魔を越え罠を越え龍を越え
前回までのあらすじ。
私たち『メーフラのきらきら探検隊』はものすごく深い縦穴を発見。
隊長の的確な準備によりその穴を安全に降りることに成功したのだった。
というわけで今私たちは真っ暗な穴の中にいる。
穴を降りた先で奇襲されることはなく、とりあえず今はカンテラを使い周りの確認をしている所だ。
降りた先は少し広めの広場になっている。
「なんかジメジメしてるね〜」
「道は三方向に分かれていますがどの方向に進みますか?」
「どっちでも変わらないだろうしとりあえず進んでみようぜ。あ、そうだ。右手を壁に当てながら動くあれをやるのはどうだろうか?」
「ガト、先に言っておきますがそれはスタート地点以外でやり始めると状況が悪くなることがあるのでやめたほうがいいですよ。この場合も同じですね」
迷路には右手の法則というものがある。
よく聞く片方の手を迷路の壁に当ててその壁に沿って歩くあれだ。
だが、それが効果をなすのは今言った通りスタート地点からのみ。
もし迷路の途中から始めたらスタート地点に戻されたり最悪無限ループに陥ったりしてしまうのだ。
運が良ければ途中から始めても大丈夫かもしれないが不確実な方法は取るべきではないと思った。
「じゃあどっち進むよ」
「どっちでもいいでしょ?とりあえずこっちに進もうよ!」
私たちはフセンが指をさした方向に進み始めた。
初めは特に何も起こらなかったが、歩いている途中で異変が起こった。
「むっ、2人とも、何か近づいてきているみたいだ」
「みたいですね。体重は軽そうですよ?」
「いや、重さだけ言われてもわかんないから……」
「そうですか、一応、二足歩行みたいです」
前方から何かがこちらに向けて歩いてくる。
洞窟内は音が反響するため小さな足音でもすぐに聞き取ることができた。
それは非常に感謝するべき所なのだが、もしかして向こうも私たちの足音を聞いてから近づいてきている可能性を考慮すると素直に感謝できない。
私はすぐに剣を振れるように持っていたカンテラを頭上のヒメカに渡して持ってもらう。
ヒメカは渡されたカンテラを興味深そうに直視して眩しかったのか目を背けていた。
そしてすぐあとにそいつらは現れる。
「ゔぁあああああ」
「アンデッド系か〜軽くて二足歩行ってそういうことだったんだね」
「でも以前地下墓地で見たものとは少し様相が違いますね。こちらの方がおしゃれです」
肉がボロボロ崩れているのには変わりないけどこのゾンビはただのボロ布ではなく年季の入った服のようなものを身にまとっていた。
ゾンビは正面にいるガトに両腕を振り上げて襲いかかる。
ガトはそれをまずは正面から受け止めた。
ガァンと金属を叩く音が洞窟内に響き渡った。
「うん、攻撃力はそんなに高くない。ゾンビ系でこれってことはあんまりレベルは高くなさそうだ」
「そうですか。ならどんどんいっちゃってもいいですね」
「あ、メーフラちゃんそこどいて!そいつ燃やせない!」
「フセンちゃん……洞窟内で炎魔法ってどうなのですか?」
「あ、それもそっか。じゃあガトくんいつものよろしく!」
フセンの指示でガトが動く。
彼はゾンビの腕を受け止めたまま前進してそのまま壁に押し付ける。
ゾンビが壁と盾に押しつぶされる形になるがまだ止まらない。
ガトはその状態からさらに圧力をかけてゾンビを押しつぶし始めた。
ゾンビは苦しいのか暴れ始めるがその攻撃は全て盾に阻まれてガトには通らない。
彼の持っているのは盾であり壁なのだ。
「ゔゔぁあああぁぁぁぁぁぁ!!」
「体力は割と多いか……」
「やっちゃえガトくん!!」
ゾンビのHPが少しずつ減っていく。
1分もたたない間に全損するだろうというペースだ。
ところで、
「気づいていますか?」
「なにをさ」
「そのゾンビさん、どうやらお仲間を呼んだみたいですよ」
「えっ!?」
やっぱり気づいていなかったみたいだ。
私たちの戦闘音を察知してかこの場所にものすごい勢いで集まってくる音が聞こえる。
洞窟内の音の反響で正確な数がわからないが多分二桁はいるだろう。
「ちょっ、ガトくんペース上げて!!」
「了解、うおおおおおおおおお!!」
頑張ってさらに力を込めたらしいが悲しきかな我が弟よ。
あんまり効果はないみたいだぞ。
仕方ない。
私が切るとしよう。
私は壁と盾に板挟みにされているゾンビを無遠慮に横から真っ二つにした。
それで抵抗を続けていたゾンビは動かなくなりその場から姿を消す。
ゾンビがいた場所にはいつぞやとおなじ腐肉が落ちていた。
「さて、どうしましょうか?どうやら挟み撃ちを受けているみたいです」
「えっ!?どうして今来た道からも敵が出てくるんだよ」
「さぁ?わかりませんが、ゲームだからではないですか?」
「あ、じゃあ私たち2人で片方受け持つからメーフラちゃんは逆側お願い!!」
そうですか。あなたたち2人で………
いい傾向だ。
仲間外れみたいにされたことがちょっとだけ嬉しい。
私の弟は少なからず信頼され始めているみたいだった。
「さてヒメカ、私たちは前方からくるやつらを倒しちゃいましょう」
「きゅ〜ん」
「なんですか?ゾンビとは戦いたくないのですか?」
「きゅぅ」
なんかヒメカがいつもより可愛い声を出している。
いつものも十分可愛いけど。
ヒメカは先ほどのゾンビを見て怖がっちゃったみたいだ。
えいえい、可愛い奴め。
それなら前に出て戦う私と一緒にいない方がいいよね。
ということで私は後ろにいるフセンに話しかける。
「フセンちゃん、ヒメカがゾンビには近づきたくないらしいのでこの子をお願いしますね」
「くぅ〜〜」
「お?何、頭の上を照らしてくれるのかな?」
「くう〜♪」
「なんか後光が差しているみたいに見えますね。あ、気をつけてください。ヒメカ、たまに視界を塞ぎに来ますから」
「ちょっとぉ!?それ大丈夫なの!?」
「前衛ならともかく後衛の人なら大丈夫なのではないでしょうか?最悪魔法の狙いが外れてもガトに当たるだけで済みますよ?」
「おいバカ姉、だけってなんだだけって」
あはははは、弟が姉である私をバカ呼ばわりしているよ。
でももうちょっと考えて欲しいんだけどね?
こういうのってちょっとだけ罪の意識を着せていた方が向こうも意識してくれると思うんだよね。
あんまりドカドカやられすぎるとそれが当たり前になるから逆効果なんだけど、月一くらいでどでかい一撃をもらってればそれをきっかけにいい関係に迫れたりするんじゃないかな?
それがわからない弟はバカだなぁ〜
私は弟からバカと言われた傷をそう思うことでやり過ごした。
神級にはそんな低俗な精神攻撃も当たらないのだ。
「さて、特に時間をかける必要もないですしこちらはこちらで素早く倒しますか」
ちょうどゾンビたちが見えてきたところだ。
私はゾンビたちの先頭がこちらに近づくよりも早くこちらから接近して足を切る。
それによってバランスを崩したところで私は姿勢を限界まで低くして足払いをした。
これで一番前のゾンビが転倒、私はそれを確認するよりも早く離脱して元の場所に戻る。
これによってゾンビたちの足元に邪魔な障害物ができることになった。
そしてゾンビたちはあまりいいAIが搭載されていないのかそれともそういう種族なのか、仲間を踏みつけてでも前に進もうとする。
だが、無視したところでそこに邪魔なものがあることには変わりないのだ。
どうしても動きが鈍くなるし足並みは乱れる。
そこに私が突っ込んで切り裂き数を減らす。今度は下がらない。
下がる代わりに近くにいたやつを適当に転ばせて足場を乱す。
また1体、よろめくゾンビ。私はそいつの顎を剣の柄で打ち刃先の方を別のやつに当てる。
死んで消えたゾンビの隙間にはなだれ込むように新しいゾンビ。
だがそいつは後ろのやつに押し出されてここにいるのだろう。
体勢が前のめりもいいところだ。
特に何もするわけでもなく、軽く足を刺激してやれば転ぶ。
そしてそれがまた足場を悪くする。
ゾンビたちの動きがまた一段と悪くなる。
対する私はいくら足場が悪くなろうとも動き回る必要がないので関係はない。
切るべき場所は向こうから近づいてくるのだ。
こうして、前方のゾンビの中で立ち上がっているものは次々と数を減らしていなくなった。
最後に私は足元で倒れて障害物にされたゾンビにとどめを刺す。
制圧完了だ。
「さて、2人はまだ戦っているみたいですね。任された分は終わりましたが、もう一仕事しましょうかね」
後ろを見るとガトが狭い道を使い必死にゾンビを食い止めその間にフセンが後ろから魔法を叩きつけているところだった。
炎魔法はやめた方がいいと言ったからだろうか?
彼女は以前私にも使った【ボルトランス】の魔法で数多くのゾンビに一気にダメージを与えている。
…………雷って洞窟内大丈夫なんだろうか?
そう思いはしたがきっと大丈夫なんだろう。
私は気持ちを切り替えて壁を足場にしてガトの盾の向こう側に降り立つ。
「えっ、姉ちゃん!?」
「メーフラちゃん、後ろはどうしたの!!?」
「そちらはもう終わりました。助太刀しますよ」
「ほ、ほんとだもう何もいない………」
「くぅ〜ん♪」
「あ、でも姉ちゃんそこにいたらフセンさんの魔法の巻き添えになるかもよ」
「大丈夫ですよ。なんとかなります」
「あとで怒っても知らないからね!!」
というわけで私、参戦!!
私は近くにいるのをかたっぱしから叩く。ガトの盾に群がっているやつなんか隙だらけでやりたい放題だ。
ゾンビたちの攻撃は爪による攻撃か、たまに武器持ちの奴がそれを振り回してくるだけ。
そうやって戦っているとその時が来る。
「じゃあ次の一撃行くよ!!」
ギリギリガトに当たらないように調整された雷の魔法がゾンビたちに突き刺さる。
もちろん、それはその中にいた私にも向けられていた。
近くのゾンビの腹を突き破り、雷の槍が私に襲いかかる。
それを私はーーーーーーーーー
「えいっ」
剣で切り裂いた。
準備していればこの程度、造作もない。
2つに分かれた槍はそれぞれ別の当たり判定を持ち後ろのゾンビたちに突き刺さり始める。
「えっ?」
「ええええええええええええ!!め、メーフラちゃん!!?今の何!?」
「何って、あの魔法が多段ヒットしないことがわかっているなら剣で受ければそのダメージは剣に行くだけで済むじゃないですか。そういうことです」
「だからって、だからってぇ!!」
「雷魔法に反応できるのか………」
びっくりしてフセンの動きがオーバーになってしまったため頭の上にいるヒメカが落ちそうになっている。
ちょっと、落とさないでよ。落としたら罰金だからね?
その後、特に何かあるわけでもなくゾンビの掃討は終わった。
途中さらに増援が来てまた二手に分かれることになったりしたが問題はなかった。
所詮ゾンビだ。
それより気になったのが、
「あの、フセンちゃん? 最後の方、私を狙っていませんでしたか?」
「しーらない知らない。気のせいだよきっと」
ゾンビの巻き添えで私に魔法が飛んでくるのではなく、私の巻き添えでゾンビが吹っ飛んでなかった?
まぁ、当たってないからいいけどさ。
ゾンビを掃除し終わった私たちはドロップアイテムを回収して再び進み始める。
ゾンビのドロップアイテムはそのほとんどが使い道がないという理由で押し付けられた。
今度ダームさんにでも押し付けようと思う。
そこから当分、魔物は出なかったが代わりに罠が増えるようになってきた。
まず初めに踏み抜いた罠は踏むと矢が飛んでくる奴。
この前神殿で踏んだやつと同じ………ように見えるがこちらには鏃に何か塗ってあった。
今回はガトも警戒していたらしくその効果を確認することはできなかったんだけどね。
そして次の罠、今度は落とし穴だ。
これは重量が一定以上になると作動するタイプの落とし穴だったみたいで私たち3人同時に引っかかった。
私は足元が抜ける瞬間に気づけて回避したのだが、ガトとフセンが2人して落ちたので仕方なく私も飛び降りることにした。
落下ダメージがそれなりに痛かった。
「くぅ、きゅぅうううん♪」
「えっ?もう一度ですか?………また2人だけ落とし穴に落ちたら考えますね」
ヒメカは高所からの落下が好きみたいだ。高い高い受けた時も楽しそうだったしね。
今度私のステータスを存分に使った高い高いをお見まいしてやろうかな?
それより面白かったのが………
「め、メーフラちゃんどうしよう!ガトくんが私の下敷きになって………」
「大丈夫ですよ。きっと彼も本望でしょう」
「グッ……………JOB」
ガトはフセンのクッションになっていた。
落ちる瞬間、とっさに下敷きになったのだという。
彼はやり遂げたような顔で親指を立てている。苦しそうというよりかは嬉しそうな顔をしているし、フセンちゃんもそんなに気にしないでいいんじゃないの?
そして落ちた先に待っていた次なる罠は………
ごろごろごろごろ
「まぁ、定番ですよね」
「なんでそんなに落ち着いているのおおおおおお!!?」
「あれ、ワンチャン盾で止まんないかな?」
「あれ、ワンチャン剣で切れませんかね?」
ごろごろごろごろごおおおおおおおおお
爆音を響かせ巨大な岩が転がってくる。
ガトの冗談に合わせて「切れないかな?」とか言ってみたけど切ったところで勢いが止まるわけではないので意味がない。
真っ二つになった岩にぶつかられるだけだ。
それに、さっきこっそり走っている最中に石(聖銀鉱石)をぶつけてみたら紫色の文字で『破壊不能オブジェクト』と出ていた。
そもそも壊せたりするものじゃないのだろう。
ごろごろごろごろ
「あ!!あそこにそれらしき横穴があるよ!!」
「定番ですね。しかしこの速度で走っている最中にあの小さな横穴に入るのって地味に難易度高そうですよね」
「とにかく、あそこに逃げ込むぞ!!」
悪いがこの穴は2人用だ………
なんてことはなく私もちゃんと逃げ込めた。
かなり迫力があって楽しかったらしくヒメカ様はご満悦のようだ。
それからも数々の罠と魔物を乗り越えて私たちは進む。
ある時は天文学を使った謎解きだったり(ガトが何故か割と詳しくて簡単だった)
ある時は魔物版サハギンが奇襲を仕掛けてきたり
(弱点、雷)
そしてまたある時はお宝に見せかけた罠だったり(ヒメカが一発で看破してカンテラを投げつけた)
そんな色々な困難を乗り越え、私たちはついに、お宝のある部屋までたどり着くことができたのだ!!
そこはそれまでとは一風変わった大広間。その奥には装飾の施された大きな宝箱がポツンと配置されている。
「お宝、おったから〜♪」
「姉ちゃん、テンションたけえな」
「キラキラピカピカ〜♪」
「メーフラちゃん、光り物好きだからねぇ」
「女子はそういうの好きだって聞くよな。フセンさんは?」
「私?私は家のものがよくピカピカだからね。好きは好きだけどそこまでだよ」
私はウッキウキで宝箱に近づく。
ここまで苦労させられたんだ………あんまり苦労した気はしてないけど。
だから金銀財宝ざっくざく〜を期待してもいいじゃない。
私は広間の中央を突っ切って宝箱を開きに行く。
その時だった。
『我が至宝を荒らす賊どもよ!!我自らが成敗してくれるわ!!』
「ーーーーーッ、姉ちゃん、上だ!!」
上から何か降ってきた。
私はそれを前宙で避けて宝箱の横に着地しながら降ってきた存在を見る。
『ふん、避けたか。だが次はそうはいかんぞ!!』
「ど、ドラゴンさんですか?」
それは以前イベント時にお城の中でみたワイバーンとは違う、しっかりとした体を持つ翼付きのトカゲ………ドラゴンであった。
その体はうっすらと光を放っており、頭の上にあるカンテラがなくてもものを見るのには困らない程度に洞窟内を照らす。
ドラゴンはまっすぐ私を見ていた。
「やっぱりお宝を守る存在といえばドラゴンですよね。岩ゴロゴロといい、定番どころを押さえてくるここの運営は割と好きかもしれません」
私はそう言いながら真横にあった宝箱を開いた。
本当ならこのドラゴンを倒してゆっくりご開帳するものなのだろうけど、お宝を見たい自身の欲求に忠実に従うことにしたのだ。
『ぬぅ、やめんかお主!!そういうのは我を倒してからにするがよい!!』
あ、ドラゴンさん焦ってる。
やっぱりここで開けちゃうのは想定外だったみたいだ。
本来なら最初のストンプで押しつぶすか拘束するか、もしくは後ろに引かせるつもりだったのだろう。
だからここで開けられることを想定していなかったのだ。その証拠に、宝箱には鍵はかかっておらず簡単に開けることができた。
そして中にはドラゴンと同じような光を放つ剣と1つの本が入っていた。
「これは綺麗な剣ですね。魔族の長剣は丈夫でいいですが、見た目は無骨な剣ですからね」
『ええい、やめんか!!』
「時間稼ぎありがとうメーフラちゃん!!」
『ぬおっ!!?ぬうぅぅ』
私がドラゴンと何かやりとりしている間にフセンが魔法を唱えてドラゴンの後頭部に雷を突き刺した。
意識していなかった場所からの攻撃にドラゴンは驚き後ろを振り向く。
そこにはしてやったりな顔をしたフセンの姿。
ドラゴンは怒り狂った。
『ぬうううううぅぅぅ!!許さん、許さんぞおおおおおおおお!!卑怯者めえええええええええええ!!』
「はっ、ドラゴンのくせしてヤギの真似事か?色もそれっぽいし、意識してんだな?」
ガトの挑発が入りさらにドラゴンが怒る。
もう私のことなんか見えていないようであった。
だから私はその隙に宝箱の中身をインベントリに放り込んだ。
よし決めた、次話は明日更新する。
ここにこうやって書いておけば多分ちゃんと更新するだろう。
Q、米っちってどっちだ?
A、あとで本編にも書きますがライスさんのMOH内でのキャラネームは『米ライス米』なのでライスさんのことです。
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