長女クリスティーナ06
遅れ
自分の魔法の適性を調べ終え、魔法について教えてもらい、兄にたっぷりと甘えたクリスティーナであったが、その顔は不満げである。
あの後、家に乗り込んできた宿敵リリーシャがユークラウドを掻っ攫って行ってしまったのだから、当然と言えば当然と言える。
今日は自分が独り占め出来るのだと思っていただけにこの仕打ちは如何なものかと思うクリスティーナ。
仕方ない事情があるが故に、引き止められなかったのも、もどかしい要因。
リリーシャに先祖返りの性質があることは、彼女の父が説明しに来たことで知った。
ユークラウドを定期的に借りたいということも。
クリスティーナとしては、反対したい気持ちもあったが、当人であるユークラウドも母も賛成していた為、口を挟むことなど許される筈がない。
クリスティーナも情が無いという訳ではなく、理由があるのなら、仕方ない事として割り切れるだろう。
納得がいかないとしたら、自らの問題を最大限活用していることだ。
一度、こちらに泊まりに来れば良いのでは? と提案したのだが、一日中、目の前でイチャイチャする光景を見せつけられる羽目になり、彼女はそのことに耐えれなかった。
あの時のリリーシャのドヤ顔は一生忘れないだろう。
本人が楽しんでいるのなら、それはもう悪いところでも何でもない、と断固として抗議したいのがクリスティーナの本心。
自分にも先祖返りの性質の様な大義名分があれば、なんて不謹慎なことも考えたもないことだってある位だ。
きっと今もイチャイチャしていることを考えると、己の中の何かがグツグツと煮え返り変えるのを感じる。
このストレスを消化する良い方法を考えだ結果、覚えたばかりの雷の魔法をぶっ放すのも良いかもしれないと、少々危ない思考に至りそうになるクリスティーナ。
そんな非現実的なことを考える事で、ある程度の不安を緩和しているのだ。
当たり前ではあるが、先に上げたことは、ただ気分転換の妄想であり、本心ではない。……筈。
ある程度落ち着いたところで、ふぅ、と一息吹いて、気分転換を終了し、また、再び課題に取り組み始める。
残った憤りをぶつけつつ、終わった課題をユークラウドに見せ褒められであろう未来を思うと、課題はサクサクと進んでいった。
ユークラウドには、三日かけて良いと言われていたが、早く終わらせると褒めてもらえるし、構ってもらう時間が増えるため、クリスティーナは、今日中に終わらせることを目標としているのだ。
そして、見事、一時間ほどで彼女は与えられた課題を完遂するのである。
家の手伝いも終わっているため、何もする事が無くなったクリスティーナは、ユークラウドの部屋へと移動を始めた。
実は、ユークラウドが泊まりにいくことは、悪い事ばかりじゃないのだ。
当たり前ではあるが、ユークラウドが泊まりに行ってる間、ユークラウドの部屋には誰も居ないからである。
そして、その誰も居ない部屋に忍び込むのクリスティーナの月毎の習慣となっていた。
何時もの様に、ユークラウドのベッドへと潜り込む。
ベッドの中には、何時も寝ているユークラウドの匂いが充満しており、布団を被ると、そんな兄の匂いを四方八方から感じる事が出来るため、ここで時を過ごすのが彼女の至福の時間なのである。
布団の暖かさも加わって、まるで兄に包み込まれている様な錯覚が、彼女をよりその時間に浸らせる。
「お兄さまぁ……」
今は居ない兄のことを思いながら、ゴロゴロとベッドの上を転がるクリスティーナは、隣の家の出来事など忘れ、とても幸せそうである。
区切れなかったからちょい短め




