でやっているなあの人。
「あ、メーフラです。最近は魚介類に凝ってます。一応種族は「無慈悲な人形」です。そしてここにいるのは私のペットのヒメカです」
「くぅ〜ん!」
私の自己紹介はそつなくこなした。
詳しく話すこともないしこの場で初対面なのは教官だけだからこれでいいかなと思った。
「俺はガトって言います。メイン職は重戦士でタンク希望です」
「私はフセン、魔術師です。火と雷の2属性を取っています」
人族の2人は私たちの種族の代わりに自分の職業を提示した。
なお、種族や職業などの情報はそこそこまでスキルレベルを上げた【鑑定】で見られるため隠す意味はあまりない。
それと、フセンちゃんが火と雷しか習得していないのは色々と面倒だかららしい。
なんでも、2属性以上の魔法属性を取得しようとすると何かクエストをクリアしなくてはいけなかったり、その属性によっては魔法の威力が落ちたりするんだとか。
代表的なのは火と水属性を同時に習得するとそのどちらも威力がいくらか落ちるよ。
正確な数値は……知らない。
私は魔法使えないからね。
私も何か覚えてみようかな?
「さて、顔合わせは終わったことだしそろそろ移動しようか」
「ところで、私たちは今からどこに何を倒しに行くのですか?」
「あ、それを言ってなかった。今から僕たちが倒しに行くのは地下墓地の地下第五階層の奥地の大穴の下、そこにあるレイドダンジョン『彼岸への入り口』の攻略だ」
へ〜地下墓地ってこの前私が迷子になってたどり着いた場所かな?
それなら場所はわかるけど、ちょっと遠いかな?
ゲーム内時間でどれだけ歩いたっけな?
私が移動のことを考えているとそれを察知したのかダームさんが笑顔で続ける。
「移動手段はちゃんと用意してあるけど……他の人たちは自前の乗り物とかある?」
ダームさんが問いかけると乗り物を持っていないのは私とリンさん、そしてアスタリスクさんだけだった。
………Oh、THEシリーズ組、もしかして足引っ張ってる?
ちなみに、ガトとフセンはフィールドで吹けばどこからともなく馬が走ってくる笛を、
ドゲザさんたちは空飛ぶ絨毯を持っているらしい。
ちょっとその絨毯の入手方法教えてください。
「じゃあそこの3人は僕の馬車に乗ってもらおうか」
「すみません、お世話になります」
「わかった」
「………竜を手放すべきではなかったか……」
今、アスタリスクさんから何か聞こえた気がする。竜を手放す?はて?
そんなこんなで私たちの準備は終わったためケイオールから出てそれぞれ乗り物を取り出した。
私はダームさんがインベントリから取り出した大きめの馬車に乗り込んだ。
そしてあることに気づく。
「あれ?この馬車、馬がいませんけど?」
「そのことなら心配無用さ。おいで、ラスト」
ダームさんが優しく囁くようにそう言うと地面から這い出るようにして1つの魔物が現れた。
大きめの頭、それを埋め尽くすような大量の目。
太い腕に細く長い脚。
何もかもがちぐはぐな異形の魔物。
これはダームさんによって呼び出されたものであるらしい。
「むっ、こいつ前見た時に比べて背が高いぞ」
それを見たリンさんがそうこぼす。
リンさんは以前の攻城戦の時この存在を見たことがあったらしく彼女曰く前は足が短く身長が低かったらしい。
「前回も今回のも有り合わせで補強しただけだからね。………でも、それも今日終わる」
「終わる?」
「あっ、………まぁ、隠すほどでもないか。今回のボスを倒した先にラストの体に関するアイテムがあるんだ。それが欲しいんだけど………恥ずかしい話最後のボスが1人じゃどうしようもなくてね」
ダームさんはそう言って自嘲気味に笑った。
相手はレイドボス。複数で倒すことを想定されている相手で1人で倒せないことを恥じる相手ではないのにね。
「ラスト、悪いけどこれを昨日行った場所まで引いてくれるかな?」
「う“ん”、わ“がっだ」
ラストと呼ばれたその存在は濁った声を上げながら馬車に自らの体をつないだ。
そして何度か具合を確かめるようにグッグと引いた後にダームさんの方を見た。
見た目は完全にバケモノのそれだったが、ダームさんの方を見たその顔はどこか人間味あふれるものであったように思えた。
私たち3人は馬車の荷台に乗り込んだ。
ダームさんは御者をやるらしい。
「必要ないんだけど一応ね。ラストが道間違えるかもしれないしさ」
私たちは以前ここを通ってきた時とは比べ物にならない速さで地下墓地までたどり着いた。
そしてダームさんが先導するように中に入る。
彼はこの内部の構造を知り尽くしているかのようにどんどんと進んでいく。
途中現れた魔物はこの人数だ。誰かが気づいて近づく頃にはもう倒している。
剣の間合いに入られることの方が稀なので私とアスタリスクさんはほとんど出番なしだ。
本当に何事もなかった。
強いて言うなら、この前撤退することになった幽霊にリベンジを果たせたくらいだ。
星剣アルシャインは光属性値が高い武器らしくものすごい効いた。
個人的には煌びやかな星剣アルシャインより無骨な魔族の長剣の方が好きだったりするから出来るだけそっちを使うけどね。
ほら、振るう度にキラキラ光を放たれると目が痛いしね。
いや、こういう薄暗い場所だと灯りになって便利だけどさ。
そんなこんなで順調だったので私たちは雑談をしながら進んでいた。
ガ「そういえば姉ちゃん、そのドレス動きにくくないの?スカートになってる部分足元まであるけど」
メ「これですか?不思議な力が働いているので動きやすいですよ」
・
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ア「………すまないメーフラ」
メ「急にどうしたのですか?それだけ言われてもわかりませんよ?」
ア「………戦う手伝いならあの2人も連れてくるのが正解だった。だが、俺は……」
メ「そんなことですか。あの2人も忙しいでしょうし、今日はあなたが来ただけで十分ですよ」
リ「ぬあっ、メーフラ様!!私は、私は!?」
メ「リンさんも来てくれてありがとうございます。みんながいるからとっても心強いですよ」
ア「………ありがとう」
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エ「あ!ドゲザさん、宝箱があるよ!!」
ド「おっ、そうだな。おーい、ダームさん開けてきていいか?」
ダ「あ、いいですよ。この地下墓地では宝箱の中から上質な布やら毒薬やらが手に入ります。それと、ごく稀に大量のアンデッドの素材が手に入るっぽいですね。この前運良く一度だけ出てそれっきりで、あの時は本当に運が良かった」
メ「あれ?何か思い出しそうな……そうでもないような?」
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ガ「ここが地下第五階層か。階段を降りた途端に暗くなったな。って、みんな見えているの?」
ダ「魔族は暗視が付いている場合が多いからね」
教「こう言う時は筋肉の出番だ。秘技、マッスルフラッシュ!!」
フ「わぁ……あんまし綺麗じゃない……」
ガ「そんなに明るくない…」
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雑談をしている間も私たちの進行スピードは変わらない。
ずんずんと奥に進み続け、そしてついに目的地に到着した。
地下墓地の地下第五階層。
その最奥にポッカリと開いた大穴はまるで私たちを誘い込むような雰囲気すら感じられる。
「それにしても、最大108人まで参加できるとのことでしたが、その人数でここまでくるのは面倒そうですね」
通路でつっかえてあんまり前に進めなかったりトラブルが起こったりしそう。
「僕もそう思うよ。全く、通常ダンジョンの中にレイドダンジョンを作らないでほしいね」
「あ、この地下墓地もダンジョンだったのですね。ボスがいないからてっきりフィールド扱いなのかと」
「いいや、ボスならいるさ。ただ、ここに来るために戦う必要がないってだけで、今もこのフロアのどこかを徘徊しているはずだよ」
「そういうタイプでしたか」
「さて、みんな準備はいいかな?」
ダームさんがこちらを振り返る。
誰も何も言わない。それを彼は肯定と受け取り手元で何かを操作し始めた。
そして少しした後。
レイドに参加しますか?的な如何にも定型メッセージですよなものが届いた。
私はそれに迷わずYESと答える。ダームさんは少し待ちこのレイドパーティにこの場にいる全員が入ったことを確認して
「よし、準備は完了。じゃあみんな飛び込もう!」
と言った。
私たちは目の前の奈落の穴に身を放り出した。
さっき見たら総合ptが20000突破してた……これも皆さんが読んでくれているおかげです!ありがとうございます!!
書き始めた当初はこんなにpt増えるとは思ってなかったんですよね………更新頻度上げなきゃな
Q、明らかに過剰戦力
もっと人間に収まる数え方してあげて
冥福をお祈りします
その他諸々
A、誰もこれから出てくるレイドボスさんが勝つと予想していないのは笑った
Q、ヒメカはアレみたいだな「魔王城でおやすみ」の……
A、ごめんなさい。自分、その作品知らないっす
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