表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
襲撃Ⅰ.v
95/114

長女クリスティーナ12

 クリスティーナがユークラウドの戦闘を視界に捉えた時、彼は追い詰められていた。

 いつのまにか最初の男が合流し、二対一の状況が出来上がっていたのが、良くなかったのだろう。


 この時、自分が思考より先に手が出るタイプなのだと始めて知ったクリスティーナ。

 気付けば、作戦もへったくれもなく、ただただその身の強化魔法に身を任せ、女へと蹴りかかっていた。


「お兄さまから離れなさい」


 兄曰く、羽より軽いクリスティーナの全体重を乗せた飛び蹴り。

 それでも、助走、踏み込み、インパクト、それら全ての場面に強化魔法による支援が入ったその蹴りは、爆発的な火力を持っていた。


 近くにあった木々ごと、女を地平線の彼方へと連れて行くクリスティーナ。

 不意の攻撃に防御が間に合わなかった女は、少なくないダメージを負いつつも、反撃の機会を伺う。

 が、彼女の攻撃はまだ終わらない。


 辺りの障害物をなぎ倒し、ようやく停止した瞬間、クリスティーナの足から雷が爆ぜたのだ。

 爆ぜた雷は辺りを無差別に焼き尽くしていき、女をさらに追い詰めて行く。


 予め、移動しながら詠唱で溜めに溜めた雷の威力は過去最高。

 二段構えによるオーバーキル気味の攻撃は並の相手なら、それだけで戦闘不能になるだろう。


「戻ってきたのか」


 爆ぜる雷をまともにくらっている筈のこの状況で、そんな呟きが聞こえた気がした。


 クリスティーナは、雷を全て放出すると、距離を取り直し、女の状態を伺う。

 先程までと比べ物にならない位の火力の一撃をもってしても、女は肌の表面を一部焼け焦がす程度のダメージしか負っていなかった。


 だが、それはおかしいのだ。

 雷自体の威力は大幅に上がってた筈なのに、そのダメージは減るというのは、通常ではあり得ないこと。

 考えられるのは、何らかの方法で雷を防いだか、雷に対する耐性を持ったか。


 兄が教えてくれた女の魔法は肉体変化魔法であるという事実を加味して考えると、もう一度戦う時のために肉体を改造したと考えられる。

 いや、もしかしたら、あの時すでに肉体の改造は終わっていたのかもしれない。


 もし、兄の忠告が無かったらと思うとゾッとするクリスティーナ。

 あのまま戦いを続けていたら、クリスティーナは確実に敗北していただろう。


 だが今の彼女は違う。

 クリスティーナは、自ら考え、効果の薄くなった雷魔法から肉体強化魔法へと魔力比重を傾ける。


 それは、あの時の彼女には出来なかったこと。

 だが、今の彼女には出来る事である。


 もう兄の足手纏いにはならない。

 彼女はそう決意して戻ってきたのだ。


 さっきまでのクリスティーナはもう居ない。

 そう自らの成長を伝えようと、兄を横目で見るクリスティーナだったが、当の本人であるユークラウドは、ジトッとした目をクリスティーナに向けていた。


 とても何か言いたげにクリスティーナを見ていた。

 というか、今、何も考えずに飛び出して来なかった? と目線が訴えていた。


 思い当たる節しかなかった。

 このままだともう一度、帰れと言われそうな雰囲気にダラダラと冷や汗を流す。


 なんて言い訳をするかを、考え、考え、考えた末に、前へと視線を戻す事クリスティーナ。

 そうして、敵への警戒を無理やり最大限に引き上げる。


 とどのつまり、兄の表情は見なかったことにしたのだ。

 彼女は結局彼女のままだった……。


 一瞬だけ追い返すという選択肢が浮かんだユークラウド。

 とは言え、ピンチを助けてもらったのもまた事実。


 それに、今度はきちんと思考を働かせている変化も見ていれば分かった。

 こんな時に喜んでいいのか分からないが、妹は確実に答えを得て、成長して戻ってきたのだ。


 ユークラウドは少しだけ、と言っても一秒にも満たない時間の中で何が最適化を考える。

 その結果、はぁと、ため息を吐き、クリスティーナと妹の名前を呼ぶことにした。


 兄の呼びかけに、妹は死刑宣告を言い渡される囚人の背中の様な哀愁を漂わせる。

 まさか、登場して直ぐに戻されるとは思っても見なかった妹は、必死に言い訳を考えるが、兄の言葉の方が先であった。


「そっちは任せても良い?」


 突然の無罪判決に豆鉄砲を食らうクリスティーナ。

 そして、与えられた言葉を何度も反復する。


 数秒の時を経て言葉の意味を理解した彼女は、戦闘中だと言うのに、頰が緩んでしまうのを抑えられなかった。

 隣に並び立てることを許されたこの喜び、兄に認めて貰ったこの胸の高鳴りを止めること等、出来ようが無いのだ。


「お任せ下さい! お兄さま!」


 兄の思いに答えるように、クリスティーナは、自らが持つ最大限の心で言葉を返す。

 今、彼女は、誰にも負ける気がしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ