劇毒と爆破と戦いと
私は今日のために用意しておいたドレスを身にまとって歩き始める。
このドレスの名前は「浄化のドレス」、かつてカタコンベで手に入れた布を使ってこしらえた装備である。
使った布の名前は「不浄の絹布」というアイテムだったのだが、聖銀の糸を使ってドレスに仕立て上げたら清められたらしい。
聖銀には名前通り聖属性が宿っているみたいなのだ。
それは蛇腹剣も例外ではない。
つまり今の私はゴーストであろうが攻撃できる。
まぁ、人に向けてもその属性が意味を成すかと言われても困るんだけどね。
「うわぁ〜、メーフラさん綺麗ですね」
「ふふっ、エターシャさんありがとうございます」
「おねえちゃん、すっごいきれーなの」
私の姿を見て寄ってきたエターシャさんの言葉に感謝を告げると同時に私の足元で幼い声が聞こえた。
私が視線を少し下に落とすとそこには小さな女の子が目を輝かせて私を見ていた。
彼女の名前は「レーナ」
以前人形狩りの時に森の外にまで送り届けた人形の1人だ。
そして最後の1人の人形は彼女のお父さんらしい。
私が駆けつけた時にはお父さん1人でレーナちゃんを守りきっていた。
「確かに、そのドレスはすごい似合ってるな」
「グラロさんのそれは軍服ですか? そちらもお似合いですよ」
「そうか。ありがとう」
レーナちゃんのお父さんのグラロさんは少しだけ遅れて合流して賛辞を送ってくれる。
こうやってみんなから褒められると服を作った甲斐があるってやつだ。
「ねえねえおねえちゃん。これ、この前のお礼なの!!」
「あらあら、これはお薬ですか?」
「うん! れーな、がんばって作ったの!」
レーナちゃんがインベントリから薬瓶を1つ取り出して差し出してくる。
ちらりとグラロさんの方を見ると彼は小さく頷いて「受け取ってやってくれ」と目で訴えかけてくる。
断る理由もないので私はそれを受け取って念のためどんなアイテムなのか確認した。
――――――――――――――――
特級劇毒 レア度:特有
世にも珍しい特級毒物。
状態異常耐性大を確実に、極大を確率で貫通する。
無色無臭なのが非常にタチが悪い。
間違っても飲まないように!!
――――――――――――――――
………
私は無言でグラロさんの方を見た。
彼の目は「何も言うな」と語っている。
続けて私はレーナちゃんの方を見る。
彼女は純粋な目で私を見ていた。どうにも褒めてほしそうだった。
「わ、わー。すごいですね。とても助かります」
「すごい!!? ねえねえれーなすごい!!?」
「ええ、これを作れるならすごいと思いますよ」
だってこれ、特有アイテムだもの。レア度だけでいえば聖銀たるミスリルよりも上だもの。
説明文が世にも珍しいって言ってるもの。
「わー、おねえさんうれしそう。だからもっとあげるね!!」
「えっ、まだあるんですか?」
「うん! おねえちゃんにいっぱいかんしゃするためにいっぱい作ったの!」
そう言って取り出されたのは同じ劇毒が入ったケージだった。
ケージの中には36本の瓶が綺麗に並んでいる。
彼女は私に受け取ってほしそうにそれを差し出してきていた。
私は再びグラロさんの方に視線をやり「これはどういうことか」と目で問いかける。
彼は「何も言わずに受け取れ」としか語らなかった。
仕方ない。小さな女の子が私のために作ってくれたものだ。受け取ってあげることにしよう。
「ありがとうございます。お薬を作るの、好きなんですか?」
「ママが看護師さんなの。れーなもママみたいにいろんな人にお薬で元気になってもらいたいの!」
「そうですか。立派ですね」
私は微笑みながら返したが内心冷や汗をかいていた。
だってこれ、どう見ても癒す側の薬じゃないし。
これがゲームのことだからいいけどもしこれを現実で作り出したりしたらどうなるのだろうか?
……やめよう。
考えても仕方がない。きっとグラロさんとかその奥さんとかがちゃんとした教育をするはずだ。
私は無言でレーナちゃんの頭を撫でた。
そこに毒々しい色をした見慣れたスライムが現れる。
「よっ、ボスの嬢ちゃん。戦いの準備は万全か?」
「あ、ドゲザさん。1つ質問があるんですけど、ドゲザさんの毒耐性ってどのくらいありますか?」
「そりゃあ自分が毒物だからな。一応毒は無効だが……それがどうかしたのか?」
「なら大丈夫ですね。このお薬をおひとつ進呈しましょう」
「なんだこりゃ?」
「すんごいお薬です。一応毒なんで気をつけてくださいね」
「そだよドゲザさん。メーフラさんがこれを見た時一瞬顔をひきつらせるくらいの薬だからね。奥の手として取っておくのはいいかもしれないよ」
「6対1でも常に澄まし顔なボスの嬢ちゃんの表情を変えさせるとか、やばそうだな」
どうやらさっきの私は顔が引きつってたらしい。
まぁ、それくらいやばいからねこれ。取り扱いには注意したほうがいいよ。
ただしドゲザさんなら何かの役には立てられそうだからね。
そう思った私は特級劇毒を一瓶ドゲザさんに預けておくことにした。
「……ふ〜む。それにしてもやべえ毒か」
「はい。城を攻める時などに水に溶かしてはいかがですか?」
「それもいいが……この毒の強さにもよるがそれじゃあ足りねえだろうな……よし、増やすか」
「足りないならまだいっぱいあります……って増やす?」
「おう、ちょっと見てな」
ドゲザさんはそう言って特級劇毒の瓶の栓を抜いて自分にぶちまけた。
割と豪快にかけたのだが周りに飛び散ったりしていないところが地味にすごい。
ってええっ!!? なんで!?
「これでよしっと。ありがとなボスの嬢ちゃん、この薬の代金はまた今度払わせてもらうぜ」
「それはいいのですけど、今何をしたのですか?」
「ああ、毒物スライムの種族特性として一度取り込んだことのある毒物は自分で生成できるようになるんだよ。ま、MPを消費するけどな」
「そうでしたか。納得です」
あれを好きに作られるようになりましたか。
今私は地味にとんでもないスライムを作り出したのでは?
きっと役にたつだろう的なノリで渡したけど、その効果は想像以上だったみたいだ。
取り込んだ毒物を好きに生成できる能力か。
………そういえば、私も何か持ってたな。
私は自分のアイテムインベントリを漁りそれを取り出した。
「ドゲザさん、ちょっと口を開けてもらえますか?」
「どうした、ってあぁ、それもくれるのか?」
「はい、もしかしたら作れるようになるかもしれないので取り込んでもらってもいいですか?」
「おう、いいぞ」
私はもし取り込めなかった時のことを考えて念のため初めに一滴だけドゲザさんにそれを落とした。
すると……
「ぎゃああああああああああああ!!」
「ど、ドゲザさん!!? メーフラさん、いったい何を飲ませたんですか!!?」
「致命の蟻酸というアイテムなのですが、どうやらこれは複製できそうにありませんね」
残念。
「はあっ、はあっ、まさか一滴で体力が2割も持っていかれるとは思わなかったぜ」
結果ドゲザさんは2割の体力を奪われる結果になった。
一滴で通常プレイヤーのHPを2割も持っていく蟻酸って地味に怖いな。
私も数滴もらったけどあんまり削られていなかったのは私の思っている以上にボスプレイヤーのステータスって高いんだなと思った。
ちなみに、致命の蟻酸は300mlくらいある。
ドゲザさん60人分の命を刈り取れる量だね。
「さて、お話はこれくらいにして砦の防衛の準備をしましょう。そろそろ戦争開始時間ですしね」
「ひでえよ。人を5分の1ほど殺しておきながらさらっと切り替えるところとか」
「すらいむさんだいじょーぶ? お薬あるよ?」
「あぁ、ありがとう。………あ、これさっきの毒だ。まぁ、俺たちゃこれでもHP回復できるけどよ」
こうして戦いの前の談笑は終わり私たちはそれぞれの持ち場につくことになった。
私は中央、資材砦の防衛のため中央の砦へ向かう。
城から砦までの距離は地図を見る限り大体100kmくらいだ。
だが城から砦へは転送魔法陣のようなものでひとっ飛びできるようになっている。
ただしこれ、転送は一方通行なので帰るのには100km走破しなければならない。
調子に乗って前線に戦力を送りまくると城の守りが薄くなって辛くなったりするのだ。
この戦い、資材砦が重要とダームさんは言っていたがなんやかんや言ってもお城を守らないと負けちゃうからね。
龍王を守るために玉将を差し出すでは意味がないということだ。
だから私たち魔族は多くの戦力を城に常駐させて攻めるのは少数精鋭だ。
私はその転送魔法陣の上に乗って防衛地点である中央砦へやってきた。
そこにはもう既に今回一緒に戦うことになる仲間たちがいて作戦の確認を行っていた。
「この作戦、割とメーフラさんにかかっている感じがするんですけど本当にいいんですか?」
私がここについてから1テンポ遅れてエターシャさんが現れ私にそんなことを問いかけてくる。
確かに今回の作戦は私が早々にやられてしまうと一気に厳しいものになるだろう。
はじめにそれを聞いた時には正気を疑った。
だが、ダームさんはそれを全く不可能だと思っていなかったみたいだった。
もしかして他の世界での私を知ってたりするのかな?
「任せてください。エターシャさんは知らないかもしれませんが、集団戦闘の経験は結構ある方なのですよ私」
「それでもこれは異常だとしか……どうしてダームさんはこんな作戦を?」
「わかりませんが、見ている限り彼はこの戦いで最善を尽くすつもりでした。だから彼はこれが最善だと判断したのでしょう。それに、もし私がヘマしてもそれイコール負けというわけではありません。復活するまでの時間稼ぎは始めの段階で終えているのですぐに戦線復帰できますよ」
「これが最善……。本当にできるんですか?」
「やれるところまでやってみましょう! もし負けちゃったら、後は任せましたよ」
「わかりました。後は任されました!!」
この戦い、死亡したプレイヤーはその後戦闘に参加できないということはない。
一定時間の後に本拠地である城のとある場所にリスポーンするようになっているらしい。
ただし、復活するとその場合イベントエリア内ではステータスの3分の1が減少するバッドステータスが1つつけられる。
つまり3回死んだら実質的な戦闘不能。逆にいえば3回死ぬまでは何か役割はもてるだろう。
私のステータスはボスということでそれなりに高いと思われる。
なにせ3人分のパーティ枠をとるのだ。
つまり2回死んでも普通のプレイヤー程度には仕事ができるはずだ。
エターシャさんは微妙に不安を感じながらも一応は納得して準備に取り掛かり始めた。
砦の中はもう少しで戦いが始まるということもあってピリピリしている。
そんな中私はダームさんが城の機能を使って生み出した爆薬を持って1人砦の外に歩いた。
今回の私の防衛目標である中央砦はその前に大きな川が流れている。
そこに大きな石橋が架けられておりそれを渡って攻め込んでくることは容易に想像できた。
だからこそのこの作戦。
私は持ってきた爆薬を橋において回り静かにその時を待った。
そしてついにその時が来る。
世界全体にアナウンスが掛けられる。
〈〈プレイ中の全てのプレイヤーにお知らせします。ただいまの時刻をもちまして第1回イベント、攻城戦を開戦します。参加する方はUIからイベントエリアへお越しください〉〉
そのアナウンスが鳴り響くと同時に私の後方にある自分たちの砦から1つの火の玉が放たれた。
そしてそれは狙い違わず石橋に着弾し
ドゴオオオオオオオン!!
という爆音を響かせてから陸と陸を繋ぐ石橋は木っ端微塵に破壊された。
そして私は砦側から川を挟んで向こう側に1人
取り残される形になる。
これがダームさんが考えた今回の作戦。
その作戦概要は敵と直接ぶつかるのは私1人で残りは川の向こう側や砦の中から援護をするというものだ。
そのために移動手段である橋を壊した。
渡ろうとするなら新たに何か橋をかけるか、かなり上流にある橋を使う、それかそれなりに深くて幅もあるこの川を歩いて渡るしかない。
それを聞いたエターシャさんや他の人が正気を疑ってもおかしくはない。
私はいつ戦闘が始まってもいいように両方の手に蛇腹剣を握った。
すると1時間ほど待っただろうか?
敵の攻撃部隊と言う名の大群が私たちの前に姿を現した。
さぁ、戦闘開始だ。
◇
彼ら人族プレイヤーは慢心していた。
戦いの場の条件はほとんど同じ。しかし数はこちらの方が上だ。
死亡しても蘇られるというのなら数の差は単純計算3倍程度には膨れ上がるだろう。
それに魔族プレイヤーは普段と違う体の形をしているプレイヤーが多くそれを使いこなせていないとまできている。
適当に数で押しつぶせば簡単に勝利することができるだろうと思っていた。
だが彼らは知ることになる。
世の中にはどれだけ数がいようと関係ないケースもあるのだと………。
人族プレイヤーは個々人に大まかな役割を与えられた後はそれぞれの判断に任せて行動するようになっていた。
例えばまず真っ先に守りと攻めに人を分ける。
それから攻めの中で、そして守りの中でどこの砦を攻めるか守るかなどを割り振られていた。
だが、あれだけの数の中で完全に情報を伝達させることは難しく、仮に指示が通ったとしても別に指示を出したのは上官でもなんでもなくただの同じプレイヤーだ。
素直に指示を聞くプレイヤーはそれほどいなかった。
どうしても守るより攻めたい。
暇な警備をしているより楽しく破壊をしたい。
そういう気持ちがありほとんどのプレイヤーが役割関係なしに攻撃部隊にくっついていった。
中央砦を攻める部隊にもそのような人物は多く存在していた。
そのため想像以上の数が行軍していることになる。
彼らは敵を蹂躙する瞬間を今か今かと待ちわびていた。
「おい、敵の砦まで後どれくらいだよ」
「多分もう少しで着くはずだ。ええっと、ちょうどあの川を越えて少し行ったくらいのはず」
「そっか、ならもう少しだな」
もう少しだと思うと人たちの足は少し速くなる。
そして彼らはそいつを見つけた。
「ん?」
「どうした?」
「いや、1人だけ川の前に立ってるやつがいる」
「………おおかた指示を聞かずに1人で勝手に動いた魔族プレイヤーだろうな」
「よしっ、じゃあ俺がパパッと倒してきてやろう。このイベントのファーストキルは俺がいただくぜ」
「あ、ちょっと待て! ずるいぞ!」
まだ川を越える前だというのに発見された人型の魔族プレイヤー。
それを仕留めようと我先に数人が飛び出した。
その魔族プレイヤーも彼らに気づいたらしく武器を構える。
使用武器は双剣のように見えた。
ならば魔法などで迎撃はされない。近接武器なら近づいて仕舞えば――――
1番初めに飛び出したプレイヤーがそう考えた瞬間、その魔族プレイヤー――メーフラの蛇腹剣の間合いに入り伸びてきた剣に首をズタズタにされてHPが全損した。
「えっ?」
あっけにとられたもう1人の胴体に剣が巻きつき、次の瞬間には少しの牽引感とともに体を引き裂かれる。
その男はVIT偏重かつ一定時間ごとに一度だけHPが0になる時に1耐える【覚悟】というとあるクエストで習得できるスキルを覚えていた。
だが、その男のHPはいくつもの刃に次々と削られて【覚悟】の効果も発動したがそのまま逝ってしまった。
「くっ、距離を取れ!!」
メーフラを我先に仕留めようとした男だが伸びてくる蛇腹剣に気圧されて後退を判断した。
みっともなく逃げるように蛇腹剣の間合いから逃れる男は今度は注意深くメーフラを見た。
そして遠目だが確認した。
彼女のアイコンの色がレッドプレイヤーとは違う赤色をしていることを。
「接敵!! 対象は1人、ボスプレイヤーだ!!」
それを確認した瞬間に男はみんなにそれを伝えるべく大声で叫んだ。
するとそれを引き継ぐかのように別の人が叫ぶ。
「敵は10メートル近い射程を持っているがそれ以上は攻撃が届かないはずだ!!」
「なんとかしろ魔職!」
「じゃあタンクは前に出て私たちの方にあれがこないように止めてよね!」
強力な敵を発見した彼らは即座に作戦を組み立て始める。
物理型の魔物と戦う際の定番、タンクが止めて魔職が叩くだ。
しかしその指示にこの軍のタンクの1人であるガトは動かなかった。ただ彼は様子を見守るだけだ。
タンクたちは前に出て、そして魔職たちが魔法の発動の準備を始める。
魔法系のスキルはすぐには発動しない。個別に設定された詠唱時間内は移動すらできない。
メーフラは詠唱を始めた魔職を見て大きく前方に跳躍して蛇腹剣で射程内に入った敵を次々と屠りながら距離を詰めた。
人族プレイヤーには真っ黒なドレスを身に纏い振るわれる聖なる輝きを放つ2つの蛇腹剣がまるで翼のように映った。
メーフラには盾なんてものは意味をなさない。
剣の神はわずかにでも隙間が空いていればそこに攻撃をねじ込むことができる。
メーフラの剣はタンク職の盾が守っていなかった脚を切り裂く。
人族プレイヤーには部位欠損なんていう概念は基本的に存在しない。
だが部位にダメージが入るとそのダメージに応じて動きに制限ができたりする。
脚を切り裂かれたタンクプレイヤーがバランスを崩し前のめりに倒れる。
そしてそれによって空いた隙間にもう1つの剣が伸びる。
それは魔法詠唱中の魔職の喉元に突き刺さった。
「魔法職はもっと下がれ、できれば部隊最後列に行くくらいまでさがるんだ!」
「そしてタンクはもっと前で詰めるようにしろ!! いくら強くとも相手は1人だ。多少犠牲は出るだろうが数で押しつぶすのも視野に入れろ!!」
薄い防御では簡単に抜かれると判断した人族プレイヤーたちはどんどんタンクを前に押し出してメーフラを押しつぶさんとする。
だが彼女はそれを着実に処理していく。
未だ彼女しか手にしていない聖銀製の刃は彼女の技も相まって鉄の武具など簡単に切り裂いた。
タンクたちはその意思とは裏腹に思うように前に進めてはいない。
そしてこの行為は魔職にも問題を生んだ。
味方が邪魔で攻撃がしづらいのだ。
タンクたちが次々と処理されているのが幸か不幸かメーフラと人族たちとの距離を開かせているため狙うこと自体は問題ない。
だがここは平原。少しでも高い場所にいれば問題ないのだがそんなものはない。
目の前を埋め尽くす人が邪魔で狙いがつけられない。
「あんたら邪魔よ!! 早くどきなさい!」
「んなこと言っても簡単に移動できっかよ」
「じゃあせめて頭を下げなさい!」
「お、おう」
「じゃあいくわy………」
「おい、どうした?」
頭を下げても頭上を通過しない魔法に疑問を覚えた男が後ろをちらりと見た。
そこには頭に大きな矢がささった魔職の女性の姿。
彼女はすぐに死亡し姿を消した。
「きゃあああああ!!」
それを見た別の女性が悲鳴をあげた。
「いったい何があった!?」
「魔職が矢に貫かれた!! 矢の刺さり方からして前方からだ!」
「見えた! 確かに前から飛んできているぞ!」
「あれは………バリスタだ!! 砦からの攻撃だ!」
「はぁ!!? 」
「そんな装備砦についてなかったろうが!」
「わからん。魔族の生産職が何か作ったのかもしれん!」
そう、彼らのいう通り先ほど魔職の女性を貫いたのは砦からの射撃が原因だった。
彼らは初期資材を一部使い巨大な弩を開発していた。
メーフラは近接戦闘では負けないことをダームは確信していた。
だが、魔法攻撃が合わさるとどうなるかわからない。
だから彼は遠距離からの攻撃手段を用意させたのだ。
「くそっ、あれもどうにかしないといけないぞ!」
「誰か、川を渡ってあれを止めさせてこい!!」
「馬鹿野郎、あれが見えねえのか!」
川を渡るという指示が出たため先に気づいていた1人がそれを指差す。
そこには完膚なきまでに破壊された石橋の跡があった。
「あいつら………橋を破壊しやがったのか」
「どうする? これじゃあ渡れないぞ」
「だが一方的に攻撃されるのも癪だ。誰か川を泳いででも渡れ!!」
その指示を聞いた前線の人族が10人ほど川に向かう。ここを任されたメーフラとしてはその後ろ姿を切るべきはずだ。だが彼女は動かなかった。
彼らはそのまま川の中に飛び込んだ。
だが飛び込んだ数秒後、彼らはHPが全損してその場から姿を消すことになった。
「な、何が!!?」
「ふふっ、いいお仕事です」
メーフラは音でその光景を判断しながら小さくそう呟いた。
川の底にはサハギンという種族のプレイヤーが獲物が飛び込んでくることを今か今かと待ち構えている。
そこに無謀にも飛び込んだ人族は彼らの持つトライデントという三叉の槍に貫かれたのだ。
川の中に飛び込めば死が待ち受けていることはその一度のやりとりで人族は嫌というほど理解した。
そして目の前の化け物を倒さないと前に進むことができないことも………
だがメーフラを打ち取れる気配は今のところない。
彼女の間合いの半分ほど進めるものはいるがそれだけだった。
速度と威力が違いすぎるのだ。
「ははっ、なんであいつだけ無双ゲームやってんだよ。つーかあれなんの魔族だよ。人族じゃねえのかよ」
少しだけ絶望を感じ始めた1人が弱音を吐いた。
いつかは勝てるだろうがそれまでにどれだけ被害が出るだろうかと考えていた。
そんな彼を慰める声が1つ。
「案ずるな。あれは俺が倒そう」
「あんたは……確かさっき城の上でイキってた」
そこにはMOH人族プレイヤートップ勢の剣士、アークがいた。
彼がメーフラを、目の前の魔族を打ち倒すという言葉に士気が少しだけだが向上する。
「おお! あのアークが出るらしいぞ!」
「アークが!!?」
「あのさっき城の上で当たり前のことをさも名案のように叫び散らかしていた男が!?」
人族プレイヤーの反応は微妙に辛辣だった。しかしアークはそんなことを全く気にする様子はない。
彼は強者には批判はつきものだと思いそれを受け流していた。
人族のアークに対する認識は「態度がでかいが実力があるから言い返しにくい男」だった。
そんな実力はある男がメーフラの前に立って間合いギリギリの場所から彼女に対して話しかけ始めた。
「ふっ、君は強いな」
「………? はぁ、ありがとうございます?」
「だが、弱い。俺は本当の化け物を知っている」
「はいそうですか」
メーフラは律儀に話しかけてくる男に反応を返してあげていた。
だがその間にも彼女の剣は次々と敵対者を屠っていく。
「君は神を信じるかな?」
「神様ですか? まぁ、いてもいなくても同じですし、同じことなら信じたいと思っていますよ?」
「いいことを教えてやろう。神は存在する。俺はかつて剣の世界の神を見た」
「へ〜、神様を見たんですか。どんなでしたか?」
「神の名は剣神アスタリスクと言った。その神は身体能力は俺たちと同じだったが最低でも俺と同じレベルの連中を大量に集めても触れることすら叶わない。そんな剣の技を持っていた」
「………えっと、何の話でしたっけ?」
「つまりだ。神という最高峰を知った俺なら断言できる。俺なら君に勝てるとね」
「そうですか。ならそんなところにいないでかかってくるといいですよ」
メーフラは押し寄せてくるプレイヤーの処理という仕事があったため話半分程度にしか聞いていなかった。
だがその中で1つ、彼女の気を引いた言葉があった。
剣神アスタリスク。
その名前は彼女も知っていた。
『THE・刺客』の世界でのランキング3位の男の名前だ。
彼はメーフラと同じ剣神級だった。
彼女はそのアスタリスクという男と何度か剣を交わしたことがある。
その戦績は26勝0敗0分。
メーフラという神は完全にアスタリスクより強い神だ。
アスタリスクを知っていながらそれより強い彼女に勝てると思えるのはアークがバカだから……というわけではない。
その原因はメーフラにもある。
彼女は他の神級とは1つ、明白な違いがあった。
それは最低限戦いをさせてもらえるということだ。
1つ比較をしてみよう。
凛という弓の神は戦闘が始まったことすら認識させない遠距離からの一方的な射殺だ。
アスタリスクという剣の神は数十人で周りを囲んで同時に間合いに飛び込んだ場合全員が全員数秒経たずに斬り殺される。
ライスという槍の神は前に立った瞬間には体のどこかに穴を開けられている。
テルという斧の神は一振りで周りの敵全てを粉砕する。
そしてメーフラという剣の神はただ敵を切るだけ。
圧倒的力を見せることはせず、その戦いに勝利するために必要な力しか出さない。
それ故に他の神級に比べて戦えていると勘違いしてしまうのだ。
だがその実態はアスタリスクとの戦績を見れば明らかでどの神よりも勝利が難しい神となっていた。
凛が勝てるのは射程が長いからだ。
もし仮に100メートル程度しか距離を取らずに戦闘を開始した場合、勝利するのは9割9分9厘メーフラだ。
それ故、有識者の中ではメーフラは「勝てそうに見えて絶対に勝てない神級」と囁かれている。
そんなことは微塵も知ることはないアークは、かつて自分の見た神より強い神に挑むべく剣を構えて前にでた。
しかしその時メーフラはアークにはほとんど意識を割いておらず友人と弟のいる方向を見ていた。
まるで今一番の危険がそこから迫ってくるとでもいうように…………
これを書く前に「よーし今回は戦闘回だー」と思いながら書き始めて前半部分を書いたら思ったより文章量かさんで……それで◇の前で一度切ろうとしたけど微妙に文章量足りなくて……結果長くなりました。ごめんなさい。
まぁでも、長いほうが読み応えあっていいって意見もあるしね。気にしないことにしよう。
Q 、MHOにTHEシリーズのプレイヤーは2人以外にいるの?
A、今出ているキャラだとダームスタチスとアーク
そしてジャーグルですね
Q、感想欄の意見、物によっては返さなくてもいいんじゃない?
A、でもちゃんと意見読んでるよーって主張はしたい気もするんですよね〜
Q、MOHのステータスによる動きの制限とかどうなってる?
A、動きに関係があるのはAGIのステータスですね。これが低いと全身に重りをつけているときのような鈍重さになります。逆に高いと体が軽くなったかのように素早く動けます………AGIをあげても認識能力は強化されないのであげまくればそれだけ速く動けるかと言われると……多分速さをセーブして動かなきゃいけなくなるかな?
Q、刺客のプレイ人口は?
A、数千から一万くらいかなぁ?少なくとも十万はいない(正確な数は設定していない)
Q、百合まだー?
A、12月25日を待ちましょう。今の予定では24日に弟との話を投稿して25日にリンとの話を書く予定です。
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