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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅲ.v
72/114

研究者エリアナ12

遅くなりました。

「やはり計算が合いません……」


 ユークラウドとエリアナが出会ってちょうど半年を迎えようとしていた頃。

 そろそろ詠唱の授業を含めた魔法の基礎授業に進もうと考えていたエリアナは、ある悩みを抱えていた。


「何がですか師匠?」

「師匠ではありません」


 頭を抱えるエリアナを心配して、ユークラウドが質問するが、余計な茶々を入れた為、師匠では無いと怒られてしまう。

 ただ、最近は嗜めるだけで、強く怒らなくなった為、その内師匠呼びをすんなり受け入れてくれるのでは?と密かに思うユークラウドであった。


 余計なことを考えていたユークラウドであったが、次のエリアナの一言を聞いて真面目な顔に戻る。


「計算が合わないのは、貴方の魔法の速度ですよユート」


 この話を機にユークラウドは、もう一度を魔法についての見直しを受けさせられることになるのだった。




「そもそも、ユートの魔力門が小さいという話は覚えていますか?」

「はい、僕の魔力門が小さいから魔法の速度が遅いんでしたよね?」


何時もの様に指を立てる師匠に同意の姿勢を見せるユークラウド。

それを見て、師匠であるエリアナは、そうです、と肯定の姿勢を見せたと思いきや、徐々に自信を無くしていき、その筈だったんですが、と弱気になる。


「はっきり言って……計算が合いません」


エリアナの切り出した台詞に?の疑問符を浮かべるユークラウド。

一瞬、何の事か分からず、戸惑うユークラウドだったが、やがて自分の魔法の発動速度がその速度に合っていないのだと理解する。


問題は、発動速度が計算にあって居ないのは、早くてなのか遅くてなのかなのだが、自分の場合は十中八九遅い方だと当たりを付ける。


「ユートの魔力門が小さい理由は?」

「はい、師匠!魔力門が6門あるからです」

「その通りです」


突然のクイズ形式にも即座に答えを出すユークラウド。

ここ10ヶ月で、無駄と思える様な息の合わせ方ばかり上達してきた師弟関係だが、一応、やることはきちんとやっている。


「ユークラウドが魔術型だったことも幸いし、魔力門の大きさを図ることが出来ました」


魔術型には、自分の魔力門の数や大きさを測定することのできる詠唱があり、それを使ってユークラウドの適性を調べたのだ。

一応、魔闘型でも、大体であれば調べることができるが、魔力門の正確な大きさを測れるのは魔術型の特権である。


「ですが、その時、計った大きさを元に、その値を計算式に当てはめると、おかしな事になるのです」


エリアナの協力のもと、詠唱を使い、ユークラウドは、きちんと調べた魔力門の大きさと数。

それが、どうもそれがエリアナの絶賛悩みの種だと彼女はいう。


どうしても、計算が合わないというエリアナに、具体的には?と返したユークラウド。

だが、それが良くなかった。


「理論上のの魔法の発動速度と実際のユートの魔法の発動速度には2倍ほどの差が出ています」


勿論、ユートが遅い方で、と補足をするエリアナに少なからずダメージを負うユークラウド。

どうやら、予測は当たっていたらしいと彼は少し凹んだ。


「勿論、ユークラウドの魔法の発動が未熟なのもありますが、それでも誤差は1.5倍以内には治る筈です」


2倍という値は絶対にあり得ません!と更に補足するエリアナに、更に追撃を受けるユークラウド。

力説する師匠の姿に、彼は、少しどころではなくかなり凹むのであった。


ようやく、目に見えて落ち込むユークラウドを視界に入れてしまったエリアナは、あわあわと慌て出す。

急いで、ユークラウドのフォローに入る為、彼のいい所をたくさん上げていくが、その内容は残念ながら、どれも魔法に関するものではなかった。


「魔法については何かないんですか……?」

「魔法ですか……?ええっと……」


ユークラウドから出た質問になんて言うべきか頭を働かせるエリアナだったが、生憎と彼女の頭に思い浮かぶのは、彼の魔法の悪い点ばかり。

彼の魔法に現時点でいい所はほぼ無いと言っていい故に、エリアナは答えが出せない。


エリアナが今感じているのは、運動神経がない野球大好き少年に、僕って野球が下手なの?と聞かれてしまった時の様な、何とも言えない焦燥感である。

子供と対人経験が少ない彼女は、それに対する答えを持ち合わせてなどいなかった。

ちょうど今やっている講義類が正に彼の弱点を克服し、彼の良さを見出す為の授業なのだが、だからと言って、こんな小さな少年への回答を将来性なんて曖昧な言葉で片付けてしまっていいものなのだろうか、と本気で悩むエリアナ。


エリアナは本気で悩んだ末に答えを出すが……。


「魔力門が6門あることですかね……?」

「6門もあっても必要ないのでは?とかなんとか言ってませんでしたっけ」

「うっ……」


瞬時に切り返されてしまい、呻き声を上げて、怯むエリアナ。

確かに2つで事足りる物が6つもあったために、思わずそんなにいるのか?とおもわず口から出た覚えがあった。


「あと、基礎授業終わるまで、門を複数使って魔法を発動するの禁止された気がするんですが」

「うぅっ……」


ユークラウドの追撃に、更に怯むエリアナ。

いい所として挙げたものを禁止しているのは、残念ながら彼女なのだ。


理由としては、まだ1つの魔法を使うという行為に慣れていないからとしているが、実のところ魔力門から多く魔力を取ろうと思ったら、複数同時起動を先に教えた方が早い。

ユークラウド自身も目見える成果としてそれを教わりたがっているし、実のところ順番を変えても問題ないのだ。


それでも、エリアナが禁止しているのは、基礎を全て教えてないのに、すっ飛ばして応用を教えるのはなんか嫌です、という彼女の恣意的な理由故な為、この件では彼女は大きく出れない。

教える側の自由だとも思もわないでもないが、この件で、ユークラウドの私生活での魔法行使、ならびに、講義の対価として魔石を作ってくる為の魔法行使に、時間がかかっている現状を思うと、早く教えた方が良いというのは誰の目にも明らかであろう。


「まぁ、僕が才能無いのが原因ですから、良いですけどね。別に」


エリアナが、使用を禁じた筈の魔力門の複数行使についての話題を、彼の良いところとして出したため、当然ながらユークラウドはあまり良い顔をしていなかった。


このままでは、ユークラウドが拗ねてしまう。

そう思った彼女は慌てて、次の魔法についての良い所を出すことにするが、中々思いつかない。


「ユークラウドには複数の魔法適性があり……ます……」


その結果、エリアナが出したのは、複数の魔力門と同じく複数の適性があることだったが、その言葉を口にした途端、彼女は、ふと、頭の中で引っかかりを覚えた。

今日の議題、ユークラウドの魔法の発動速度が計算式に合わない理由は、そこにあるのではないか、と。


手を口元に当てて自身の思考を加速させていく。


そんな彼女の頭に思い浮かんだのは、ユークラウドが初期の頃に作った、今や銀色に輝く様になった魔石である。

古い文献での1ページには、沢山の魔力が入り混じると、銀に近付く事があると書かれていた。


次に彼女が思い出したのは、彼への最初の講義、魔力の適正について。

あの時、講義ではやらなかったが、もし沢山の魔力が混在している魔力を再現したとしたら、と、彼女はそんなことを考える。


まるで、パズルのピースとピースがはまった様な感覚に浸り、思考を加速させるエリアナ。


「師匠……?」


黙り込んでしまったしまったエリアナを心配する様にユークラウドは、彼女の顔を覗き込む。

と、その瞬間、彼女は、ユークラウドの肩を掴み、その目をキラキラと輝かせると共に宣言する。


「ユート!貴方の適性を今、全て、調べてみましょう!」


いつかの時にやり忘れていた事を今解決しようと。

それが、今日抱いた疑問の答えになるのではないかと。

明日の分はちゃんと更新したい

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