メイドのミシェル08
話をしながら料理の用意を済ませた為、クルーニャをミシェルから預かり、彼女を腕に抱き抱えたままソファーで一休みするクリシア。
手の空いた間に朝の家事をささっと済ませてしまった為、売り物の小物作りを始めたミシェル。
2人とも、朝のゆったりした時間をそれぞれの過ごしていた。
後は、クリスティーナが目を覚まし、ユークラウドが彼女を連れてきて、朝ご飯と言うのがいつもの流れである。
と言っても、クリスティーナの起きる時間がまばらな為、どのくらい待つ事になるか分からない。
彼女達が起きてくるまで、また2人の会話タイムが始まる。
「実際の所、5歳とは思えないほど優秀よね、あの子」
今日の話題は、彼女の愛息子のユークラウドについてらしい。
「一応、まだ4歳ですよ、クリシア様」
彼が5歳になるまで、まだ少しあると、一応補足するミシェル。
そうね、4歳であの優秀さなのよね、とクリシアは再度我が子の凄さを認識する。
「やっぱり、私達の教育の賜物かしらね?」
「きっとクリシア様に似たのですよ。私が何かを教えるまでもなく、ユークラウド様は聡明な方でした」
冗談を真面目に返され、少し照れくさるなるクリシア。
息子を褒められた事も相まって、その照れくささは何時もの3割り増しだ。
そこから、彼女達の話の内容はユークラウドのここが凄い、ここが良い、ここが優しいなどと、ユークラウドを褒めるものだけになる。
ミシェルは親ではないが、2人とも親馬鹿である為、基本的に肯定の言葉しか出てこないのだ。
まぁ、この2人の場合は、別に、ユークラウドが優秀で有ろうと無かろうと、肯定しかしなかっただろう。
勿論、まだ産まれて間もない妹達の事も、何もしてなくとも2人ともべた褒めだ。
しかし、同時に、ユークラウドが優秀であるというのは贔屓目ではなく、事実であるとも2人は思っていた。
こうして、2人がクルーニャだけに構っていられるのは、ユークラウドのお陰なのだ。
毎日と言うわけでは無いが、3日に1度位のペースで、一日中、ユークラウドのクリスティーナのお世話をかって出てくれる日が習慣となっている。
昨日から今日の朝にかけてもそれだ。
普通、2歳と4歳の子供を2人だけで過ごさせるなど、子供を見る親としてはあり得ないのだが、それを許してしまうだけの器量がユークラウドにはある。
彼がクリスティーナを見ている間は、常に彼女と共に行動し、目を離さず、危険な行為はさせない。
寝る時なども、クリスティーナより早く寝て、早く起き、途中で起きようものなら瞬時に目を覚まして相手をする。
これを4歳でありながら素でやり遂げてしまうのがユークラウドなのだ。
勿論、それでも定期的に2人の様子を見に行くようにしているが、いつ何時も彼に非の打ち所があったことなど一度もない。
「昨日の夜はお話をしてクリスティーナ様を寝かしつけ、先ほどなんかはクリスティーナ様がまだお眠りでしたので、様子を伺いながら勉強をしておりました」
ユークラウド様には足を向けて眠れません、と笑いながら冗談めかすミシェルだったが、クリシアは長年の付き合いから、本当に足を向けて寝てないんだろうな、なんて分かってしまい、違う意味でクスリと笑ってしまう。
実際、父親が居ないこの家で、ある程度の収入を確保しつつ、2人の娘を見ながら、体調を崩す恐れのあるクリシアの睡眠時間をあまり削らないようにする上で、ユークラウドの働きには感謝しても感謝しきれないと思っているエリアナだった。
もし、ユークラウドの働き抜きだった場合、2人の娘が成長するまで、質素な食事と、不十分な睡眠時間で過ごす事になっただろう事が簡単に予想できるため仕方ないとも言えるが。
一家の生活を高い水準で維持できてるのは、僅か4歳の少年のお陰であると、ミシェルは盲信していており、クリシアもそれに概ね同意の姿勢だ。
実際のところは、ユークラウドが居なくても、彼女達の場合いざとなれば取れる道は幾らでもあるし、どうにかしただろうが、そこら辺は息子可愛さに自分達を過小評価しているのだ。
ユークラウドの話題となると、ヒートアップしてやまない2人。
気付けば随分と時間が立っていた。
2人の話がようやくひと段落した頃、まるでタイミングを見計らった様に、階段を降りてくる音がした為、そろそろかと、小物を片付け、エリアナは朝食の準備にとりかかるのだった。
そんな少し慌しくなったリビングへと、ユークラウドに手を引かれてやってくるクリスティーナ。
「おはよう。今日はお寝坊さんね」
そんな彼らに、朝の挨拶をするクリシアだったが、お寝坊さんという言葉にクリスティーナが、ほぉをぷくぅと膨らませる。
「むー、わたし、おねぼうさんじゃないもん!にぃがひきとめるたんだもん!」
クリスティーナは、お寝坊さん扱いされた事に腹を立て、既に起きていたと抗議の姿勢を見せるのだった。
ユークラウドが慌てて、クリスティーナの口を塞ごうとするが、もう遅い。
今朝の事も暫く2人の話のネタになるのであった。




