厄災02神獣02
1727年11月7日。
『どうやら良い師を見つけれたみたいだね… ……。魔法に興味を持ってくれて嬉しいよ……』
『………………………………』
『ここでお話ししたのは無駄じゃなかったみたいで良かった……』
『………………………………』
「君は特殊な体質だからね、きっとこれから多くの苦難が襲いかかり苦労も絶えないことだろう……。それでも学んだことは君を裏切らない……』
『………………………………』
『願わくば君のこれから進む道に幸運があらんことを……』
『………………………………』
特に意味のない会話だった。
相手が返事をするわけでも無く、ましてや、記憶に残るわけでもない。
それは前回と同じ。
しかし、前回とは違って、何もなかった空間に少しだけ背景のような白が付け足されたような気がする。
その色は、この意味のなかった会話に少しだけ意味が産んだ様な錯覚を起こしてくれるのだ。
やはり、気のせいかもしれないが。
それでも、その会話をするのは、僕が楽しからそれで良い。
楽しい時間は直ぐに終わりを迎え、彼女との束の間の会合は終わってしまう。
余韻を名残惜しく思いながらも自称厄災は、さて、と踵を返した。
あらかた決まった弟子候補達に最後の確認に行くために。
1728年9月9日。
この世界には、8体の神獣がいる。
いずれも、人の姿こそをしているが、それでも、その8体が絶大な力を持つ、人間とは違う何かだと言うのは誰の目から見ても一目でわかる
8体の神獣は、8の大国で祀らおり、その国の象徴でもあり、頂点でもある。
彼ら彼女らは争いを嫌い、力を均衡させ、和平を唱える事で、世界は安定と平和を約束されていた。
彼ら彼女らは、まさしくこの世界の神なのだ。
「結局、4年も経ったのに手がかり無しだってのか」
エングルド連合国を治める爆炎を司る神獣、ケルベロスは不満げにそう告げた。
「やはり予言なんて、当てにならないのではなくて?」
ランバルディア王国で崇められる雷を司る神獣、ドラゴンもそれに続く。
「ノーティは頑張ってくれています」
それに反論するのは、学園国家エグゼルクの守護する治癒の炎を司る神獣フェニックス。
「予言を邪魔している誰かがいるっぽいしねー」
フォーリース民主国の象徴、土を司る神獣ユニコーンも、それに同調する。
「ノーティが悪いわけじゃないのに責めるのはこくじゃない?」
「チッ……、分かってるよ」
「ですわ」
「それなら、良いのですが」
正論で反論してくる2人にケルベロスとドラゴンは大人しく引き下がる。
あくまでも2人は、何も進展しない現状に不満を言っただけだ。
「文句があるなら、自分で予言魔法を使えなのぉ」
そんな2人に野次を飛ばすのは、ニライカナイ共和国の偶像、水を司る神獣マーメイド。
「それは良い考えじゃのぅ」
クルセルム帝国の頂点、風を司る神獣、グリフォンも、ククっと、笑いながらそれに同調する。
「あぁん?喧嘩売ってんのか?」
「あいにくと馬鹿2人に売る物は無いのぅ」
「……その2人目とは誰の事ですの?」
「辞めなさい3人とも」
「そうなの言い争っても仕方ないのぉ〜」
「マーメイドって、いい性格してるよね」
「えへへ〜、なのぉ〜」
「誰も褒めとらんわ」
基本的にいつも通りの神獣会議の展開。
大多数の神獣の性格が会議というものに向いてないが故の弊害である。
「はぁ……、またいつも通りの流れどすぇ」
またもいつも通りの光景に、夜真国で奉られる氷を司る神獣、狐はそうぼやく。
「お決まりの流れよね」
ヘカテル魔国を統べる闇を司る神獣、サキュバスは、もう諦めたという表情をしていた。
「だからって会議に全然関係ないことするのもどうかと思うよ?」
「だってあれが終わるまで暇じゃない」
「落ち着くまで待つ方が吉でありんす」
会議中に全然集中していない2人を咎めるユニコーンだったが、それなら向こうをどうにかしてこいと言いたげな2人に、はぁとため息を吐く。
「君達……良い加減に……」
「大体よぉ、お前ら2人付き添ったんじゃなかったのか?」
「んー別に魔力的な妨害は感じなかったのぉ〜」
「同じく、術式的な妨害は見つからなかったのぅ」
「はっ、口ほどにも無いですわね!」
「なんじゃと!?」
ユニコーンの仲介虚しく。
結局、いつも通りに下らない言い合いは続くのだった。
「結局、調査の結果、件の厄災については、何も分からなかったと、そういう事でよろしいですか」
「その調査の精度も怪しいものですけど……」
「儂らの調査に文句があるのかのぅ?」
「これだから単細胞いやなのぉ〜」
「なんですって!!」
「はいはい、そこ喧嘩しない」
結局、30分ほど無意味な時間を過ごした挙句、話は結局何も纏まらなかった。
それもそうだろう、脅威度も何も分からず、対策の立てようがなく、いずれ来る事しか分かってない相手にどうしろというのだ。
一部の神獣はこの話すら馬鹿らしいと思えて来た辺りで、最初に発言したのはサキュバス。
「提案なんだけど良いかしら?」
皆の無言の続けろの意思を受け取ったサキュバスはその提案を開示する。
「もう来るかも分からない厄災のことを考えるのはやめにしない?」
サキュバスの意見にざわつきそうになる神獣達だったが、また騒ぎ始める前に彼女は一気に話を畳み掛け始めた。
そうしないと、また無為な時間を過ごす羽目になるからである。
「私達なら何が来ても対処できる力を持ってる」
彼女は告げた。
この世界の当たり前の常識であり、共通認識であり、純然たる事実、神獣が最強であるということを。
「どちらかというと危ないのは、私達以外の国民達でしょ。出来る事は眷属の育成と国力強化……、つまり、いつも通りよ」
寧ろ、国民達の方が心配であるというスタンスを取るサキュバス。
言ってしまえば、彼女は厄災への脅威なんてこれっぽっちも感じてないのである。
そして、それは他の神獣達も同じであるという確信が彼女にはあった。
最強の神獣達は自分達を脅かす存在と言われても誰もピンと来てないのだ。
「それは……」
「そうでありんすが……」
「私は賛成なのぉ〜」
それでも、サキュバスの意見に口を挟もうとしたユニコーンと狐。
だが、それよりも早くマーメイドが強い賛成を示す。
「来るか分からないのにこれ以上構ってても意味無いのぉ。そんな事より沢山やる事があるのぉ〜」
「それは幾ら何でも横暴過ぎませんか?」
マーメイドも、今では、この話に意味を感じていないのだ。
そんな彼女の急な話の展開についていけず、それを止めようとするフェニックスだったが、マーメイドの勢いは止まらない。
「んー、じゃあ多数決でも取るの。賛成の人ー」
目に見える形で話に決着を付けようとするマーメイド。
マーメイドの呼び掛けに応じ手を上げたのは、提案したサキュバスとドラゴンとケルベロス。
彼女の案に明確に賛成を示したのは8人中4人という事になる。
「ん?4対4なのぉ?」
思ったより人が集まらなかったようで残念そうな表情のマーメイド。
「いや、反対の方も聞きなさいよ」
「成る程なのぉ、反対の人ー」
サキュバスの突っ込みに納得して、反対派への挙手を募るマーメイド。
その結果、反対派として手を上げたのはユニコーンとフェニックスと狐の3人だった。
「ん、4対3なの、ならこの話は今回で終わりなのぉ」
結果に満足のいった様子のマーメイドは話を終わらせにかかる。
神獣達は揉める事が多い為、多数決で決まった事は、この会議では基本的に決定事項として流れてしまうのだ。
その為、多数決は最後の最後に使用される事が基本なのだが、マーメイドはその辺りを気にする様子はない。
余りにも呆気ない幕切れにどちらかと賛成に手を上げた神獣達も少し困惑していた。
「グリフォン……貴女はまた……」
「ふん、儂は中立じゃ……」
そんな中、手を上げないグリフォンをフェニックスが咎めるが、グリフォンはそんな事を意に返さない。
こうして、厄災への神獣達の会議は呆気無く幕を閉じるのであった。
「全く、露骨なアシストは疑ぐりを生むのに、無茶するわね」
それぞれの作為を胸に。




