表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/95

ボスの戦い方というものを見せてやる(弱体化)

みかんさんより初レビューをいただきました。

期待に添えるかどうかはわかりませんがこれは精一杯頑張るしかありませんね。

これからもよろしくお願いします。

さて、ここで一つ問題提起をしてみよう。

私はこの戦い、どのように勝利するかということだ。

おそらくだが、ただ勝利するだけならなんとでもなると思う。だがそれで当初の目的、これを機にちょっかいを出してくるプレイヤーを減らすというのが達成できるだろうか?


答えは微妙なところである。

では人はどのような人にちょっかいをかけないのか、そこから考えてみようと思う。


まずは単純に怖い人。

顔でも身に纏う雰囲気でも怖い人は普段の街中などでも積極的に話しかけようとは思わないだろう。


自分より強い人。

負けるとわかっていて手を出す人はいないだろう。


変な行動をとる人。

奇行は人を遠ざける。たとえそれが久しぶりに見る知人であっても変な行動を取っているのを目の当たりにすれば話しかけるのにためらうだろう。


無言の人。

会話をしない人は人が離れていってしまいそうだ。


パッとあげられるのはこんなところだろうか? 私自身は変な人だとは思われたくないので怖くて強い人くらいに思うくらいで止めておきたいのだけど、それじゃあやっぱり弱いかな?


「あー、そうだ。ちょっといいか?」

「はい? どうなさいました?」

「今回の戦いの記録を録画してアップしたいんだけどいいだろうか?」

「はい。別にいいですよ」

「そうかい、ありがとよ!!」


PVPの準備時間として設けた時間に考え事をしていると人型大根さんが律儀に聞いてきたのでオッケーを出しておいた。

一瞬だけ悩んだが、ここにいないものにもこの場を見せつけられるというのなら受けたほうがいいと考えたからだ。


「じゃあそろそろ始めようぜ!」

「思考はまとまりませんでしたが、まぁいいでしょう。始めますよ」


こうなればアドリブでなんとか乗り切るしかありませんね。

そこはかとなく相手に恐怖を与えるボス役ってやつを演じ切ってみせますよ!!


私は気合いを入れ直す。

相手のリビングアーマーが先ほど私の送ったPVP申請に承諾する。

すると私たちはPVP専用のバトルフィールドの一つである「玉座の間」に飛ばされる。

ちなみに、別フィールドに飛ばされはしたが外から観戦は可能だ。そう設定しておいた。


配置は私1人が玉座の前、相手6人がそれに対面するような形だ。

いかにもボスに挑む勇者みたいなフィールドがあったので選んでみた。

ここで今から派手なボス戦を繰り広げるのだ。


5



4



3



両者の中央にデカデカと映し出された数字がカウントダウンを配置し始める。

あの数字がゼロになった時が開戦の合図だ。


2




1






ゼロと同時にブザー音のような音が辺りに鳴り響いた。

戦闘開始だ。

相手の6人は即興の作戦会議で考えたであろう陣形を組む。

物理耐久に厚そうなスライムさんが最前列、それを補助できそうなトカゲが一歩引いた場所に、大根、鎧、オークの人型組はそれらを盾にするように、そして鳥さんは空を手に入れた。

それに対する私だが、


「はじめに謝っておきます。ごめんなさい」

一つ礼をしてからインベントリから片手直剣を一本だけ取り出した。

今から私がやろうとしているのは効率などはあまり考えない所謂「魅せプ」というやつだ。


戦いの場において、そのような遊び心を加えるのは失礼にも当たる行動だと思っているが、今回ばかりはボスの流儀的な何かを踏襲するつもりで戦うのではじめに謝っておいた。


私は剣を取り出してゆっくりと歩き出す。

強いボスは決して走らない。


「くるぞ!」

「初撃はわいが受け止める! その間に頼みましたぜ」


陣形を組んだままこちらに近づいてこない敵に対して、私は普段と変わらない足取りで近づく。

カツ――――カツ――――と戦いの場とは思えないほど日常的な足音が玉座の間に響いた。


そしてついに2つはぶつかり合う。

スライムさんが私の手が届く範囲にくる直前、体を大きく広げて壁のようになる。

ドゲザさんが言うにはスライムの物理軽減率は80%らしい。


もし仮に、物理攻撃を8割カットする相手が目の前に現れたらどうする?

私の答え――――5回殺せば倒せる。


私は足を止めずに粘性の壁に向かって速度重視で剣を振るった。

弱点を狙うとかは考えていない。というか、スライムの弱点なんて知らない。


「わっ、これは想像以上や。多分距離がゼロになるまで持たんで!!」

スライムさんは自分の体力の減りを見て私が3メートルをゆっくり歩くより速く自分の体力が全損することを察したみたいだ。

その注意勧告を仲間にする。


「その数秒があれば一撃ずつ入れられる!」

スライムの壁の陰からトカゲが飛び出してくる。そしてそいつは低い体を利用して私の足を噛みつきにきた。


だが見え見えだ。私はその場で一度ターンをしてトカゲの噛みつきをやり過ごして逆に後ろから蹴り飛ばした。

トカゲは玉座に叩きつけられて地面に落ちる。

そしてそのままもう半回転。トカゲに少し遅れて上斜め後方からイーグルダイブをきめようとしていた鳥を左手で掴み取る。


そしてボスのステータスで強引に頭を私の胸の前に持ってきて右の剣で串刺しにした。

耐性を持っていないどころか鳥型魔族はどうやら耐久がそもそも低いらしく、その一撃で粉々に砕け散った。

脱落者一名だ。


「くそっ、多分わいにできるのはこれが最後や! きっちり決めきりや!!」

壁のスライムが体を広げたまま私の方向に倒れ込んでくる。

普通に後ろの方に飛べば避けられるだろう。

だがそれは「常に挑戦者を余裕を見せながら迎え撃つ」という私の中の強いボス像を歪ませることになる。


妥協は、許されない。


私は正面突破を選択。ここまで削っていたからスライムの残り体力を倒れ切る前に削るのは容易だ。


「かかったなぁ! その油断が命取りやで!」

スライムはHPが全損する寸前、壁のようになった体の真ん中から液体を吐き出してきた。

スライムの種族スキル【溶解液】だ。


それが発動したのを確認したのか、スライムさんは満足したような顔で逝った。顔ないけど。


「知ってますか? 液体だって、上手くやれば切れるんですよ」

だが相手が悪かった。液体だって物体だ。

実体を持っている以上、私に斬れないものは存在しない。


液体を切ることができるようになる一番簡単な条件、それは剣を音より速く振り抜くことだ。要するに切るというよりは衝撃波で吹き飛ばすと言った方が正しい。

私にとってそれはできないことではない。


一瞬足を止めてしまうことにはなったが、私に飛びかかる溶解液は音速を超えた2振りで全て除去された。


私の足は再び前へと動き始める。


「ぬおおおおおおぉぉ!!」

溶解液除去と同時に後ろのオークが飛びかかってくる。初期装備なのか、それと自分で揃えたのかはわからないが立派な棍棒を振り上げていた。


「これはプレゼントです。受け取ってください」

私はオークの棍棒を相手の体の近くで受ける。ほぼ掴んでいる手を剣で受けたような状態だ。

オークという種族は力が強そうだったからあまり力の乗っていなさそうな場所で受けたが、多分この様子だと正面から受けても受け止められたであろう。

ボスのステータスは思っているより高いみたいだ。


私はオークの棍棒を受け止めた剣をそのまま鳩尾に突き刺した。

そして手を離す。まだHPは残っているみたいでオークはその場に残ったままだ。


だから私は刺さったままの剣を下に少し引いた。


このゲームは現実と仮想がうまい場所で釣り合っている。だからこそ、こうやって突き刺したまま動かせばそのままダメージになるのだ。


オークのHPはそこで全損した。

カランとそれだけ残された剣が地面に落ちる。私がかがんでそれを取ろうとすると、私の手首に植物の根のようなものが巻きついた。


「よしっ、捕らえた!!」

「でかした! そのまま押さえてろ! あとは俺が叩き斬る!!」


植物の根の正体は人型大根の魔法だ。軽く引っ張ってもなかなか離れず私を前屈みの状態で地面に拘束する。

その間にリビングアーマーが私の下へ大剣を振り上げて叩きつける。


狙いは確実に当てようとしているのだろう。体の方ではなく拘束されている右腕だった。


「ふむ、これが魔法攻撃であれば間違いなく当たっていましたが」

「なっ!!?」


私は左手で剣を拾い上げて落ちてくる大剣の軌道を逸らした。

そして逆立ちの状態になり両足でリビングアーマーの兜を挟み玉座の方へ投げた。

一応狙いは起き上がってこちらへの攻撃しにきていたトカゲだ。

トカゲは飛んでくる兜を横飛びで回避する。


「くそっ、どこだっ!」

「ズレてる! もっと左だ!!」

「私はスイカですか」


リビングアーマーはその鎧の部位によって人の体のような役割があるみたいで、頭を体と切り離されればこうやって目の前にいるはずの私も見えなくなる。


それに気づいたのか一番近場にいたトカゲがカバーに入る。

落ちている頭の向きを私の方に向けた。これで後ろからだが私のことが見ることができる。


だが、そんなことをしている暇があったら普通に攻撃に参加した方がよかっただろう。

なにせ、彼らは知りようがないと思うが野生に現れたこの鎧と同種は私の攻撃で即死するのだから。


大根がかけた魔法の根っこも引きちぎれた。

私は右手を剣に添えて下から上へ思いっきり切り上げを放った。

金属同士が擦れ合う音とともにリビングアーマーが崩れ落ちる。

あとはトカゲと大根だけだ。魔法型の大根は早めに仕留めておかないと先ほどのような不覚を取られる可能性もある。


そのため私は剣を少し離れた場所にいる大根に投擲した。

しかしこれは回避されて青銅の剣は床に突き刺さった。

私は失った剣を補充するべくインベントリから青銅の細剣を取り出す。

片手剣は在庫がなくなっていた。


私はまたゆっくりと歩きはじめる。初めと同じ光景だ。


だが、初めとは相手の人数が全くと言っていいほど違う。

残っているのは魔法職の人型大根とダメージを負ったトカゲだけだ。一応挟み撃ちは取れるだろうが一度奇襲をかけようとして失敗したのを見ているからかトカゲは消極的な動きしかしない。


「くっ、【ウッドアロー】!!」

近づかれる前に仕留めないと負け。それがわかっているのか人型大根は私が歩き始めてすぐに魔法による木の矢を飛ばしてくる。

だがそれは切れるものだ。私はそれを正面から叩き返す。

歩みは止めない。


「だめか、なら【木霊の一撃】!」

次は地面から大きな根っこを生やしての攻撃。大きさは電柱くらいだ。

それを鞭のようにしならせて薙ぎ払うように攻撃してくる。

腰の高さあたりを通過するそれを私は身を限界まで低くして回避する。そしてその流れで刺さっていた青銅の剣を回収した。


その少しあと、通過した木の根が返ってくる。今度はさっきと同じ回避をされないようにか膝くらいの高さだ。

これなら飛べば回避できるだろう。でもそれはボスっぽくない。


ここは正面から真っ向に勝ってこそボスっぽさが現れるというやつだ。

そのために切り裂くのに向かない細剣でなく刺さっている片手剣の方を回収したのだ。


細剣でも斬れなくはないだろう。しかし足をきちんと地面に噛ませないでそれができるかと問われると難しい。

剣を振る時に最も威力と速度が出るのは足から力を全て伝達した時だ。

それを縛っている現状細剣ではあの太い根っこを確実に切れるとは言い切れなかった。



私は持ち替えた剣を思いっきり振り抜いた。

すると電柱ほどの太さのあるそれはバッサリとその長さを失い力なく宙を舞った。


カツ――――カツ――――

再び玉座の間に歩く音だけが響きはじめる。少しずつ近づいてくる私。

それから離れようとしたのか人型大根は大きく後ろに下がる。

だが、現実は非情だ。玉座の間より外に出ることはできない。


いくつか魔法が放たれたが、巨大な木の根以上の攻撃は来ない。

少しずつ確実に距離がつまり、そしてついに人型大根が手の届く位置にたどり着いた。


「はぁ〜、やっぱり敵わないか」

「少なくとも、格上と戦うには心構えが足りなさすぎましたね」


諦めていたように呟く人型大根に私はそう言い放った。

彼らの私と戦おうとする姿勢が格上を相手にするそれではなかったからだ。

私だってはじめから強かったわけではない。むしろ初めは兵士級にすら簡単に転がされていた。


兵士級を倒せても騎士級には手も足も出ない。さらに上がいると知った。

でも私があのゲームの中で最強になるまで続けられたのは諦めなかったからだ。

1つ1つの戦いに全てを出し切るくらいのつもりで戦い続けたからだ。

はじめから諦めたような彼らの心には、戦うことに対する想いが足りてなさすぎた。


だからつい、私は遺言のような大根のつぶやきに言葉を返してしまったのだ。

私はついやってしまったそれが少しだけ恥ずかしくて大根に八つ当たりするように輪切りにした。


「あまりこれはボスっぽくなかったですね」


飛びかかってくるトカゲに後ろ向きのまま剣を振り抜きながら私は1人、玉座の間でそう呟いた。





――――YOU WIN



その声が聞こえた瞬間、私は元いた場所に戻された。

そこには多くの観客とエターシャとドゲザさんの姿。

「すみません。お待たせしました」

「全然大丈夫ですよ! それにしてもすっごくかっこよかったです!!」

「そうだなぁ。一緒にここまできたから強いとは思ってたけど、あそこまで圧倒的だとはな。ボスだから強いと思ってたんだが、どうやら逆みたいだな」

「そうですね。先の戦いはどこかにアップされるらしいですし、あれだけやればちょっかいも減りますかね?」

「それは――――正直私にはわかりませんが身を引く人はいると思います。見ていてあれには勝てないってわかりますしね」

「だなぁ。少なくとも挑まれるにしても何か対策くらいは立ててからくるだろうからすぐに人が殺到ってことはないかも知れねえぜ」

「それならいいのですが」

「あっ、メーフラさんじゃあ町の案内の続きしましょうか? どこかこういう場所に行ってみたい、みたいなのあります?」

「そうですね。今日はそろそろ夕飯の支度があるのでこのくらいで落ちるとします。長い間引き止めてしまいお二人ともすみません」

「何、エターシャが世話になったんだ。いいってことよ。いいものも見れたしな」

「そうだよ!私たちは友達なんですから、いつでも頼ってくださいね!!」

「はい。またお願いしますね」


私は2人に手を振りながらUIからログアウトの項目を選んだ。





そしてその日の夕方。

昨日作り置きしておいたカレーを温めなおしながらふと思いついた。

「今日頑張ったけどあまりボスっぽくならなかった1番の原因ってやっぱり剣だけってのが地味だからですかね? ………派手さを出すためにもどこかで蛇腹剣を調達した方が良さそうです」


蛇腹剣というのはざっくり噛み砕いて言えば鞭に刃をくっつけたような武器だ。

『剣』とついているだけあって『THE・剣豪』の世界に普通にあり自分もかなり練習したことを覚えている。


あれがあれば戦闘に華を咲かせることが簡単になりそうだ。

カレーをカレーうどんにクラスチェンジさせながら私は次にインしたらそれをさがすことを決意した。



Q 主人公が人族の街の周りをぐるぐる回っていれば人族詰んだのでは?


A メーフラさんは今のところ遠距離攻撃を搭載していないので流石に魔法使いたちの絨毯爆撃によって討伐された、かな?そうでなくても弟の一声でどっか行くから詰みはしなかったと思われます。


ブックマーク、pt評価をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

doll_banner.jpg
お姉ちゃんの頑張りが書籍化しました。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ