少年初期12
魔力門が6つともなれば、1つの魔法に全てを使っても、その魔法の規模は高が知れているだろう。
全てを使っても、精々常人の半分程度と予想される。
付け加えるなら、魔力門を複数使う詠唱は独特で、これまた、詠唱が長くなるらしい。
半分程度といったが、ここから更に+で遅くなるのだ。
現状、魔力門を1つしか使っていないので、6個同時に使う技を習得すれば、一応、理論上は魔力を込める工程が6倍程度には早くなる。
が、魔力門を6個も使う為、その分、複数の魔力門の処理を余儀なくされ、詠唱が伸び、魔法発動までの時間が伸びるというジレンマが存在するのだ。
師匠が呆れた顔をするのも無理はない。
そもそも、魔力門の複数操作は、これまた面倒くさく、現状、2つしか使えてないから、4つの魔力門は死んでいる。
一体、僕に、どうしろっていうんだ?
6個使えるようになっても、6個別々に魔法を放つ機会なんて、そうそう無さそうですね、とは師匠談。
そりゃそうだ、そんな事して何の意味があるのだと、同意した覚えがある。
まぁ、そうは言ってられないから、一応、自学で魔力門の複数起動の方法を勉強しているのだが。
と、そんな事を考えていると、少しいいですか?と師匠に呼ばれる。
なんだろう?
呼ばれるがままに師匠の元に行くと、師匠からある質問をされた。
「次の講義の内容なのですが、詠唱作成についてやろうと考えています」
「えっと、お願いします?」
考えていると言われたから、安易にお願いしたのだが、話を最後まで聞きなさいと怒られてしまう。ごめんなさい。
そう言えば、詠唱作成とか言ってたので、詠唱って作成できるんだ、なんて考えていると、師匠は話を続ける。
「前話した魔力門の複数起動なのですが、ユート1人で考えて解決出来そうな難易度ではなさそうだった為、私なりに考え、その結果としてこの授業をしようと思いました」
とても、タイムリーというわけじゃないが、僕の思考を読んだようなその内容に少しだけ驚いてしまう。
うーん、考えていること顔に出てないよね?
「元々は、個人、又は集団で、オリジナルの詠唱を作ることで、多少速度や制度は落としても、相手になんの魔法か悟らせないようにする戦闘用の技術なのですが」
かく言う私も実はオリジナル詠唱を持っています、と師匠。
基礎に厳格な印象がある師匠だっただけに意外だと言う顔をすると、基礎がしっかりと出来ていない者が応用に手を出すのが愚かだと言うだけですと返される。
やっぱり顔に思考出てます?
僕の顔を見て呆れた様子を見せると、師匠は話を続けますと、話している事を再開させる。
「これからやろうと思っているのは、詠唱の偽装の為の作成ではなく、6個の魔力門を同時に使う為の詠唱、言い換えれば、ユート専用の詠唱の作成です」
詠唱を作れるという話でも初耳だったのに、更にそれを飛び越えて、僕の悩みを解決するすべがあると、告げる師匠。
どうでも良いけど、専用と言われて、少し心踊ってしまうのは、僕が男の子だからだろうか?
「現状の詠唱では、6個の魔力門を起動させる為には時間がかかり、ユートという規格に合っていません」
今の一般的に使いやすく完成させてている筈の規格は、しかし、僕は合ってないと、語る師匠。
言外に僕は一般的じゃないと言われたため、若干傷付くが、分かりきってたことであるからしょうがない。
「なので、ユートの為の詠唱を作ってしまうといのが、今回の目論見です」
詠唱の勉強をした僕からすれば、あの完成された状態からどう改良するのかと思ってしまうのだが、魔力特性の要因で種族、一族、家族などの単位で、専用の魔法を持つという話も聞いたことがあるし、出来ないという訳では無い。
それが、今回の挑戦に至るに当たった経緯だとか。
「ただ、この授業の場合、いつ終わるか分かりません」
それでも、やはり、不可能じゃ無いと出来るの関係は決して、=では無いという師匠。
当たり前だが、不可能じゃ無いからやるを、現実にするに当たっては、かなりの困難が待ち構えているだろう。
師匠曰く、人によって適材適所があるため、一つの詠唱にが幅を取っており、それを盲信する現状はどうかと思うらしいのだが、それが叶わないなら、現状に甘えるしか無いのだという。
更に言えば、今回やるのは魔力門を6個同時に操作するためだけに詠唱を作り出すというのである。
「前例が無いことを試そうとしているのですから、答えが見つかるかは、やってみないと分かりませんし、正直、いつまでかかるか分かりません」
今回の件は、ユートが1人で課題をこなすのとは違ってかなり難易度が高いので、私も全力で手伝うつもりですが、私でもかなりきついです、と師匠は嘘偽りなく真実を伝える。
師匠の言う通り、これは前代未聞の試みで、本当に終わりが見えるか分からないのだ。
そりゃそうだろう魔力門を6個も持っているやつなんて居ないのだから。
こんな事をしなくても、他に方法がないか模索するのも良いだろう。
だけど、師匠は言う、
「ですが、これが最善策です」
きっと師匠は色々な方法を模索し、僕の事を考えた結果、この答えに至ったのである。
師匠が言うのだから、これが、最前種であることは、間違いない。
「私と共にやってくれますかユート?」
僕の意思を訪ねてくれる師匠。
その言葉からは、師匠の愛を感じる。
これに答えたら、師匠に沢山迷惑がかかるし、研究時間だって削られてしまうかもしれない。
言ってしまえば、僕が普通に魔法を使う事を諦めれば済む話でもある。
それでも……。
それでも、僕は、師匠に迷惑をかけてでも、魔法を人並みに使えるようになりたいと、そう思ってしまうのだ。
「お願いしても良いですか?師匠」
「当たり前です。ユート」
そう言って、子供が変な気をつかうものではありませんと、頭をぐしゃぐしゃされてしまう。
やはり僕が考えている事は顔に出てしまうのだろうか?
何はともあれ、大きな道も一歩から。
僕が人並みに魔法を使えるようになるその一歩を。
これで序章は終了です。
ここから、周りからの視点を書いた後、ようやく本編が始まります。




