お隣の旦那さん、リールイ01
遅くなりました。
喧嘩が収まった為、リールイは、娘の願望に対する答えを出さなければいけなかった。
少しだけなんと答えるのが正解か迷った後、娘の顔を見て彼は決意を決める。
「実の所を言うとねリリーシャ、僕は彼を頼っていいと思っているんだ」
父から出た意外な答えに、驚きの表情を見せるリリーシャとルルーシャ。
だが、同じ驚きとはいえ、2人の表情はまるで正反対だ。
「貴方……」
「本当、父?」
ルルーシャは悲しそうに目を伏せ、反対にリリーシャは嬉しそうに笑う。
妻の悲しそうな表情を見て、彼女を抱き寄せるリールイ。
本当は一刻も早く彼女から不安を取り除いてあげたい気持ちで一杯だったが、彼らは親であるが故、先に話を付けるべきは娘であると彼はぐっと我慢する。
そうして、彼は娘の目を見て、話を始めた。
「さっきはあんな事を言ってしまったが、彼女達は他人の秘密を、誰かに話したりするような人達じゃない」
彼女達のことは、僕達が引っ越して来た頃から知っているとリールイは言う。
リールイとルルーシャとお隣さんの2人とは、引っ越して来た頃からの関係である。
男手として彼女達を手伝ってもらうこともあるし、逆に聡明な彼女達にこちらが助けてもらうことだってある。
互いに持ちつ持たれつつのご近所関係は、もう4年を越えていた。
その中で、リールイは、彼女達には家族の秘密を明かしても良いと思えるくらいには信用しているのである。
そして、もし彼女達が自分達の抱えている秘密を打ち明けてくれたら、出来る限り協力をする……とも。
先程のリリーシャへの問いかけはただの仮定に過ぎない。
彼は、本当は秘密を話すことに賛成なのだ。
「でも、まず最初にユークラウド君に意思を確認してきなさい。どうせ頷いてくれるだろうからって、僕達の許可を先に取ろうと思ったんだろう」
だが、賛成であると同時に、秘密を話す前にやるべき事があるとも彼は思っていた。
リリーシャはユークラウドを信頼し過ぎている為、自分の話が断られるとすら思ってすらいないだろう。
しかし、これを無条件にユークラウドが飲むと言うなら、彼には毎月負担をかけてしまうことになる。
リールイは、ユークラウドが4歳でありながら、娘以上に理性的な考えができると思っている。
子供の頃から魔力を多く保有していると、極端に成長が早く利巧な子に育つというのは古くから言われている事であり、彼は娘も彼もそうなのであると確信の様なものがあった。
実際彼女らは幼い頃から知識という物を欲しがり、4歳とは思えないほど流暢に喋る。
そして、その知識欲は旺盛で2人は、学ぶこと知る事に貪欲だ。
そんな風に頭が回る彼が、娘が成長して安定するか、他に好きな人が出来るまで、満月の日は娘にだけに費やす事に、自分の時間を差し置いてまで、同意するかと聞かれると彼には正直自信がなかった。
勿論ユークラウドが見返りを望めば、こちらからも出来る限り答えるつもりではあるが、それは彼にとって価値あるものとは思えなかったのだ。
そんな父の思考など知らず、完全に頭から抜けていたという顔をするリリーシャ。
そんな純粋な娘になんと言えば良いか、少しだけ迷う父であったが、やがて、決意した様に続きを口にする。
「もし、ユークラウド君が良いって言ってくれたのなら彼をまずここへ呼んでくれないか?僕自身も彼に聞きたいことがあるんだ」
そして、もし快く承諾してくれても、実は本心を押し殺してくれている可能性だって考えられる。
もしかしたら、リリーシャがある程度成長したら、ユークラウドに好きな人が出来て、辞めたいと言い出すかも知れない。
もし、それを叶えたいと言うなら、きちんと、話をしなければいけないのだ。
そこまで考えて、自分はまだ4歳の少年に何を頼もうとしているのだろうな、と自虐的に笑いそうになる。
ユークラウドが幾ら賢く見えるとはいえ、本来、彼にはこんな事を頼むべきではないのは分かっていた。
だけど、そんな些事より、娘の事を願いを尊重してあげたいと思ってしまう位には、彼は悪い意味で親バカなのである。
親として、人として、失格だろうが、彼と一緒に居ることで、少しでも娘の不安や悩みが解決するなら、彼としてはそちらの方が望ましいと思うのだ。
例え、それが相手の幼さや、優しさに漬け込む行為だとしても。
ただ、せめて、彼が娘の前では良い顔をしたとしても、改めて自分が彼の本心をきちんと聞こうと思っていた。
リールイにはその義務があり、それ位はきちんとやろうと己に誓う。
「もし彼の意思が硬く変わらないのであれば、僕が彼の親御さんに頭を下げるよ」
そして、もう一つそれが親として出来ることだったが、それはそんなに大したことでは無い。
ユークラウドが了承してくれたら、彼の保護者は、きっと彼が決めた事を尊重するだ。
リールイの思惑など知らず、父っ、と目をキラキラさせながら喜ぶリリーシャ。
娘のその眩しい視線を直視出来ず、彼は目を細め、笑顔を作る。
「じゃあ、行って来なさい」
その台詞を聞き、バタバタと出かける準備をして、
「行ってくる!」
そう短く返して、家を出て、ユークラウドの元へと向かうリリーシャ。
そんな彼女を見送りながら、さて……、と心の中でひと段落を付けた。
後ろには娘が居なくなった為、ようやく気を張るの辞めたかのように「貴方……」と服の袖を引く妻が居る。
娘には良いと言ったけど、きっと妻は、この事に反対の筈。
ここで説得できなければ、後々しこりを残すことになるのだ。
リリーシャか、リールイか迷いましたが、仮として、リールイにしました。
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