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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅲ.v
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長女クリスティーナ02

 兄を真似て、ミシェルに勉強を習い始めたクリスティーナだったが、最初の頃は全く上手くいかなかった。

 幾ら成長が早いとはいえ、今まで勉強なんかに触れてこなかったのだから、当然と言えば当然である。


 ミシェルもミシェルで、最初の頃は教える側として、手間取っていたのもその要因の一つ。

 そもそも、彼女より主人の方が遥かに年上だったため、人に教えるという経験は、ユークラウドに続いて、二度目で、経験が浅い彼女は、クリスティーナの相手に手間取っていた。


 前の生徒であったユークラウドが直ぐに理解する生徒だったというのも良くなかったといえる。

 彼は一を教えたら、一〇まで理解してくれる生徒であったため、ミシェルは教えるという技能が育たなかった。


 ミシェルにとっての最初の生徒は、実質、クリスティーナと言っても良い。

 クリスティーナの様に、真っさらな状態で、分からないことが分からないことという生徒を相手取り、勉強を指南することで、彼女は始めて教育の難しさを知った。


 どうすれば分かりやすいか手探りで考えながら教えるミシェルと兄の真似をする為だけに勉強を始めたクリスティーナ。

 表面上こそ、取り繕っていたが、両者ともに勉強に苦手意識が生まれ始めていた。

 そして、その状態を解決したのは、やはり、ユークラウドである。


 クリスティーナの分からないを聞いて、何が分からないのかを考え、どうすれば良いのかを模索し、そうと分からない程度にさり気なくミシェルにアドバイスし、教えの為の気付きを与える。

 自分が教える訳でも答えを与える訳でもなく、あくまでもミシェルの教育能力を伸ばすためだけの裏方に徹している兄に気付けたのは、クリスティーナが必要に兄を観察していたからだ。


 やはり、兄のことは好きだが、どこかおかしいと、いうのがこの頃のクリスティーナの兄に対する印象。

 そんな彼女も彼女なのだが、そのことを指摘するような人はこの家には居なかった。


 とは言え、彼の働きもあり、ミシェルは徐々に教える側としてのコツを掴み、また、クリスティーナも学びのコツを掴んだことで、滞っていた勉強が嘘の様に捗り始める。

 元々、頭の回転が早かったクリスティーナの、伸び代は凄まじく、四歳になる頃には、初学部で学ぶべき知識を全て学び終えていた。


 こうして、学びを得たクリスティーナは、学ぶ前と学んだ後では世界が違って見えることを知ったのだ。

 昔、漠然と感じていた兄の異質さと、今はっきりと測って感じる兄の異質さは、似て非なるものなのだと、彼女は今はっきりと言える。

 これが、これこそが、兄が見ている世界の一端なのだと、理解できるくらいには、彼女は成長していた。


 ユークラウドが言っていた「自分のため」という言葉の意味も、今のクリスティーナなら何となく分かる。

 兄の言っていた「自分のため」とは、「相手のため」であり、「相手のため」とは、「自分のため」なのだ。


 それは、つまり、人が喜ぶと自分が嬉しい、自分が嬉しいと周りが嬉しいということ。

 クリスティーナも、兄が笑ってくれていたら、嬉しいと思えるし、その逆も兄はそう思ってくれているのだと言うのが彼女の出した答えだった。


 そう考えると、兄という命題を解くために始めた、真似という行為には、意味があったと言えるだろう。

 そして、この答えを持ってしてクリスティーナはユークラウドの真似をすることを止めた。

 いくら、ユークラウドの真似をしても、ユークラウドとの差を理解するだけで、兄のことを理解できる訳では無かったからである。


 真似を辞めたからと言って、真似した時間が決して無駄になる訳では無い。

 勉強したお陰で、クリスティーナは自分のことをよく理解し、思いを言葉として表せる様になっていたからだ。


 学ぶことで兄と自分の差を推し量れる様になり、学ぶことで答えを得て、学ぶことで自分の気持ちを言葉として表せる様になったのクリスティーナには、新しく目標が出来る。

 それは、兄と並んでも遜色無いような妹様になること。


 考えれば簡単なことだった。

 兄のことを考え、兄のことを観察し、兄を理解ようとしていたクリスティーナ。


 彼女は、昔からずっと、大好きな兄の理解者になりたかったかったのだ。


 とは言え、これはこれで難題である。

 いくら兄の真似をしても、その差が縮まらないことを痛いほど痛感させられたので、兄とは違うことをしなければいけないといのは何となく彼女には分かるのだが、だからと言って何をすれば良いのか分からなかったったからだ。


 全く未知の領域であり、どう進めば良いか分からないクリスティーナ。

 それでも、彼女は、昔と違い学ぶことを覚えていた。


「どうすればいいですか? 兄さん(・・・)


 クリスティーナのとった手段は、兄に直接、聞くというもの。

 これが、一番の近道であると、短い人生の中でも彼女は悟っていた。


 一方のユークラウドは、貴方の隣に並び立にたいと言われて、思わず顔を覆う。

 大胆な告白に気恥ずかしいやら、自分はそんな出来た人間ではないと悲痛になるやら、妹に頼られたことが嬉しいやらで、彼の心はもうめちゃくちゃだったからだ。


 暫くの沈黙が場を支配する。

 彼は、気持ちを落ち着かせると同時に、兄としての威厳を保つ答えを探していた。


 考えた末のユークラウドの答えはこうだ。


「自分の好きなこと、やりたいこと、やってみたいことをやって伸ばしていけば良いと思うよ」


 そして、それは、クリスティーナにとって、まさしく盲点だった。

 自分の目標の為に何かをやるのではなく、やりたいことをやれと言うのは考えてもみなかったのだ。


 クリスティーナの人生は、言ってもまだ四年である。

 最初は自由に暮らし、次にユークラウドの真似をしてきた彼女は、まだ自分のやりたいことを伸ばして行ったことはない。


 勿論、兄の理解者になり、隣に立つことが、クリスティーナの一番やりたいことなのだが……。


「それが、あやふやなことなら、細かく分けて考えてもいい」


 そこには兄の言う様に小さなやりたいことをがある筈なのだ。


 例えば、料理。

 隣に並ぶ者として、兄に対して、真心込めたご飯を作ってみたい。


 例えば、礼節。

 隣に並ぶものとして、相応しい自分というものでありたい。


 挙げていけば、キリがないが、目標に向かう上で、確かに、好きなことを、やりたいことを、やってみたいことが、リリーシャには沢山あった。

 そして、それが最終的に、自分の目標に近付くのだと、ユークラウドは言う。


「大事なのは、自分が自分に納得出来るようになることじゃないかな? 自分が選んだ物を一歩一歩進んでいけば、自然と自分なりの答えが出ると思うよ」


 大丈夫、今までやってきたことは、無駄にならないから、と彼は優しく締めくくった。


 その言葉を聞いて、思いのままに「ありがとうございます」と感謝を述べるクリスティーナ。

 彼女は、兄の言葉をもう一度、噛み締めると、「失礼します」と言って、その場を後する。


 兄の言葉を聞いて、居ても立っても居られず、一刻も早く、行動したかった。

 彼女の向かう先は、彼女が理想の形に近付く為の手段を知っている自分の母の元であり、この家のメイドの元。


 二人の元へとたどり着いたクリスティーナは、頭を下げる。


「ミシェルさん! お母さん! 私を鍛えて下さい」


 こうして、彼女は自分磨きを始め、それが今の自分へと繋がるのである。

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