少年初期08
「お邪魔します」
「ん、ゆっくりしていくといい」
リリーシャに連れられて、家に入り、挨拶をすると、隣にいるリリーシャがいの一番に挨拶をした後に、彼女のお母さんとお父さんが、いらっしゃいと声をかけてくれる。
「いつもありがとう、ユークラウド君」
リリーシャのお父さんが、お礼を言ってくれるが、生憎とお礼を言われる様なことをした覚えは僕にはない。
何と返すべきか悩んだ挙句、ありきたりな言葉を選ぶことにした。
「いえ、お泊まり会、楽しいので、毎日来たいくらいです」
「ん、それは良い、ユーはうちに住むといい」
そんな冗談に誰よりも食い付いてくるリリーシャ。
お母さんの肩がピクリと震えた様な気がするが、きっと気のせいだし、僕は何も見ていない。
リリーシャも冗談だから間に受けなてもいいですよ。
彼女が言うと冗談に聞こえないからその気持ちも分からなくも無いが。
…………冗談だよね?
そんな風に日常的なやり取りをしていると、お兄ちゃんだ、と小さな陰がやって来て、リリーシャの服にしがみ付きながら、こちらを見ている。
僕は少ししゃがむ様な形で陰に向かって、挨拶を交わすのだった。
「こんばんは、ララーシャ。お邪魔してます」
「こんばんわ……。えっと、ようこそ?」
その陰の正体は、リリーシャの妹ララーシャ。
歩ける様になって直ぐに姉の後ろを付いて回る様に成る程のお姉ちゃんっ子で、甘えん坊な子だ。
年は今年で4歳にになるくらいだから、今は3歳。
クリスティーナとクルーニャの丁度間の年で、よくクルーニャと楽しそうに遊んでくれる。
「……あそびにきたの?」
「そうだよ、お泊りに来たから今日は一杯遊ぼう」
「うん、あそぼ」
小さな笑顔で、たのしみと返してくれたララーシャと軽くハイタッチして約束を交わした。
お人形さん遊びか、おままごとかは分からないが、久々にする子どもらしい遊びなんて久々で、少し楽しみでもある。
だが、その様子が気に食わない、お姉さん(とな)げない少女が1人。
「むー、私を忘れて貰ったら困る。今日はユークラウドを独り占めするのは私」
自分より3歳以上したの妹あいてに、ムキになるリリーシャ。
たとえ妹と言えども、容赦はしないという彼女のアタマに軽くチョップをかまして大人しくさせようとした。
チョップを受けたリリーシャは、対して痛くもないチョップを食らった筈なのに、まるで後遺症が残るとでも言いたげな目線と仕草で自分の頭をいたわるから、少し怯んでしまう。
一瞬謝ろうとしたが、その前に、頭が割れるかと思った、もうお嫁に行けない、ユーに責任を取ってもらうしかない、と謎の3段活用を見せてくるのだから、僕の心配を返して欲しい。
はぁと、思わず吐いたため息に、むむっとした表情のリリーシャ。
しょうが無いから、また変なことを言い出す前に、かたをつけることにする。
「忘れてないから、3人で、ね?」
「むー、仕方ない。ここはユーに私が立派にお姉さんをしているところを見せつけるしかない」
「やったー!」
普通に姉をやってくださいなんて思うのだが、無邪気に笑うララーシャを見ているとどうでも良くなってしまう。
そのまま、階段を登ってリリーシャの部屋に行き、夕飯の時間まで3人で仲良くおままごとをして過ごすのであった。
早めの夕飯をご馳走になった後、お風呂に入り、疲れて眠そうなララーシャを2人のお母さんに預けるという工程をこなした後、僕とリリーシャは2人で、彼女の部屋に篭っていた。
お泊まり会という事で一緒にベッドの上でねっ転がっていた。
「なにかあるなら遠慮なく言っていいよ」
彼女の身を案じての言葉に、彼女は思い当たる節を考えた後、やがて思いついた事があったらしく、自信満々と、要望を言う。
「ふむ、なら、結婚して欲しい」
キラキラと目を輝かせる幼馴染の姿に、頭を抱えたい衝動にかられた。
体調を心配しての言葉だった筈なのだが、彼女の悪ふざけに逆にこっちの具合が悪くなってしまう。
「帰るよ……」
「むぅ、ままならない」
僕に帰宅されたら不味いと思ったのか、大人しくなるリリーシャ。
彼女が大人しくなってしまった事によって場が静寂につつまれる。
5分だろうか、10分だろうか、どれだけ2人が黙っていたか分からない。
やがて耐えられなくなったのか、沈黙に負けてしまいそうになったのかは分からないが、 リリーシャはは膝枕と小さく呟いて、そっぽを向いた。
そちらを見ると耳まで赤くなっていたので、言ってて恥ずかしくなったらしい。
どうやら、最初のは照れ隠しだったようだ。
結婚は良くて、膝枕は恥ずかしいと言うのは良く分からないが、大方、甘えるのが恥ずかしい年頃なのだろう。
仕方がないので、あれからなにも動こうとしないリリーシャの為に、ベッドから起き上がり、彼女の寝ている隣に座り、その頭を膝の上へ持っていく。
膝枕が完成すると、すぐに頭を細かく動かし微調整を始めたから、やっぱり恥ずかしいのも演技だったかもしれない。
「お加減どうですか?お客様」
「うん、悪くない」
僕のテキトーな確認に、満足だと返すリリーシャ。
そのまま、彼女は目を瞑る。
「じゃあきそうになったら教えて」
「うん……」
変化が来たらタイミングだけ欲しいと言う僕に、小さく頷きを見せるリリーシャ。
その姿はどこか、何時もより小さく見える。
しかし、暫く待っても、そのタイミングとやらは来そうに無い。
まぁ、まだ太陽の光が完全に消えていないのだから、しょうがないと言えるのだが。
別に急いでいる訳でも無いので、大人しくこのまま2人で待つ事にする。




