別ゲーの世界は米とピエロとともに
「ところでそのクマは何ができるんだ?」
私の頭を抱えるようにしてしがみついているくまをみてガトが尋ねる。
そういえば、私も何ができるか知らない。
「そういえば知りませんね。どうやって調べましょう?」
「あ、多分それテイム扱いだと思うからUIのステータスの項目から確認できるはずだ」
「そうなのですね。教えてくれてありがとうございます」
私は教えてもらいすぐにステータス画面を開く。そこには森に行く前から1つも変わっていない私のステータスの他に見慣れない「1/2」と「次ページへ」という文字が映し出されていた。
私が「次ページへ」を押すとステータス画面が切り替わる。
――――――――――――――――
N:未設定
種族 トラベアー
LV 3
HP 3333
MP 333
STR 33
VIT 33
INT 12
MND 33
DEX 10
AGI 15
LUK 66
SP ー
習得スキル
【断絶】
【因果応報】
【親愛】
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【断絶】
与ダメージと被ダメージが0になる
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【因果応報】
対象のカルマ値をHPに与える
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【親愛】
主人およびそのパーティメンバーへの【断絶】が無効になる
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私はそのステータスを1つ1つ確認する。
ふむ…………ふむふむ………
「どうやらこのくまさんは愛玩用のようですね」
「………えっと、どういうことだ?」
「まずダメージを受けません。そしてダメージを与えません。以上です」
「………あの、姉ちゃん、言いにくいんだけどクラスが調教師以外のプレイヤーは一匹しか従魔を手に入れられないようになってるんだけど」
「まぁ、そこはおいておきましょう」
「それよりメーフラちゃん、この子名前はなんていうの?」
「あ、決まっていませんね」
「ならつけちゃおうよ!」
「そうですね。ということで名前をつけたいのですが、いいですか?」
「くぅ〜ん♪」
「よさそうだな」
「さて、どんな名前にしましょうか………2人とも何かいい名前はありますか?」
「えーっとじゃあ熊◯郎!!」
「それは熊の名前ではありませんね」
「じゃあくま吉とかどうだ?」
「………絶対に嫌です」
「そんなんいうんだったら自分で考えてよ〜」
ということでくまさんの名前を決めなくてはいけない。
このままずっと「くま」じゃあ不便だろうからね。
それにしても名前かー
私こういうの考えるのってあんまり得意じゃないんだよね。
一時期………主に中学生時代はかっこいい名前も可愛い名前もポンポン出てきてたんだけど最近ではそうもいかなくなってるからなぁ………
う〜ん………一応あの頃を思い出して何かいい名前を………
・
・
・
・
「よし、あなたの名前はヒメカちゃんにしましょう!!」
とりあえず決まった。
異論は認めない。本熊に伺ってみても機嫌がよさそうにしているし多分大丈夫だ。
喜びを表すかのごとくくま改めヒメカちゃんは私の頭を肉球でペシペシと叩いている。
これにてくま騒動は一件落着……かと思いきやガトが最後に大きな爆弾を落とした。
「それにしてもあれだな。そのくま被ダメージが0ってことは最強の盾ってことだよな?」
彼のメイン武装は盾だ。だからこそそんな考えが湧いたのだろう。
確かにそれは正しい。このくまで攻撃を受けている限り自分に害が及ぶことはないだろう。
だけどさ弟よ。
あなたはこんな可愛いくまさんを盾にできるのかな?
そんなことするくらいなら潔く死んだほうがマシじゃない?
ガトの言葉に私の頭にしがみついていたヒメカがビクッとなりバランスを崩して落ち始めた。
私はそれを両腕で優しくキャッチする。
私の腕に抱きとめられたヒメカがキョロキョロと周りを確認する。
そしてガトの顔を一瞬だけ見た後目を背けて私の胸の間に頭を突っ込んでしがみついてきた。
「おーよしよし、怖くない怖くない」
「ちょっとガト、あんまり酷いことを言わないでください。ヒメカちゃんが怯えてしまっているではありませんか」
「あーごめん。つい」
「そうだよガトくん! 流石に今のは私もちょっと引いたよ!」
「ーッ………」
「ヒメカちゃん、大丈夫だから顔をあげてください」
「くぅ〜ん………」
「ほら、彼も冗談で言っただけで誰もそんなことしませんよ?」
「くぅ………」
ヒメカは私の胸から頭を引き抜き首を後ろに回す。
その視線の先にはガトがいた。
ヒメカは少しだけ考えた後「いやいや」と首を振り再び私の体で視界を塞いでしまった。
「あー、嫌われちゃったみたいだな」
「ちゃんと謝ってくださいね?」
「そうだな。ごめんよくまさん、ちょっとした出来心だったんだ」
「くぅん!!」
ガトが謝るがヒメカは拒絶するだけだった。
これ以上は彼が何を言っても無駄であろうことは一目瞭然だった。
だから私はヒメカの後頭部を優しく撫でながら無理にでも話題を変えることにした。
「そういえば、今回私たちは協力関係ということですが次回のイベントは何があるのですか?」
「それはお宝探しだよメーフラちゃん!!」
「お宝探し?」
「ああ、次のイベント名は『真夏のトレジャーハンター』だ。多数のダンジョンがあるイベントエリアが解放されてそこでお宝を手に入れろって感じのイベントだな」
「なるほど、トロッコですか」
「トレジャーハント=トロッコってどうなのさ」
「つまり今回はその予行練習ということでダンジョン攻略にでも行くのですか??」
「そういうことだね!」
次のイベントの情報は公式サイトや攻略サイトを進んでみることがない私以外の2人は当然のごとく知っていた。
ちょっとだけ疎外感があって寂しい……
「で、今日はここから北に進んだところにあるダンジョンに向かうつもりなんだけど大丈夫だろうか?」
今私たちの現在地は人族の始まりの大きな街の近郊だ。
別陣営の街は入ろうとするとお金がとられるらしいので2人は外で出迎えてくれたからだ。
そしてここから北に向かうととあるダンジョンがあるらしい。
そのダンジョンはガト曰く罠がそれなりにあって魔物もいろんな種類が出るダンジョンだから色々なシチュに対応できるだろうとのことだった。
私たちには異論はないのでそれに従うことにする。
お互い準備は街にいるときにすませていたのでそのまま向かうことになった。
そして3人並んで歩くこと2時間。
目的地と思しき建物を発見した。
それは白亜の神殿。
白い柱や壁には所々金色の装飾が施されておりどこか神聖さを感じさせるものであった。
そしてその神殿の扉はまるで侵入者を招き入れるかのごとくデカデカと開け放たれていた。
「ここがそのダンジョンなのですね?」
「うん、推奨レベル50で今のところの高レベルダンジョンの1つだな」
「レベル50………大丈夫なのですか?」
「あはは、メーフラちゃんは心配性だなぁ。確かにガトくんのレベルは49とギリギリ届いてないけど私はもう56だからね、大丈夫だよ」
………ちなみに私は6だ。
魔族は進化するたびにレベルがリセットされるからただのレベル6ではないし進化前のレベルを合計すると多分50 はあるからね。
それに私のアバターはステータスは他より高めだから……と考えると案外なんとかなりそうな気になってくる。
「そういえば今このゲーム内でトップの人のレベルは幾つなのでしょう?」
「確かアークというプレイヤーの68が今の所最大だったと思う」
「68が最大でフセンちゃんが56ということは………2人とも結構レベル高い方になるのですか?」
「う〜ん、どうだろう?」
「数字だけで見たらあんまり離れていないように見えるけど当然1レベと50レベじゃあ1レベあげるのに必要な経験値が天と地ほど違いがあるからなぁ……」
「そうなのですか」
「それより、そろそろ入ろうぜ」
ガトを先頭に私たちは神殿型のダンジョンの中に入った。
「ヒメカちゃん、この中では何が起こるかわからないのでしっかりしがみついていてくださいね」
「くぅん」
ヒメカは歩いている途中で落ち着きを取り戻したのか今は再び私に肩車をされるような体勢で私の頭にしがみついている。
ヒメカはくまと言う名の毛皮のため後頭部があったかい。というか暑い。
夏にもふもふは諸刃の剣だ。
白亜の神殿は3人の侵入者をやすやすと飲み込みその場に佇んでいたのだった。
◇
神はこの地にいる。その情報を手に入れた俺は友人であるライスとテルを引き連れMOHの世界に降り立った。
彼女は魔族陣営らしいので俺たちはそれに対抗するということで人族だ。
だがまぁ、この陣営や種族選択に意味はないだろう。大切なのは動きが制限されないことだ。
いつも通りの動きができるならどんな体でも構わないと思っている。
俺は人族の人間族を選択した。
ライスも人間族だったがテルは犬耳族を選択していた。
俺は自分の体の動きを確認する。
………少し、重い?
なんだか枷をつけられている気分だ。だが………まぁ剣を振ることに問題はなさそうだな。
「さぁて、アスタリスクよ。無知無知無恥なおまえは知らないだろうがこの世界はレベル制ゲームだ。いくら俺たち3人が集まっていようがレベル差だけで圧倒されることもあるかもしれない」
「…………つまりレベルを上げてから挑めと?」「はいはい正解大正解。お前のことだからすぐにでも挑みに行くつもりだったんだろうけど、急がば回れだ。ま、この世界を観光するつもりで楽しもうぜ」
「…………分かった。それより、テルのやつはどうした?」
「ああ、あいつなら衣装を買いに行ったよ。あのままじゃ力が出ないんだってさ」
「………そうか」
テルの衣装といえばピエロ服だ。
彼は変わった男でピエロ服を着ていないと本調子が出ないと言い続けている。
そのことに一度疑問に持ち別の服を着ているときに切りかかったことがあるが強さは同じだった。
俺たちはテルが戻ってくるのを十分ほど待った。
するとその男は非常に満足した表情で戻ってきた。
身にまとっているのは当然赤白のピエロ服。どうやら見つかったみたいだ。
彼の走る姿は非常に目立っているのだろう。
通行人が横目で見ながらすれ違うのがこの位置からでもよく分かった。
「いや〜、おまたせ。ごめんね待たせちゃって、でも聞いてくれよ。俺っちこの服買おうとして服屋と防具屋探したらどっちにも置いてないんだよ。本当、参ったね。でも救いの神はいたね。ダメ元でプレイヤーの委託販売を探してみたらドンピシャなのがあったんだよ。それも一着だけ、しかも初期金ぴったりの値段でさ。いやー、神っているんだね。それにしてもアスっちこれ見てくれよ!」
テルのやつが何故か俺の隣に立ち優雅な動作で何かを操作し始めた。
そして表示したのは彼が購入したというピエロ服の詳細。
全く、これがなんだというのだ。
俺はそれにさほど興味がわかなかったがどうしても見せたいというので仕方なく見てやることにした。
「……………っ、これは!?」
「おっ、気づいちゃった?」
「………。製作者名………メーフラ?」
「ははっ、全く、アスっちが神だと崇めるのもわかるってもんだね」
そういう意味ではないのだがそのことを訂正するつもりはない。
どんな意味であろうともあれが神であることには変わりないのだ。
それにしても………彼女はこの世界で何をやっているのだ?
裁縫………?
でもなんでピエロ服なんか作っている?
そういえば彼女が何を目的としてこの世界に降り立っているのかも俺はよく知らない。
………まぁ、そんなこと俺には関係ないか。
「お前らそのくらいにしてさっさと行くぞ。聞いた話によれば初めは南に行ってレベル上げをするのが効率がいいらしい」
「………了解した」
「あ、パーティ申請送るね」
俺たちは経験値を共有できるようにパーティを組み街を出てから南へ南へと突き進んだ。
ライスが集めた情報によればこの方向へ進み敵が強いところに行って狩りをするのが初めは効率がいいらしい。
だが初心者では辛い相手でもあるという情報も入っている。
俺たちはまずはじめの石っころのような魔物が出てくるところを早急に抜け、二足歩行のトカゲを斬り伏せながら南へ、南へと進み続けた。
「それにしても、俺っちたち3人揃って戦うのっていつぶりかねぇ?」
「はっ、そもそも俺たちが知り合ったのって全員帝級以上の時じゃねえか。ほとんど共闘なんて必要なかったじゃねえか」
「………確か最後は弓の神を倒しに行った時だったか?」
「確かそうだったねぇ。ま、俺っちたち3人揃ってなお巻かれたんだけどな」
「いうな。っていうか10キロ先から一方的に撃ち続けるのは反則だから」
「流石にその距離じゃあたりようがなかったけどね」
「…………そうだな。だが攻撃が苛烈になるくらいに近づこうとすると逃げる。厄介な相手だ」
「そういえば聞いた話によればアスちゃんの追っかけてる女と弓の神は勝率五分五分らしいよ」
「…………流石、我が神だな」
それとテル、その言い方だと俺がアイドルの追っかけみたいに聞こえるからやめてほしい。
それにしても彼女はどうやって弓神に逃げられることなく近づけるのだろうな。
謎だ。
謎だが………彼女ならできてもおかしくはないはずだ。
俺たちは次々に迫り来る武装した二足歩行のトカゲたちを斬り伏せる。
それだけでもレベルが上がっていくみたいだが、まだ辛いとは思わない。
多分もっと進んだところにかなり効率の良い狩場があるのだろう。
俺たちはそう信じて進み、ついにその狩場を発見した。
そいつは真っ黒な大鬼だった。
身長は3メートル程、布の腰巻をして鈍器を構えたその鬼はその体が金属の塊でできているのかと思わせるほど硬い存在だった。
それと、この世界は物理法則とは別に何か別の法則を使っているのだろう。
俺は初めから持ってる青銅製の剣で黒い鬼を切りつけたがその足を切断することはできずさして効いている様子もなかった。
本来なら鋼鉄くらいなら切れてもおかしくはないんだがな。
鬼の皮がそれ以上硬いのかこの世界特有の法則かというところだろう。
「…………むっ、剣が壊れた」
いくらか切りつけたところで俺の剣はバラバラになり壊れた。
ふむ、脆いな。
「あっはっは、アスちゃん剣壊したって?」
「そういうお前ももう既に斧ぶっ壊れてるけどな」
「…………その槍、どのくらい持ちそうだ?」
「耐久あと2、多分もうすぐ壊れるよ」
「………武器を買ってくるべきだったな。まさかこんなに早く壊れるとは」
「だよな。普通なら竹槍でももっともつぞこれ」
「あっはっは、俺っちの家の鉈は錆びてっけど10年は使えてるな。それを考えると、あの斧脆すぎ」
雑談をしながらライスが鬼を突くとついに彼の槍も壊れてしまった。
これで俺たちは全員素手ってことだな。
仕方ない。
「…………殴るか」
「賛成」
「おぉ、野蛮人!」
「………黙れ」
武器が壊れたと言っても鬼の攻撃自体はなんら大したことはない。
確かにこの目の前の鬼は身体能力が高くその膂力故に素早い振り下ろしを見せてくる。
だがそこに技術というものは感じられない。
ただ、速くて重いだけの一撃だ。動き自体に無駄が多いせいかその膂力も活かし切れていない。
この程度の攻撃、聖級にもあたらなさそうだ。ましてや俺たちには絶対にあたる攻撃ではない。
しかし体力だけはある。
少しだけ時間がかかりそうだ。
「暇だねぇ〜、…………しりとりでもする?」
「お、いいねぇ。じゃあ初めはしりとりでものりからな。りんご」
「蜚蠊」
「…………リノリウム版画」
「ガン=カタ」
「タガメ」
「…………メーフラ」
「好きだねぇ……ラブライブ」
俺たちはしりとりをしながら、作業のように鬼を殴る。
まるで眼中にないというこの動作に目の前の鬼は心底怒っているようだった。
だが関係はない。怒っていようがいまいがお前では俺たちには勝てない。
そしてはっきりとさせておこう。
俺はお前に興味はない。
俺の興味は1人の女性にしか向いていない。
俺は淡々と鬼を殴り続けた。
Q、更新ペースの低下について+そろそろデータ飛ぶかインフルかかる?
A、最近忙しかったからね。
いやだな〜紙媒体のデータが飛ぶわけないじゃないですか。
Q、熊の名前について
A、すまない。その案は却下だ………可愛さが足りなかった……
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