長女クリスティーナ11
色々ありましたが、戻りました。
お待たせしてすいません。
あの場に戻る為に、残りの五〇点を埋める思考を続けるクリスティーナ。
ここで考えべきは、どうして兄がクリスティーナを負け勘定に入れたかと言うこと。
その答えを解かないまま戻れば、クリスティーナは、負け勘定のままである。
それどころか、兄の足手纏いになってしまうかも知れない。
それだけは、クリスティーナはごめんなのだ。
思い出すのは、兄に与えられた助言。
あの兄に牙を剥く憎っくき女の魔法は、強化魔法ではなく、肉体変化魔法だというもの。
クリスティーナは、女の魔法を強化魔法だと思って戦っていたのだが、ユークラウド曰くそれは違うらしい。
ならば、相手の使っていた魔法は、肉体変化魔法なのだろうと、クリスティーナは迷い無く肯定する。
自分の判断より、兄の判断の方が正しいというのはクリスティーナの中で揺るぎようのない事実。
兄が赤だと言ったら、赤だし、青だと言ったら青なのだ。
彼女は、少しばかり、ブラコンを拗らせている困ったちゃんだった。
大分、手遅れかも知れない。
そんな当然より、クリスティーナは、相手の魔法を見抜き、その上で、思慮が浅はかな妹が勘違いしてしまっている事にすら気付くことの出来、あまつさえ、気遣って教えを施してくれる兄の偉大さを心の讃えることで忙しいのだ。
彼女は、少し、いやかなり、ブラコンを拗らせている痛い子だった。
もう完全に、手遅れである。
兄を讃えつつも、兄の為に戻るために平行で頭を働かせるクリスティーナは、兄の言葉こそが、負け勘定に入れられた理由だと、唇を噛み締める。
彼女が肉体変化魔法使いであり、強化魔法を使っていない。
その言葉を事実として受けいれると、あの力は、強化魔法によるものでは無く、肉体変化魔法の結果、つまり魔法で肉体を改造した結果のおまけの副産物しか無いと言うことを指し示している。
言い換えれば本職の魔法は見せてすらいないと言うこと。
成る程、これでは、下げられてもしょうが無いと、クリスティーナは納得する。
物語の主人公の様な演出に高揚していた。
相手の悔しがる表情に得も言えぬ優越感を感じていた。
初めて際限なく振るう力の強大さに酔っていた。
自分の力を過信していた。
なんて事はない、全て相手の策略だったのだ。
あのまま行けば、勝てると油断したところを懐に隠した肉体変化魔法でグサリと刺されていたに違い無い。
あのままでは、助けに来た所か、人質にされ兄のお荷物へと、早変わりしていた。
敵もユークラウドより、自分の方が御し易いと考えたと、クリスティーナは思考する。
最初から全てを見せず、自身を弱く見せていたのは、大方、自分が逃走するのを防ぐためだろうと辺りを付けたのだ、と。
自分より弱そうな相手から、わざわざ逃げるという選択肢を取る人間はほぼ居ないと言っていい。
その心理をまんまと突かれてしまった。
対人戦の経験がないクリスティーナより敵の方が何枚も上手なのは当然の筈なのだ。
このまま押し勝てるなど、と一瞬でも考えてしまっていた自分の愚かさを今一度戒めるクリスティーナ。
そして、相手は動物などではなく、考えて動く人間なのだと、対人においての当たり前の学びを得る。
相手は多分、いくつかの本命や隠し球を持っていて、それを経験に即して使ってくると予想する。
その上で、彼女は己に問う。
あの女に勝てるか。
出てくる答えは、YESの三文字。
今度は過信から来るものではない。
兄は戻ってきて良いと言ってくれたのだ。
きっと、ユークラウドは、もし少しでも負けると思っているのなら、リリーシャを隠すか逃すことに全力を尽くす。
逆に言い換えれば、自分さえ、失態を晒さなければ、足を引っ張ることが無ければ、勝利のビジョンを思い描いているのだと、クリスティーナは強い確信を持っていた。
彼女は思考する。
これで、一〇〇点だと。
強化魔法で飛ぶ様に走っていた足を止め、立ち止まるクリスティーナ。
そして、この場に運んでいたリリーシャを隠し、兄の力になるために戻ることを決めた。
リリーシャを近くの深い草むらへと放るクリスティーナ。
当初は、村まで戻り預けることも考えたが時間が惜しかったのだ。
それに、村に戻るのは正解なようで危険でもあるといえる。
既にユークラウドが花火を上げてからかなりの時間が経っているが大人達に助けに来る気配が全くない。
ここに居ることを知っている筈のミシェル達が飛んできてもおかしく無いのだが、それすら無いのだ。
恐らく、村の方でも何か起きているのだろう。
ならば、誰かに見つかる心配の少ないここが今一番安全と言える。
リリーシャを見ると、投げられたことに抗議の姿勢を見せることなく、置いてきたユークラウドの方へと未練がましく手を伸ばしていた。
その姿に苛つき思わず舌打ちをしてしまうクリスティーナ。
やっている事はまるきり、違えど、これは数分前の自分と同じなのだと、クリスティーナは思う。
自分のために、ユークラウドのためにと思いながら、その行為を引っ張って邪魔をするその姿は、見ていて気持ちの良いものじゃない。
だが、何より苛つくのは、普段いつも偉そうにしていて、自分が欲しいものを持っていてる筈のリリーシャがこんな無様な姿を晒していること。
こんな物は自分の憧れ、望んだ者の行動かと、どうしようもなくクリスティーナを苛立せ、そして……。
……………………。
リリーシャは草むらから起き上がろうとしていた。
そんな彼女の胸元を引いて無理やり立ち上がらせたのは、他でも無い、クリスティーナ。
驚いた様な表情、そしてようやくクリスティーナが居ることを把握した様なそのリリーシャの表情だったが、その表情は、新たに困惑の色に染まる。
何故なら、その頰に強い衝撃が走ったからだ。
訳も分からぬままに、続けて、強く胸元を押されて、草むらへと再び倒れこむリリーシャ。
強い困惑でクリスティーナを捉えるその瞳には、冷たい目で、しかし、笑顔で見下ろす自分が写っていた。
「お願いですから、お兄さまの邪魔をするなら、動かないで下さいね」
声には、きちんと色が付いていたものの、その色が脚色された物であったことは言うまでも無い。
兄から与えられた命題を解いて戻るリリーシャを差し置いて、わざわざ足を引っ張りに戻るのだなんて、許せるはずがないのだ。
数分前まで、自分もそうだったから、と言って、同じ過ちを繰り返そうとする者に容赦をする理由にはならない。
それに、これは、自分より更に達が悪いことは、目に見えて分かることだ。
いっそのこと、これ以上邪魔立てするなら、歩けない様に、足を焼いてしまうかと思うクリスティーナの手から電気が走ったが、どうやら、先ほどのビンタで動く気力が無くなったようだった。
ならば、もうこんな物にクリスティーナが興味を持つ必要も無い。
余計な邪魔も消えたことで、クリスティーナは兄の元へ戻ることだけを考え始める。
答えは出た。
憂を立った。
準備は万事。
今度は、油断も慢心もしない。
強化魔法をその身に掛け直したリリーシャは、戦いの場へと再び舞い戻る。
また、少しずつでも絶対投稿していきます。




