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乱れない街(中)

 休日。

 今日は寮のみんなで公園へ遊びに行こうという話になり、わたし、有紗、明日香、そしてゆみりちゃんを連れてあの小さな公園へとやってきたわけだけど―――


「・・・」


 ゆみりちゃんは(つば)の大きな帽子を目深にかぶって、公園の入り口に座り込んじゃっている。


「おー、今日の主役がへたっちゃってるでスよ」

「だってぇ」

「いつも部屋の中にこもってるからそうなるんだよ! この晩夏の日光を直接浴びて、元気に遊ばなきゃ!」

「おお、さすが脳筋」

「褒め言葉として受け取っておくよっ」


 一年生ズがわちゃわちゃとしているうちに、わたしはベンチに座ってふうと一息つく。


(ゆみりちゃんじゃないけど、休日に公園来るのってちょっとめんどくさいよね・・・)


 わたし一人じゃ絶対に出てこない発想だ。今日の計画だって、一年生ズ(ゆみりちゃんを除く)が決めたことで、わたし自体は乗り気じゃなかったということは言っておきたい。

 彩夢と一緒に寮でお留守番してても、何の問題も無かったのだ。


「歌子さんも、たまには外に出てください」


 という彩夢(おかあさん)の一言さえなければ・・・。


「あー、歌子さん。早速なにくつろいでるんでスか!」

「だってさぁ。公園来るのは良いけど、何するの?」

「いくらでもあるじゃーん。砂場でお城作ったり、ブランコ漕ぐのも良いし」

「子供か・・・」


 いくらなんでも高校生がやることとは思えない。

 有紗と明日香のバイタリティに感心しながらも、感心してるからこそため息を吐いていた、その時。


「ん?」


 公園の反対側から、違う一団が入ってきたのが見えてきた。


(子供だ)


 それは正真正銘の子供。女の子四~五人だ。

 とは言っても彩夢と同い年か、少し下くらいだから、彩夢に慣れているわたし達からしたらそれほど年が離れているとは思えないような年齢の子供たち。


「何して遊ぼっかー」


 などと言う声が聞こえてくる。これ幸いと思ったのは有紗と明日香だ。


「こんにちわーでス」

「「こんにちわー」」


 有紗の挨拶に、キチンと返す礼儀正しい子供たち。


「お嬢ちゃん達、いつもこの公園で遊んでるんスかぁ?」

「ううん」

「いつもみんなで遊んでるんだけど、今日はどこで遊ぼうかって探してたんだ」

「そしたら、この公園があってー」

「うんうん」


 子供たちの話を頷きながら聞く有紗。


「じゃあ、お姉ちゃんたちと遊ぼっかー」


 そんな声が子供たちから聞こえてくるのは時間の問題だった。


「え。いいんでスか?」

「いーよー」

「私たちもお姉ちゃんたちと遊びたいー」

「ほら、この子たちもこう言ってるし」

「しょうがないでスねえ。じゃあ一緒に何かしましょうでス!」


 トントン拍子に話が進んでいく。

 こういうところは、内面がまだまだ子供の有紗と明日香の得意分野なのだろう。

 子ども同士、すぐに仲よくなって遊びの約束を取り付けてしまう。


「歌子さーん! みんなで鬼ごっこやらないでスかーー?」

「いや、わたしはいいよ」


 そして、視線をわたしの隣でうずくまっているゆみりちゃんに移して。


「ゆみりちゃんも、わたしと一緒にここでみんなが遊んでるの見てるから」

「了解でスー!」


 じゃあはじめよっかー、と鬼ごっこを始める有紗、明日香と子供たち。


「元気だなぁ」


 わたしにあそこまでの元気はさすがに無いよ、と感心する。


「ゆみりちゃんは、何する?」

「スマホ持ってきたから、これで読書・・・」

「読書?」

「電子書籍」

「ああ」


 今はハイテクだなあ、とこっちにも感心してしまう。


「・・・」


 しかし、することなく公園でぼうっとするのも何だ。


(何かしたいけど、することが無いなぁ)


 隣のゆみりちゃんはベンチの上でスマホを使って読書に没頭しちゃってるし。


(わたしも、鬼ごっこするかな・・・)


 なんて血迷ったことを思った時。


「・・・」


 わたしから少し離れたところで、女の子がぽつんと立っているのに気が付いた。


(あの子は確か・・・)


 鬼ごっこをしている女の子たちの一団の子だったはずだ。


(まさか、仲間外れとか?)


 そんな少しじめっとした予想を立てながら、わたしはベンチから立ち上がってその女の子の下へと向かう。


「どうしたの?」


 なるべく優しく、そして朗らかに話しかけたつもりだったが。


「・・・っ」


 それでも、少し警戒されてしまったようだ。

 まあ、仕方がない。金髪に染めた時、子供人気は捨てたつもりだったから。


「だいじょうぶ。お姉ちゃん怖くないよー」


 両手をぱっと広げ、向こうに見せるようにして警戒心を解く。


「髪の毛・・・」

「ああ、これ? 綺麗でしょ金色。触ってみる?」


 ふるふるふる。

 結構な勢いで首を横に振る女の子。


「君は鬼ごっこ、しないの?」

「私は・・・、運動、苦手ですから。見てるだけですの」

「へえ。暇じゃない?」

「なかなか暇ですの・・・」


 よし、一応会話は成立するようにはなったぞ。


「じゃあ、こっち来ない? わたし達も今、なかなか暇しててさ」

「よろしいのですか?」

「人数多い方が楽しいじゃん。こっちも鬼ごっことか苦手組で固まってるからさ」


 すると彼女は、少しだけ目を輝かせて。


「そ、それでは・・・」


 おずおずと、ゆっくり手を指し出す。

 その先端の指の先を、ちょこんと触って―――そのまま少し、歩きはじめた。


(なんとなく)


 彩夢に似てる子だな、と思う。

 年齢で言えば、この子の方が少し下くらいなんだろうけど。


「ゆみりちゃーん、仲間連れてきたよー」

「ふぇ?」


 読書に没頭していたであろう、ゆみりちゃんの返事が上ずる。


「この子。えと、名前は・・・」

「桜ですわ」

「桜ちゃん」


 確認するように名前を呼ぶと。


「お姉さん、何をなさっているのですか?」


 桜ちゃんはゆみりちゃんの持つスマホに興味津々なようだった。

 いや、どちらかと言うと、そのスマホで何をしているかが気になっている様子。


「読書・・・。本、読んでるの」

「本・・・?」


 どこにも本が無いことを確認すると、はてと首を捻る桜ちゃん。


「ああ。このスマホの中にね、本が入ってるんだ」

「スマホで本が読めるんですの?」

「うん。読んでみる?」


 ゆみりちゃんがこちらにスマホを向けて、少し頭を傾けると。


「さ、触っても、大丈夫なのですか・・・?」


 桜ちゃんは目を輝かせて、しかしそれでもゆっくりと、何かを確認するように、ゆみりちゃんの隣に座って、スマホの中を覗き見るように首を伸ばす。


「ここをね・・・こうして」

「ページがめくれてますわ!」

「そうそう。戻る時とかはこうして・・・、ズームとかすることもできるんだよ」


 そのたびに目を輝かせる桜ちゃん。それを教えるゆみりちゃんも、心なしか楽しそう・・・、いや、普通に楽しそうだ。


「あ、あの。これ読んでもよろしいでしょうかっ?」

「うん。そうだね・・・、一緒に読もうか。何が良いかな。桜ちゃんは普段、何を読むの?」

「小説とか好きですわ」

「小説か・・・。じゃあこれとかどうかな」

「アニメで見たことありますっ」

「それの原作だよ。一緒に読もうか」

「はいっ」


 へえ、ゆみりちゃんって、面倒見が良いところあるんだ・・・というか、同じ趣味の仲間が見つかって嬉しいって感じかな。


(公園に来ても、アウトドア派はアウトドア派同士、インドア派はインドア派同士で固まるんだな)


 なんか、面白いものを見た気がする。面白いと言うか、非常に興味深いと言うか・・・、こういうのって、ちょっといいなって思う。

 学校ではあまり同じ趣味の子とか居ないし、楽しく話すこともあまりないから、余計そう感じちゃうのかな。


(やっぱり好きなものや共通の趣味って、強いんだなぁ)


 生粋の能天気・有紗。

 脳筋・明日香。

 この二人はコミュ力とその運動神経、ありあまるパッションを活かして子供と鬼ごっこ。

 寮でも変わりもので、部屋に引きこもりがちなゆみりちゃんも、スマホで読書という趣味で同じ内向的っぽい子供と繋がる・・・。最初はなんか気乗りしなかった公園遊びも、やってみると面白いものだ。


 ・・・って、


(わたしはどうなんよ)


 特に何をするでもなく、ベンチに座ってそれを眺めてるだけって。


(わたしにも趣味とか得意なものとか、あったらなぁ・・・)


 ヤバい。

 自分の何もなさに空虚感が漂ってきた。


「あー、やめやめ」


 口寂しくなってきたし、自販機でジュースでも買ってそれ飲みながらまた別のこと考えよう。

 そう思って立ち上がろうとした時。


「やっぱり、電子書籍より紙の本の方が好きですわ」

「え、どうして? どこでも読めて便利じゃん」

「あの紙の手触り、質感、そして本の匂いは電子書籍では表現不可能なものですわ」

「でも紙ってかさばるし」

「本を集めることも楽しみの一つですーっ」


 おや、旗色が・・・。


「桜ちゃんって、頭堅いって言われない?」

「言われませんっ。お姉さんこそ、拘りとかないんですの?」

「あはは・・・。拘り、かぁ。私は便利なら何でも良いと思っちゃうからなあ」

「そんなんじゃダメですわっ。もっと自分をしっかり持つべきですの!」


 まるで自分と彩夢のやり取りを見ているようで、妙なデジャヴ感に襲われる。


「今度、お薦めの本を持ってきますので、お姉さんの家を教えてください」

「私、寮住まいなんだ」

「寮? 寮ってあの坂を上ったところにある・・・」

「そうそう」

「じゃあそこまで行きますっ」

「えー、いいよめんどくさいし」

「そういうものぐさなところ、少し直した方が良いと思いますの!」

「うへぇ」


 ゆみりちゃんと、目と目が重なる。

 彼女の視線は「歌子さん助けて!」とこちらに訴えかけていた。

 それを百も承知の上で。


「・・・」


 華麗にスルーした!


(ゆみりん、食らえ。これが世話焼き常識人タイプからの矯正プログラムだよ)


 その方が後々、ゆみりちゃんの為でもあるし。


「わー、歌子さんの裏切り者ー!」

「何を言っているんですか。ゆみりお姉さまの部屋、お掃除して差し上げますから」

「お姉さま!?」


 ゆみりちゃんが信じられないようなものを見たという顔をしている一方で、桜ちゃんは首を捻る。


「と、年上の女性のことをそうお呼びすると、私の読む本に書いてあったのですが・・・」


 彼女は何がおかしいんですか?と言わんばかりだ。


(桜ちゃんの読んでる本・・・、傾向が分かって来たかな)


 普段、本をあまり読まないわたしでも、そこだけは何故か推察できた。

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