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アスタリスクと凛が憧れた神の姿


戦いはすぐに始まった。

一番初めに仕掛けたのはライスだ。


彼はメーフラのことをよく知らない。

だから初めは小手調べ程度の攻撃を仕掛けた。だがそれは本人にとっては小手調べであってもほとんどの人間に対しては必殺の鋭さを持っていた。

メーフラはそれを難なくさばく。

次に動いたのはテルだった。ライスの小手調べを受けておきながらも隙を見せずに立ち回るメーフラに対して下手に踏み込むようなことはせずに無視はできない程度の攻撃にとどめていた。


テルの一撃はこの場にいる誰よりも重い。


それは斧という攻撃に特化した武器だから?


それもあるだろうがそれ以上にテル自身が狂気的なまでに攻撃力を求めた進化を遂げてきたからに違いない。


そして動いた3人目の男。

『最率』とメーフラに呼ばれた男はテルより深く切り込み一撃を加えに入る。

テルとライスはメーフラを知らない。

だが、アスタリスクだけは知っている。彼は30に近い数メーフラに負けてきた。


だからこそ、どこまで踏み込めるかのギリギリのラインが見えている。


アスタリスクの剣は音もなくメーフラの体に吸い込まれた。

メーフラはそれに応じるように剣をぶつけにいく。

しかしメーフラ本人はそれを意味のあるものだとは思っていなかった。


2つの剣はこのままいけばぶつかり合い弾き合うだろう。

少なくとも側から見ていた者たちにはそう見えているはずだ………見えていればの話だが。


結論から言うと2つの剣はぶつかり合うことはなかった。

まっすぐ突き進むメーフラの剣、アスタリスクの剣はそれをすり抜ける。

実際に透過してしまったわけではない、が、見えているものにはそう見えただろう。


メーフラはこうなるのがわかっていたかのように初めから剣の軌道から身を躱して反撃のために剣を振っていたのだ。

アスタリスクはメーフラの剣をギリギリのところで掻い潜り次の一刀を放つ。


その戦いは一瞬も気の抜けないものになっていた。

それを見ていた者たちはその光景に戦慄する。


一撃一撃が自分たちにとっては必殺クラス。

しかし目の前の4人にとっては挨拶程度でしかなかったのだ。


「リンさん………あの人たち、なんなんですか?」

ガトは最強の姉が3対1とはいえ一撃も攻撃を当てられずにジリジリと下がることになっているこの戦いを見て隣にいるリンに問いかけた。


彼女は元々アレらと戦っていたのだ。


何か知っていると踏んだのだ。


「あれか? アレは多分3神1王の3神の部分だ」

「3神1王?」


答えとして帰ってきたのは聞き覚えのない単語。ガトは間抜けな声を出して首をひねった。


「3神1王とは『THE・刺客』の世界で最強格の4人を表した言葉だ。意味としてはその名の通り3人の男神と1人の王様という意味だな」


今、リンが説明した通りライス、テル、アスタリスクは3人の男神として刺客の世界でも恐れられている存在だ。

刺客プレイヤーたちの中では「奴らの中の1人でも見たら勉強のために死ににいけ」と言われて親しまれてもいる。


ちなみに、1王の部分は王級盾使いのシロガメという男だ。

THEシリーズの強さ区分の分け方はそれぞれのタイトルのNPCの何級まで倒せるかで判別される。

盾使いのシロガメは攻撃手段に乏しいため敵を倒せないので王級で止まっているがその防御力は神級ですら抜くことが難しいほどだ。


シロガメを楽に倒せる男がいるとしたら盾の上から粉砕できるテルくらいだろう。


閑話休題


「ってことはあの人たちは………」

「ああ、神級3人組だな。私の攻撃を難なくすり抜けていたからおそらく間違いないぞ。メーフラ様を追ってこっちの世界まで来たみたいだ。全く、迷惑な奴らだな」

「あはは……」


ガトはそれはお前もだろうと思ったが言わないことにした。

それよりも重要なことがあった。


「神級が3人って、それじゃあこのままだと姉ちゃんは……」


負けるのでは?

ガトはそう言いかけて口をつぐんだ。口にするとそれがそのまま現実になってしまいそうだったから。

そしてそれは嫌だった。


彼は姉であるメーフラを強大な壁として認識している。

最近は彼女をどうやって倒すかということをいつも考えている。それを考えるとメーフラを倒せるという可能性を示してくれる、もしくは倒してくれる目の前の3人はどちらかというとガトの味方になるのだろう。

だが、理屈ではなく感情が姉の敗北ということを拒否しているようにも思えた。


ガトの胸がざわめく


「ふむ、それはどうだろうか?」


だがガトのような心配をリンはしていなかった。彼女は落ち着き払った顔で戦いの行く末を見守っている。

そのことに違和感を覚えたのはリンの妹であるフセンだった。

フセンから見るリンは病的なほどにメーフラを信奉していた。そんな彼女がメーフラが倒されることを容認するだろうかと疑問に思った。


「リンねぇはまさかメーフラちゃんが勝つと思っているの?」


それなら納得がいく。ここから見えるメーフラの表情は険しいが、それでもリンがメーフラが勝つと信じているならその態度も納得だった。


「まぁ、見てればわかるさ」


リンは少しだけ期待する目でメーフラを見ていた。

彼女は何かを待っているようだった。




ここで、4人の距離が一度離される。

一合が終わった。そんな感じだった。


「流石は、風林神剣士の称号を持っているだけはありますね」


メーフラは少し息を吐きながらアスタリスクを見た。

「………こんなもの、なんの意味もないさ」

そう無愛想に返しつつもアスタリスクは少しだけ嬉しそうだった。


「はっ、そういうお前さんも何文字か持ってるんだろう?」

「はい。一応、風林火山の四文字、揃えましたよ」

「………流石だ」

「お〜これは想像以上の大物だったみたいで俺っちびっくり…」

「だけど、流石に俺たち3人同時には相手できないみたいだな………アスタリスクがあんなに盲信しているからもう少し強いと思ってたんだが」


ライスは少しだけがっかりだという風に言ってみせる。アスタリスクの最近の成長を見て少しだけ期待していたのだ。

もしかして神級の先、もう一段上があったのではないかと。

メーフラは何も言わない。相手の期待に答えられていないのだろうと思ったからだ。


メーフラはボスプレイヤーでステータスは高い。

だからこそ今戦えているというのが現状で、現実の世界の同じような性能の肉体を操作した時にはもうやられているだろうという予想もできていた。


対するアスタリスクたちはこのゲームを始めて以降、レベルアップによってもらったspを使いAGIを重点的に上げていた為速度的な違いはほとんどなかった。

それでも何割かはメーフラの方が速いが、数の有利を覆すだけのものではなかった。



「リンねぇ、文字ってなんなの?」

「文字か?それはまぁ、名誉みたいなものだな。どこぞの武将の風林火山の四文字と隠し要素の陰と雷の二文字の合計六文字のことだ」

「ということはこの文字が多いほど強いってことですか?」

「いや、それは違うぞ弟君よ。この文字がより風林火山の四文字に近いほど優秀ということだ。陰と雷は卑怯者の証だな」

「卑怯者?」

「そうだ」


リンの持っている文字は風林火陰雷の五文字だ。

だが彼女自身はそれでメーフラより優っているとは思っていない。その理由が陰と雷は主に不意打ちをした時に着く文字だからだ。

彼女たちにとってこの二文字は不名誉な称号として扱われていた。

まぁ、不名誉も何もまず文字をとることすら難しいのは指摘してはいけない。


そんな話をしているとまた戦いが始まる。


メーフラからは仕掛けない。

下手に動けば簡単に取り込まれてしまうのが目に見えているからだ。

彼女が出来るのは相手の一手一手に的確に対応して隙を窺うことくらいだった。


そしてそうやって戦っているうちに、小さくではあるがメーフラに傷が付くようになった。

それは決して避けきれない攻撃ではない。だがそれを完全に避けて仕舞えば先が辛くなる。

そう言った攻撃をメーフラは体を軽く撫でさせる程度だけ受けて動きを小さくすることで回避していた。



ジリジリではあるがメーフラの体力が減らされる。

主人の苦しそうな姿にリンの腕の中でヒメカが「くぅ〜ん」と心配そうな声を上げた。


リンは自分の腕の中で切ない声を上げる小さなくまを優しく撫であげて言った。


「大丈夫だ。私のメーフラ様があんな男どもに負けるはずがないだろう?だから君も、心配するのではなく応援してやれ」


その言葉には確信というものがあった。

メーフラという女性を一番よく知っていると豪語するリンが感情ではなく理屈で勝てると言っていたのだ。

ヒメカはそう言い切れる自信がどこから来るのかがわからなかったが、それでも心配よりは応援したほうがいいというのには同意した。


だからヒメカは少しだけ身を乗り出して

「くううううぅぅぅん!!」

と叫んだ。

片手は天に突き出されて、言葉は伝わらないが誰がどう見ても応援しているとわかる。


しかしそれでも状況は芳しくはなかった。


メーフラの方がAGIが速いはずなのにどうにも動きが遅れて見える。

次第に傷も増えていく。

3神の猛攻は止まらない。


ある程度実力を測れたと判断したのかライスとテルの行動は大胆になっていく。

しかしその逆、時間が経つにつれてアスタリスクの攻撃は少しずつ消極的になっていった。

何かを警戒しているその姿はまるでボスキャラが条件で放つ技を警戒するプレイヤーのようだった。


鋭い槍と斧の応酬。


メーフラはそれを針の穴に糸を通すような身のこなしで防ぎ続けた。

いや、その表現さえも生ぬるいだろう。

彼女の回避行動は針の穴に糸を投げ入れるくらいには素晴らしいものだった。

しかし、少しずつ、確実に追い詰められていく。


メーフラには余裕がなく、せっかくのヒメカの応援ではあったが笑みを返すことすら出来ずにいた。


ガトはその光景をただ見ていることしかできなかった。

何か姉の役に立ちたい。

だが、自分があそこに飛び込んで何が出来るだろうか?ゴミみたいにはいて飛ばされる未来しか見えない。

そもそも、ガトは自分があの場所に入っていくのはふさわしくないと感じていた。

神聖な決闘を汚すことはしてはいけないと感じていた。


ガトは拳を握りしめた。


姉には負けてほしくない。


しかし自分には何もできない。そのことが悔しくなりガトは下を向いた。

そんな彼に声をかけたのはフセンだった。


「ガトくん、私たちもメーフラちゃんを応援しよ?メーフラちゃんは私たちの獲物なんだから、ここで負けてもらっちゃ困るからね」


遠慮しがちに肩を叩き、問いかけるように発せられたその言葉はガトの心に突き刺さった。

ガトは顔を上げた。

自分にはこれしかできないけど、何もできないという思いはフセンの一言で吹き飛びかけていた。


「はい。そうしましょう」

「うん、じゃあいくよ、せーの……」

「「姉 (メーフラ)ちゃん、そんな奴らに負けるんじゃないぞ!!」」

「くぅぅぅぅぅぅん!!!」


その声は、ちゃんとメーフラに届いていた。















それはたまたまそのタイミングだった。


もう少しでもはや詰将棋と化していたこの戦いに終わりが見え始めていたから、そうなっただけに過ぎない。

決して、仲間たちの応援があったからというのは関係ない。何せ今までは1人でこうなっていたのだから。


「………アハッ」

「………ッ!!?ライス、防げ!!」


そうなることを知っていたアスタリスクは咄嗟に指示を出した。

ライスは言われるまでもなく自分で危険を察知して槍で体を守っていた。

ライス自身、どうしてこうしたのかはわからない。あのまま攻めていれば確実に勝てたはずだった。だが、今までの経験からくる勘と本能が防御行動を取らせた。

そうして少し踏み込みが甘くなったからだろう。


それがライスの命を救った。



ガギィンーーーーー



彼が防御行動をとった次の瞬間、ライスの槍の穂先に強い衝撃が走りそのまま粉々に砕け散った。

バラバラになったことで役目を終えたその槍はポリゴンと金属音を散らしながらこの世界から消滅する。

武器を失ったライスは後ろに飛び距離をとった。


彼の目の前を何かが通過した。


彼の目にはそれが何かは映らなかった。


「ふむ、お前たちよく見ておけ。あれがお前たちが倒そうとしているメーフラ様の、本気の姿というものだ」


リンが待ってましたと言わんばかりの恍惚の表情を浮かべながらメーフラを見る。

ヒメカを抱く腕に力が入っていく。その顔は笑っているみたいだった。


それとは対照的に何が起こったのかがわからないライスは苦々しい表情を浮かべながら新しい槍を取り出す。

彼のインベントリには当然のごとく大量の槍が入っているので1本くらいなくなっても問題はない。

それより問題なのが先ほどの攻撃だった。


ライスはメーフラを観察する。


そこには自分たちの攻撃が止んだので体勢を立て直したメーフラの姿。

その姿には先ほどとは違ったものが1つだけある。

それは浮かべている表情だ。

先ほどまでは余裕のない戦いに険しい顔を浮かべていたメーフラであったが今は通常の表情に戻るどころか口角が少しだけだが上がっていた。


ライスはその顔を見て少しだけ身震いした。


「この感覚、久しぶりの自分より明らかに強い奴の感覚だぜ」

「………ふっ、きたか」


そしてそのメーフラを見たアスタリスクは嬉しそうにつぶやく。

そう、何を隠そうこの男、この状態のメーフラを見るためだけにここまでやってきたのだ。

わざわざ神級の友人を連れてきたのも彼女を追い詰めるためだった。


動きが止まっていたメーフラは口を開く。


「ふふっ、君たちやってくれるね。でも私もこのまま負ける気は無いよ。なんてたって、可愛い弟と友達とペットが応援してくれたんだからね」


その言葉は、いつもの丁寧な口調は残されていなかった。




解説は次回に回します。

Q、星龍アルシャインの性能やらその他周りについて


A、以下、攻略情報


ボス名:星龍アルシャイン

LV:50

分類:通常ボス(推奨討伐人数4〜6)

行動パターン

高いSTRとAGIを活かした近接格闘を仕掛けてくる。攻撃方法は殴ったり掴んだり引っ掻いたりと色々。

掴みに武器が掴まれるとその武器めがけて捕食行動をとる。

この際、武器を手放さないと喰われて大ダメージをもらう。(適正レベルの人は大体即死)


特殊行動1:紅の双星

パーティの合計ヘイトが一定以上になると星龍を守るように2つの紅光を放つ球体を出現させる。

この球体は魔法攻撃を星龍の最大HPの5%減少させる。(最大HP100000 )


また一定以上近づいたものに炎属性の魔法ダメージを継続的に与えその一部を吸収する。


特殊行動その2:輝きの世界

HPが30%を割り込んだ時、紅の双星によるHP変動が人族プレイヤーの方が多い場合に発動。

エリアに光を落としその中に身を隠す。

ヘイト関係なく攻撃対象を選別するようになる


特殊行動3:星の世界

HPが30%を割り込んだ時、紅の双星によるHP変動が魔族プレイヤーの方が多い場合に発動。

エリアに暗闇を落としその中に姿を隠す。

ヘイト関係なく攻撃対象を選別するようになる



特殊行動4:盗人には死を

宝箱の中身を戦闘中に持ち出したのがバレた場合に発動。

宝箱の中身のアイテムを持っているプレイヤーに

パーティの合計ヘイト値×盗品数

のヘイトを与える。


特殊行動5:窃盗の報い

星龍を倒さないまま宝箱の中身を外に持ち出した場合に発動。

即死攻撃


討伐方法 (一般)

準備するもの


炎属性を吸収する装備or種族


討伐手順

1、炎属性のダメージを吸収できるようにしておきます。

2、登場前に全力で広間を突っ切り宝箱の中身を貰います。

3、登場後すぐにタンク役がヘイトを稼ぐスキルを発動、その後空っぽになった宝箱を主張してみてもらいます。

4、紅の双星が発動します。

5、後はHPは向こうが回復してくれるので近づいて殴ります。

6、HPが3割を切るとエリア全体に視界を奪う攻撃をしてきますが、宝箱の中身の武具を装備すれば解決します。

7、後は殴り合いです。



実は星龍さん、そこまで強いボスじゃ無い。

どっちかで言えば星鷲さんという別のボスイベントボスの方が圧倒的に強い。


そういえば、誰かが宝箱の中身使って戦うとかいう感想を描いていた人がいます。

お見事、あれを使えば視界不良は改善できます。よって戦いが楽に?


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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
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