表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/95

プレイヤーたちの殺意が高すぎてアダマンタイトが頼りないんだけど?


思わぬ展開でたった1人栞の部屋に入ることになった堅護。

彼がその部屋の扉を開けたときにまずはじめに思ったことは「うわっ、すごいいい匂いがする」だった。

彼はその香りに当てられて少しためらいながらもここで立ち尽くしていても仕方がないと思い意を決して部屋の中に入った。


(えっと、ここで待っていればいいんだよね?)


堅護は部屋の中をぐるりと首を回して見回してみた。

彼にとって女性の部屋に入るのはこれが初めてのことではない。

と言っても、姉のものしか経験がない。

だからこそ彼は何をしたらいいか分からずとりあえず栞の部屋の光景をその目に焼き付けておこうと思ったのだ。


堅護の姉である創華の部屋はいかにも女子という部屋であった。

床の上は綺麗に整頓されていてベッドの上には自作のぬいぐるみがいくつか並べられている。そんな部屋だ。


対して栞の部屋はいかにもお金持ちという部屋をしていた。

まず自分の家にある部屋より一回り大きい。その上ソファーやベッドなど目につく家具がどれも高級なものと一目でわかるほどだった。


そんな高額の家具たちがますます堅護のことを萎縮させてしまった。

結果


「おまたせ弟くん! ってあれ?どうしてそんな借りてきた猫みたいに縮こまっているの?」


堅護は部屋の真ん中、全ての家具から一定以上距離の取れるそこに正座をして座っていた。


「あ、栞さん」

「いや〜ごめんねこんなに何もないところで1人でまたせちゃって。でももう大丈夫! 準備できたよ!」

「準備?」

「あれ〜? もう忘れちゃったの? ほら、創華ちゃんに対抗する為の技術を手に入れるためにゲームをするからって話ししたじゃん!」

「そうでしたね」

「ということで、隣の部屋に君用のVR装置を用意しておいたから君はこっちからログインしてね!」


栞は正座のままで会話を続ける堅護の肩を掴んで立たせてそのまま隣の部屋まで引きずっていく。

途中堅護は引きずられながらも少しだけでも体が触れ合っているということに幸福感を覚えて半ば放心状態だったため気づいた時にはもう『THE・刺客』のキャラメイク画面に移っていた。









そして数分後、無事にキャラメイクを済ませた堅護はその世界に降り立った。

キャラは出来るだけ自分に近い見た目のものにしてあった。

色々理由はあるが、一番はそれがMOH内の姿と同じものだからだ。この世界は堅護にとってMOHの延長線上でしかなかった。

当然、名前も「ガト」だ。

このゲームは名前の重複が可能なのだ。


「あ、来た来た! お〜い!」


そこにあらかじめ新規プレイヤーのスタート地点で待ち構えていたフセンが手を振って寄ってくる。

彼女の見た目は大部分は変わらないが髪の毛や服などの装備が全体的に緑色のものだった。


「えっと、俺はここで何をやらされるんです? というかこのゲームはなんなんです?」

「あ、説明がまだだったね。この世界は『THE・刺客』の世界。あちらと同じくPVPを主体にしたオンラインゲームだね。ただ1つ違うことは陣営ごとではなくて全てのプレイヤーが敵だってことかな?」

「ん、んん? ということは俺はこの世界で対人戦を学ぶってことですか?」

「う〜ん、近いけどちょっと違うね。時にガトくん。君は私のPSプレイヤースキルについてどう思うかな?」


そう言われて堅護はここ二週間程のプレイを思い返す。

MOHの世界ではフセンは魔法職だ。自分が大盾使いというタンクをやっていることもあって基本的に彼女に攻撃がいくことはない。

ただしタンクが自分1人な以上どうしても群れた敵相手にヘイトを集めきれないことがあった。


だがその時フセンは見事な回避能力を発揮して敵の攻撃をいなしたのだ。

そしてそのまま体術だけで敵から逃げきった。


それを思い出した堅護は正直に答える。


「かなり高い? と思います」

「ぶっぶー! 正解は回避技能と逃げ足だけは最低限基準を満たしているレベルでしたー!!」

「あれが最低限!!?」

「うん、最低限。メーフラちゃんの前に私を放り出したとしたら多分5秒持たないよ。最悪1秒も時間が稼げないかも?」

「あの身のこなしで5秒持たないって、本当ですか?」

「うん。だから言ったでしょ? 最低限って。あなたの姉、メーフラちゃんはこの世界でもそれなりに有名人でかなり対人経験積んでいるからね。ちなみにこの世界での彼女の2つ名は「返り討ちのメーフラ」だよ!」

「返り討ちって、またかっこいいか悪いか微妙なところですね」

「そうだね。名前だけ聞けばそうだけどこの世界で堂々と道の真ん中を歩ける事からついた2つ名だからバカにはできないよ」

「あれ? その話だとこの世界じゃ道の真ん中って歩いたらダメなんですか?」

「まぁ、この街中は大丈夫だよ。セーフティエリア扱いだからね。歩けないのはゲーム側が用意してくれた街と街をつなぐ道の真ん中のことだよ」

「歩くとどうなるんですか?」

「う〜ん、あんまり口で言っても伝わらないだろうしチャチャッとこの世界の恐ろしさを教えてあげよう。えっと、ガトくんはこの世界でも大盾を使うよね?」

「はい。そうしようと思います」

「えっと確かインベントリに……あった、はいこれ「アダマンタイトの大盾」だよ。フセンお姉さんからのプレゼントだ」

「えっ? そんなに強そうな盾貰っていいんですか?」

「いいっていいって。私はそれを使わないし――――(正直盾の性能とかほとんど意味ないからね)ボソッ」

「えっ? 今何か言いましたか?」

「気のせいじゃない? えっと、ちょっと待ってね。さっきお姉ちゃんにこのゲームのことを教えるためのレクチャー役を頼んでおいたからもうすぐ…………あ、来た」


まるでタイミングを計ったのかと言いたくなるようなタイミングでフセンにフレンドメッセージというフレンド間で利用できるメールが送られてきた。

内容は『私は何をやればいい?』と簡潔に書かれていた。


「えっと『いつも通り撃ち抜いてくれればいいよ。ところで今どこにいる?』」


フセンが返信を送ると少ししてまたメッセージが送られてくる。

『ラザニアが美味しい街。つまりそこの北側だ』

『了解。じゃあ今から弟くんを北門から歩かせるから頼んだ』

『ところで、今思ったのだが私がこれをやるメリットとはなんだろうか? 弟くんの好感度か?』

『今度創華ちゃんの家に、そして部屋に行ってみたくない?』

『了解だ』


メールの内容を知らない堅護は不思議そうにメールのやり取りをするフセンを見ていた。

そしてそのやりとりが終わった後、フセンは笑顔でこう言った。


「さて、凛ねえがこのゲームのチュートリアルをしてくれるみたいだから北門から出発しよっか」

「わかりました。えっと、北って?」

「こっちだよ」


先導するフセンに黙ってついていくガト。10分ほどで東西南北に存在する街の入り口であるうちの1つ、北門の前にたどり着いた。


「さて、じゃあガトくんはここから出て次の街まで歩いてみて。道があるから迷わないはずだよ!」

「あれ? いきなりですか? というかフセンさんは一緒には来ないんですか?」

「うん。その必要はないからね。ほら、行った行った」

「そうですか。では行ってきます」


堅護は北門をくぐってそこから街の外に出た。彼の目には整備された広い道と平原が映っていた。

彼は先ほどまでのフセンの言動を少しだけ訝しみながらも指示通りに次の街に向かうことにした。


彼はセーフティエリアから出て静かに足を踏み出す。

一歩、二歩、三歩、四歩、、、そして、五歩目を踏み出そうとした時――――堅護は眉間に強い衝撃を感じ取ったと思うと次の瞬間にはこの世界にきた時と同じ場所に立っていた。


「あれ?」

「ふっふっふ、戻ってきてしまったみたいだね」

「うわあっ!! ってフセンさん。脅かさないでくださいよ」

「それで? どうだったかな?」

「どうって、ってあれ?フセンさんはどうやってここまで?」

「簡単な話だよ。私も街の外に無防備晒して歩いて行っただけだよ」

「ってことは?」

「うん、頭撃ち抜かれてデスしたんだね」

「は? 今なんて?」

「だから、私たちはさっきので一回死んだの」

「死んだ? 敵すら見えなかったんですけど何に殺されたんですか?」

「凛ねえにだね」

「どうやって?」

「弓矢だね。さっき北門から出てくる人全部撃ち抜いてってお願いしておいたからね」

「弓矢? 一体どこから?」

「隣街から」

「はいぃ?」

「信じられないでしょ? でもこれ事実なんだよね」

「えっと、隣街ってどれくらい離れているんですか?」

「えっと、ざっと8キロメートルくらいじゃないかな? もっと短いかもしれないけど」

「8キロ!!? そんな遠距離から攻撃ってそんなことできるんですか?」

「他の人にはできないけど、凛ねえならできるよ。メーフラちゃんの2つ名が「返り討ち」なら凛ねえの2つ名は「神手サジタリー」だからね」

「神の、、手?」

「うん。凛ねえの持っている弓は超長射程の弓なんだ。それこそ、街1つ隔てても届くくらいにね。でも普通の人がそれを持ったところで当てることはできない。手元の一ミリのズレが着弾点では数百メートル単位でズレたりするからね。でも凛ねえは当ててくる。正確無比に、未来でも見えているかのようにこちらの動きに偏差さえ入れて当ててくる。弓の世界にもし神様がいるならば、彼女の手はその神のものだって言われててね」

「ま、まさかここの世界の住人は全員そのくらい強いんですか?」

「いいや? ちょっとこれを見てみて」


フセンはインベントリから1つの地図を取り出した。それはこの世界の世界地図だった。


しかもその地図の中にはいくつもの赤い点が記されている。

また、その赤い点の大きさは一定ではなく極端に大きいものがあれば小さいものもあった。


赤い点の数は3桁には届かないだろうという数だった。


「これは?」

「これは「強者の地図ランカーアンカー」って言ってね。この世界のトップ100の居場所を赤点で記してくれるアイテムだよ。中心がこの街、つまり私たちのいる場所ね。そこから北に少し視点をずらしてみて」

「あ、赤点が何個か、それにすごい大きい赤点がある」

「そう、この地図で一番大きくてそれでいて一つ北の街にある赤点。それが私の姉である凛ねえの赤点だよ」

「えっと、つまり凛さんって?」

「そう、凛ねえはこの世界のトップの存在ということだね!!」


フセンは誇らしげに胸を張った。

この世界におけるランキングというのはプレイヤープロフィールを開いた時に表示されるレートという数字の高さによって決まっている。

レートの数字が大きければ大きいほど順位が上なのだ。


そしてこのレートは誰かをキルすると増え、誰かにキルされると減るという非常にシンプルなシステムだ。

当然、高レートのものが低レートを倒してもほとんどこの数字は増えない。

逆に低レートのものが高レートのものを倒すことができれば大幅に数字を増やすことができる。


ゲーム開始時のレートは2000だ。

堅護のレートは現在凛にキルを取られて1999に減ってしまっている。

逆に凛の方は栞の分も合わせて2ほど増えているだろう。

参考までに開示しておくと、現在の凛のレートは121003となっている。

この数値の異常さはランキング2位のものが94000程であることを伝えれば読み取ってもらえるだろう。


何が彼女をここまで駆り立てたのか、そこにはやはりというべきか創華の存在があった。


凛という女性は普段は気が強いが憧れのものを前にした時に急に奥手になるタイプだ。

現実世界で正面切って会話をするということは彼女にとってハードルが高かった。


だが創華と一緒に楽しみたいという思いは変わらない。

結果彼女が考えたのはゲームの中で遊んでもらおうということだった。

デジタルを通せば少しはマシになるだろうと考えたためだ。

だがこの世界で創華と遊ぶには生半可な強さじゃ足りない。なにせ凛が初めて創華にあった時彼女はすでに剣帝級であり彼女との間に埋めがたいほどの差ができてしまっていたのだ。



構ってもらおうとして攻撃を仕掛けてみるも振り向きざまに振るわれる一刀で凛が顔を見る前に死んでしまう。


しかしそこで諦める凛ではない。

それは逆転の発想であり、彼女にとって革命的な発想でもあった。


凛はある時突然閃いた。

そうだ! こちらが追いかけるのが無理なら、創華様に追いかけてもらおう、と。

そこから先は速かった。


凛は『The Ark Enemy』社のゲームソフトの一つである『THE・弓使い』を購入。その中でひたすら修行した。

初めは一番弱い敵にも勝てなかった。だが漣家の人間は才能でできている。

漣 凛はものすごいスピードで弓というものの扱いを上達させていった。

そして気づいた時には武器は違えど格の上では創華と同じレベルまで上り詰めることに成功したのだ。


そしてそこで再び創華にリベンジ。

凛は10キロ先から創華に向けて弓を引いた。

そこから先、幾度となく2人は戦う(遊ぶ)ことになったのだった。

閑話休題



「あ、凛ねえからだえっとなになに? 『私はそろそろ買い物に行きたいのだが、もう十分だろうか?』か。えっと『もう大丈夫だよ。協力ありがとう』っと」

「凛さんは落ちたんですか?」

「そうだね。ちょっと買い物に行くって。じゃあ改めてガトくん! 君に私から課するはじめの課題は一人で隣街までたどり着くことだよ! 大丈夫、安心して! さっきはこの世界のことをわかりやすく教えるために凛ねえとかいう極端な例を見せたけどあのレベルの化け物はこの世界にもほぼいないとみていいから」

「ほぼってことはいるにはいるんですね」

「それが難しいんだよね〜。私からしたら一緒の化け物にしか見えなくてもメーフラちゃんや凛ねえから見たら「弱い」の一言だったりするんだから」

「うわっ、うちの姉ちゃん、マジでどんだけ化け物なんだよ。勝てる気がしなくなってきたってあれ?」

「ガトくんどうかした??」

「いや、俺がここでPS鍛えるのはいいとして凛さんってMOH買いに行ったんですよね??」

「多分ね」

「じゃあ凛さんを仲間に入れたらメーフラ討伐もかなり現実的になりません?」

「うっ、そのことなんだけど………非常に言いにくいことが……」

「言いにくいこととはなんですか?」

「…… …うちの凛ねえ、まさかのメーフラちゃん側に着くみたいです」

「うわぁ。さっきの話を聞いた後だけに全く勝てる気がしない……」

「ま、まぁとにかく君はまずはじめの課題をクリアすることだよ!!」

「は、はい! 頑張ります!!」


堅護は最高クラスの弓使いによる狙撃がなくなったことに少し安堵を覚えながら再び北門に向かった。

自分が少しでも強くならなければフセンにとって足手まといになるだろう。そう思う気持ちが彼の足を少し速めた。


堅護は北門についてから一度そこで立ち止まった。

一応、周りに危険はないか確認しておきたかったのだ。

するとそこにはセーフティエリアギリギリのところに立っている一人のいかつい男がいた。


「おう、にいちゃん今からここを通るのかい?」

「あ、はい。隣の街に行こうと思いまして」

「そっか。でも時期が悪くねえか? さっきから見てたけど今神手サジタリーがここ狙っているっぽいぜ?」

「その人ならログアウトしたみたいですよ?」

「そっか? おっ、ほんとだ。反応が消えてやがる」


男もフセンと同じ地図を取り出して一番大きな赤点がなくなったことを確認していた。

堅護は会話もそこそこそろそろ行こうと外に足を向けた。


「あ、そうだ。この先今日は「必殺大地人」が出るらしいから気をつけろよ」

「必殺大地人?」

「なんだ? あんた知らねえのか。そうだなぁ。必殺大地人ってのは――」

「ほらほらガトくん。なんでも人に聞いてばっかりじゃ成長はできないぞ。さっさと行った行った」

「えっ、あ、はい! 行ってきます!」


堅護はフセンに背中をグイグイと押されて旅立った。

門の前ではいかつい男とフセンの2人がその後ろ姿を見守っている。


「あんた、あのモグラやろうのことを知らないまま行かせるとか鬼かよ」

「何事も経験、百聞は一見にしかずってね!」



堅護が街を出て3分後、彼は再び死に戻った。



Q スライムの溶解液って状態異常耐性を持っているメーフラさんに効果あるの?


A 溶解液は触れるとスリップダメージが入る物理攻撃扱いです。異常ではないのでちゃんとダメージが入ります。


ブックマーク、pt評価をよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

doll_banner.jpg
お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ