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星の宝



戦闘を始める前に私は目の前のドラゴンに【鑑定】を使ってみたところこんな結果が出た。


星龍アルシャイン


私の【鑑定】レベルが低いためかステータスやレベルなどは判明しなかったが名前だけは見ることができる。

星の龍、何かわからないけどすごく強そうな名前だ。


そんな龍のアルシャインさんは先ほどの2人の行動にさぞご立腹みたいで私が宝箱の中身を全部回収しても気づいていなかった。


私を意識の外に外したアルシャインの体は先ほどまでは白い光を放っていたがその怒りに応えるように今は紅い光に変わっている。


『先の無礼、その身をもって味わうがよい!!』


そしてアルシャインは動き出す。

奴は身を少しだけかがめたと思うとドスドスと大きな足音を響かせながらガトとフセンのいる方向に走り出す。

アルシャインは勢いをつけて右手を開いたままフセンを狙う。


だがそれは彼女の護衛役であるガトが盾を構えて受け止めた。

それなりの速度での攻撃だったため正面から受け止めることしかできなかったみたいだ。


広間の中にまるで交通事故でも起こったかのような音が響き渡る。


「そう簡単に抜かせるかよ」

『ふん、受け止めただけで満足するとは、やはり低俗だな』


ガトは後ずさりしながらもなんとかアルシャインの攻撃を耐えきったように思えた。

だがガトの足が止まったその瞬間、アルシャインのその巨大な手が閉じる。


ガトの盾ががっしりと掴まれてしまった。


「チッ、怒りと力に任せるだけじゃねえってか」

「ガトくん!避けて!!」


ガトの盾を掴んだアルシャインは大口を開けて盾ごと喰らうつもりらしい。

ガトは盾を捨てて後ろに下がりなんとかそれを避けることに成功した。


だが、その代償として彼のもっていた盾は噛み砕かれ腹の中に収まってしまう。


『ぐわははははは、人間なんぞ武器を取り上げて仕舞えばただの動く肉にすぎんのだよ!!』


盾というメイン武装を失ったガトを見てアルシャインは嗤う。

確かに盾を持っていないガトは戦力にならない。


しかし逆に言えば盾を持っていればそれなりに戦えるのだ。


「はっ、盾はまだある。どうせ姉ちゃん相手には一撃耐えられるかくらいの想定しかしてなかったんだ」

ガトは新しい盾をインベントリから取り出して構える。

そしてその瞬間、フセンから【サンダーアーマー】という魔法が放たれた。

これは対象の防具に雷属性を付与する魔法らしい。

防御力アップと雷耐性、加えて副次効果として直接触れた相手に感電して微小ながらダメージを与えてくれるのだと。


「ガトくん、突撃!!」

「了解!」

『ふん、そんなチンケな魔法、我には効かぬわ!!』


さて、盛り上がりかけているところ悪いんだけど………


「私を忘れないでいただけますか?」


私は無防備なアルシャインを背中からバッサリと切り裂く。

流石に鱗は硬い。それに体がでかい。

そのため一撃では両断するどころか致命傷を与えることすらできない。

HP的に見てもそこまで削れていないだろう。

切った感触がいつぞやの赤いありさん以来なのだ。


『ぐおおおお!?さっきから不意打ちばかりしおってからにいいいい!!』

「背を向けたまま戦ってるのが悪いんですよ。それに、一度目視して会話もしているのでこれは不意打ちには入りません」

『黙れ!我の判断基準では今のは不意打ちだ!』

「私たちのシマでは見られた時点で不意打ち判定はないんですけどね」


THEシリーズ的には一度でも敵に認識されたらそれは不意打ちではない。

例え視線を切っていたとしても相手が「近くにいる」とだけ思っていれば不意打ちには入らないのだ。


私は振り向いたアルシャインに対して追撃とばかりに剣を突き刺した。

またも『ぐおおおおおお』とうめき声をあげるアルシャイン。

そこに浮かぶのは憤怒の表情だった。だが彼が全力で怒ったのは次に視界に入ったものによって引き起こされた。


『許さん、許さん、我が至宝を狙うばかりk…………わが、し、ほ、う?』

「あ、ごめんなさい。あまりに夢中でしたので先に頂いちゃいました」

『何故?そんなことが、できる、のだ?』

「欲しかったからですかね?」

『それだけの理由で………それは我のものだああああああああああ!!返せ!!そして死ね!それは貴様らが触れていいようなものではない!!我の、我の!うがあああああああああああ!!』

「ちょちょちょっとメーフラちゃん!?めっちゃくっちゃ怒ってるんだけど大丈夫なのこれ!?」

「大丈夫じゃないかもしれませんね。とりあえずどちらかが倒れるまで戦い抜きましょう」

「えっと、わかった、じゃあ【ボルトランス】!」


私の方を向いているアルシャインに対してまたもやフセンが魔法を放つ。

先ほどとほぼ同じ状況、きっとこれも命中する。

そう思われていたが、同じ状況でも巻き起こった結果が別のものであった。


『天に移ろう煌めきよ。我の名を聴き、我に従え!!我が名はアルシャイン、紅の双星よ、我が威を示すため、廻れ!』


アルシャインがその言葉を紡ぐと、彼を守るように紅に輝く球体が現れフセンの放った【ボルトランス】を受け、搔き消した。


「嘘ぉ!? 魔法が消えた?!」

「魔法を無効化する玉か?」

『我が眷属の煌めきはその程度で衰えたりせぬ。この煌めき、見切れるものなら見切って見るが良い!』


紅い球体はアルシャインの周りを回り始めた。それはまるで地球の周りを回る月のようだった。


「魔法がダメなら近接ですかね?」


少なくともフセンの【ボルトランス】程度の魔法ではあの球体が貫通できないことはわかっている。

あれの回転の隙間を縫って本体を狙うことはできそうではあるがそんなことをするより切った方が早い。

私はそう判断してアルシャインに斬りかかる。

だがその途中、自分のHPバーが少し黒くなったことに気づいて一度離脱した。


「姉ちゃん、急に離れてどうしたんだ!?」

「どうやら、近づくとダメージを受けるみたいですね。どうしましょうか?」

『まずは盗人、お前から燃やし尽くしてやろう!!』


私を睨みつけていたアルシャインは先程フセンにやったようなダッシュ攻撃を今度は私に向けてやってくる。

避けたり受け流したりすることは簡単だ。

だが、ここで問題になるのは近づけばダメージを受けるということだろう。

直接的なダメージはなくても時間をかけさせられれば間接的なダメージだけで削りきられてもおかしくはない。


相手の体力があとどのくらいで削れるかわからない以上、あまりダメージは受けたくないんだよね。


「かと言って体の大きさが違うので走行スピード的に簡単に距離を開けません。どうしましょうか?」


私はアルシャインの掌底を上に流してやり過ごし、それと同時に少しだけ減ったHPを見ながら考える。


私は未だにHP回復アイテムを見つけていないためここに表示されているのが私の総HP だ。

一応自動回復もするが大切に使っていかなければならない。


『ぐわはははははは、我が眷属の輝きに溶けるなら本望であろう?ほれ、そろそろ大人しく諦めたらどうだ?』

「このままだとあと5分持ちませんね。私のHPでこれならフセンちゃんなんかは1分持たずに焼け死ぬかもしれません。とにかく、あと5分以内に倒さないと………」

「………焦がす……溶ける……燃やす……火………あ、フセンさん、姉ちゃんに【ファイアガード】かけてもらっていいですか?」

「えっと、わかった。やってみるね」


次々と繰り出されるアルシャインの拳、これらは全て簡単に回避できるものなので適当に避けて反撃を叩き込んでいく。

私は直接攻撃によって相手のHPを削り、向こうは環境による継続ダメージによってこちらのHPを削る。

同じボス同士の削り合い、なのにどうしてか私の方が不利な戦いをしている気がした。

少しだけ不利だと感じた私は【慈悲無き宣告】のスキルを発動してアルシャインに被ダメ倍加の印をつける。


その時だった。


突如として私の視界の端に燃えている盾のアイコンが現れる。

私がちらりとフセンちゃんの方を見ると彼女はコクリと小さく頷く。


私はとっさにHPバーを確認するとHPが減る速度が抑えられているのがわかった。


「姉ちゃん、多分それは熱による燃焼ダメージだと思うんだけど、効果はあったか?」

「ありがとうございます。これなら、こちらが削りきられる前になんとか削りきれそうですね」

『ぬううううう、我らの光がこの程度だと思うなよ!!我が世界へと沈め!!』


アルシャインが何かを唱えた。

だが何も起こらない。2つの球体が変化するわけでもダメージが大きくなるわけでもなかった。しかし、効果がなかったのはどうやら私だけのようだ。


それに気づいたのは戦闘中も私の頭にしがみついて特等席で戦闘を観察していたヒメカがおもむろにカンテラのスイッチを入れたことで気づいた。


「ガト、フセンちゃん、何かあったのですか!?」

「うん!急に部屋の中が真っ暗になっちゃったよ!ドラゴンが光ってたはずなのにその姿もほとんど見えない!」

「ただそのくまが灯りをつけてくれたおかげでなんとかなりそうだ!」


先ほどのは部屋の中を暗闇に落とすものだったらしい。

しかし私は人形族で暗闇であってもものが普通に見える。だから何も起こらなかったように感じたのだ。


『ぐっわっはっはっは、尊大な我らの世界の前にそんなちっぽけな光で立ち向かうか!笑止!!闇の深さとその中でも輝きを失わないものの強さを知れ!』


アルシャインは虫かごの中に入った虫けらを見るような目で私たちを見ていた。

確かに、このカンテラの小さな光ではこの広間を全て照らすことはできない。

広間の端まで離れられて仕舞えばどこから来るかわからない恐怖に怯えることになるだろうが………


残念ながら私には関係なかったようだ。


自分の優位な環境になったことでアルシャインが油断し攻撃が雑になる。

私は剣を使わずにそれを避け返しに伸ばしてきた腕を大きく切り裂いてやった。


『ぐあっ、ぐぬぬぬぬ…… 小さいとはいえ光は光か……ならば、まずは光持たぬものから殺してやるとしよう!!』

アルシャインは【慈悲無き宣告】のダメージ加速のせいでこのまま私と殴り合えば少々分が悪いと思ったみたいだ。

大きく後ろに飛びくるりと私に背中を向ける。

そして次の瞬間、フセンとガトに向けて走り始めた。


情け容赦一切のない、全体重を乗っけた体当たりをお見舞いするつもりだ。

普通なら避けるなりなんなりできるかもしれないが今、2人は視界が制限されて見えているのは私の、というかヒメカの周りだけらしい。

だから今彼らには私から離れたアルシャインの姿は見えていない。


向こうからしたら無防備な相手を蹂躙する。


それだけなのだろう。


だが、それは私から見たお前も一緒だ。


「ガト、フセンちゃんを守ってあげてください!正面から来ますよ!!」

「おう、見えづらいけどなんとか止めてみせる!」

「フセンちゃんはガトにさっきの魔法をかけてあげてください。燃焼ダメージは割と痛いですからね」

「わかったよ。任せて!」


フセンがガトの陰に隠れて【ファイアガード】の魔法を発動させる。

ガトはそれを受けてドシドシと音を立てながら近づくアルシャインを待ち構えた。

すると【ファイアガード】が発動してから1秒も立たないうちに2人の目の前に奴は姿を現した。


突然目の前に巨大な龍が飛び出してくることの威圧感はとんでもないだろう。

だが、もう引くことのできないガトは立ち向かうしかない。

アルシャインはガトに体当たりをする前、確実に仕留めるつもりなのか無駄に勢いをつけていた。

見てから判断してたんじゃ遅い。

そして次の一撃ははじめのものより重いものがくるであろうことはガトにはわかっていた。


だから彼は【大防御】という被ダメージを1秒だけ抑えてくれるスキルと併用してフセンに向けて【リジェクト】を放った。

ガトの後ろにいたフセンはアルシャインが顔を出した瞬間にはもう既にガトに吹き飛ばされてその射線上にはいなかった。


体当たりはガト1人で受け止めることになる。


『小娘には避けられたが、まずは1人……」

「ぐっ……物理耐久特化なめんな。こんな攻撃、へでもねえぜ」


もの凄い勢いの体当たりで壁に叩きつけられたガトはフセンを守りきれた達成感からかニヤリと笑ってみせる。

そしてガトに守られたフセンは体当たり後で動きが止まったアルシャインに魔法を叩き込んだ。


「【サンダー】!!」

『ふん、その程度の魔法、我には効かんわ』

「それはどうかなぁ?」


【雷属性魔法】というスキルを習得すると同時に覚えられる魔法【サンダー】。

その魔法は極小の消費MPと最小の詠唱時間、そして小さなダメージという低レベル帯の魔物を狩るのには重宝するだろう所謂初級魔法らしい。


だが、それは放つものが違えばまた違った効果を及ぼす。


フセンには【蓄魔】という詠唱時間と消費MPをバカ食いする代わりに高い威力で魔法を放つことができるスキルがある。

本来なら詠唱時間が長くなる関係上、安全な場所でゆっくり準備をしなければならないが詠唱時間の短い【サンダー】なら普通の魔法と同じように発動できる。


フセンはこの戦いでほとんど役割を持てないことを確信して保有MPのほとんどをこの魔法につぎ込んで放った。


その結果


『ぬっ、紅き星が低級魔法を吸いきれんだと?ありえん!!』


紅い球体を貫通していくらかアルシャイン本体にダメージが入った。

そしてそれに動揺したのがいけなかった。


私は【サンダー】を受けて怯んだアルシャインの後ろに飛びつき両脚を使い首にしがみついた。


『が、やめろ、はなさんか!!』

「やめません離しません。あなたにはこのままやられてもらいます」


体にくっつかれたアルシャインは煩わしそうに私を振り落とそうとした。

だが、私の脚は存外がっちり固定されている。なんとか耐えてその場にしがみつき続けることができる。


私は落ちないことを確認した後、








ぶすりーーーーーーーーー








アルシャインの首に剣を埋め込んでいった。


『ぐぎゃあああああああああ、やめろ!!やめろお!燃え尽きろぉ!!』

「やめませんよ。人の弟をいじめてくれた罰です」

『それは貴様らが我が至宝を盗もうとしたからではないか!勝手にやってきて反撃されたらその言い分、身勝手ではないか!!この悪人め!!』

「悪人………まぁ、否定はしませんよ。だって、私はあの2人のためのボス、悪者の役なんですからね」

『ぐううう、ならばこの身朽ち果てるまでに貴様の命だけでも燃やし尽くしてくれるわ!!』



私のHPの減少とアルシャインのHP減少を考えれば私が死ぬまでにアルシャインが力つきることは明白だ。

だが、万が一もある。


危ない橋は渡らないのが戦いの鉄則。

だから私は油断なく最後の一撃を放つ。


私は一度剣を引き抜き、そして再び突き立てながら宣言した。


「【無常の裁き】、発動します」


アルシャインは私のHPの減少値の2倍のダメージを受けてその場に崩れ落ちた。

彼が倒れた時、その場にあった暗闇や熱気は無くなりそこには入ってきた時と同じ広間があるだけだった。


いや、宝箱は空いているから少しだけ違うんだけどね。


「いえ〜い、ボス討伐完了です。皆さんお疲れ様でした!」

「結局、姉ちゃん一人でほぼ全て削りきったな。俺いらなかったんじゃ………」

「いやいやガトくんは私を守ってくれてたでしょ。ありがと、かっこよかったよ〜」

「あ、うん、ありがとう」

「あれ?私がお礼を言ったはずなのに返された?」

「さて、ここにはこれ以上何もなさそうですしそろそろ戻りましょうか」

「そだねー。あ、お宝何が手に入ったか見せてよ!!」


私はフセンにそう言われたのでアイテムインベントリに避難していた「星剣アルシャイン」と「星本アルシャイン」の2つを物質化して二人に見せた。

輝きを放つ2つのアイテムはさっきまで戦っていたドラゴンの姿を思い出させるようなものであった。

















ジャングルのある一角でリリンベルはそれを見つけた。


(むっ、あれはなんだ?3人の男だが………どこか見覚えがあるような?それにしてもあいつらはあの穴の前で何をやっているのだ?)


3人の男というのは言うまでもなくアスタリスクたちのことである。

だがリリンベルはどこか見覚えがあるとは思ってもそいつらのことを正確には思い出せない。


そんな彼女はその3人のことを邪魔者だとしか思わなかった。


(チッ、私の勘ではあの穴からメーフラ様が出てくると言ってるのにあそこに陣取られていてはどうしようもないじゃないか…………仕方ない、殺すか)


リリンベルは弓に矢を番える。



そしてそのまま何故か一番癪に触る剣を持っている男に向けて矢を放った。





ドラゴンさんと宝箱の中身は一定時間したら普通に蘇ります。

ま、ゲームだからね


Q、月宮ネタ………

A、MMOはいろんな人がいるからそういう人がいてもおかしくない………かもしれない


Q、フセンちゃんメンヘラ?

A、多分違うんじゃないかな?


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