ピュアな弟と百合な姉
遅れてすみません。今回は別視点の話です。
今回は難産だった。
「よっしゃっ、これで最後だ!!」
堅護の操るキャラクターである「ガト」は巨大な盾で二足歩行のトカゲ【リザードシーフ】を押しつぶす。
大質量によるプレスを受けたリザードシーフはなすすべもなく絶命してしまった。
戦闘終了だ。
「ふー、ここのエリアでも戦えるみたいだ」
ガトは最低限の警戒はしつつも喜びをあらわにする。
「おー、そっちも終わったみたいだね。お疲れ様ガトくん!」
そこに動きやすいようにと丈をなるべく短くとったローブを着た女性が駆け寄ってくる。
彼女はフセン。言うまでもなく栞が操作するキャラだ。
現在彼らは次のイベントに向けてキャラの育成を行なっている最中だった。
「そういえばガトくんは公式の情報を確認したかな?」
「イベントのことですか?」
「うん。次のイベント、攻城戦みたいだね。この意味がわかるかな?」
「意味……?」
「うん。つまりこれって魔族のプレイヤーたちと戦うことになるんだよね?」
「そうだねって、あ!!」
「そうだよ〜。場合によっては君のお姉ちゃんであるメーフラちゃんと戦うことになるんだよ!」
「まぁ、そうなりますね」
「私たちがこうやってゲームをやっている1つの目的になっているわけだし、彼女のことだから放っておいたらどんどん強くなって差は開くだけ。だから今回のイベントで絶対に倒すくらいの気持ちで行くよ!!」
「勝算はあるんですか?」
「ある!……と言いたいところだけど現状厳しいだろうね。だから対メーフラ作戦会議を挙行したいと思います!!」
「わーパチパチ」
「と言っても今日はもう遅いから明日にしようか……明日は朝から暇だよね?」
「あ、はい。明日は休みなので時間はあります」
「そっかー、じゃあ明日私の家で作戦会議ね!」
「えっ!!? 今なんて……?」
「ん? 聞こえなかったか。明日あなたのお姉ちゃんを倒すための作戦会議をするから私の家に来てって言ったの」
「…!!?」
ガトは固まった。
作戦会議ならここでやればいいのでは?と思ったが彼にとって憧れの人の誘いであるから何か言うつもりもなかった。
結果彼は現実を受け止めるために思考に呑まれて動かなくなったのだ。
「およ? ガトく〜ん? 接続状況が悪いのかな?」
「いいえ……家の場所知らないなって思いまして」
辛うじて彼が絞り出すことができたのはそんな言葉だけだった。
未だに先ほどの言葉が彼の心の中で尾を引き半ば放心状態なのだ。
「あ、そっか。それもそうだね!じゃあメールで地図を送るから……って連絡先も知らないか。このゲームの中じゃそういう情報のやりとりしたらダメだって言うしなぁ」
「そうですよね」
「そうだ! お姉ちゃんから私の家の場所教えてもらえばいいんだ!!」
「あ、うん。そうですね」
「ということで、明日はまずはこっちじゃなくて私の家に集合ね! ちなみに、9時より前に家に来ても開けられないから気をつけるんだぞ!!」
フセンはそう言って駆け足でセーフティエリアに駆け込みそのままログアウトしていった。
「あ、うん。わかりました」
誰もいなくなった湿地でガトはそう返事をしてぎこちない足取りでセーフティエリアに向かって歩き出した。
そして次の日の朝。
彼はいつもより少しはやく起床した。下からはもう既に姉の創華が起きて朝の準備をしている音がかすかに聞こえてくる。
堅護はその音をBGMにしながらクローゼットを開きその中にしまっている服を漁り始めた。
彼自身おしゃれには無頓着であり普段は服は動きやすくて目立たなければいいと思っているタイプの人間ではあるが、今日は栞の家に行くという一大イベントがあるためできるだけカッコいい格好をしておきたかったのだ。
だが、そこは無情にも彼の勉強不足が祟りどのような服を着たらいいのかがわからずに足踏みをする結果になる。
「う〜ん」
どんなのがいいのかがわからない。
彼のクローゼットには色々な種類の服が入っている。しかしそれらは彼自身が購入して揃えたものではなく、彼の姉である創華が趣味の一環で作ったものだからそもそもどんなものがあるのかすら把握していないのだ。
堅護の着る服の7割は姉の手作りであり彼は手を伸ばして適当に引っ張り出して着ているだけだった。
「う〜ん」
「どうかしたのですか堅護?」
「うひゃあっ!!」
クローゼットを前にして唸り声をあげていた堅護の後ろから柔らかな声が掛けられる。
びっくりして後ろを振り返ってみるとそこにはエプロン姿の姉の姿があった。
堅護は深く悩みすぎて下から姉が呼ぶ声も近づいてくる音も聞こえていなかったのだ。
彼の心臓は驚きからかそれとも別の原因があるのかはわからないがどくどくと早鐘を打っていた。
堅護は頭の上に「?」でも浮かんでいそうな顔をしている姉を見る。
そして数秒の葛藤の後、一度呼吸を整えてから恥を忍んで頼み込んだ。
「あの、姉ちゃん」
「はい?」
「今日さ、実は栞さんに呼ばれているんだけど、どんな服を着ていったらいいかな?」
堅護は意識していたわけではないが少し上目遣いになって姉に聞いた。
その姉はその目に弱かった。
自分を頼るような、自分に甘えるような目をされると助けてあげたくなる性格だった。
それはそれとして弟の初恋に進展があったようにも考えられて嬉しくなった。
「わかりました。お姉ちゃんがいい服を選んであげますから堅護は先にご飯を食べていてください」
「うん。ありがとう姉ちゃん」
堅護は姉の指示に従い部屋から出ていってしまった。
創華は1人弟の部屋でクローゼットの中を漁り始める。彼女はその部屋の主人よりもそのクローゼットの中身のことを熟知していた。
創華は堅護に似合う服の中で栞の趣味に合いそうな服をピックアップして取り出した。
当然彼女の手作りの服だ。
創華はこういう時くらい素人の自分が作ったものよりもちゃんとプロが作ったやつを着させてあげたいかも、と思ったがそれ以上に弟が自分の手作りをいつも着てくれることが嬉しいので考えないことにした。
創華は選んだ服を弟のベッドの上に広げて並べてから朝食に入る。
先にご飯を食べていた堅護は自分の部屋に戻ってから並べられたそれを見て素直に着替えた。
姉のセンスに疑いを持っていなかったし、自分の目で見てもこれでいいと判断したからだ。
それから彼は財布や携帯などの最低限必要なものを小さめの肩掛けカバンに入れて準備を済ませた。
ふと彼が時間を確認するともう既に8時になっていた。
もうとっくに彼の姉がランニングから帰って来て家事が終わっている時間帯だ。
なるべく完璧にという彼の気持ちが気づかぬうちに長時間持ち物をチェックするという行動を誘発したのだ。
「あー、そういえばまだ栞さんの家を聞いてないや」
堅護は姉を探す。
創華は自分の部屋にいた。普段の家事は終わったしそろそろログインして注文しておいた武器を回収しに行こうとしていたのだ。
堅護は姉の部屋のドアをノックする。
「どうかしましたか?」
「あ、姉ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど………」
「栞ちゃんの家の場所ならもう既にあなたの携帯に地図を送っておきましたよ?」
「えっ!!? ………あっ、本当だ」
「行くんなら気をつけていってくださいね」
「うん。行ってきます」
姉の気配りに軽く胸を熱くしながら堅護は家を飛び出した。
そして姉より送られていた地図を確認しながら栞の家に向かった。
彼らの家の間には駅1つ分。
9時以降に行くのに8時ちょい過ぎに家を出るには早過ぎた。
彼は8時48分に目的地に到着して時間を確認してその場に立ち止まった。
「うわぁ。栞さんは結構いい家に住んでるって姉ちゃん言ってたけどこれは………」
堅護は自分が想像していたよりも大きなもはや館というべき家を見て少し気後れをする。
時間を見ながら早く9時を過ぎろと考えながら彼がそこで立っていると突如家の扉が内側から開いた。
そこから出てくるのは栞に似た1人の女性。ただし栞ではない。
出てきた人物は堅護の憧れの人よりも背が10センチは高いし髪も長い。それに何よりもその目が圧倒的に違い過ぎた。
パッチリと大きく開いている栞の目に比べて、今家から出てきた人物の目は鋭過ぎた。
見るものを怯えさせるような肉食獣の目だ。
その人物は家から出て門を出ようとしたところでそこに立って家を眺めている堅護の存在に気がついた。
「んん? お前はどうしてうちを覗いているんだ? まさか不審者か?」
堅護は一瞬誰のことを言われたかわからなかったが、この場所に自分しかいないことに気づいてそれが自分のことだと気づいた。
「ち、違います!!」
「あ? じゃあなんでこんな場所でうちの方を見てたんだ? 不審者じゃなかったらなんだよ」
「えっと、自分は栞さんに呼ばれて……」
「は? 栞の客? あいつに男の客が来るわけねえだろ?」
「本当です!信じてください!」
「そういうんなら本人に確認とるけどいいんだよな?」
「はい。いいですけど……」
もしこれで違うなんて言われたらどうしよう。そんなことを思いながらも堅護は頷いた。
するとその女性は家の方に首だけを向けてよく通る綺麗な声で声をあげた。
「おおーーい、栞ー。客が来てるぞー!」
その女性が声を張り上げると1分程時間を要しはしたがお目当の人物が顔を出した。
「あー、堅護くん。おはよー」
「おはようございます」
「随分と早く来たんだね」
「はい。どの時間に行けばいいかわからなかったので、できるだけ早く行こうかなって思いまして」
「なるほどなるほど。で、9時になったら突入しようとして待機してたところにお姉ちゃんに捕まっちゃったんだね。うわー、災難だなー」
「む? 災難とはなんだ。というか栞、こいつは本当にお前の客なのか?」
「そだよー」
「何っ!!? まさかお前に男の客がこようとは………」
「なんでさ!! 凛ねえには私がどう見えているのさ!!」
「いや、今までそういう話を一度も聞いたことがなかったから男に興味がないと思ってな。だがこうして家に呼ぶところまで見ると私の勘違いだったみたいだ」
「私だってステキな男性と恋したいと思ったりもしますぅー!!そういう凛ねえはどうなのさ!!」
「む?私か? もちろん男はいらんぞ。心に決めた相手はもう既にいるからな」
「そういうと思ったよ!! あと訂正しとくけどその子、創華ちゃんの弟だから! 私たちそういう関係じゃないから!」
「うっ」
「うっ」
わかっていたとはいえ本人からそう言われると傷つく堅護である。
しかしそれとは別にダメージを受けている女性がいた。
「なななななな、今、なんて、そ、創華様の弟?」
「あれ? 知らなかったの?」
「なら最初からそう言えばいいだろう!! お客人、立ち話もなんだろうからどうぞ中へ。私たちはあなたを歓迎するぞ」
「あ、はい」
突然豹変した栞の姉、凛の勢いに押されるがまま堅護は家に招き入れられた。
彼は凛の急激な手のひら返しの理由が思い浮かばずにいた。
しかしその理由に心当たりがある栞は心の中で小さくため息をついた。
実は凛ねえこと漣 凛は高嶺 創華という人間が好きなのである。
愛していると言っても過言ではない。
家庭事情の調査などはストーカー行為に当たりバレた時に嫌われると思い行なっていないから弟の存在は知ってはいても今まで一度も見たことはなかった。
だからこそそれを知った時は初対面にいきなり強く当たったことを思い出して焦ったりもしていた。
もし、もし今の話が創華様に伝わって嫌われてしまったらどうしよう。
ここで気を良くして帰ってもらって最初の話を忘れてもらわないと。
凛はそんなことを考えていた。当然、栞にはすべてお見通しである。
「して、栞よ。彼が創華様の弟だというのは分かったがどうして呼びつけたのだ? お前たち自体に直接的接点はないのだろう?」
「あー、今日は創華ちゃん討伐会議をしようと思ってね。いや、というよりは弟くんに創華ちゃんと対峙して分単位で持ちこたえられるようになってもらうような特訓方法を教えようかと思ってね」
「創華様討伐会議だと!!? 許せん! なぜお前はそんなバカなことをやろうと思っているのだ!!」
「……一応言うけど、ゲームの話だよ? というか凛ねえもゲームの中では創華ちゃんを撃ち抜いてたりしてたじゃん」
「なんだ。そういうことか。彼女はとてつもなく高い壁だからな。ちゃんとこうして対策を練らないと戦うことすらできんのは同意する。まぁ、一定レベル以下だと対策を立てても無駄だろうがな」
「だよねー」
「あの、俺は実際に見たことはないんですけど俺の姉ちゃんってそんなに強いんですか?」
「む?君は弟なのに知らないんだな。ああ、気を悪くしないでくれ。責めているのではない。ただまぁ、一対一なら拳銃を持っていたとしても絶対に勝てないくらいには強いぞ」
「そんなに!!?」
堅護は創華の強さをあまり知らない。
栞に創華と戦うことになったことを伝えた時に軽く絶望していたのでまぁ強いんだろうなと思っていたがその程度だった。
「あ、そうだ凛ねえ今から暇?」
「ふむ、まぁ散歩に行こうと思うくらいには暇だったが?」
「じゃあ凛ねえも弟くんの特訓のためのレクチャーを手伝ってよ。はじめの少しだけでいいからさ」
「それは構わないが… …何をするのだ?」
「それはね〜じゃじゃーん! これだよ!!」
栞がそう言って懐から取り出したのは1つのゲームカセットだった。
パッケージには斬り合う2人の男が写っておりその真ん中にどでかい文字で『THE・刺客』と書かれている。
言わずもがな、『The Ark Enemy』社の商品だ。だがこちらは個人用のゲームではなくオンラインゲームだという違いはある。
それ故に従来の鬼畜難易度とは少し違う。そう、ほんの少し違う鬼畜難易度なのだ。
栞はこの世界で最低限普通のプレイヤーから身を守れるようになれば創華を前にしても1分持ちこたえられるかもしれないと考えていた。
「む、これか。最近私はやってないんだよな」
凛もこのゲームのプレイヤーだ。というか、トップオブトップだ。
ゲーム内ランキングだけでいえば創華よりも高い。
「あれ? あんなに熱中してたのにやってないの?」
「うむ。最近創華様がこの世界に全くと言っていいほど現れないからな」
「あ、創華ちゃんなら今『Monster or Humans』っていうゲームにいるよ? 魔族プレイヤーでボスやってる」
「なぬ、なぜ早く教えてくれない!!? もっと早く知っていれば私もすぐにそちらに行ったというのに!!」
「あ〜ごめんね。忘れてた」
「えっと、、これは?」
堅護は2人が会話を弾ませる原因となったこのゲームのことは知らない。
どこかで見たような気がするが……と思ってはいるがそこがどこだったかも思い出せない。
「おっとごめんね弟くん私たちだけで盛り上がっちゃって」
「あ、いえお構いなく」
「まぁ、そういうことだから凛ねえ、ちょっとこの弟くんにこれの世界がどのくらい厳しい世界なのか教えるためにちょっとだけ手伝ってよ。そしたら創華ちゃんのMOHでのプレイヤーネーム教えてあげるからさ」
「む? 創華様のことだからどうせ「メーフラ」だろう? というかいつもそれだぞ?」
「あ゛、と、とにかく手伝って!!」
「ま、まあそれくらいならいいが私は予定ができたのだから手早く頼むぞ?」
「あれ?先ほど散歩に行くくらいには暇だって言ってませんでしたっけ?」
「少しゲームを買いに行こうと思ってな」
「ということで刺客に入る準備をするよ! 弟くん、そこの突き当たりの左側の部屋が私の部屋だから先に行って待ってて! 私はちょっと君の分の装備の準備をしてくるから!!」
「あ、わかりまs………え? 栞さんの部屋?」
堅護は昨日の夜から混乱してばっかりである。
こうして堅護は意中の人の私室に立ち入る権利を手に入れた。
Q FFネタ唐突だな
A バロン城の近くに来たら王城によって金の針を使いに行くよなぁ?
Q 紋章壊れすぎでは?
A ちなみにこれ、3つつけると紋章付いてない相手に対するダメージ減少も3つつきます。
ただし紋章が付いていると他の紋章のダメージ軽減が1つも適用されません。
紋章は1人1つまで。
まぁ、壊れてますよ。
Q新装備蛇腹剣だけ?
Aまぁ、鉄製の武器でも敵は切れますしってメーフラさんはおっしゃっています。
要するに蛇腹剣は作る機会があって金属もあったから聖銀にしただけの話です。
Q季節ネタについて。まだ話数少ないしいいんじゃない?やっても日常の一コマだな。
Aそれもそうですね。クリスマスネタは予定通り「姉と弟のクリスマスデート」を挙行します。お正月はないかも。
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