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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅲ.v
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幼馴染のリリーシャ10

 手元に水を出し、圧を加え、刃のように鋭く円状に変形させ、それを飛ばす魔法を使って、岩を少しだけ傷付けることに成功したリリーシャ。

 この事に大いに喜び、褒めるユークラウド。


 こんな風に、週に一度、二人は、互いに魔法の成長や進捗を見せて、褒めたり高めあったりするための場を用意しているのだ。

 進捗を見せ合うことで、各々が魔法を勉強する際のやる気に繋がると思って始めたのが、この試みである。


 現に、リリーシャは一週間前までは、岩を傷付けることなど出来ず、精々当たった部分を線状に綺麗にする程度だったため、この試みは、成功していると言っていいだろう。

 幼少期の頃も思い付きで似たようなことをやっており、ある時を境に一時期中断したのだが、ユークラウドの提案により、再び再開された形である。


 大きくなった二人では、家で魔法を放つと何かと危険なため、こうして、わざわざ森まで来ているのだ。


「それにしても攻撃魔法で良かったの?」

「ん、生活魔法覚えても別に使わない。不測の事態の備え」


 ユークラウドの疑問は、最もであり、狩りを行う訳でも人と戦う訳でもないため、何故攻撃魔法をと言うのは当然の疑問だった。

 だが、リリーシャはこれで良いと答える。


 二年前エリアナの家へと行った時、魔法を幅広く使うと容量を圧迫すると知ったリリーシャは多くの魔法を使うことをやめた。

 同じ魔法を使えば使うほど良いということも。


 そして、自分の未来の予想などを加味し、色々と考えた末にリリーシャが選んだのがこの魔法。

 なので、魔法の見せ合いと言ってもリリーシャの場合は、この魔法が洗礼されていく様を見せるだけだ。


 それでも、彼女には彼女なりの考えがあり、攻撃魔法を覚えていると言う答えにユークラウドは納得する。

 別にユークラウドとしても、この答えに不満がある訳でもなく、単純な疑問というだけだったのだから、当たり前といえば当たり前であるが。


「木を切りたい時なんかに使える」


 あくまでも将来的にではあるが、そう言って、実用性を示すリリーシャは、本当に色々と考えているのだろうと感心するユークラウド。

 だったが、


「ユーが居るから、私はこれだけで良い」


 生活魔法を全てユークラウドに依存する気満々だという答えで全てを台無しにするのであった。


 これからも自分から離れるという選択肢が無さそうなリリーシャにユークラウドは喜んで良いのか窘めて良いのか微妙な所である。

 そんな風に呆れるユークラウドに頭に? を浮かべるリリーシャは今日も平常運転だった。


「次は、ユーの番」


 リリーシャにそう言われて、次を求められたため、息を吐いて、準備に入るユークラウド。

 今回は、攻撃系の魔法じゃないからと言って、岩ではなくリリーシャと向き合って、少し距離を開けた状態で魔法の詠唱を始めるユークラウド。


 ユークラウドが魔法を発動させるのに時間がかかると知っているリリーシャはその様子をじーっと眺める。

 ユークラウドの詠唱の声を聞くのも、彼女の楽しみの一つで、どれだけ長かろうが全然苦痛でないのだ。


 ユークラウドは、リリーシャの視線に最初慣れない様子だったが、人に見られるのも試練だと捉え、次第に慣れたのだとか。


 そこから、リリーシャが見続けること、およそ三分。


「さて、どっちだ」


 ユークラウドの魔法が完成し、文字通り、ユークラウドが二人に増えるのであった。

 その二人に増えたユークラウドの見た目は、本当にそっくりであり、ぱっと見、見分けがつかない。


 これが、新魔法かと驚くリリーシャだったが、ユークラウドの質問を思い出し、少しだけ考え込む。

 一〇秒ほど両方を見比べると、答えが決まったらしくこっちが本物と左側に居るユークラウドを指した。


「どう?」

「正解……」


 そして、その回答は正解であると、ユークラウドが言い、がっくりと肩を落とすのであった。

 なんで、分かったの? と聞くユークラウドにリリーシャは、一番は、臭いと答えた。


「偽物からは匂いがしなかった」


 そして、こっちから匂いがしないと分かると、僅かにだが、おかしな所があると分かったと続けた。

 あんな短時間で匂いで本物と偽物の違いを見抜けることの出来るリリーシャに、戦慄するユークラウドだったが、確かにリリーシャじゃなくても長時間あれば、見抜けるだろう。


「匂いとは盲点だなぁ」


 彼女の答えに、頭をぽりぽりとかいて反省するのだった。

 今回ユークラウドの発動した魔法は、幻想で人一人を作り出すという、新しく作った魔法である。


 今までは使っていた幻惑魔法は、身体の一部の認識を変えるものや、物をそっくり作る魔法だったため、人一人を作るのは初めてのことだったとは言え、匂いを付け忘れるのは、彼のとった不覚だった。


「ユー魔法の発動早くなった?」

「んー、いや? これは中身すっからかんだから早かっただけ」


 それでも、短時間でここまで精密に作れるのは凄いと褒めるリリーシャだったが、残念ながらそこには種があると返すユークラウド。

 その返しに対して、幼馴染が褒められたら、素直受け取る、と言った視線を見せてきた為、背をピンと張るのだった。


「それでも。幻惑魔法に慣れてきてる証拠」

「ありがとう……」


 テイク二の褒めを頂き、お礼を言うと恥ずかしいなと照れるユークラウド。

 自己評価低く、褒められても斜に構えるユークラウドに対する扱い方はこれで良いのだと、反対にリリーシャは満足そうだ。


 その後、新技は他にないかと聞かれて、少しの応用を見せた後、お昼を回った為、二人は戦利品を食べながらお喋りを開始する。


「幻惑魔法がお気に入り?」

「うーん、どうだろ? 確かに今嵌っては要るけど、他の魔法まだまだ開拓してないからなぁ」


 そんな辺り感触のない会話をしながらご飯を食べて、今度は、二人で魔法の練習を始める二人。

 これが、ユークラウドとリリーシャの日常風景だった。

あと、厄災、神獣と続いてこの章は終わりです

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