欲しいものが無いなら作る・・・NPCが
そろそろお夕飯ができるし堅護を呼びに行こうかな。
そう思っているとタイミングを計ったかのように堅護がゲームを終えて降りてくる気配がした。
「ご飯できてますよ〜」
「うん。ありがとう」
小さなやりとりだけを済ませて堅護は洗面所で手を洗ってからテーブルにつく。
そこにはすでに配置した今日の夕食、カレーうどんと付け合わせの稲荷が置いてあった。
彼は私が座ると軽く「いただきます」と挨拶をしてからうどんをすすり始めた。
「そういえば姉ちゃん」
「どうかしましたか?」
「姉ちゃんのプレイヤーネームって何? 一応別陣営でもフレンド登録はできるようになっているから登録だけはしておこうぜ」
「それもそうですね。お姉ちゃんの名前は「メーフラ」でやっています」
「ん? 今なんて?」
「ですから、「メーフラ」です。自分でもびっくりですが地味に有名になっているみたいです」
「栞さんがもしかしたらって言ってたけどまさか本当に姉ちゃんが?」
「ボスの話をしているのならそれは私ですね。いつのまにか条件を達成していたみたいで、それで堅護の名前は何ですか?」
「俺は一応「ガト」って名前でやってるけど」
「ほー、ガトですか。意外にかっこいい名前ですね」
「そうやって面と向かって言われると恥ずかしいからやめてもらえるかな?あ、あと栞さんは「フセン」って言ってた」
「栞ちゃんはいつも通りですね」
私は稲荷を口に放り込みながらそう答えた。
栞ちゃんはいつもこのプレイヤーネームで登録しているのだ。名前の由来は言わずもがな自分の本名の栞と同じ役割のものということだ。
つまり付箋だ。
私たちはそのまま食事を済ませる。
「そういえば堅護、昨日も今日もずっとゲームをしていましたが課題とか終わっているのですか?」
ちなみに私は少し残っているからこの後やろうと思います。
「あ゛っ」
「その様子だと終わっていないみたいですね。どのくらい残っているんです?」
「ええっと、今週は数学しか出てないけどまるまる残ってる……」
「そうですか。ゲームをするにしてもちゃんと課題を終わらせてからやるんですよ。後、今日はお風呂掃除も忘れないようにしてください」
「………はい」
「よろしい」
さて、私も皿洗いと洗濯ものを畳んだ後には自分の課題をやらなきゃいけません。
サクサクと終わらせて明日に備えましょう。明日は月曜日。学校です。
私は今日使った器を念入りに洗ってからすぐに取り込んでおいた洗濯ものをたたむ。
2人分しかないからとっても楽だ。
そして今日の夜はログインせずに出された課題を終わらせてから堅護が入れてくれていたお風呂をいただいた。
お風呂から上がった私はそのままベッドに入った。
そして次の日の朝。
いつも通り朝ごはんを作り、堅護を起こして食べて、そして早朝ランニングを済ませてから学校に行く支度をする。
制服をきて前日のうちに用意しておいた学生鞄を持って出発だ。
「ではお姉ちゃんは先に行きますので、鍵をちゃんとかけていくんですよ〜」
私はそれだけ言い残して家を出た。
朝の登校は基本的に1人だ。私の通う高校は家から10分歩いた場所にある駅から電車でさらに10分そしてそこから5分程度歩いた場所にある。
私はそれなりに早い時間に出ているため、教室についても人はまばらだ。
席について授業開始まで特にやることもないので時間を潰す目的で持ち歩いている小説を開く。
今日持ってきている本のタイトルは「密偵は暇すぎる」だった。
雇われの密偵が潜入先で悪巧みをしている人間にイタズラをするお話だ。
それを60ページほど読み進めたところで教室が賑やかになってきて、そして誰かが私の肩を叩いた。
「やっほー創華ちゃん!」
「あ、栞ちゃん。おはようございます」
「ねえねえ聞いた?」
「何の話かはわかりませんが、多分聞いていないと思います」
「もー、そんなんだから流行に乗り遅れるんだよ!」
「そんなに乗り遅れてますか私?」
「そうだよ〜、ところで創華ちゃん! 今度MOHがイベントをやるみたいだよ」
「MOH? イベント?」
「私たちが今やっているゲームの略称ね。それとイベントだけど8月入ってすぐにやるみたいだよ」
「はぁ、ざっくり後一ヶ月後ですね。その前に私たちにはテストというイベントが控えているのですけど」
「ちょっと嫌なこと思い出させないでよ!!」
ちなみにテストという単語を聞いて反応した栞ちゃんは別に勉強ができないというわけではない。学年順位は上から数えた方が早いタイプの人間だ。
ただ、勉強という行為自体は嫌いらしい。
名前に対する快活さといい、いろいろなところでイメージに合わないのが私の知っている栞ちゃんなのだ。
栞ちゃんと話をしているとチャイムが鳴り響く。
それから少しして担任の先生が教室に入ってきた。
その時にはもう教室は静かになっていた。
いつものようにホームルームが終わりそれから授業、昼休みを挟んで授業。そして夕方ごろには私たちは解放されて放課後になった。
栞ちゃんとその他数名の友達に軽く挨拶をしてから私は帰路に就く。
今日はまだ材料が残っているから寄り道せずにまっすぐに家に帰った。
家に帰ってからは家事を済ませる。
今日の夕飯は鮭のホイル焼きとコンソメスープとサラダ、それと白米にした。
「これでやるべきことは全部終わりましたし、インしましょうか」
自分の仕事が終わっていることを確認してから私はVR装置を起動してログインをした。
ゲーム内では流れる時間が4倍。ということは普段あまり時間が取れない人でも満足に遊ぶことができるのだ。
「えぇっと、確かエターシャさんに案内をしてもらっている最中にやってきた人を倒してそのまま時間になったから終わったのでしたね」
ログインして街の大通りに放り出された私は自分が何をやっていたかの確認を済ませる。
そういえば、勝利条件がHP全損だったから何かドロップしているかも。
私はインベントリを確認する。
そこには「魔鳥の羽」「レッサーリザードキッズの皮」などといったアイテムが収められていた。
特段今は使い道がないが持っておいて損はないだろう。
幸い、いらないアイテムは地下墓地の宝箱に放り込んできたからインベントリには余裕があった。
私がアイテムの確認をしていると視界の端に通知が来る。
それに手を伸ばして確認するとどうやらフレンド申請みたいだ。送り主は「ガト」と「フセン」。堅護と栞ちゃんだ。
私は承諾の項目にタップしてフレンド申請を承諾した。
――――リンリン『フセンがフレンドチャットを申し込んできました。応じますか?Y/N』
するとすぐにフレンドチャットの申請が栞ちゃんの方からくる。もちろんYESだ。
『やっほーそうk……じゃなくてこっちじゃメーフラちゃんか!』
「こんばんはフセンさん。何かご用ですか?」
『特に大した用事はないんだけどね。強いて言うなら、ボスになったってどういうこと?』
「ヘルプ通りですね。パーティ枠を多く取るようになった代わりにステータスが高くなったという感じです」
『そっかー。ステータス強くなっちゃったかーってそれ私たちに勝ち目なくない!!? 同レベルのステータスでも勝てる気がしないのになんでそっちの方がステータスが高いの!!?』
「そういうものだとしか、頑張ってそこにいるであろう私の弟と対策を練ってください。なんでも、魔族はその種族ごとに弱点となる部分が設定されているらしいですよ?」
『じゃあメーフラちゃんの種族は? 弱点は?』
「それは自分たちで調べてください。戦う前から弱点がわかっているボスなんて楽しくないでしょう?」
『それもそだねー。じゃあこれからよろしくね!!』
「はい。よろしくお願いします」
プツっという音とともに通話が切れた。
私の種族はすぐに弟から漏れるであろう。サービス初日の会話でうっかり自分の種族を教えた記憶がある。
そこから種族の弱点も知られるかもしれない。
でもそれならそれで2人の会話のきっかけになっていいかも、そんなことを考えながら私は初めに何をやるべきか考える。
「えぇっと、そうだ! 蛇腹剣を購入しようと思っていたんでした」
私は昨日教えてもらった武器屋さんに特攻した。
そして目当ての武器を探す。
「あれぇ? ありませんね」
しかしどれだけ探しても蛇腹剣は見つからなかった。
「どうかしたのかいお姉さん!」
そこに武器屋の店主と思しきNPCが話しかけてくる。
種族はゴブリンみたいだがいかにも鍛えていますといった風に筋肉がむきむきだ。
「探しているタイプの武器が1つも置いてなかったもので、どうしようかと思いまして」
「ありゃ? うちは種類だけは揃えていると思ったんだがなぁ。ちなみに、何を探してたんだい?」
「蛇腹剣というタイプの武器です」
「蛇腹剣? あんなマイナーな武器を使うのかい?」
「はい、ちょっと事情がありまして」
「あー、長い間誰も買わねえから今ここには置いてねえんだ。すまねえな」
「こちらこそごめんなさい。ちなみに、作ってもらうことってできますか?」
「おう、構わねえが結構値が張るぞ? 素材持ち込みなら結構割引できるけどなぁ」
「そうですか。ちなみに素材って何が必要になります?」
「そりゃあ金属だな。インゴット3本分は欲しいぜ」
「わかりました。また今度来させていただきますね」
「おう、それまでに準備はしといてやるから待ってるぜ」
私は武器屋を後にした。
そしてここからの行動方針が決まった。これから金属の採取に行かなければいけない。
だがどこにいけば質のいい金属が手に入るかわからない。こんなことなら金属の採掘地もさっきのゴブリンさんに聞いておけばよかったなと少しだけ後悔した。
だけど今更戻るのは気がひける。
こうなればエターシャさんに…って今オフラインか。
なんでも彼女に頼るなって天からの啓示だろう。
私は仕方なく情報の集まりそうな場所、図書館に向かうことにした。
入館料は一回5000リア。
それなりに値段がする。だが人形狩り狩りで得たお金がまだ残っているため難なく入館することができた。
さて、どこに目当ての情報がありますかね。
私がきょろきょろと周りを見ていると司書さんがこちらに歩いてきた。
ちなみに、司書さんは人間のような姿をしている。ただ少し――――ええ少しだけ顔色が悪くて白いかな?
「お探しの本は見つかりましたか?」
「いいえ。この辺りの地形がわかる本を探しているのですけど、どのあたりにありますか」
「地理関係の本でしたらあちらですね。案内いたしましょう」
「ありがとうございます」
司書さんに連れられて私は目的の本があるエリアに着く。
そして案内を終えた司書さんは最後に「この辺りのことを調べられるのでしたらこれがいいですよ」と1つの本を私に手渡してくれてその場から去っていった。
私は素直にその本に目を通す。
そこにはここの街を中心にした周辺地図とそこに載っている場所の詳しいことが書かれた本であった。
ちなみに、はじめの三分の一くらいはこの街の観光スポットだったりする。
それによればここから西に少し進んだところにかなり大きな鉱山があるみたいだ。
それ以外の場所は少し遠いと感じるのでそこに行くのが無難だろう。
ただ、注意点としてアイテム「ツルハシ」がないと採掘ができないこと、深く潜れば深く潜るほど魔物が強くなる所謂ダンジョンのような感じになっているらしい。
少しだけ、準備をしていったほうがいいだろう。
私は今日は必要と思われるアイテムの購入をしてからログアウトをした。
採掘はまた明日だ。
ということで翌日。いつも通りの日課をこなしてから再び舞い戻ってまいりましたこの世界。
私は街を出て西へ西へと進むことにした。
その道中、また迷子にならないように今回は地図を購入しておいた。
これで迷ってもどの方向に走ればいいかわかるね。
街のすぐ西は草原エリアだ。出てくる魔物はウサギやイノシシ。
今回は特に用事がないので無視して進む。
そのお隣のエリアは平原。
はじめのエリアから背の高い草をなくした感じだ。ここには【レッドバイソン】という魔物が出現する。
2体だけ戦ってみたけどHPが多い。
今回は首は切らずに胴体だけ攻撃してみたのだが、倒しきるのに2分もかかってしまった。攻撃回数は大体20回くらいだ。
ちなみに、そのすぐ後に首だけ切って攻撃した。4発で死んだ。
私の思っている以上に首へのダメージは大きかったみたいだ。
そしてそのエリアを走り抜けると荒野。
ここのエリアの端っこに小さな街があってそこから鉱山に入れるらしい。
荒野エリアにはそれまでは動物型だったけど人型の魔物が多く出現するようになった。
高い岩場から突然矢が飛んでくる。
「あれはコボルトでしたっけ? あの毛皮をフサフサさせてもらえないでしょうか?」
遠方から一方的に矢を放ってくるコボルト。さすがに煩わしかったので飛んできた矢を剣の腹を使い打ち返した。
すると岩の陰に頭を引っ込めた。
私はその隙をついて全力で走り抜けた。
そうやって走り続けること数時間。やっとのことで鉱夫の街「ガザリア」に到着したのであった。
門番の1つ目巨人が笑顔で私に声をかけてくる。ちなみにその巨人は高さ3メートルほどだ。
「おっ? 初めて見る顔だなぁ。オラはここの門番をやっているアイズってんだ。この街へは何をしに?」
「もちろん鉱石を取りにですね。えっと、入場に審査とか必要ですか?」
「そうだなぁ。犯罪者とかじゃないだろうし基本的にこの街は来るもの拒まずだべ。オラがここにいるんは魔物が入らないようにするって理由だから好きに入ったらいいべ」
「ありがとうございます」
私は開かれた街の門をくぐる。
街の風景はなんというか結構活気にあふれている感じだった。
ただ、鉱夫の街だというのに定番のドワーフという種族は見ることができない。
多分ここが魔族側の土地だからだろう。
確かドワーフは陣営的に人族だったはずだ。
この街で体が大きい種族が前の街より多いような気がした。
私は行き交う人を横目で見ながら目的の場所である鉱山に向かった。
掘るぞー、今日は掘るぞー。いや、今日はもう遅いから明日にしよう。
Qトカゲの人は?
A最後の一振りで無事死亡しました。
Q今のところ裁縫さん要らない扱いだな。ひどい使われ方をしないことを祈る。
A流石に裁縫さんは普通に使われると思います。
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