天からの逃亡者
魔族の攻撃側のお話。需要があるかわからなかったから掲示板回で何があったかだけを補足して流そうかな〜って思ってたらみたいとのコメントがあったので少し予定を変更して書くことにしました。
時間としてはメーフラが1人楽しく演技の練習をしている時、人族の本拠地である城への襲撃が始まっていた。
魔族たちは夜の闇に隠れて城を囲むように少しずつ接近したため、人族プレイヤーたちがそれに気づいたのはもう攻撃が始まるという場面になった時であった。
「魔族プレイヤーたちが攻めてきているぞ!!」「方向はどっちからだ?」
「全方向だ! もう既に包囲されている!」
「何っ、どうして今まで誰も気づかなかった!?」
「知らねえよ。だがもうそこまできていることは確かだ。迎撃に出るぞ!」
もう分かっているとは思うが人族は重大な指揮官不足に陥っている。
そのため戦場での行動は基本的に各々の判断に委ねられているのだ。
早く城を守らねば。
人族プレイヤーたちに芽生えたその気持ちはいらぬ焦りを生み早く魔族プレイヤーの数を減らすべきだという判断ミスを生む。
1人、真っ先に襲撃に気づいたプレイヤーは大声でその事実だけを告げて突撃をかましてしまった。
結果、浮いた駒となったその男は集中攻撃を受けてしまい復活待機状態になった。
それを見たからかそれに続くものは少なかった。
「囲まれてはいるが数はこっちの方が上だ。1人で動くな! 最低限4人以上で動け!」
誰が叫んだかそんな声が城の中に響き渡る。
現状、魔族プレイヤーと人族プレイヤーが正面から殴り合えばよっぽどのことがない限り人族プレイヤーが競り勝つだろうと予想されていた。
それだけ攻めの魔族と守りの人族の数の差は圧倒的だった。
人族の城からはまるで蜂の巣を突いたかのように次々と戦力が各地に散らばっていく。
その光景を1人、少し離れた丘の上で見ている男がいた。
彼の名前はダームスタチス。
今回の戦の指揮官を買って出た男であり、誰よりもこの戦いにかける思いが熱い男でもあった。
彼は遠くから双眼鏡を使い戦場を俯瞰しながらメッセージを駆使して分隊長に任命したものたちと連絡を取り合っている。
『こちら正面の巨人グループ、人族の数が多くなってきているがどうしたらいい?』
「それなら少し引き気味に戦ってくれ。そして突出したやつから遠距離攻撃で叩け、触りにいくのは絶対なしな」
『了解』
『ダームさん、城から見て北東に配置してあるゴブリン部隊のところに突破力が高いやつらが集まってきている。これはどうする?』
「道を空けてやれ。お前らの後ろにいるマッドマンのグループに足を潰させろ」
『おっけ、マッドマンは確か俺たちから見て南西に埋まってたよな?』
「おう。気をつけろよ」
『はいはいダームさん、こちらエターシャです。どうやら人族は城の緊急脱出通路を警戒している人はほとんどいないみたいです』
「それはありがたいな。エターシャさんたちは引き続きそこに潜伏しておいてくれ」
『りょうかーい』
ひっきりなしに送られてくる報告を1つ1つ丁寧に返すダームスタチス。
彼は指揮に徹するために戦場から離れた場所に隠れていたのだ。
戦況を聴きながら指示を出す彼に焦りなどという感情はなかった。
もしこの場で攻めきれず自分たちが全滅したとしても城には最強の守りを設置した。
このゲームの中にいるほとんどの人間が正確には知らない恐ろしい彼女がいる限り城は落とされない。
それに、ここで負けても落とした砦の本数では優っている。
彼からしたら負けたとしても容易に挽回が利く戦いなのだ。
『こちらドゲザだ。水路を通って中庭への潜入が完了した。いつ仕掛ける?』
「もう少し待ってくれ。他の潜伏班はどうだ?」
『こちら装飾班、間抜けなあいつらは一切気づかず私の目の前を通り過ぎてってるよー。つまり、準備完了ってことだね』
『こちら影のリンだ。乱戦の影に隠れて城内への侵入に成功した。危なそうな戦場の後ろから撃とうか?』
「装飾はおっけー、リリンさんはもうちょっと待ってくれ。敵の近くで気づかれていないのは見た目よりアドバンテージを稼げる。ということでドゲザさん、やってくれ」
『おうよ。いくぞお前ら、スライムの意地を見せてやれ!!』
ダームスタチスは潜伏に向いた種族のプレイヤーは乱戦を利用して城に潜入する指示を出していた。
スライムは水路を通って、装飾はなに食わぬ顔で、影は悠々と城への潜入を果たせた。
彼の下へ届いた情報によると人族プレイヤーはかなりの数が迎撃に出ていて城の中は空いているみたいだった。
一応警戒もしているらしいが誰も中に魔族が隠れているとは考えていないみたいだった。
「ふふっ、人間、侵入されることを警戒していると侵入されているって気づかないものだからね」
ダームスタチスは1人暗闇の丘でほくそ笑む。
骨の顔のため表情が動くことはないが、噛み締められた歯がどことなく嬉しそうに見える。
だがその表情もつかの間、彼はすぐに気を引き締めて報告を聞く。
『報告、人族の食糧砦から我らの城に向かって移動の気配があるであります』
「数は?」
『えっと、だいたい5000くらいかな?』
「それなら打ち合わせ通り森の中から犬型たちで吠えて見えているぞと知らせてやれ」
『それと、1匹空を飛んですごい速度で城に向かったやつがいるけどどうしますか?』
「む、空………飛行型の魔物をテイムしていたやつがいたのか。数は?」
『1匹だけ飛んでいきました。多分ですがそいつらには我々が伏せていることがバレていたのでしょうね』
「1匹か、ならばよし。捨て置け。そっちはできるだけ魔法職を削ってくれ。最悪戦士職は全員残ったまま城に入られても構わん」
『いえっさー』
「よっ、随分と楽しそうじゃねえか」
ダームスタチスが遠くにいる仲間に指示を飛ばすとそれから少しして彼に近づきながら話しかける男が現れた。
「君は、確かアークだったかな?」
「お、俺のことを知っているのか。ま、俺は最強だからな」
「アーク………最強の一角を目の当たりにしておきながらもそれから目を背けた男か」
ダームスタチスは両陣営のトッププレイヤーの情報は押さえている。
その中でも彼にとってアークとジャーグルは1つ警戒レベルが高いプレイヤーとして記憶に残っていた。
「なんの話だよ」
「剣神アスタリスクと戦ったんだってな。で、戦ってみてどうだった?」
「お前………まさかお前もあの世界に……」
「ああそうさ。俺も一応刺客プレイヤーだったよ。最近ではこっちにハマってるけどね。で、どうだった?」
「どうだったもこうだったもねえよ。あいつは化け物だった。それだけだ」
「へぇ、あの人は化け物で君は自分を人だと言うからそれから目を背けたんだな」
ダームスタチスは嘲笑をしながらそう言い放つ。
それに対しアークは苛立ちを見せた。
まるで触れられたくないところに指を突っ込まれたかのような渋い顔をする。
アークはかつて剣神に挑む大衆の1人であり、何もできずに切り倒された男でもある。
彼は人に自慢できるくらいに強くなったと思っていた。だが、その自信は見もしないで斬り伏せられた時に喪失してしまっていた。
以来、彼は刺客の世界から逃げて技量の低いMOHに落ちてきたのだ。
「ちげえよ。俺はあのバカどもに付き合ってられなくなっただけだ」
「ああ、確かにあの世界で戦う人はみんなバカだな。あそこまでバカになれるからこそ強いんだと実感するレベルだよ。まぁ、君はそのバカになれずに逃げてきたらしいが」
「うるせえ!! 俺がどの世界で戦おうが勝手だろうがよ!! そもそもおめえもこっちに逃げてきてるんじゃねえか!」
「それもそうだな」
こう言ってはいるがダームスタチスが刺客をやめた理由は別に向上心を失いお山の大将をするためではなかった。
彼のメインでプレイしていたゲームのタイトルは『THE・謀略』であり戦術シミュレーションゲームだ。
それゆえそれをかなりやり込んでいたダームではあったが基本能力は他の刺客民にも劣っていた。
そしてそれ以上に彼があの世界から退いた理由は
(まぁ、あの化け物たちに戦術とか関係ないからな)
というものであった。
いくら完璧に罠にかけても簡単に抜け出されてしまうし猪突猛進しかしない刺客プレイヤーの指揮なんて取る意味がなかったのだ。
刺客プレイヤーたちをRPGのコマンドで例えるなら「たたかう」か「なかまをよぶ」くらいしかできない。
逃げることすら選択肢にないのだ。
だからダームスタチスは最低限人の話を聞く人がいそうなゲームに移動したのだ。
「チッ、嫌なこと思い出しちまったぜ。そもそも俺はこんなところで油売ってる場合じゃねえってのによ」
「なら早く引き返すんだな。俺はここで戦場でも見ているよ」
「はっ、そうやって流れで生き残ろうったってそうはいかねえぜ。昼間は化け物人形相手に油断して不覚を取ってしまったが、お前程度なら………」
「そうか。引かないか………」
「そういうこった。大人しく俺にやられろ」
アークはダームスタチスを倒すことができれば魔族の連携が乱れると考えた。
そしてその間に自分が昼の人形のように無双すればそれで勝利を収められると。
アークは剣を構えてダームスタチスと対峙した。
アークの目には目の前の骨がてんで素人に見えた。
いや、素人よりは戦えるかな?程度には思っていた。
だが、いずれにせよ自分の敵ではないと判断した。
だから彼はまっすぐ飛び込んだ。
先ほどの会話による怒りもある。鬱憤を晴らすために目の前の骨を切り壊してやるつもりでまっすぐと…………
あと二歩で手が届く位置まで近づける。アークがそう思った時だった。
「あ、そういえば言ってなかった」
アークの視界が下にズレた。
まるでそこに地面がなかったかのように地面を踏むはずの足がからぶったのだ。
「何がっ……」
「こっちは罠を仕掛けるのが得意なんだよ。………この世界には魔法とかいう素敵システムもあるしな」
ダームスタチスの周りには彼がここに陣取った時点で大量の罠が仕掛けられていた。
アークが踏み抜いたのはその中の1つ、【土魔法】によって表面はそのままに作られた空洞――――落とし穴であった。
「卑怯、な………な!?」
アークが落ちた視界を恨みがましい目で上にあげた時、彼の視界にはおぞましい化け物が立っていた。
人型の魔物。
その魔物は5頭身で頭が大きめであり、その顔は21個の乱雑に配置された目と大きな口が開かれている。
頭に対して小さめな体は肩から先が丸太のように太く、かと思えば胸から下は幼稚園児のような小さな体をしている。
その魔物の名を【穢れの末路】と言った。
ダームスタチスの相棒とも言える死霊の一体だ。
「ラスト、やれ」
「ギュヴヴァ゛ァ゛ィ゛ィ゛イ゛イ゛」
その異形はパートナーからの指示を受けるとその21もある目をアークに向けた。
大量の目から注目された彼は一瞬萎縮したが手の中にある剣の感覚を思い出して気を取り直した。
そしてハマっていた足を地面から抜き出して目の前の死霊を倒すことを決意した。
だが、彼が地面から足を抜き出すと同時に逆側の足裏に小爆発が起きた。
足裏から伝わってくる思いがけない衝撃にアークは転倒はしないまでもよろめいた。
そしてその隙をついた死霊がその太い両腕でアークを抱きしめた。
「ひっ、離せ!!」
アークは気持ち悪い抱擁を受けながらもなんとか剣を死霊に突き立てる。
だが手から伝わってくる感触はおおよそ「斬った」と言えるものではなく、どちらかというと「埋まった」と言ったほうが正しいものであった。
「ラストの体は見ての通り腐肉でできていてね。頭部以外はダメージがないんだ」
冥土の土産とばかりにダームスタチスはそのことを教えてやった。
それを聞いたアークは死霊に埋まってしまった剣を引き抜こうとするが――――
それより死霊がアークを絞め殺すほうが早かった。
その太い腕で抱擁されたアークはその瞬間から万力のような力で押しつぶされていたのだ。
アークが動かなくなり、少し後に消えていくのを見たダームスタチスは大きくため息をついた。
「はぁ、挑発に乗ってまっすぐ来てくれたから良かったものを………割と危なかったな。ラスト、ありがとう。ここで一緒に戦いの行く末でも見守っていようか」
彼は冷や汗をかいている気分になりながら再びそこに腰を下ろし指揮を再開した。
イベントは後2話か3話で終わるかな?
今までほぼ全ての感想を拾うようにしてやってきていたのですが、感想欄で攻撃的な意見を拾われると不快になるみたいなやつがあったので今回からは全部拾うのはやめようかなって思っています。
ただ1つ言いたいのが、作者は別にあれらの感想に対してイラついてはいません。
作者は悪口を言われてダメージを受けるだけでイラッとはこないタイプの人間なのです。
後、これで感想拾われなくなっても文句言わないでくださいよ?
Q、THE・観光名所というパワータイトルについて
A、THE・観光名所は地球をそのままVR空間に落とし込んだようなゲームです。
ただ、現実と違うのはホテルの宿泊費と飛行機や電車の料金などが全て0というだけです。
この作品は時間はあってもお金がない人のために気軽に旅行へ行けるようにと例の会社が作り上げた最高傑作でありTHEシリーズで1番の売り上げを記録しました。
ただ、この作品は観光事業やらなんやらから訴えられ裁判になった………という設定があります。
Q、ボスの演技練習について、答え合わせとかないの?調べてもわからないやつが………
A、では次回の後書きにて答え合わせをしましょうか。まぁ、2つか3つほど出てこないだろうな〜って思いながら混ぜたやつがあるから聞かれるとは思ってた。
Q、プレイヤーボスって人でも・・・・
A、なれません。ただしその代わりに人族は条件さえ満たせば全てのスキルを覚えることができます。
逆に魔族は種族によっては覚えられないスキルなどが結構あります。
Q、番外へのヘイト高くない?
A、番外さんはタンク職だから。
Q、小ネタ多くないかな?
A、実はあれは作者が疲れている時に執筆を頑張れるように書いているものなのです。
Q、クレーマーに負けないで自分の作品を書いて!
A、まぁ、今回の要望くらいのやつなら聞いてもいいよね?
追伸、創華の強さに対して強すぎだなんだ言っている人がそこそこいますが、今後弱体化パッチを当てるつもりはありませんのでご了承ください。
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