真っ白神殿の探検隊
そこはかつて真っ白な神様が住んでいた神殿。
その神様に合わせるように白いその神殿は、今もその主人の帰りを待ち当時のまま佇んでいる。
神様が帰ってきた時、何も憂うことがないようにその神殿の住人兼使用人たちは、今日も侵入者を排除するために動く。
この場は白、色のついた侵入者には特に厳しい。
しかし、神様の親友を象徴したその赤だけはその場にいることを許されている。
◇
私たちがその神殿の中に入るとそこに待ち受けていたのは真っ白な氷像だった。
中に入った瞬間、扉の死角になっている位置からその大きな拳を振り下ろしてくる。
私はその拳を少しだけ後ろに下がって避ける。
いつもなら前進してそのまま氷像を叩き斬るのだけど、今はヒメカが頭に乗っているからあんまり無理な動きはできない。
「敵確認、俺が前に出るからフセンさんは攻撃頼みます」
「雪の巨人………ってことは炎の魔法だよね。ガトくん、11秒耐えて!」
「任せてください!」
接敵から交戦への移行が割とスムーズだ。まるで今までなんどもこのような状況に出会ったことがあるといった素早さで2人はそれぞれの役割を全うしようとする。
ガトが防御でフセンが攻撃、完璧に役割を分けることで自分たちから選択肢を奪い意思決定のプロセスを排除しているようであった。
私は今回の戦闘には積極的に参加せずに2人の動きを見ていた。
次以降の戦闘で連携をうまく取ることができるように、という意図もあるが私が見たかったのは2人の連携そのものだ。
2人の信頼しあった動きと言い換えてもいいかもしれない。
「………2人とも中々息があっていますね。仲が良さそうで何よりです」
ガトが雪の巨人の拳にぶつかっていく。
体格でもパワーでも負けていると判断した彼は決して正面から受け止めるということはしない。
ガトは大盾の面の半分だけを使いその拳を受ける。
彼が攻撃を受けた場所は盾の重心から離れているため非常に不安定、持ち手の力が入っていなければそこを叩けば勝手に攻撃は流れる。
雪の巨人の拳はガトとはほんの少しだけ離れた場所の床を大きく叩いた。
ズンッ、という音とともに少しだけ床が揺れる。
雪の巨人はその腕を引き戻すと今度は逆側の腕を使いなぎ払いを仕掛けてきた。
ガトは慌てず距離を詰める。
ああいったぶん回し系の攻撃は中心に近づけば近づくほど速度と力が乗り切らない攻撃になる。
それを狙っての行動だろう。
結果、ガトの大盾は雪の巨人の二の腕を押さえ、見事に止めることに成功した。
私は自分の弟の技に素直に感心した。
あの攻撃、避けるだけなら簡単にできるものであったがそれを受け止めて後ろの護衛対象に影響を及ぼさせないとなると難易度が一気に上がる。
少なくとも盾の扱いが素人のものならば正面から攻撃を受けて飛ばされたり、止められたりしても最悪次の攻撃をどうしようもなくなるほど体勢を崩してしまうだろう。
欲を言うならその大盾で回ってくる肘の関節を内側から叩けば自滅すらも狙えただろうが、彼の仕事は守ることであり攻撃は考えていないから安定を取ったのだろうと思われた。
「よしっ、詠唱完了。いくよ!!」
そして指定された時間が終わる。
フセンが放ったのは以前私にも使ったことがある【ファイアボム】だ。しかしそのサイズは以前見たものより小さい。
しかしそれでも最低限の仕事はしてくれる。
私たちより大きな雪の巨人に対して小粒のような火の玉ではあったが、それは着弾と同時に内側に秘められた力を解放し巨大な熱を巻き起こす。
見た目完璧に雪なその巨人にはこれは効いただろう。
ドロドロとその体を溶かし始める。
「やったか?」
「ガトくん、それはフラグってやつだよ」
「そうですね。まだ動けそうです」
「ちぇっ、一撃じゃ仕留めきれなかったかー。【蓄魔】使うべきだったかな?」
「お二人は頑張ってくれたので最後の一押しは私がやっておきましょう。ヒメカちゃん、しっかりつかまっていてくださいね」
「くぅ!」
体を溶かしながらも懸命に腕を伸ばし続ける雪の巨人。
そいつは【ファイアボム】の熱が収まった後もまだそこに立ち続けていた。
私はその姿にどこか悲愁を感じる。
しかしこれは戦いだ。
私はインベントリから魔族の長剣を取り出し接近した。
近づいてくる私に反応するようにその溶けかけの腕が私に迫る。
私はそれを切り落とす。
雪の巨人は一瞬だけ戸惑いを見せたがすぐに次の行動を起こした。
体が不安定になりながらもその巨体の力を遺憾なく発揮する前蹴り。
私は身をかがめて、そして支えとなっている方の足の足首を切り裂いた。
さっきの腕といい、あんまり硬くはないみたいだ。ゲーム的な処理で飛ばない時のことも考えていたけどその必要はなかったみたいね。
バランスを崩して倒れてくる巨体、私は締めとしてその巨体の首、腰からそれぞれ分断してとどめを刺した。
「うわぁ………」
「これはひどい………私が削った意味あった?」
私が敵の討伐を確認した後後ろを振り返るとなぜか2人が引き気味にこちらを見ていた。
…………?
終わったよ?
「さて、では進みましょう。目指せお宝です」
「お、おー!」
初っ端から戦闘になってしまったから忘れているかもしれないがまだ私たちは入ったばっかりだ。
ああいった敵も今後どんどんでてくるだろうし戦いが終わったらサクサク進もう。
私たちはガトを先頭に神殿内を探索した。
「ねぇねぇガトくん、このダンジョンって雪の巨人以外に何がでてくるの?」
「えっと………すみません、今回はあんまり調べてないんですよ。何があるかわからない状態でのダンジョン攻略をしたかったんで」
「そうなのですか。それでは私たちがどこに向かえばいいのかとかも?」
「わかってない状態ってことになるね」
そっかー、でも何がくるかわからない状態で探索したいってのは賛成だね。
未知を発見する喜びって大切だと思うよ。
だから私は攻略サイト否定派だ。
そんな会話をしながら歩いているとコツコツガシャガシャなっている私たちの足音の中に1つ、カチッ、という音が紛れたのを私の耳は聞き取った。
それと同時に私は剣を前を歩いているガトのすぐ横を通るように突き出す。
直後、剣から私の手に衝撃が伝わってきて同時に甲高い音とともに私たちの足元に何かが落ちた。
「うわっ、びっくりした」
「危ないですよ。もっと注意して歩いてください」
「えっ、何々何があったの!?」
「これは罠ですね。足元のスイッチを押すと横から矢が飛んでくる仕組みのようです」
「姉ちゃん、よく気づいたね」
「これはむしろ気づかなかったガトの方が悪いですよ。踏んだ本人は真っ先に気づかなければなりません。そして後ろに注意喚起をするのがいいです。一番はそもそも踏まないことですが………」
「………以後気をつけるよ」
「そうしてください」
私たちの足元に落ちてきたのは一本の矢。
先ほどそれは壁に空いた穴からガトに向けて発射されたものだ。
「それにしてもメーフラちゃん今のよく防げたよね」
「矢の防ぎ方はリンさんに嫌というほど教わりましたからね」
「あぁ………リンねえから」
「それに、」
「それに?」
「一時期「罠師」と呼ばれていた人がいたのですが、その方はこれ以上の罠を大量に同時にぶつけていましたからね。このくらいはなんてことはありません」
『THE・刺客』というオンラインゲームの世界に一時期「罠師」と呼ばれた人間がいた。
その人の罠は知覚も難しく効果も絶大でありそれを知っている私からしたら矢が一本出るだけなど子供騙しもいいところだった。
「会話もいいけど、魔物が来たみたいだ」
「そうですね。足音的にリビングアーマー系でしょうか?」
ガシャガシャと足音を響かせて現れたのは騎士の鎧がひとりでに動いているといった風の魔物だった。
いつの日か地下墓地で見たリビングアーマーと比べるとスマートな体型でそれが女性用の鎧だということが一目でわかった。
鎧の右手には片手持ちの剣が握られており、左手は空いていた。
「剣士ですか………」
「どうする? 姉ちゃんがやる?」
「いや、メーフラちゃんに任せたら私たちが寄生しているみたいになるからね。いつも通り突っ込んじゃって」
「了解」
フセンの指示を受けたガトが鎧に突っ込む。
その鎧はガトにあわせるように剣を振り下ろしてきた。
しかしそれを読んでいた彼はその場で急停止した。
ガトの1メートルほど前を鎧の剣が通り過ぎ、その剣は床を切る。
ガトはここで前進して盾を使い押さえ込めばフセンの魔法発動までの時間は容易に稼げると判断したみたいだ。
彼は床に少しだけ刺さった剣を見ると即座に盾を構えて走り出した。
「ガト、頭を守ってください」
「えっ、うわぁっ、だ、【大防御】!!」
読み合いは鎧の方が一手上手だった。
鎧は体をくるりと回してそのグリーヴのかかとをガトに突き刺そうとした。
さらにはその回転運動の最中にちゃっかり剣を引き抜き回収するおまけ付きだ。
ガトは【大防御】なるスキルを発動してことなきを得たようだが振り出しに戻ってしまう。
「この野郎、やってくれたな」
「ガト、その方は女性です。野郎ではありませんよ」
「細かい!!」
野郎は男の呼称だ。
女性を同じように呼ぶなら女郎と呼ぶのが正しかったはずだ。
私の思考は気にせず鎧はガトを無視して今度は私に目標を定めたみたいだ。
ただ見ているだけの私を弱者と判別して狙おうとしたのだろうか?
「あっ、姉ちゃんごめんそっち行った!」
「安心してください。フセンちゃんが倒すまで時間は稼ぎますよ」
フセン曰く今回はどの属性が弱点かわからないから雪の巨人より時間がかかるらしい。
私の仕事は彼女が魔法を完成させて攻撃するまでの時間稼ぎだね。
鎧が剣を振り下ろす。
私は半歩下がり回避。
振り下ろされた剣がそのまま跳ね上がってくるーーーー前に剣を踏みつけて押さえる。
すると次は先ほどのような蹴り。
私はヒメカが振り落とされないように左手で支えながら回避し、右手の剣を蹴り出された鎧の足のひざ関節の隙間に突っ込む。
「感触なし、やはり中に何かいるわけではなくこの鎧自体が動いているみたいですね」
「はっ、後ろがガラ空きだ!」
私が鎧の相手をしている間さすがに隙まみれだったのかガトが後ろから大盾を使い鎧をぶっ叩いた。
よろめきながら後ろを確認しようとする鎧、しかし、私を前にして背を向けて無事でいられるとでも?
私は後ろを向いた鎧から兜を没収した。
首から下だけになってどこぞの死霊騎士のようになった鎧の動きがぎこちなくなる。
「不思議ですね。内側を見ても目があるわけでもないのに、どうして頭を取られると動きが鈍るのでしょうか?」
「伝達機関の関係とか?」
「それなら体が全く動かなくなるでしょうし………」
弟と2人で前後から鎧を押さえていたらあとは全てフセンがやってくれた。
戦闘が終われば私たちはまた歩き始める。
一番前をガトが歩いているのには変わりないが彼は一応罠を警戒するようになっていた。
まぁ、警戒してても踏むものは踏むみたいだけどね。
そしてやがて私たちは中庭のような場所に出た。
「これは綺麗ですね」
「うわぁ〜真っ白!!」
「この神殿、大体のものが白いから目がチカチカするよね」
「一輪くらい摘んでいってはダメでしょうか?」
「あ、賛成! ここまでお宝もなかったしこれくらいは持っておきたい!」
中庭には真っ白な花弁を持つ花の花畑だった。
庭の端っこの方には白い大理石で作られたテーブルと椅子があり誰かがここでお茶会をしている風景を思い起こされた。
私もこんな場所で誰かと楽しくお茶してみたいものだ。
フセンは花畑に飛び込みそれを摘みはじめた。
「真っ白で綺麗だなぁ〜」
「白………好きなんですか?」
「うん!大好き。私結婚式に着るドレスは純白のものって決めてるんだ!」
花畑の中で2人が会話をしているのを私は少しだけ離れた場所で見ていた。
おや? 割といい雰囲気じゃない?
結婚式のワードが出た時ガトの顔がどこかぎこちないものに変わった。
ふふっ、あの弟は自分と栞ちゃんとの結婚式の様子でも想像したのかな?
そう思い私も少しだけ考えてみる。
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…………友人代表挨拶って何話せばいいのかな?
今から考えたほうがいいかもしれない。
っていうか私は弟やら友人やらの結婚よりまず自分の相手を探せよ。
私は心の中で自分にツッコミを入れた。
そんな時だった。
「きゃっ」
「あっ」
ここでガトのスキル【ラッキースケベ】が発動…………というわけではなかったみたいだ。
よく見てみると2人とも地面に縛り付けられて苦しそうにしている。
どうやらあの場所に植物系の魔物がいるみたいだ。
う〜ん、植物さん、もうちょっと2人がくっつくように縛り付けない?
こう、危機的状況っぽいからここでくっつければ吊り橋効果も狙えそうな気がするんだよね。
あ、ダメですか? そうですか。
「くぅ〜ん、くぅ〜ん!!」
そんなバカなことを考えていたらヒメカが私の頭をペシペシ叩き始めた。
ニュアンス的には「お仲間がピンチ!」と教えてくれている感じだ。
「ちょっとメーフラちゃん、見てないで助けてよ!」
「姉ちゃんちょっとこれまずいからヘルプ!」
「それ、魔法でなんとか抜けれたりしないのですか?」
「INT特化の私の魔法を耐久に一切振っていない私が耐え切れるわけないでしょー!」
「それなら仕方ありませんね」
めーふら は どうする ?
◆助ける
このまま眺めているのもいいか
自力で脱出できない人を助けないという選択肢はないからね。
サクッと助けちゃうよ。
私は花畑に足を踏み入れた。
その瞬間、私の足首に向かって細い何かが飛びかかってくる………が、それは私に到達する前に細切れになった。
私を捉えたかったら後10倍はもってこい。
私は地面に縛り付けられているガトとフセンに巻きついているツタを切りとばす。
ツタは細いがゲーム的な処置なのか肉に食い込むようなことはほとんど起こっていなかったため剣の切っ先を使いそのまま切った。
自由になった2人は一目散に花畑から脱出した。
そしてフセンは少しだけだが私に不満げな表情を向けてくる。
「む〜、メーフラちゃんだけずるい」
「ずるいってなんですか?」
「私たちだけ恥ずかしい格好させられて、メーフラちゃんも縛られろー!」
「嫌です」
「それになんで体に張り付いたツタをそのまま切るの!? 怖かったんだけど!!」
「あれが一番早いですからね。安心してください。よっぽどのことがない限り失敗はしません」
フセンはその中に魔物が潜んでいると分かると中庭から興味をなくしてすぐさま先に進むことを提案した。
私は少しだけ白い花を摘んでからそれについていった。
そこからさきは目新しい魔物は見なかった。
雪の巨人、鎧、花の魔物の三種類だけだ。
興味本位で鑑定をかけてみた。
私の鑑定レベルはそれほど高くないから詳しいことはわからなかったけどとりあえず名前は判明した。
どうやら雪の巨人が【スノーゴーレム】、鎧が【ムーンナイト】、花とツタが【ホワイトガーデンキーパー】と言うらしい。
そんなこんなでとにかく先に進む私たち、途中念願の宝箱みたいなものを発見したが
「あ、これNPCショップでそこそこの値段のするお薬だ」
「私は薬品無効ですので2人でとっておいてください」
というふうに珍しいものは見つからなかった。
そしてついに私たちはその場所にたどり着く。
そこは神殿の最奥だった。
真っ白で大きな神殿の最も高い場所、そこだけ作りの違う扉に私たちはこの先に待ち受けているものは今までとは違うと感じさせられた。
私たちは一度この場所で小休止をとってから突入することにした。
「さて、とりあえず休憩は終わったしそろそろ行くか」
「ですね。なにが来ても最後まで諦めずに頑張りましょう」
「じゃあ、開けるよー」
フセンが扉を開き、私たちが中に入る。
そして扉の先で私たちを待ち受けていたのは――――――
「なんでここに来て赤なんだよ」
「さぁ? なにかそういう設定でもあるのではないですか?」
「ちょっとかわいいかも?」
真っ赤で巨大な蝙蝠だった。
あ、アイコン的にボス確定だね。
ちょっと怖い夢を見た。
目が覚めて意識が覚醒して考えたことはそれを小説に取り込めないかなということだった………
Q、アナログマ………
A、作者はアナログマの歌結構好きでした
Q、くまをしろと黒に塗ってモノクマとか提案しようとしたら名前決まってた
A、白と黒のクマは出なかったけど赤と白のピエロが出たからセーフってことで
Q、魔族プレイヤーの出品物が人族プレイヤーにも買える件について
A、他陣営に販売できない設定で出品することも可能ですが、主人公は買いたい人なら誰にでもと思い全種族対象に販売しています
Q、あの鬼、本当は強かったんだろうなぁ………
A、強かったはずなんだけどね、相手が悪かったよね。あの後10分ほどタコ殴りにあった鬼さんは経験値になりました。
ブックマーク、pt評価をよろしくお願いします。
感想も待ってるよー
p.s.作者はライダーわかんないんだ。すまない。





