第5節:ソディウム・ヴェイパーⅠ
――さあ、読者諸君に授けよう、これこそが英作文の眼……!!――
アウチ! 馬から落馬して腰痛が痛い!
自分が馬上でツカサさんの腰に後ろからガッチリ手を回している事実を両目でしっかり把握してしまったのが運の尽き、俺の軟弱なオタク精神は女子の腰をホールドして2ケツなどという行為を許さなかったのだ(無生物主語)!
――経緯をもう少し詳しく説明しよう。無事眼球を取り戻しツカサさんの馬に便乗させてもらった俺。しかし乗馬経験も無いのに鞍の無い馬に二人乗りとはあまりにハードルが高い。馬の後ろの方は随分良く揺れて、何かに掴まっていないと態勢を保てないのだ。仕方なく目の前のツカサさんの腰に手を回して状況を切り抜けようとしたのだが、俺の軟弱なオタク精神は女子の腰をホールドして2ケツなどという行為を許さなかったのだ(無生物主語)!
「ヒャー」
俺は地面に転がって変な悲鳴を上げていた。そりゃそうだ。眼ばかりではなく腰をも(not only 眼 but also 腰)やられてしまった俺は最早ア〇ナミンEXプラスα及びナボ〇ンS等と言った比較的高価な製剤に頼るほかはない。この悲鳴はそういった経済的なモノである。
「うわ、落ちやがった」
ツカサが気づいたようだ。さあさあ俺を抱え起こすがいい。倒れ込む少年を抱え起こす男性口調お姉さん(創作の世界にしかいない)というような構図は俺の大好物なのだ。ああ、背中に回される女性的なやわらかい手! 顔に感じる吐息! 最高か? 最高なのか?
「――ヒャー」
俺はまた変な悲鳴を上げたものの、その悲鳴は経済的なものというよりむしろわれわれ人類の根源的なものなのであった(B rather than A)。
悲鳴は共鳴する。
「ヒャー」
「ヒャー」
「ヒャー」
「ヒャー」
「ヒャー」
「ヒャー」
――いや、いくらなんでも共鳴しすぎでは……、という貴方の疑問を払拭すべく、忽然と現れたヒャーヒャー鳥!
「や、やばい、ヒャーヒャー鳥が来やがった! 逃げろ!」
え? そんなヤバいの? などと呑気な反応をしてはいられない。今までの乏しい経験からすると、この世界の危険生物は本当に危険なのだ。やばい(Dangerous)。
「急げ! 馬にまたがれ! 一人で! 私はいいからなるべく遠くに逃げろ、お前には危険だ!」
「えええ、そんな、お前はどうなるんだ」
「うるせえ。もちろん、戦うんだ。ヤツと」
そう言った彼女の声が震えている事は誰の目に見ても明らかだったが、だけど俺には逃げる事しかできなかった。異世界は厳しく、俺は無力だった(対比構造に着目しよう)。
同刻。
――宙界、それは内側と外側が混沌という名の契りを結ぶ場所――
――すなわちモーテルでのご休憩、あるいは失われた終電――
――あるいはそのどちらでもない、孤独な楽園――
――夢にしておくには余りに眩しいその輝きは――
――うつつの闇夜を明るく照らすソディウム・ヴェイパー――
――Oh, yeah――
――さて――
――前回、第4節での私の意味深な発言、そして謎URLについて、たくさんのお便りをいただきました――
――ファサ……ファサファサ……(風に舞う数々のお便りの発するえもいわれぬ音)――
――まずあの意味深発言ですが、主人公くんの境遇とギリシャ神話のペルセポネーの境遇に類似性を見出した私が――
――あくまで独断で、今後主人公が二度と元の世界に戻れないだろう事を示唆する内容を書き込みました――
――ネタバレではありません……バレるネタなど持ち合わせておりません――
――ファサ……ファサファサ……(風に舞う数々のお便りの発するえもいわれぬ音)――
――URLに関しましては、その意味深発言に対する解説としての役割を期待したものとなります――
――これも私の独断です、ご不快な思いをさせてしまっていたら申し訳ございません――
――以上、わたくし三人称視点(いわゆる神視点)がお送りいたしました――
――ブァサ……ブァサ……サササササササァァ……(本当は受け取ってなどいない、数々のお便りの幻が遂に崩れ、灰となって散る音)――
果たして三人称視点はこの小説から地の文を奪還することができるのか――!?
(書き終わってから蛇足パートが結構な割合を占めていることに気づいた)