ファンタジー世界の鉱山には危険な生き物がいっぱい
さて、ガザリアに到着した次の日。私は目的である鉱山洞窟に入ることに成功した。
中は明かりがないとまともに進むことができない真っ暗闇、みたいなのを想像してたがここで採掘するNPCが一定数いる関係上壁に等間隔に明かりが配置されていた。
むぅ、真っ暗闇を想定して買ってきた私のカンテラさんがしょぼくれているよ。
心の中で少しだけため息をついたこの時の私、【人形の体】の影響でそもそも暗闇が大丈夫だということを覚えていない。
「えぇっと、確か深く潜ればそれだけいい鉱石が手に入るんでしたよね?」
図書館で得た情報を思い出しながら私は坑道を進む。途中何人か魔族とすれ違ったが特に何も起こらなかった。
強いて言うなら一瞬だけ魔物かどうかわからずに剣に手をかけてしまいそうになったくらいだ。
坑道の入り口付近は賑わっており魔物と出くわすことがなかった。
しかしある程度進むと賑やかだった辺りが急に静かになり自分の足音以外聞こえなくなるほど人がいなくなってきた。
カツカツと靴の音を響かせながら前に進む私は前方から何か近づいてくる気配を感じ取った。
音は軽く感覚は狭い。カチカチという小さな音が坑道内で反響して私の耳に届けられる。
私は腰のベルトに差していた新品の「鉄の剣」を引き抜いて襲撃に備えた。
ちなみにベルトも新品だ。剣とセットでお値段10000リア。図書館の入館料が5000リアだったことを考えるとかなり安い気がしないでもない。
いや、この場合2回の入館で剣とベルトのセット分の値段を持っていく図書館が異常?
そんなことを考えながら前進するとそれは姿を現した。
全長3メートルはありそうな大きく黒い体。
体に対して圧倒的に細い脚。
何物をも噛み砕くことができそうな大きな顎。
背中から覗く無機質な物質。
この鉱山の上層部をある程度進んだところに現れるという魔物、【クォーツアント】。通称鉱石アリだ。
「一応情報としては持ってましたが、意外にいかつい見た目をしていますね。地球を攻めてきたりしませんよね?」
いつか見たゲームの映像にあった巨大なアリを思い出しながら私はそれと対峙する。
実はこのクォーツアントという魔物、食べた鉱物が背中に析出するという特性を持っている関係上人に飼われていたりするらしい。
なんでも、岩は不純物扱いで排出されるらしく純粋な金属などが背中から採取できるのだと。
つまりここでこいつを倒せばその背中の鉱石は総取りというやつだ。
クォーツアントは私を見つけると先制攻撃を仕掛けてくる。
攻撃手段は鉱石を食べるために発達した強靭な顎による噛みつきだ。人が作った下手な刃物の何倍も切れそうな鋭い顎が私を捉えようとする。
私はそれを横向きに跳んで回避する。
着地点は当然横の壁だ。ガチンッと私のすぐ下で硬いものがぶつかる音がする。
だがそんなことは気にしている場合ではない。
今の私は壁に対して垂直になっている。このままだとすぐにでも重力に従って落下することになってしまう。その前に勝負を決める。
私は着地するとすぐに足場にしている壁を蹴って私を噛むために伸ばしてきた頭に接近する。
そして落下すると同時に伸びきった首元に鉄の刃を通した。
だが、どうせこれでは死なない。
この世界の生き物は割とタフだ。首に一撃食らったところで死ぬなんて思っていない。
攻撃するための一連の手順のおかげで私は今クォーツアントの懐に入り込むことができた。
これを利用して今度は先ほど切り裂いたばかりの首元に鉄の剣を突き入れて捻った。
ギチギチという音が坑道内に響き渡る。
そしてその音はすぐに止み、音の原因であるアリは事切れたかのように崩れ落ちた。
「ふむ、アリさんは首に2発で死亡ですか。お世辞にも広い通路と言えないこの場所にその大きな体と低耐久で大変な生活を送っていそうです」
この坑道は当然ではあるがアリよりも採掘者である魔族を基準にして作られている。
魔族は体の大きな種族も多いためそれなりに広くは作られてはいるが、それでも先のアリがのびのびと動き回れるだけのスペースはなかった。
多分ではあるが頭の上を踏み越えられて後ろに回られでもしたらうまく反転できなさそうだ。
「さて、ではドロップアイテムは何か確認しましょう」
私はインベントリの中身を確認する。
一応半分の18枠空けてきたインベントリの2枠が埋まり、そこには先ほどのアリさんが落としたであろうアイテムが入っていた。
――――――――――――――――
素材 蟻の甲殻
蟻類の魔物が落とす甲殻。落とした魔物によって性質はまちまちである。
――――――――――――――――
素材 鉄のナゲット
一般的な金属。少量の塊であるため武器などを作るには足りない。
――――――――――――――――
落としたのはアリさん本来の素材と背中についてた鉄の一部だった。
これは副産物であるから文句を言うつもりはないが、あんなに溜め込んでいたのだからインゴット単位で出してくれてもよかったのではないかと文句を言いたくなる。
「鉄は街でも手に入る金属ですし、もっと深いところを探したほうがいいですね。魔物が強いと感じた辺りの壁を掘ることにしましょう」
私はとりあえず深く潜ることを優先した。
途中襲い来るアリさんたちをバッタバッタと斬り伏せて私は進む。
アリさんは甲殻と鉄のナゲットをよく落とし、稀にクォーツアントの顎を落としてくれた。
こっちの方は武器の素材によく使われるらしい。
そして上層部を踏破して中層部。
この鉱山は上から上層、中層、下層、深層、奈落と5つの深さに分かれているという情報だ。
ただし下層より深くまで行って帰ったきたものはいないのだという。
ならどうしてそれ以上の深さの情報が?と思わなくもないがそれはゲームだからということで置いておくとしよう。
中層も出てくる魔物は簡単に対処が可能なものばかりであった。
少しだけ強くなったクォーツアントやその親戚である【アントソルジャー】が主な敵だった。
中層の壁からは銀鉱石が手に入った。正直、銀ってすぐに壊れるイメージしかないから少しだけ採掘してすぐに進むことにした。
そして中層を歩くこと数時間。
下へ続く道をようやく見つけることに成功した。しかも嬉しいことにそこはセーフティエリアとなっている。
時間を見ればまだ余裕があるが、今日は一度ここでログアウトしてまた明日再開することにした。
そして次の日。
「さ〜て、今日から下層ですね。上層で鉄、中層で銀ということは下層では金とか手に入るのでしょうか?」
そして深層ではレントゲニウムが!!?
……多分それはありませんね。
私は装備品の確認を済ませて下層に挑むことにした。
下向きの階段をゆっくりと降りながら下り下層に足を踏み入れる。
ここから先には行って帰ってきたものはいない、らしい領域だ。
私たちプレイヤーは一度行けば死んで帰ってこられるからここに入った時点でその伝説的何かは破られたけどね。
私が下層に足を踏み入れて数歩、前に進んだ時に異変は起きた。
――――――――バタン!!
「きゃっ、なんですか!?」
私の後ろで扉が閉まるような音がする。とっさに確認すると私が降りてきた道が塞がれていた。
そして今度はズガンッと爆音を響かせて前方から何かが現れた。
全長8メートルはあるだろうか?
赤黒い体にキラリと輝く鮮やかな紅の眼光。
細い6本の足のうち前の2本は命を刈り取る大きな鎌。
鉱物を食べるために発達した顎はこの姿になろうとも健在で、長い間使ってきたのだろう。その鋭さは他のどの個体よりも鋭い。
それを見た私はぞわぞわと知った感覚に襲われる。
――――あれは強い。
素早く目の前に現れた赤黒いアリにフォーカスを合わせてアイコンを見てみるとそれの体に合わせたかのような赤黒いアイコン。
間違いない。あれはボスモンスターだ。
よく見ればこの場はあの巨体が動き回れるように広く取られている。
それに誰も帰って来ないという設定が効いているのだろう。この広間には灯りというものがない。
この暗闇はあの暗色を隠すために働くのだろう。そしてここに踏み入れたものは死ぬ間際に紅の瞳を見ることになるのだ。
「成る程、下層に行った人は誰も帰って来ないというのはこういうことでしたか。まさか階段の前ではなく階段の下にボスがいるなんて気づきませんでしたね。あぁ、前のエリアの階段前にセーフティエリアがあったのはそういうことですか」
面白いことをしてくれますねぇ。下層のアイテムを1つも持ち帰らせるつもりはないっていうことですか?
赤黒いアリは測るような目で私を見ている。
「あら? 警戒しているんですか?」
相手はこの下層を守るボス種。
私は人形のボス種。
同じボス種を前にして値踏みをしているのかもしれない。私が今までの侵入者と同じように倒せるのかどうか。
対する私も油断せずに相手の見た目から分かる能力を分析していく。
1番の武器は鎌のような手であろうが上にいたアリたちより鋭くなった顎の方は一撃も耐えられそうにない。
「さて、このまま睨み合ってもお互いつまらないでしょう? そろそろ始めましょう」
私は手元の鉄の剣を地面に突き刺してインベントリから新しいものを取り出してジリジリと前に出始めた。
そして私たちの距離が5メートルを切ったところでお互い動く。
赤黒いアリは鋭利な鎌を上段から振り下ろしてくる。私を脳天から切り裂かんとするそれは私の剣によって軌道をそらされて地面に落ちる。
鎌が地面に落ちると破砕音が鳴り響いた。
「技術的には剣王級の中程度、ですが速度と威力を加味すれば剣帝級を相手取れますよあなた!!」
1つ目の鎌が落ちてきてもすぐに逆の手が振り下ろされる。
だがそれでは私に届かない。
速く、重い一刀ではあるがそれで斬れても剣帝までだ。剣神には10歩届かない。
鎌の嵐とも言えるそのラッシュではあるが隙はある。
体が大きいがために動きが全体的に大雑把なのだ。
魔物同士の戦いならその鋭利な鎌で敵を切り刻むだけで勝ちをもぎ取ることができたかもしれないが、あいにく私は元が弱い人間なんでね。
右の横振りを上に逸らして追撃のために袈裟斬りをしようとしていた左の鎌に当てて私は隙を作る。
そして踏み込み一撃を、狙いは今振り抜いた右手の付け根だ。
首を狙いたいところではあるがここは大ダメージを狙うことよりも相手の能力を削ぐことが最優先だ。
それに、首を狙おうにも少し高い。
逆に私に隙ができてしまう。
作った隙で入れられたのは一撃。だがその一撃では戦況は動かない。
ボスモンスター特有の耐久力が影響を及ぼすことを許さない。
私はただ、ただ丁寧に相手の攻撃を捌き攻撃を一撃ずつ加えることに専念した。
攻撃がいつまでたっても当たらないことに苛立ちを覚えたのか敵の攻撃は少しずつ速く、重く、そして雑になっていく。
流す、流す、避ける、流す、攻撃する。
そうやってちまちまであるが私の攻撃が敵の腕を削る。
相手のHPが見えない現状、いつまでも続くように見えたその光景はとある原因によって意外にも速く崩れ去った。
「あ、右が切れましたね」
執拗に攻撃し続けていた鎌腕の一本がついに胴体と切り離されたのだ。
思ったより早く切れたものだ。どうしてだろう? そう考えた時に私の中に1つのスキルの存在が思い出される。
【信念】。同一行動をとり続けた場合にその動作に補正がかかるというものだ。
今回はこの【信念】のスキルが攻撃するたびに1%ずつ攻撃力を上げていっていたのだ。
腕が1つ落とされたことによって赤黒いアリは怒りの感情を強くする。
その体が怒りに呼応するかのように少し赤が強くなる。
「さて、このまま左も、と言いたいところですがひとまず撤退ですね。こちらも限界です」
私は怒りのままに振るわれる左の鎌を正面から受け止めつつその衝撃を利用してバク宙を決めた。
そして始めの位置に戻って落ちていた鉄の剣を拾った。
今までずっと戦ってきてくれた剣は新しい剣を拾ったと同時に前方へ投擲した。
そしてそれは空中で鎌に叩き落とされて粉々に砕け散った。
耐久値に限界が来ていたのだ。よくあそこまで耐えてくれたと思う。
私はインベントリから新しい剣を取り出して今度は左手に装備する。ここからは二刀流だ。
つまりここから攻勢に出る宣言だ。
二刀流は見た目よりも対応力に欠ける。特に速く重い攻撃を受けるのに向いていないから目の前のアリには不利というレベルではなかった。
だが片方を切り落としてしまった今、二刀流でも対応が可能だ。
「今度はそっちが守る番です。覚悟してくださいね」
そしてまた予備の剣を今度は2本地面に落として再びアリに突貫した。
迎え撃つように左の鎌が唸る。それはちゃんと2本を使い丁寧に上に流す。
追撃のように落ちてきた顎による噛みつき。これは鎌が逸らされたことによって追尾性能が落ちている。
素早く左に跳んで回避する。そしてそのまま前進。これで側面はとった。
私は両方の剣を使い今度は右側の中足と後ろ足を切り落とすために攻撃する。
二刀流において大切なのは流れるような攻撃だ。最高に効率のいい動きをなぞるように一瞬にして10を超える斬撃を放つことができるのが二刀流の強み。
そしてその連続攻撃と【信念】との相性はかなり良かった。
一度後退したことでリセットされたダメージ倍率が一瞬にして上がっていく。
だが後ろ足が切り落とされる前に体を回転させられ再び正面になる。
それならっ!!
「先ほど切り落としそびれたその腕を狙うまでです!!」
振り向きざまに行われる鎌の振り下ろし。体が大きい目の前のアリにはその攻撃はどうしても届かない範囲が存在する。
私は超低姿勢になりその振り向き攻撃を回避した。
ブォンという風切り音が頭の上を通り過ぎ、一瞬遅れで風が頬を撫でた。
私は通り過ぎた鎌の付け根、その腕に狙いをつける。だがすぐには攻めない。
危機感を覚えた赤黒のアリは必ずここで顎による噛みつきを行う。
今、私は低い姿勢をしているため体が大きく頭の高いこいつは頭突きをするような形でしか顎攻撃ができない。
どのように攻撃してくるのかがわかっていればその対応は容易だ。
私は低姿勢のまま前に飛び赤黒アリの胸部の下に潜り込んだ。
そして下から赤黒アリの胸部を思いっきり切りつけてやった。
胴体を切ったのはこれが初めてだが、下手な金属より硬い。
費用をケチって青銅の武器のままできていたら倒しきる前に折れてしまっただろう。
私はアリの下から離脱しざまに今度は左の腕を切断していく。
これで相手の1番の攻撃方法は封じたーーーーーそう思っていた。
『キシャアアアアアアア!!』
両鎌を失った赤黒アリはもはや赤黒アリではなかった。
その体の色は怒りのせいかいつのまにか黒というよりは赤という色まで来ていた。
甲殻類のため痛みはないはずだが何か悶えるような仕草を見せた後に叫びごえのような音をあげる。
ボコ、、、ボコ、、
するとその声に呼応したように前方の地面に2つほど盛り上がりができてその下からさらに2匹のアリが現れた。
こっちは上の階層にもいたアントソルジャーとクォーツアントだ。
そしてその2匹の後に続くようにできた穴からさらに1匹のアリが。
こっちは初見。だがアントソルジャーよりは強そうだった。
大きさはボスよりは小さいが他のよりは大きい5メートルはある。
色は今まで見たことのない黄色のアリだった。
私は暴れまわるような赤アリから距離を取る。するとアントソルジャーとクォーツアント、そして黄色いアリが奇怪な行動を取り始めた。
「あれは……何をしているのですか?」
3匹のアリは固まってボスを背中に乗せる。その光景はまるで組体操や騎馬戦のようであった。
3匹のアリの顔はそれぞれこちらを向いている。
そして準備が整ったのだろう。
3匹のアリがボスアリを乗せて動き始めた。ボスアリは怒りの眼をこちらに向けてからこちらに口を開いてみせた。
そして次の瞬間――――その口から真っ赤な液体が射出された。
「うわっ、危ないですね」
私は横っ飛びでそれを回避する。液体が着弾した地面がシューッという音を立てている。
「あれは、、蟻酸ですか? いいえ、多分あのアリ特有のものでしょうし現実と同じと思わないほうがよさそうですね」
ボスアリは騎手となり3匹のアリという騎馬に乗り広場を駆け回りながら強力な酸攻撃を始めた。
どうやら、鎌をもげば勝利は容易いという考えは間違いだったみたいだ。
「第2ラウンドということですね。まずは足を奪うところから始めましょう」
誤字報告ですが、明らかな誤字とかでない限り報告はしないでいいですよ?
とある方が「」内の!や?の後とか、。とかを修正に出してくださったのですが、正直全てをチェックしていくの作者的にも疲れるので・・・
Q人形の再起動は人によってはサービス開始から終了まで動けないとか可能性としてあるのでは?
A 経過年数ルーレット、普通の人は3000以上の数字多分引かないから大丈夫大丈夫。
まぁ、10000出るまで粘った人もいるらしいけど。
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