長女クリスティーナ13
久しぶりの投稿で申し訳ないです。
説明会
クリスティーナの手加減抜きの雷撃が女を貫くが、いくら貫かれようとも、女は、雷撃を軽傷扱いし、止まることなく反撃の隙を伺っている余裕まで見せてくる。
ここだけ聞くと、女の方が有利に見えるが、クリスティーナもクリスティーナで魔力が減るそぶりが見えず、絶えず雷撃を降り注がせることで、女の反撃の機会を根こそぎ削り取っていた。
結論から言えば、この闘いは拮抗していると言えるだろう。
クリスティーナは、事実上の最低値と言える兄のユークラウドとは違い、魔力門が十分以上の大きさを保つため、魔力の瞬間出力は並の人間では歯が立たない。
それこそ、常人が彼女の本気の雷魔法をくらえば問答無用で黒焦げになってしまう程度の威力を持っている。
加えて、雷を出し続けても魔力切れする事のなく、衰えるそぶりすら見せない圧倒的な魔力潜在量。
魔法を使えば使うほど魔力は消費されていくため、己が魔力の潜在量=戦闘継続能力といっても差し支えなく、クリスティーナのそれは常人とは持っているものが違い過ぎる。
瞬間火力および戦闘継続能力。
この2つを持ち合わせる彼女は、こと戦闘において、圧倒的な優位を保てる才能を持っていた。
今の彼女の姿をエリアナなんかが、目の当たりにしたならば、「神童」の二文字を与えることに躊躇はしないだろう。
これが、5歳となったばかりの少女だというのだからこの先が末恐ろしい。
ただでさえ優秀な筈の彼女に成長性という加点要素が加わるのだ。
誰もが彼女に期待し、彼女もその期待に応え偉業を成す。
そんな未来が彼女に待ち受けていることは間違えない。
勿論、この先があればの話だが。
たとえ「神童」という称号を貰う可能性があろうとも、将来が約束されていようとも、今、この瞬間、彼女の全力の雷撃が戦闘に役に立っていないというのが紛れも無い現状であり、その事実が彼女を苦しめている現実。
もし、この瞬間に負けてしまえば、未来など望むべくもない。
そんな状況を作り出しているのは間違えなく女の実力故。
もう一度言おう、闘いは拮抗している。
クリスティーナが特別だとして、ならば相対する女もまた特別であるのだ。
最初の頃こそ、全力を使えば相手は消し炭になると、手加減をしていたが、今はそんな余裕なく、クリスティーナは文字通り全力全開の力を振るっている。
相手が普通の人間相手なら、一撃で殺せる筈の火力を誇るその全力を受けても動けるのが女の特異性。
仕組みは分からないが、クリスティーナの対峙するその女は黒焦げになることなく、彼女の電撃を防ぎ続けている。
いくら卓越した才能を持っていたとしても、雷撃が効かなければクリスティーナには意味がないに等しくされる。
もし、クリスティーナに強化魔法の適性が無ければ、肉弾戦における体格差の差からすぐさまやられていただろう。
他の選択肢として、比重を肉弾戦に重きを起き始めたクリスティーナだったが、こちらも状況が芳しくなく、直ぐにやめた。
クリスティーナは肉体強化魔法と持ち前の魔力量で自分の身体能力を大幅に底上げしているのだが、相手も何かしらの方法で肉体を強化しており、相殺される。
出力こそ、クリスティーナの方が上だが、その使い方、実践値の有無が現状の決めてとも言える。
戦闘においての肉体の操り方を知っているか知っていないかは大きな差を生む。
どれだけ、戦闘の才能があったとしても、現時点のクリスティーナには、実践経験というものが皆無。
加えて、相手はそれなりの場数を踏んでおり、まともに取り合えば徐々に押され始める事は目に見えている。
こうした経緯もあり、互いの実力は均衡を保っていた。
だが、これに負ければ全てを失うクリスティーナからしたら堪ったものではない。
対処能力、及び戦闘経験という目に見える差に彼女は歯噛みする。
それさえあれば、こんなに苦戦する事は無かったのだ。
辺境の村と言えど、神獣、それもドラゴンが司るこの平和な国において、5歳児が戦闘を想定している方がおかしいのだから、当たり前の話なのだが、いざ巻き込まれてしまうとそれは言い訳にしかならない。
そんな風にクリスティーナは考えてしまうのだ。
選択肢として、戦闘スタイルを別のものにする、例えば、魔力の比重を肉体強化ガン振りにするということもある。
そうする事で、力でごり押しするという選択肢も取れないわけじゃない。
逆の選択肢としても、雷に比重におくというものもある。
今まで身体強化にかけていた魔力を雷にかけ、今以上の破壊力を生み出すことが可能となる。
だが、その両方の選択肢共に取れないのは彼女が魔術型故。
彼女が往来持つ魔術門は2つあり、2つの魔法までなら同時に行使できるが、その枠を1つ半永続的な肉体強化魔法にとり、もう1つを雷を撃つという形で取り扱っているのが現状である。
もし、魔力門2つを使って1つの肉体強化魔法を発動しようとしたならば、一度、1つ目の枠を占領している肉体強化魔法を解かなければならない。
その後、掛け直しということになるのだが、魔術型である限り、必ず詠唱が付きまとってしまう。
肉体強化魔法が解け、雷魔法も使わず呑気に詠唱をするクリスティーナを敵が待ってくれるだろうか?
非、そんな事はあり得ない。
必ず、その隙を好機と相手はクリスティーナを戦闘不能に追い込むだろう。
ならば、距離を取るか?
そんなことをすれば、女は間違えなく、ユークラウドを狙い2対1という選択肢を取り、各個撃破の形に切り替えるだろう。
今発動している肉体強化魔法とは別にもう1つの魔力門で同じ肉体魔法を使い、それぞれに分けて2つ使うという手段もない事は無いが、それは悪手と言えるだろう。
この肉体強化魔法は単発用を2つ重ねても大丈夫な用に組み方をしていないからである。
もし、やろうとすれば、魔法が不発になる可能性が高い。
本来、別々の魔力門で肉体強化魔法に肉体強化魔法を重ねたいと思うならば、既に発動している魔法に対して、フォローする様な魔法に組み替えなければならない。
その為の詠唱をクリスティーナは知らない。
知らなければ発動することが出来ない。
この事実に、もう一度、クリスティーナは歯噛みする。
もし、自分がもっと早いペースで勉強出来ていたらと。
そも戦闘において、魔術型は圧倒的に不利なのである。
魔法を発動する為には、詠唱が必要で、その詠唱も知っているものしか使えない。
もし魔闘型なら、詠唱を使わずに戦闘する事ができ、魔力門が2つ別れていたとしても容量(キャパシティー)さえ確保していれば、その場のイメージで使う事が出来る。
前準備と後隙。
この2つの要素が絶対的な障害として魔術型の戦闘には降り注ぐ。
その点で言えば、寧ろ、この歳として抜きん出た魔法の知識を持ち、持ち前の魔力で肉体強化魔法を半永続化させ詠唱の隙を生み出すクリスティーナは褒められた方なのだが、当人が満足で無いのなら、どうしようもない。
別のアクションを起こせるわけでは無い為、戦闘こそ起こるものの膠着状態が続くこの状況。
このままでは千日手で、どちらかの魔力が無くなるのを待つしか無らず、その点で言えば、流石に魔力を大量に使うクリスティーナの方が不利だろう。
それでも彼女は諦めない。
何故?
それは、兄に任されたのだから。
何度目か分からない攻防の中、不意に女の前に少量の水が現れる。
咄嗟のことに反応の遅れた女は、目潰ししのようなかたちで水貰ってしまい、その瞬間が大きな隙となった。
女は大きく動じるが反対にクリスティーナは動じない。
彼女はこうなることを知っていたからだ。
兄がそういう性格であると知っていたからだ。
簡単なことだ、状況が拮抗しているなら、横槍を入れて貰えばいい。
怯んだ女に向かって近付き、至近距離、おおよそ顔面の前で貯めた雷をぶちかますクリスティーナ。
雷は顔面を襲ながら水を伝い、女の眼球を焼いていく。
幾ら雷に対する耐性を持つとしても、彼女の耐性は眼球まで及ばない。
たったその一手により激痛と共に失明が女を襲う。
それは圧倒的な転換期だった。
確定的な瞬間であった。
自らの力だけで解決できなかった不足を嘆くとともにクリスティーナは小さくこの状況を打破した功労者に尊敬の念を表す。
「流石です」
と。
目を焼いたことにより、圧倒的に有利となったその瞬間クリスティーナは詠唱を始め、後ろに大きく距離を取る肉体強化魔法はすでに解いている。
故意的に作られた隙は、出来なかったはずのことも選択肢に加えてくれた。
半永続化的な肉体強化も魅力的だったが、永続させるのに時間がかかってしまう。
ならば、選択は一択。
己の今出せる全ての力を詠唱に込め、利き手と共に振るわせる。
目を奪われた女の妨害は空を切り、クリスティーナには届かない。
雷を、早く、鋭く、轟かせる。
2門をフルに使ったクリスティーナの魔法は森の地形を編成させ、辺りを焦土と化した。
煙の所為で、辺りの様子は把握できないが、焼けた目も相まって女は戦闘不能であることは間違えない。
ならばと、女は捨て置き、今度は兄を援護する為に、もう1つの戦場へと振り返るクリスティーナが見たのは、
横たわり動かなくなったユークラウドだった。
難産
物語全体にちょくちょく修正かけてます




