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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅲ
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少年初期05

魔法適正を調べる際は、家族と相談するのが一番だったりする。


本来は両親などに適性を教えてもらうべきなのだが、生憎とうちには父親が居ない。

父親の事について聞くのはなんとなくタブーな気がするし、片親の適性を知る事が出来ないというのはかなり痛い。


一応、母の適性は分かるものの、僕の件もあったし、やはり全ての適性を調べる方が妥当な気がする。

全ての適正を調べるとなると属性12と状態12でかなりの量になるのだが、愛する妹の為だ、やるしかない。


幸いにも師匠のお陰で全ての適性の詠唱を覚えてる。


「今日は魔法の適性を調べたら、終わりになりそうだけど、大丈夫?」

「はい、お兄さまに全てお任せします」


了承を貰い、簡単な座学を済ませ、実技に移る為に簡単な結界を張る為の詠唱を唱え始めた。

師匠の講習中に分かったことだが、僕は、状態魔法、構築系統の結界魔法にも適正が合った。


空間と空間に仕切り作ることができる結界魔法は意外と便利な魔法で、師匠との実験の時に使うことも少なくない。

無いとは思うが、僕が未熟ゆえに不測の事態が起こった時の保険という奴だ。


なんて事ない魔法の筈なのに、やはり自分の欠点ゆえに、常人の5倍ほどの時間をしいられてしまい、自己嫌悪に陥りそうになる。

こんなに長いと妹も暇だろうと、ちらりと様子を見ると、聞き慣れない詠唱が珍しいのかうっとりとした様子で聞き入ってくれていた。


そんな純粋な妹にちょっとだけ、救われた様な気持ちになる。

ようやく、詠唱が終わり完成した結界魔法に、凄いです、と驚きも見せてくれた。


対したことじゃないよ、と謙遜ではなく、単なる事実を告げる。

妹が魔法を使える様になったら、僕の魔法が如何に遅いか知ってるだろう。


今はそれが少し怖かった。


「お兄さまは多くの適性を持たれているのですよね?」


妹から向けられる疑問にバツの悪さを隠しながら、答える。


「うん、まぁ一応」

「流石です!」


彼女は、僕の心の底の恐怖なんて、知らないように尊敬の念を乗せた眼差しで僕を見てくれるから、今は少しだけ心が痛い。

正直、魔法の発動があまりにも遅い為、持て余してる感が非なめないが、一応、人より多くの適性を持っていることには違いなかった。


「私もお兄さまみたいに多くの適性が欲しいです」


無邪気に憧られる事は嬉しいが、これはそんなに良いものでは無い。


「適性が多いからっていいことばかりじゃないよ。最初から、色んな魔力が混ざってるから魔力の抽出の詠唱が複雑になるし、発動だって遅くなる」


なるべく僕の偏見が無いように、だけど、経験を元に、適性が多い場合のデメリットを妹に分かってもらうために説明する。

兄として尊敬されるのは、本当に嬉しいが、適性が多いことに、妹が過剰に誤解したままではあまりよろしく無い。


「それでもです、お兄さま」


しかし、僕の偏見のないように気を使った筈の思想は彼女から見れば、十分に偏っていたらしい。

確かにそれは事実ではあるが、真実では決してないと彼女は訴えてくる。


僕と目線を交差させ、強く見つめるその瞳は有無を言わせない迫力があった。


「お兄さまが陰でどれだけ努力しているかは知っています。その苦悩は私などでは推し量ることはできない事も…………」


彼女は、目を伏せ、僕の事を自慢の様に、されど、悲しそうに話す。

そして、一泊を置いて、でも、だからこそ、と、僕の手を取り強く意思を示してくれる。


「私はそんなお兄さまに憧れたのです」


だから、あまり自分の事を卑下しないでくださいと、僕を嗜めるクリスティーナに返す言葉が思い付かなかった。

僕の手を取る彼女の言葉に嘘偽りは無く、本当に凄い人を見るような目で見てくれるからこそ、こそばゆい。


周りの人が過剰に褒めてくれるのに反発するように、どうにも僕は自己評価が低いらしい。

師匠にも今日それで言われたっけ、なんて事を思い返す。


うじうじと言い訳する様な僕の喋りは、僕を評価してくれている周りの人達から見ると、とても許せないようだ。

なんて返すか、迷っている僕より先に叱責のように、鼓舞の様に、妹は言葉を繋げていく。


「私は知っています。数多くの魔法を覚え、それを色んな人の為に使えるお兄さまを。そして、そんなお兄さまを知っているからこそ、魔法を覚えたいと思ったのです」


かなり過大評価されている、と感じた。

ここ2年でやった事は、せいぜい師匠に教わった事を実戦で使えるか試す為に、家の中や近隣住民の手伝いをした事くらい。


そこまで対したことはした覚えが無いのだが、それでも、妹にこう言われると悪い気はしないのは僕が兄故。

やはり、妹に尊敬されているというのは、嬉しいものだ。


僕が魔法を覚える理由だって言われたら張り切らずにはいられない。

まぁ、こっこり、講義の中で、その過大過ぎる評価を正しく修正していなきゃいけないんけどさ……。


「魔法の速度なんて関係ありません。私はお兄さまの様に沢山の魔法を使えたら嬉しいのです。お兄さまのようになりたいんです」


最後にそう締めくくり、今日一番の飛びっきりの笑顔を見せてくれるクリスティーナ。

またも妹に励まされてしまった。


僕の事を持ち上げる選手権があるとしたら間違いなく優勝は彼女。

僕の様になりたいだなんて言われてしまったら、僕はそれに見合うだけの兄にならなければないと、否が応でも思ってしまう。


実は、全部、妹の手のひらで踊らされているのでは無いか?

なんて、ふと考えてしまったが、それならそれで良い気もする。


「クリスってさ……」

「……?」


正面からぶつかってくる彼女に対し、気恥ずかしを気取られない様に、話を変えて誤魔化すことを選んだが、どうしたものか。

首をかしげるクリスティーナを見て、丁度思いついたいたずらを投げかける事にした。


「本当に5歳なの?」


僕の質問の意味が一瞬だけ理解出来なかった様子の妹は、少しだけキョトンとするが、意味が分かるとムッと怒った様な表情を作って見せる。


「酷いです、お兄さま!こんなに可愛い妹の事をお疑いになるのですか!」


プンプンと言った擬音が付きそうな様子のクリスティーナ。

冗漫には冗談で対抗する姿勢を見せ、更に年齢詐称疑惑が深まってしまう、なんて、これも冗談だけど。


「ごめんごめん」

「許しません!」


頭を下げる僕に対して、腕を組みそっぽを向くクリスティーナ。

その表情はどことなく楽しんでくれている様で、僕も嬉しかった。


こんなしょうもない誤魔化しにも乗ってくれる辺り、本当に良く出来た妹である。


「ありがとね」

「お兄さま?」


僕の小さな声で感謝の言葉の言葉を述べた。

妹が聞き返してくるが、やっぱり気恥ずかしくなってしまった僕は、言葉を変える事にする。


「いや、クリスは僕には勿体ないくらいの最高の妹だなって」

「お兄さまったら……、褒めても何も出ませんよ?」


ここで、余裕のある返しをする辺りは、流石クリスティーナだ。

さっきといい、今といい、今日の講義は、教える立場だった筈が、殆ど教えられてばかりだったように思えて少し笑ってしまう。


本当に僕の妹は、兄の贔屓目無しに出来すぎだ。

ちなみに贔屓目も付け加けた評価は、完璧最高美少女なのだがら手に負えないのだけど。


妹と戯れる時間も楽しくなってきたが、後の予定もあるため、いい加減に本題に戻らなければならない。

励まして貰ったし、ひとしきり兄妹の時間を楽しんだから、今日は十分満足だ。


「じゃあ最初は基礎4属性の詠唱から始めようか」

「お願いします」


先にお手本の詠を唱えながら、思う。

きっと、僕は、妹が兄離れをするまで、この出来すぎた彼女に胸を張れる兄を目指すのだと。

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