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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅲ
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少年初期07

「それは何より。だが、あまりにも拘束時間が長いのは頂けない、ユーには私との・・約束があった」

「それは申し訳ありません。ですが、これからも沢山時間を作ってくれるらしいですよ。私のためだけ・・に」


結果として両者のこの言葉が開戦の狼煙となった。


「ふむ、何も分からずユーにおんぶに抱っこというならまだクリスに魔法は早いと思う」

「お兄さまからは、非常に優秀な生徒と評価を頂きましたので、ご心配には及びません。優秀な妹を持って幸せだとも言って頂きましたわ」

「ユーは優しいから、そう言ってしまうのは仕方ない、特に妹なら尚更」

「お兄さまは、幼馴染より妹の私との一緒過ごす事を選びましたの。それは、今まで1人寂しくリビングでお待ちになられてた事実から分かると思いますが」

「あまり、妹という立場を傘に来てユーに大きな負担をかけてはない。ユーにはユーの時間がある。それを妹ならというだけで不当に拘束してはいけない」


軽いジャブから次第に加熱していく言い争い。

その勢いはどんどん加速していく。


「お兄さまは喜んで私の相手をして下さいますよ?もしかしてお兄さまの妹である私に嫉妬ですか?それは申し訳ありません。3女という立場でも宜しければ、迎え入れる事が出来ますがどうされますか?勿論姉である私に敬意を払ってもらうことになりますが」

「幼少期は相手の気持ちを勝手に錯覚しがちだ、私にも覚えがあるから仕方ない。もう少し大人になるといい。それに妹という立場に嫉妬したことなど無い。寧ろ、クリスこそ幼馴染という立場に嫉妬しているのではないか?妹では結婚する事もままならない。最後に、年上は敬うといい、特に将来私は義理の姉になる立場」

「お兄さまと結婚するのは私です!方法だって幾らでもあります!」

「現実を見るといい、魅力的な幼馴染が居るのに何故わざわざ手間のかかる妹と結婚する必要がある」


あまりにもの早口に、後半の方は聞き流してしまったが、言い争いはまだまだ続いている。

2人の間に火花散る幻覚が見えるほど、その争いは白熱していた。


この2人、何故かは知らないが凄く仲が悪い。

普段は大人しく虫も殺さない様な2人なのだが、2人揃うと手がつけられないのだ。


いつもあまり喋らず、短い返答で会話を済ませるリリーシャが饒舌になるのは彼女といる時だけだし、またクリスティーナが僕の前にいる時を除いてお淑やかさを犠牲にしてでも全力を彼女の前だけである。

ある意味仲がいいのか?なんて思わなくもないが、今尚加熱する言い争いを見ながらそんな呑気な事を言えるほど、僕のメンタルは図太く無かった。


助けを求める為に、周りを見るが、テーブルを片付けて居たはずのミシェルは、クルーニャを連れて何処に消えている。

何故か、見ちゃいけませんと幻聴が聞こえた気がするがきっと気のせいという事にした。


キッチンには、一応、母がいるが、彼女はご機嫌に鼻歌を歌っている為、あまり助力は期待できそうにない。

前、同じ様な上京の際に母に助けを求めた事があるが、母はとてもマイペースで、この惨劇を見てもニコニコと笑い、甲斐性の見せ所よ、なんて言うだけだ。


「いけない、これからユークラウドとお泊りだったあまり遅くなるといけない」


永遠と続く様に思えたが、言い争いだったが、会話はふと、この後の予定を思い出したリリーシャによって中断される。

もし、思い出さなければ永遠に続いていたかも知れない、なんて……、あまり笑えないな、これ。


「な、聞いてません!お兄さま!」


話を聞かされていなかったクリスティーナが急にこっちを見た為、必然的に注目が集まる。

一応、母には伝えていたのだが、うっかり彼女には伝え忘れていた。


だって、リリーシャの話すると拗ねるから……、なんて言い訳が思い付いたが、それを言ってしまったら最後、2度と口を聞いてくれなくなるかも知れないから絶対に言えない。

出来れば勢いのままま飛び火は勘弁して欲しいが、クリスティーナに説明してなかったのは俺の落ち度だし、どうしたものか。


なんて言おうか迷っていると助け舟を出してくれたのは、意外にもリリーシャだった。


「今日は満月、仕方がない」

「むぅ、リリーシャさんばかりずるいです!」


今夜、お泊まりする事が決まったのは、リリーシャの体質が色濃く出るのが満月の夜だからである。

リリーシャ曰く、俺と共に居ると幾分かそれがマシになるらしく、そして、実際効果はあった。


そして、リリーシャの体質を知っているクリスティーナは、治療の一環と言われてしまうと強く出る事が出来ない。

ぐぬぬという顔こそしているものの、感情的に駄々をこねるのではなく理性的にそれはよろしくないのだと判断しているのだから、本当に5歳とは思えない思考の仕方である。


「行こう、ユー」

「え、あ、うん」


話は終わりだとばかりに僕の手を引き玄関へと、向かうリリーシャ。

急な展開に思わず、引っ張られるがままについて行ってしまう。

消して、逃げを選んだわけではない。


「待ちなさい」


そう言って、クリスティーナは僕達を引き留めるのかと思ったけど、僕の上着を持ってきて、見送りに来てくれたのだった。

どうやら、見送りに来てくれただけらしい。


本当に出来た妹だと感心してしまうが、その顔はやはり不機嫌そう。

どうにかしたくて、彼女の頭に手を置くと、お兄さま?と戸惑うクリスティーナ。


「ごめんね、クリス。埋め合わせは明日するから」

「お兄さまがそう言うのでしたら」


そのまま、クリスの頭を優しく撫で、埋め合わせを約束すると、幾分か機嫌を直してくれた。

反対に、リリーシャは面白くなさそうだが……、あとでこっちも機嫌取らないと……。


ちなみにクリスが玄関まで僕を見送りに来てくれるのはいつもの事で、普段は、服だけじゃなく持ち物なんかも用意してくれるのだ。

今回は家が隣な為そんな必要は無く、クリスは少し寂しそうと感じてしまったのは錯覚ではない筈。

それでも、行ってきますと言うと、行ってらっしゃいと嬉しそうに返してくれる。


良かった、これでなんとか、僕が居ない間に機嫌が完全に直っている筈、なんて思って、リリーシャに手を引かれ家を出ようとするが、そうそう、言い忘れた事があったと口にするリリーシャ。

嫌な予感がして、逆に彼女の手をひき早く出て行こうとするが、リリーシャは、あからさまに立ち止まって、急ぐ僕を引き止めながら、続きを口にする。


「勉強するにしても、ユーに頼り過ぎず、自分でもやるといい」

「お兄さまから適切な課題を貰ってるのでご心配なく、明日その出来を見てもらう予定ですし」

「ふむ、ずっと、ユーに夢中で家の手伝いを疎かにするのは、あまりよくない」

「生憎と、私の家事は完璧です!リリーシャさんこそ、兄にかまけ過ぎて家の事なんて何もしてないんじゃないですか?」


まさか、家を出る時まで2人の言い合いは続くとは……。

不機嫌な妹に出迎えられ、ご機嫌取りから始める未来を思い浮かんでしまう為、帰路への足取りが少し重くなってしまった。


本当、この幼馴染はやってくれる。

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