第2節:出会いと別れ
一応グロ注意です。R-15にした甲斐があったな!
「はっ」
目が覚めた。異世界転生である。異世界転生、話には聞いたことがあるが、何しろ自分で体験したことは一度もない。だからサッパリ勝手がわからない。こんな一次遷移真っ最中の草原のど真ん中に放り出されても。途方に暮れてあーーと呻いて空を仰げば月が3つ、そして太陽は2つもあった。ふざけるな。
「トーリトリトリトリ、トーリトリトリトリ。私はトリプルムーンの精」
妙な笑い声が聞こえてきて俺は腰を抜かした。まあ先ほどはチェーンソーで首を抜かしたのでそれよりはマシである。怪しみながらもトリプルムーンの精とやらの声の方向に目をやると小さな妖精さんがいた。
「あっ、目が合ったね。改めまして、私はトリプルムーンの精。はじめまして! 私はこの世界への来訪者が3つの月を見て『多すぎるぅ~』ってプンスコした時に現れるんだ! よろしく! キラッ」
「そして私はデュアルサンの精。はじめまして! 私はこの世界への来訪者が2つの太陽を見て『多すぎるぅ~』ってプンスコした時に現れるんだ! でも太陽はとっても明るくて目が焼けて目玉焼きになっちゃうから迂闊に視ると痛い目に合うよっ! 目玉焼き、おいしいよねぇ! 醤油をかけてどうぞ! キラッ」
「うわぁーやめろー」
なんだこれは。脳に入る情報量が多すぎて混乱のあまり失神してしまいそうだ。異世界は厳しい。だがこう見えてこの妖精さんたちは所謂『第一村人』であり、彼らから何らかの情報を仕入れることが異世界転生においては重要になってくるには違いなかった。俺は勇気を出して尋ねた。
「あの、ここは、どこなんですか?」
「うん、端的に言うとど田舎だよ。」
「そうだよ。むずかしめな言葉で言うと人口希薄地帯だよ。最寄りの街まで徒歩7時間!」
7時間。センター試験のみならず運命の神にまでわが身を見放されたという形になる。血も涙もない。もちろん得点もない。最悪である。英語で言うとワースト。
「7時間……もうだめだ……」
「大丈夫! ほら、もしおなかが空いちゃっても目玉焼きがある。2個も!」
2個の目玉焼き。ちょっと待って欲しい。俺は嫌な予感がした。
「あの、その目玉焼きってのはひょっとして――」
「これだよ!」
トリプルムーンの精とデュアルサンの精はそろって何か先割れスプーンのようなものを取り出してきた。うわあ。やっぱりだ。趣味が悪すぎる。俺がドン引きしている間に2人はどんどん近づいてきて、しまいには俺の両眼をそっくり抉り取ってしまった。世の中やっていいことと悪いことがある。
「が、があああああ、があああああああああ!!」
首を切られた時と違って目を抉られた痛みは長く続く。英語で言うとラスト・ロング。別の意味で顔から火が出るような痛みだ。地獄だ。精神がおかしくなりそうだ。
俺がさんざん悶絶していると、やがてどこかからジュージューという何かを焼く音と醤油の香ばしい香りが漂ってきた。奴等はきっと食うのだろう。――異世界転生は、思いのほか厳しいようだった。
やばいこのあとどうやって続けよう……