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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
襲撃Ⅰ.v
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メイドのミシェル10

 バリスタでその身を貫かれた男は、そのまま地面へと落下する。

 響いたその衝撃音がその勢いを物語っていた。


 刺された上に、受け身も取れずに地面へぶつかった彼は、最早闘える状態にないだろう。

 ミシェルが辺りを見渡すと、あちらこちらで略奪の為の戦闘が始まっているのが見えた。


 敵が複数にいる事を確認し、考えていた中で一番最悪現状に唇を噛み締めるミシェル。

 賊達がどれだけ多くいようと、こんな事をしでかしてしまえば、神獣による神罰を免れることは不可能なのだ。


 ともすれば、ここに居るのは、単なる馬鹿の集まりか、命を失うことを恐れない異常者達。

 こういう手合いを相手取ると、必ず苦戦を強いられるのだと、ミシェルは己が経験から知っていた。


 賊の死に場所ゆくすえこそ決まっているものの、たった今この場所で惨劇が巻き起こるのは確実だろう。

 勿論、ミシェルが動けば、その自体は回避する事が出来るかも知れない。


 だが、ミシェルにとって重要なのは、村人達を助けることではなく、主人の子供達の安全を確保すること。

 末妹であるクルーニャの安全こそ主人が確保しているだろうが、森へ行った二人の安全を確保する為には、同じ村で暮らした人達とは言え助ける暇など無い。


 もしかすると、もうここには入れなくなるかも知れないが、主人の、そして、自分の大切な物には変えることが出来ないのだから。

 今ここで、主人の元を離れることになることこそ、心苦しかったが、賊ごときに遅れを取るお方では無いと彼女は割り切る。


 そうして、森へと一直線に向かおうとしたミシェルだったが、ふと、一つの懸念を思い出すのだ。

 それは、男が口にした「ゴルディ」という、主人と袂を別けた男の家名のことを。


 何故、男があの家のことを知っていたのかと、疑問を持ったところで、ふと、背後から聞こえない筈の声が聞こえた。


「何処へ行く」


 もし、彼女が反射的に身体をそらして無かったら、一発で戦闘不能になっていたことは、間違えないだろう。

 彼女がいた筈の場所をあり得ない速度で飛ばされた石が通り過ぎて行く。


 しつこい、と振り向いた瞬間には、男は既に目の前に居て、獲物を狩る時特有の笑みを浮かべていた。


「次はどう足掻く?」


 急いで、ポケットへと手を伸ばすミシェルだったが、男の方が早い。

 間に合わないと分かると否や、ダメージを受けること前提で、意識を保つ準備をし、狙いをカウンター変更しようとして、


 ミシェルの前に見えない空気の盾が現れ、その身を守った。


 男の攻撃が防がれたことにより、ミシェルには反撃の為の余裕ができる。

 その合間をつかって、彼女はポケットから取り出した小さな石を投げた。


 石は二人の間で破裂すると、大きな突風を生み出し、男とミシェルの距離を離してくれる。

 戦闘の仕切り直しに成功するミシェルだったが、その顔はどこか悔しそうだった。


 男の体にはバリスタによる穴こそ空いていたが、そこから、血は一滴も漏れ出ていなかったのである。

 恐らく、何らかの魔法で自らの傷を塞いだのだろう。


 つまり、ダメージを負って倒れていたのは演技だったのだ。

 加えて、穴の位置から察するに、完全に決まったと思っていた魔法も急所から大きく外されていたのだ。


 ミシェルが悔しがるのも無理はないことである。

 とは言え、あの状態から、姿勢を変更できる余力があるなどと、簡単に予想できることでは無い為、そこまで、悔しがる事でも無いようにも思える。


 そして、男は、そこを見逃さなかった。

 男は、僅かに抱いた疑念を形にするように、こう質問した。


「二人か?」


 質問に対して、ミシェルの表情に変化は見られない。

 男はその様子を観察しながら辺りを見渡すが、目的のものは見当たらないようだった。


 それでも、男は愉快そうに頰を崩し、ケタケタと笑う。

 その不気味さに眉を潜めるミシェルだったが、惑わされぬように次の攻防の為に詠唱を始める。


 だが、その行為が仇となる。

 男は、ミシェルが詠唱を始めていることを良いことに、彼女が放った魔法の残骸である石を拾いあげた。


 そして、何をするのかと身構えるミシェルを嘲笑うかの様に、家のど真ん中へと石を投げ投擲する。

 その威力は、先程よりは劣るものの、家を貫通させるには充分過ぎた。


 自分の方へと飛んでくると思っていたミシェルが、ここで大きく動揺を見せてしまったのを誰が責めることが出来るだろうか?

 試しに行った程度の行動だったが、彼女の反応から男は確信を得る。


「やはりな」


 次の弾を拾い上げると、握力だけで潰し、その数を増やす。

 そうして、敢えて狙わないことで、家全体を標的とした。


 ミシェルはそれを止めようと、風の魔法を放ったが、短時間で作った魔法の威力などたかが知れている。

 結果として、散弾の様な形で放たれた石の群れは容赦なく、建物の原型を削っていった。


 しかし、それだけ。


「流石に居ないか」


 男の狙いは、何処かにいる筈のもう一人の魔術師。

 ミシェルの反応からして、その事はまず間違えないだろう。


 しかし、家の中には人っ子一人おらず、男のアテは外れたようである。

 実際のところ、もう1人の魔術師の正体であるクリシアは、さっきまで家の中に居たのだから、強ち全て間違っていた訳ではないのだが。


 ミシェルの主人が抜け目ない人物だったから良かったものの、もし、そうでなければと、考えると彼女の背中に冷たい汗が流れる。


 男がその答えに行き着いたのは、先ほどの風の盾から。

 明らかに間に合うはずのないタイミングで発動した魔法を見てその確信を得たのだ。


 とは言え、元々、あり得ないほど連続で放たれるミシェルの魔法の速度には疑問を持っていた。

 彼女あれだけの速度で魔法を展開し続けるというのは、幾ら何でも不可解だったのだ。


 最初は、ポケットに忍ばせた魔石があれだけの速度を成し得るカラクリだと男は睨んでいた。

 魔石には、使い捨ての魔法が記録されており、その魔石を使用する事で、詠唱を行う必要なく魔法を発動することができる。


 事実、ミシェルはポケットに忍ばせておいた、それを使い、男の足を止めたり、互いの距離を取る際に使っていた為、それも間違えでは無かった。


 だが、それだけ。

 滞空時間を延長させたと言え、滞在時間は決して長くはない。


 だというのに、ミシェルは、重力に逆らって、上へと飛ばす、留まらせる、風の刃で身を刻む、土のバリスタでその身を貫くという四つの魔法を流れるように発動してみせた。

 男をお手玉の様に転がす様なこれらの魔法を使うには、詠唱は必然的に長くなる。

 どれだけ熟練の魔術師だろうと、二つ挟み込むのが、限度なのだ。


 だからこそ、男は、風の盾が現れた際に、二人一役という答えにたどり着くことが出来たのだ。


 男は称賛する。

 二人で交互に魔法を発動させながら、あたかもミシェル一人でやり抜いた様に見せた技術を。

 それは、数々の死線を潜り抜けた男にしか見抜くことは出来なかっただろう。


 そして、警戒する。

 未だ姿を見せる事ないもう一人の魔術師の存在を。


 ミシェルは認識を改める。

 鋭い洞察力を持ち、隙が全く無い男の危険性を最大限に警戒する。

 今度の敵は、今まででの様に簡単に片付けられる相手では無いのだと。


 そして、嫌悪する。

 こちらの一番嫌がる方法を真っ先に選ぶ、その残酷さを。


 ミシェルは詠唱を止める事なく、ポケットの懐のから八つの魔石を取り出した。

 普通ならここで彼女の手元に警戒を移すのがセオリーだろうが、姿の見えない魔術師は確実にこちらを狙っている限り、男にそれは許されない。


 それに、八つあろうと、男が持つ防御力からしたら、大した問題ないのだ。

 魔石から発動する魔法の規模は、魔石の大きさが比例する。

 指の間に収まる程度の大きさから、その規模は十分に推し量れる。


 それに、まだ、幾つか隠し持っているだろうが、普段使いを考えるなら、魔石は小さいのしか持ち歩かず、大した規模の魔法は無いだろう。

 相手には戦闘の準備をする暇など無く、何れ弾切れを起こすのは時間の問題だった。


 最優先すべき見えない敵の何所を掴むこと。

 この戦いに勝利する為、男はミシェルに向かって三度目の衝突を仕掛ける。


 直ぐにでも、ユークラウ達の元へ行きたいミシェルだったが、この男を排除しないとそれを行うことすら許されない。

 ミシェルは彼女とその主人の大切な物を守る為、最短で終わらせようと、その衝突を迎え撃つ。

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