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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅲ.v
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幼馴染のリリーシャ08

「それとも、ユーに頼るのを否定するのは、恣意的な理由?」


リリーシャからしてみると、母の思いやり故の行動は、自分とユークラウドを離す為に取れてしまう。

そして、ルルーシャは、そう聞かれてそんな事はないと、堂々と言い切ることはできない。


現に、ルルーシャはユークラウドを苦手としてしまっている。

愛する娘にユークラウドを近付けたくないと、そう思ってしまったことがないと言ったらそれは嘘になってしまうのだ。


しかし、彼女が、そんな気持ち以上に、娘のことを大切に思っているのも、また事実である。

事実、満月の日が関係すること以外でユークラウドと娘が会うことを制限したことは無いのだ。


満月の日が近付くと、外出の機会を下げさせるのは、リリーシャを心配してのこと。

過去、自らの体質故の偏見で苦労したルルーシャは、人の醜さを知っているのだ。


もし体質がバレでもして、村で噂になってしまうと、この先、影で虐められたり、疎外されてしまうような事があるかも知れない。

そう心配するが故に、彼女の行動を制限するのであって、決して、そこに他意などはないのだ。


そんな中でのリリーシャの勘違いは、ある種仕方ないものと言えるだろう。

彼女は、母の過去も、周りから奇異の目で見られることの辛さも知らないのだから。


まだ子供である彼女は、自らが異質であることの負の側面について知る余地もないのだ。

そして、今日は奇しくも満月の日というのが、議論が進まないことに拍車をかけていた。


満月の日は、来たる変化の予兆故か精神が安定しないのだ。

精神が不安定であるという事は、理性的な思考を維持しにくくなるということ。

もし、2人がまともな話し合いを望むなら、別の日を選ぶのが正解なのだ。


しかし、精神が不安定であるということは、感情的になれると言うことでもある。

彼女達においては満月の日は、普段言えないことを言えると言う側面も少なからずあるのだ。

リリーシャが思い切って、話す事を決断をできたのは、今日が満月の日だからでもあったからである。


ユークラウドと会えないことでストレスと鬱憤が溜っていたというのも彼女の背中を押した一因である。

そんな様々な要因が重なった故に、彼女はずっと言おうとして言えなかったことを、今日ぶちまけたのがことの真相である。


家族があえて触れようとしなかった話題。

ずっとずっと言いたくて、でも言えなかったこと。


これは起こるべくして起きた必然である。


「何故、何も言わない?」


母に向ける物とは思えない視線を、向けるリリーシャ。

何も言えなくなってしまった母に対する不信感は積もっていくばかりだ。


きちんと理解できる説明を求める彼女は、記者会見に参加する記者のようにある種の暴走状態でもある。

改善の余地が見られないまま時計の針が進む場は悪くなる一方だ。


「よし、ストップだ。2人とも落ち着いて」


幾重にも重なった悪い状況に待ったをかけたのは、一家の大黒柱であるリールイ。

子供の前で動揺を隠せない妻と、明らかに理性を欠いている娘を、このまま放っておくことなど出来ようもなかった。


「特にリリーシャ、それは人に頼む時の態度かい?それではまるで……」


脅迫のようだよ、とあえて言葉は続けなかったが、リリーシャには伝わっていた。

そんな父の言葉を聞いて、彼女は生まれて父に敵意というものを見せる。


「父は母の味方?」


お前もか?と問いを投げかけるリリーシャ。

その瞳のギラツキは野生さながらで、決して、親に見せていいものではない。


娘からの敵意を向けられるというおおよそ有り得ない状況に、泣きそうになるリールイ。

ビビっているとかではなく、初めての反抗期にお父さんとして涙目なのだ。


だが、彼は自らが父であるが故に、そんな素振りを一切出さず、笑顔を見せる。

リリーシャの放つ満開の敵意にどこか懐かしさを感じながら、手を広げて、こう告げる。


「僕は2人の味方だ」


彼の仕草に不思議と、落ち着きを取り戻す2人。

その様子は、どこか動物のブリーダーの様にも感じられる。


「まず、リリーシャは、今自分が冷静ではないことを理解しなさい」


まず、リリーシャに自分を客観視して貰うために、諭すように話をするリールイ。

4歳に要求する様なことではないことは知っていたが、自分の娘ならそれが出来る事も彼は知っていた。


「私は、冷静」


だが、そんな彼にの言葉に、憤慨の姿勢を見せるのはリリーシャ。

頭に血は上っていないと、彼女は静かにだか強く主張する。


それこそ、彼女の頭に血が上っている証拠なのだが、そんなことを指摘するリールイではない。

娘の回答に困ったような顔をあえて見せ、すぐに視点を変えて貰う様に話を少しだけすり替える。


「考えてごらん、ユークラウド君は、まだ4歳だ。彼1人で何かを決めることはまだないだろう」


例え話をするように、話を始めるリールイ。

穏やかでゆっくりとした口調で、決して相手を刺激せず、口論に持ち込ませない様に。


そして、まんまと策略通り一先ず聞く体制へと入るリリーシャ。

リールイは、やっぱり2人は親子だなぁという感想を抱いたという。


「ユークラウド君に泊まりに来てもらうことを、彼の親御さんにどう説明する?」

「それは、私の事情を説明して……」


リールイの問いにどもりながらも何とか答えを出すリリーシャ。

はっきりと答えを出せないのは、自らもある問題点に気付いたからだろう。


問いかけを出すことで相手によく考えさせ、頭を冷やさせるためのものだったが、思いの外、彼女は冷静だったらしい。

これが、4歳とは末恐ろしいと、内心で親バカを発揮させつつも、その問題点を優しく追求していく。


「でも、彼女達は他の人にその事を話すかもしれないよ?」


その質問に、リリーシャは答えられない。

彼女は、ユークラウドのことはよく知っていても、それ以外を良く知っているわけでは無いのだ。


「それは……、きっとそんな事しない……」


だからこそ、希望的観測を述べるリリーシャ。

彼女は、ユークラウドのことを信頼しているが、だからといってユークラウドの親を知らないまま信頼できるほど単純でもなかった。


だから、リルーイがやるべきことは、娘の聡明さに頼り、もう一度、その問題点を広げることだけ。


「本当に?リリーシャは、絶対にそんな事をしないと言い切れるほど彼女達のことを知っているのかい?」


その言葉に、リリーシャは何も返せず、黙ってしまった。

自分でも、この質問は少し意地悪だと、リールイは思う。


少し、黙って何かを考え始めるリリーシャ。

助け舟を出すかどうか、リールイが迷っていると、やがて答えは出たらしく、彼の目をまっすぐ見てこう告げた。


「どうやら、私は、冷静ではなかったみたい」


娘の出した答えに、内心安堵しながらも、そうだねと気丈に振る舞うリールイ。

彼女の母にやってたきたことの応用だったが、彼女にもきちんと効果があったようだ。


もしかしたら、ユークラウドの名前を出したことが吉と出たのかもしれない。

もしかすると、ユークラウドという単語を出せば、娘は大人しくなるのでは?という疑惑も産まれたような気がするがリールイはそれを必死に振り払った。


娘に尊敬されたい父として、僅か4歳の子供に嫉妬を抱きたくはないのだ。

閑話休題。


「そしたら、母に何か言うことはないかい?」


脱線した思考を元に戻すように、話を進めるリールイ。

冷静になったら、やるべきことがあると、娘に自身で考えて貰い、行動して欲しいのだ。


「ごめんなさい」

「私こそ、きちんと答えを出せなくてごめんなさい」


双方頭を下げて、それからゆっくりと仲直りが始まる。

こうして、父の活躍により、母と娘の親子喧嘩は解決するのであった。

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