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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅲ
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少年初期02

「さて、ユート、長い間よく我慢しましたね」


完全に目の覚めた師匠が今日の講義を開いてくれて、開講一番の台詞がそれだった。

ちなみに長い間我慢したと言うのは詠唱の勉強であり、師匠の寝起きの態度の事ではない。


「何が言いました?」

「いえ、何も」


鋭い目で睨まれてしまった、考えてることが顔に出ないように気をつけなければ……。

おほんと軽く咳払いを行い、話を続ける師匠。


「短いようであっという間の2年でした」


あれから2年弱の間、僕は師匠から定期的に、魔術型の魔法に関しての講義を受けていた。


「昨日で魔法の基礎理論と魔術型の詠唱についての講義は全て終了です」


魔法のエトセトラ、詠唱の単語一つ一つの意味など、内容は多岐に渡るが、魔術型が魔法を使う為に必要な事を全部。

それを昨日までで全て教えてもらったのだ。


お陰様で今、相当な種類の魔法を使う事が出来るようになっている。

相変わらず速度に相当な難があるのは変わらないため、人より何倍も魔法の発動が遅いのはそのままで少し凹んではいる。


そんな僕の様子を知ってか知らずか、師匠は今までの思い出を思い返す様に思い耽っていた。


「ユートは優秀ですし、本来なら一年経たずに終わっていてもおかしくはなかったんですが、まさかこんなにかかるとは」


何気ない師匠の言葉に、思い当たる節があり、またも気持ちが凹んでしまう。

途中、何度も話が逸れた事もあったが、2年は流石にかかり過ぎだよなぁ。


「…………すいません」


恐らくそんな意図はないだろうに反射的に師匠に謝ってしまう。


本来ならもっと早く終わるはずの詠唱の勉強に、こんなに時間がかかった原因は僕にあるのだ。

勉強中にある事が発覚し、結果として授業内容を大幅に変更せざる終えなかった。


「別に攻めている訳ではありませんよ。寧ろ、誇るべき事でもあります」


そう言って、気にすることはないと、自分の才能を誇るべきだと、自分の事の様に嬉しそうな顔をする師匠。


才能かぁ……。

確かに誇るべき代物かも知れないが、どうにも僕は、素直に喜ぶ事ができなかった。


「個人的には手に余る代物だと思ってんですけどね」


僕は、未だ、その原因の有用性を発揮出来ずにいるからだ。

更に付け加えるなら、僕の魔法が遅い原因は、そこにあるとの事だったし、少し厄介な代物だと思ってる節もある。


「何事も努力と精進あるのみです」


いつもの様に人差し指を立て、諭されてしまう。

師匠はいつも言うのだ、自身の手札をうまく使えと、その為の努力は惜しむなと。


そのまま、僕の頭の上に手乗せて、それにですね、と話を続ける。


「大丈夫ですよ。ユークラウドなら絶対に使いこなす事ができます。何てったって、私の自慢の弟子ですから」


優しく僕の頭を撫でる師匠。

彼女にそう言われてしまったら、弟子には頑張るしか選択肢は無いのだ。


「頑張ります師匠」

「よろしい」


僕の回答に師匠はご満悦だったらしくとびっきりの笑顔を見せてくれる。


………………。

…………………………。


うちの師匠は……、………………。


僕が考え毎をしている内に、師匠は何かしらの準備を進めていた。

それでは次の段階に進みましょうか、と話を進める師匠。


「ユートは基礎を全て終えたので、ここからはお待ちかねの応用の時間です」


無詠唱を使わず頑張って来ましたからね、ここから一気に追い上げですよ!とその様子はいつになくハイテンションだ。


前々から師匠は基礎が終わったら応用の勉強をするのだと言っていた。

応用とは、曰く、勉強した事を実生活に使えるようなレベルにする事。


勉強した事を実際の生活に使えなければ勉強した意味は薄くなる。

そして、それは僕の場合、ただでさえ遅い魔法の発動速度を上げる意味合いも含んでいるのだ。


師匠は僕の欠点と真摯に向き合い解決してくれようとしてくれている。

本当に僕には出来過ぎた師匠なのだ。


「一般的なお話だけではなく、ユート専用に作り上げた理論もありますからね。色々と実践して試して見ましょう」


2年間付き添って分かった事だが、師匠はその道では結構有名な研究者だった。

そんな師匠が提唱したり、組み上げた論文は結構しっかりとしている。


研究の手伝いの合間に見たそれらには、僕の為だけに作り上げた論文があり、理論上では既に方法をいくつか見つけてくれているのだ。

学会でも通用するようなそれらを僕の為だけに作り上げてくれた師匠には一生頭が上がらない。


研究も随分と周り道させてしまっている為、講義が終われば簡易的な助手として精一杯お手伝いをさせて貰っているけど、お役に立てているかと言われるとかなり自信がない。

きっとこんな事を話したら、優しい師匠は、ユートは良くやってくれています、なんて怒られてしまうから口が避けても言わないけれど。


本当に凄い人なのだ僕の師匠は。


「1秒1秒、少しでもユートの魔法の発動までの時間を早めて行きましょう」

「よろしくお願いします師匠」


そんな凄い師匠の協力の元に、僕は弱点克服への第一歩を踏み出したのであった。

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