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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅰ.v
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メイドのミシェル01

 ミシェルと言う名前は、彼女がクリシア・フェイディという生涯の主人に仕えると決まった時に与えられた名前で、それ以前の事を彼女は覚えていない。

 それでも、5歳年上の主人に出会ったその日を、彼女が忘れる事は決して無いだろう。




 内心では、彼女は、その結婚には反対していたが、幸せそうな主人の顔を見て、その気持ちは己の中だけに留めた。


 主人の夫になる男は、兎に角、問題だらけだった。


 最初こそ、主人を世界一番愛しているという姿勢を見せ、長年彼女に使えていた筈のミシェルを感心させていた。

だが、それは、一時のこと。


 抜けているところがあり、感じなところでミスを犯すポンコツ加減。

 どんな女性にも優しく振る舞い、誘われたら断ることのない軽薄さ。

 家族や目上の者に強く言われると、直ぐに引き下がりへだり下るヘタレ具合。


 長所を遥かに短所が上回り、どうにも好きになる事を出来ず、接すれば接するだけ、ミシェルの中の株は降下していくのを感じていた。


 もしかしたら、それはミシェルなりの嫉妬だったのかもしれない。


 結局、家柄こそ上ではあるが、彼が主人の夫となるのはふさわしく無いのでは無いのかと、疑念を持ったまま、婚姻は成立し、主人は結婚し、夫の家へと嫁いでいったのだ。


 家の名前は、ゴルディ家。

 ランバルディア王国の中でも、神獣に仕える人間を多く排出する、王国屈指の名家で、雷を継ぐ一族と呼ばれていた。

 

 この家の生まれであることを絶対の誇りとし、己が血のためなら非道も辞さず、様々な制約やルールが存在するため、主人にとって良い環境ともいえない。

 ミシェルは唯一、主人の専属の召使いとして、ゴルディ家に招き入れられる事が決まり、主人をサポートしていくこととなった。

 

 特殊な風習や家の者の態度に四苦八苦しつつも、主人と一緒にいれるというだけで、ミシェルは頑張れた。

 主人の今まで見たこと無いほど幸せそうな笑顔が心をの拠り所になりつつあった。

 

 主人のいない所で、第二婦人となる予定の女性といちゃつく姿を見かけなければ、彼女は幸せだったかもしれない。

 一度や二度ではなく、何度も会っている姿に彼女の中の憤りは膨れ上がってた。

 男がミシェルにもちょっかいを掛けようとした時、彼女の中で思いが爆発する。


 こんな男と主人が結婚なんてしなければよかったのに、と。


 そう、願ってしまったからだろうか?

 その婚姻が崩壊への道を辿ったのは。




「大丈夫ですか?」

「えぇ、ありがとうミシェル」

「まだ体力が戻ってませんので、ご無理はなさらないで下さい」

「分かってるわ。この子の為にも無理は出来ないもの」


 主人が、子供を授かった事が、すべての始まり。


 時世代を引っ張る待望の第一子に、一族は期待を寄せていた。

 だが、その期待は、子供の出産と共に拒絶へと変わった。

 

 産まれた子供が銀の髪の毛だったという、ミシェルから見れば些細に過ぎない理由で。


 ゴルディ家の一族は、代々、金または、それに準ずる黄色や茶色の髪の毛を持って産まれてくる。

 主人の髪の毛の色も淡い栗色ので、産まれてるくる子供の髪が銀の色で産まれてくる筈がないというのが、一族の主張だった。


 自身の血に絶対の誇りを持つ一族は、産まれて来た銀の髪の子供を酷く嫌悪したのだ。


 最初は、主人の不貞を疑われた。

 家を出ることを酷く制限された主人には、浮気などする暇は無かったし、何よりそれは、ミシェルにとって、主人への最大の侮辱である。

 一族は、理解する事を拒み、解決するまで余計な時間を費やすことになった。


 次に言われたのは、子供が悪魔の子であるということ。

 主人に対して、呪われている、悪魔等との暴言を彼女は一生忘れないであろう。


 最終的に、産まれて間もない子供に、一族の雷の力を継げない出来損ないの烙印を与え、排除しようとするやり方は、到底理解できるものでは無い。


 如何にかして子供の存在を抹消しようとするその姿勢には狂気を覚えた。

 最悪、子供は殺されていたかも知れない。


 そんな状況にも関わらず、あの男は、一度も子供を庇うことは無く、人の顔色を伺うだけだった。


「家を出ましょう、ミシェル。付き合ってくれるかしら?」


 結局、主人の決断が、そんな状況を変えることになる。

 主人は、我が子の為に、ゴルディ家との一切の縁を切り、貴族としての地位も身分を捨て、誰も知らない場所で新たな生活を決意するのだった。


 そして、2人は産まれた子供を連れて、着のみ着のまま、逃げるように新天地を探す事になる。


 お金を無駄に使う事が出来ず、何日も歩きっぱなしの生活が続いた。

 その道のりは、主人の専属を名乗るだけの実力を持つミシェルでも堪えるものだった。

 家を出る事がほとんど出来なかった主人には、相当辛いものだっただろう。

 子供を連れての旅に、体力が落ちていたことも加え、主人は何度も体調を崩す事になる。


 ミシェルは、主人がこんな仕打ちを受ける理由にが分からず、思わず愚痴が溢れてしまうこともあった。


「やはり、間違いだったんですよ」

「ミシェル?」

「こんな事になるなんて、あの家に嫁ぐこと自体……」

「そんなこと言わないでちょうだい? だって、あの家に嫁がなければ、この子は産まれなかったのだから」

「も、申し訳ありません」


 だけれど、いかに辛い旅だろうと、彼女はどんな時も、弱音を吐くことは無かった。

 いつだって主人は、誰よりも優しく、気高く、気丈に振る舞うことの出来る人間なのだ。

 ミシェルは己の未熟を恥じ、一層精進する事を自分の中で誓うことになる。


 それ以来、ゴルディ家の話が2人の間でなされる事は無かった。

 ミシェルが聞きたかったであろうあの男の事も。

フェイデイ家

・ランバルディア王国の地方貴族。


ゴルディ家

・王国屈指の名門。

・王家の次に影響力を持つ。

・神獣の従者を数多く輩出し、各方面に多大な影響がある。

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