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近づいていく2つの終わり

人族の城を巡った戦いは時間が経つにつれてより一層と激しいものに変化していた。

初めは奇襲と包囲により魔族側が有利であったが、時間が経つにつれて人族の数がその力を発揮し始めたのだ。


魔族側には逃げ込める場所も補給ができる場所もないのだ。

戦いの開始前に用意された魔族の包囲はもう既にいくつか穴ができていた。

その穴を通り人族の部隊がいくつか包囲を抜け出して魔族を挟み撃ちにしようとしている。





その報告を聞いたダームスタチスはそろそろ頃合いかと城内に潜伏させていた戦力に指示を出した。
















人族にそれを予想できたものがいただろうか?

景観を気にしてか作られていた城の中庭から突如として大量のスライムが飛び出してきて近くにいた1人を瞬く間に飲み込んだ。


「うおっ、こいつらどこから入った!?」

「おらおらおらぁうちの指揮官様からの命令だ。好きに暴れていいんだってよ!!」

「うおおおお!! こちとら随分長い間ここにいて暇だったんだよ!!」

「ぐっ、みんなこっちだ!! 敵がいるぞ!!」


今ほとんどの戦力が外からの侵略者への対応のために外に出ている。

そのためスライムたちを止めるための手が足りていなかった。


それにその場所が壊してはいけない場所だというのも大きかったのだろう。

物理には耐性があるが魔法には弱いスライムであったがその場にたまたまいた魔法使いたちは範囲魔法で一気に焼き尽くすという手が取れないでいた。


「ああもうめんどくさい!!」

「はっ、そう思うなら休んでていいんだぜ」


悪態をついた魔法使いにニヤリと笑みを浮かべながらドゲザメシはその能力によって生み出された特級毒物を噴出した。

突然飛んできた液体にその魔法使いは反応ができなかった。


とある人形の少女が生み出した毒は触れてしまった女性を毒状態にかえる。

その魔法使いの女性の視界の端では少しずつ自分のHPバーが黒くなっていくのが見えていた。


「くっ、【治癒ヒール】!」


彼女は魔法職ではあっても回復職ではなかった。

そのため最低限の回復魔法は取得していたが状態異常回復系の魔法は取得していなかった。

だからひとまずの応急処置として減ってしまったHPを回復させて毒の効果時間をやり過ごそうと考えた。


だが、その考えは特級毒物には甘すぎた。


「なんで!? 回復が追いつかない!!?」


毒はどんどん体を回る。

初めは毎秒HPの0.1%ずつしか削らなかった毒は少しずつ効果を高めて今ではHPを毎秒3%ずつ削っていた。

それにいつまでたっても毒状態が消える様子はない。

結局、その毒をかけられた魔法使いは毒が消えると信じて自己治癒を繰り返したがやがて回復よりもダメージが大きくなりHPバーが全て黒くなりその場から消えた。


「よーし、反撃開始といこうかぁ!!」


そんな最悪の毒を複製することができるスライムはこうして反撃開始の狼煙を上げた。














城の中に魔族が現れたらしい。

その情報は思ったよりも早く人族に伝播した。

それに危機を感じた人族は正面の門を守る者たちを一部城に戻した。

幸い、今正面の防衛戦は優勢だった。


戻って中の魔族を殲滅してくれと頼まれた彼らは情報があった中庭へと向かった。

その最中、事件は起きた。


並んで一緒に走っていた人が1人、音もなく消え去ったのだ。


初めはそれに気づいたものはいなかった。

だが、2人、3人と次々と姿を消していきあるとき不審に思うものが現れた。


「あれ?」

「どうした?」

「俺たちって、こんなに少なかったっけか?」

「確かに………はぐれた?」

「まさかだろ。だってここまでほぼ真っ直ぐにしか進んでねえじゃねえか」

「なら………あいつらどこに行った?」

「…………」

「おい? ってあれ?」


先ほどまで男が話していたやつもいつの間にか消えていた。

男は立ち止まり周りを見渡した。

すると今まで耳煩く聞こえ続けていた足音が彼が立ち止まると同時に消え去った。


そう、気づいた時には彼はもう既に1人だったのだ。


「あれ? みんなどこ行った?」


周りを見るが誰もいない。

そこは廊下、隠れられる場所があるわけでもなしにあるとするならば壁にはいくつか絵画がかけられていたり間隔をあけて壺が置いてあったり、その程度だ。


「えーっと、まさか俺が道を間違えた?」


でも、だとしたら先ほどまで会話をしていたやつはどこへいった?

そうやって不思議がる男に答えは現れた。


男の後ろの絵画から半透明の女性が現れて男を掴み絵画の中に引き込んだのだ。


「ぐわっ、だ、誰だ!?」

「うふふ〜、こっちへいらっしゃい」


男は一瞬だけ体が痺れたような感覚に見舞われた。

そして気づけば男は森の中に立っていた。


「ここは………森?」

「えぇ、ここはステキで残酷な妖精さんの森の世界ですわ」

「くっ、そこか!」


自分のつぶやきに答えるように聞こえてきた声。

後ろからだった。


男はその方向に向かって振り向きざまに剣を振り抜いた。

手応えはなかった。

だが、そいつはそこにいた。幽霊のように立っている長身の女性。

その女性は微笑みながら頰に手を当てて男の方を見ていた。


「いやですわ〜。いきなり切りかかってくる殿方なんて……」

「これはお前の仕業か」

「それに一方的な質問………もっとお互い知り合いませんこと?」

「ここはどこだ?」

「先ほど言いましたわ。もしかして、耳が聞こえないのかしら?」

「………」


男は再び剣を振る。だが剣は虚空を切るばかりで目の前の女性には影響を及ぼさなかった。


「乱暴なのですわ。あぁ、悪い子ですわ。こんな悪い子には、この世界の主人がお怒りですわ」

「………」


男はただただ自分の話したいように話す女性にはもう反応しないようにしていた。

彼の頭には少しの怒りとどうやってこの場所から脱出するかということが残されていた。

だが、そんな男の耳に聞こえてくる奇怪な音があった。


――――シャン………シャン………


そういう鈴が鳴っている。そんな音だった。

その音は目の前の女性にも聞こえてきていたようだ。


「あらまぁ。来てしまったみたいですわ。精々頑張るといいですわ」


女性はそう言い残して音もなく消え去った。

そしてそれと入れ替わるように現れたのは身長が30センチ程度しかない羽の生えた人間……妖精だった。

数は6。

妖精たちは鈴の音のような羽音を響かせて男の周りを飛び回る。


「くそっ、幽霊女の次は妖精かよ。まぁいい。こいつらなら物理無効はないだろう」


男は剣を構えてみせた。

その瞬間――――妖精は笑った。

まるで立ち向かってくるのが面白いという風に、遊んでくれるのが楽しいという風に。


「くそっ、なめやがって!!」

男は【剣術】スキルである【一閃】を発動させる。

それによりシステムに動かされた男の体は一直線に妖精を切り裂いた。

妖精は真っ二つになり中から黒い液体を撒き散らす。


そしてその黒い液体は男の顔に直撃した。


「ま、前が見えない………」


男は剣を右手で無作為に振り回しながら左手で目の周りの液体を拭おうとする。

すると彼の左手にチリッとダメージを受ける感覚があった。


「何が……!?」

「ケタケタケタ」


男には見えていないが今、彼の顔にかかった黒い液体は男の顔に付着したまま元の妖精の上半身を形取っていた。

その妖精は笑い声をあげながら近くにあるものを殴り始めた。


それに便乗するように周りを漂っていた妖精たちも好き勝手攻撃を始める。

あるものは針で突き刺し、あるものは焼き、そしてあるものはどこからかもってきた人食い花を噛みつかせたりした。


男のHPがなくなるのに長い時間を要さなかった。


男はその森の中から姿を消した。

それを見ている女性が1人、楽しそうに微笑んでいた。


「本日はご来場ありがとうございました、またのお越しをお待ちしておりますわ……なんてね」



その女性の種族は【渡り歩く者ランドウォーカー】。

絵画と現実を行き来する幽霊。

絵画の世界で生まれた生き物には血は流れておらず、その身は絵の具でできている。

故にその妖精は切っても絵の具が出てくるだけで臓器は出ない。

生き物ですらないから、形さえ生きていればそのまま動き続ける。


男は【渡り歩く者ランドウォーカー】にではなく、絵画の住人に殺されたのだ。

そして彼がここにくる前、消えていった他の者たちも同様に絵画の世界に閉じ込められていることだろう。


もし、その世界から出たいなら【渡り歩く者ランドウォーカー】を倒すしかない。

あれはただの幽霊。あれ自体に大した戦闘能力はない。

それを知らぬ者たちは絵画の世界から出ることが叶わなかった。















戦闘開始の指示は当然彼女にも伝わっていた。

「何も心配することはない。我らがすることは城で1人待ってくれているメーフラ様に勝利を捧げることだ!! 総員、好きに動け!!」


リリンベルは倉庫の陰から飛び出し弓を番えた。

そして次々と放たれる矢。

それらは狙い違わず城内の灯を貫いた。


「………メーフラちゃんも大概だと思ったけどうちのリーダーも割とおかしいわこれ」


それを後ろで見ていた影が苦笑する。

目の見える範囲ならまだ彼にも理解できただろう。

だが、リリンベルの放つ矢は何故か射線が通っていない場所の灯も貫いていた。

突き当たりの通路、その先でまた1つ灯が落ちる。


「だがそのおかげで場は整った。影の中で最大の力を発揮できる我らならこの空間で負けることはないだろう」

「ま、そんなのなくてもリリンさん居るだけで負ける気はあんまりしてねぇけどな」

「相違ない」


全てが影になったことで空間に溶け込むように動く影の魔族。

運悪くも暗闇に捕らえられてしまった人族はうまく視界を得られずに蹂躙されていく。


あるものは逃げ惑い、あるものは無茶苦茶に武器を振り回す。

そんな中魔法使いが冷静に光属性の魔法の詠唱を始めた。


だが、詠唱を始めた魔法職は全て1秒待たずに眉間に矢が突き刺さった。


「ふむ、骨のある奴はいないようだな。…………これなら私とメーフラ様で攻めてあとは全員防衛とかでよかったのではないか?」


リリンベルはそんなことを言い始める。ダームスタチスが考えはしたが実行に移さなかった案だ。

確かにそれで人族は殲滅できなくもないだろうが万が一というものがあるし何よりその2人では城の破壊に時間がかかるから降ろされた案だ。


リリンベルの種族は【虚の器エンプティ】、【二重の影ドッペルゲンガー】を基にした影のボス。

彼女の目はこの暗闇の中でも光の中にあるかのように機能した。

彼女の放つ矢が小さく煌めく。

するとその数だけ人族の数が減った。


人族にとって頭部、首、心臓への攻撃は確定でクリティカルヒット扱いになる。

ボスクラスから放たれるクリティカル攻撃に耐えられる一般プレイヤーはほとんどいない。

それにリリンベルは一撃で倒せる紙耐久を持っていそうな相手しか狙わない。


硬くて面倒そうなのは後回しにしていた。


彼女ら影族はリリンベルが灯を落として影を増やしその中を他のメンバーが動き回り蹂躙するという半ば作業じみた光景を作り出していた。

そんな時だった。

リリンベルの下にメッセージが届く。


送り主はダームスタチスだった。


『そっちは順調か?』

「ああ。何の問題もない」

『そっか。じゃあそろそろ俺を呼んでもらえるか?』

「わかった。いいだろう」


リリンベルはインベントリから青色の宝石を取り出しそのまま使用した。

その宝石は「招来の宝玉」。

設定した対象を自分の近くに呼び寄せるアイテムだ。

これはダームスタチスが展開した【完全防壁ロイヤルガード】の資材の余りで作ったアイテムだった。

これと同じものをメーフラも渡されていて万が一の時はリリンベルが防衛に駆けつけられるようになっている。

また、メーフラは最後の奥の手として赤い宝石も渡されている。


リリンベルがそれを使用すると一瞬だけ光を放ち宝石が砕ける。

するとその場には先ほどまでいなかった骸骨の姿。


「ありがとう。じゃあ早速だけど僕も仕事をすることにしようか、おいで、ラスト」

「ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛」


ダームスタチスの呼びかけに応えて異形の死霊が現れる。


「さてラスト、壊そっか」

「ま゛あ゛あ゛あ゛があ゛あ゛ぜぇ゛でぇ゛え゛ぇ゛え゛」


死霊の目は21ありその中には暗闇の中でも問題なく見えるものもあった。

穢れの末路ラスト・アインリーン】はその眼で敵を見つけて走り出してしまった。

そしてその太い腕でとある男の足を掴みそれを顔の前まで持っていった。


「うわっ、何が………うわああああああああああ!! ば、化け物!!」

「ごわ゛ずう゛う゛ぅ゛」


いくら暗闇で見えないといっても目の前数十センチの至近距離なら人族の目でも問題なく見えた。

その21の目と、三日月型に開くその口が。


死霊は恐怖に叫び声を上げる男を横の壁に叩きつけた。

男のHPが1割弱削れる。リリンが堅そうなのを残しておいたのがここで響いた。

男は死霊の攻撃をそれなりに耐えられそうだった。

だが、恐怖はここからだ。


一撃で壊れない男に対して死霊はそれを「丈夫な武器」として認識した。

するとその笑みを一層深めて男の足を掴んだまま振り回して壁に叩きつけまくった。


ガンガンと男の鎧が、そして体が壁に叩きつけられる音が幾度となく響きそしてついには壁が崩落した。

壁が壊れるほどの衝撃に耐えきれなかった男はそのまま壊れて消えてしまった。


だが、きっとそれで幸せだっただろう。

彼はこう思っているはずだ。


――――やっと終わったと。


その後、【穢れの末路ラスト・アインリーン】という名の死霊が暴れまわり城を壊し始めた。

外からの攻撃は耐えられても、中からの直接攻撃は防げなかったみたいだ。

ゴリゴリと城の耐久度が減っていく。

人族は城の中で起こっている騒ぎにいち早く駆けつけたいと思ってもそれができないでいた。


人族は一度魔族の包囲を突破した。

だが城の中で騒ぎが起こり始めたときには何故かその包囲が再び形成されていたのだ。

しかし今回は囲って閉じ込めておくためのものではなかった。

魔族の包囲は今度は人族をなるべく長い間城の中に帰さないようにという意味の防壁へと姿を変えていた。


魔族の包囲の外に一度逃れた組はこれを突破しようと奮起するも、孤立してしまった状態では思うようにはいかなかった。

防壁となる魔族を挟撃しようにも包囲の内側の者たちは城の中に戻り破壊活動を止めようと躍起になっていた。


人族の城が落ちるのは時間の問題だった。















そして魔族の城では…………


「ふふ、よく来ましたね勇者たち。私がここの王であるメーフラ。ここを欲するというのなら、王である私を倒して奪い取ることです」


「くっ、姉ちゃんを倒さないと絶対に落ちない城とか反則だろ!!」



最強の姉と普通の弟とそのつれ2名が玉座の間で邂逅を果たしていた。



今年最後の更新になります。


Q、凛の種族って二重の影なのかそれとも二重の影のボス種なのか

A、今回ちょうど出てきましたが後者です。


Q、ダームさんは何級?

A、こいつちょっと難しくてですね。刺客でタイマンすれば騎士級もいいところです。罠を使えば聖までなら倒せます。


Q、感想は感想欄だけでやって

A、う〜ん………考えときます。あとあとがき欄にはそこまで重要な情報乗ってないから不快なら飛ばしても…………


Q、Looking forward to the next episode!

A、今回の話期待に添えているだろうか不安。とりあえず頑張りはしました。


前々回のボスラッシュの答え合わせ。

上から順に

エクスデス、DIO、ルードゲート、マルヴァージア、ラケル、漆黒の騎士、モモンガ様、ファニーヴァレンタイン、りゅうおう、フリーザ、戸愚呂弟、バーン、ZONE、アンチスパイラル、鳳凰の一輝、球磨川さん

をイメージして書いています。

………あと一応、人形キャラで1番上のやつわからない人が多そうなので記しておきますとオディーリアさんというキャラです


ブックマーク、pt評価をよろしくお願いします。



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お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
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