研究者と幼馴染02
これは、リリーシャがエリアナの元にやってくる数ヶ月前のお話。
「リリーシャさんですか?」
「はい、えっと、何時も一緒に遊んでいるお隣に住んでる子です」
そう言って、幼馴染の女の子の話をするユークラウドは何処か申し訳なさそうな顔をしていた。
エリアナは目を閉じ指を立てて得意げに語り始める。
「自分だけでも迷惑かけてるかも知れないのに、話を切り出すのは図々しいのではという葛藤が混じった困った顔をしていますよ」
「うっ……」
考えている事を的確に当てられ、怯むユークラウドと、当てたことで機嫌を良くするエリアナ。
そのまま、しょうがないと言った様子で、ユークラウドを悟しにかかる。
「貴方は伝言を頼まれただけです、判断するのは私ですし、貴方が気負う必要は何もありません。何より私の出す答えは分かりますよね?ユート」
「ですよねぇ……。お気遣い、ありがとうございます、師匠」
「師匠では無いと言っているでしょう」
待ったく、と今度は半眼を向けてくる師匠に、ごめんなさいと謝るユークラウド。
「まぁ、その子の方が優秀なら、今の弟子と入れ替えても良いんですけどね?」
「すいませんでした」
全然反省が見られないユークラウドに少し意地悪ををすると、珍しく慌てた様子を見せたので、思わず、クスリと笑ってしまう。
伝言の内容とは、その子が自分も魔法の勉強教室に加えて欲しいという物で、明らかにエリアナが嫌がりそうな物であった為、ユークラウドはどうやら敏感になってしまっているらしい。
「嘘ですよ。嘘。これでおあいこです」
からかわれたと気付き頰を膨らませるユークラウドを見て、また笑いを零しながら、それにと切り出す。
「私は、相手がユークラウドだから教える気になったのです。ユークラウド以外を考える気は私にはありませんので」
その言葉に今度は、思いっきり照れてしまうユークラウド。
初めての教え子というのは実に可愛い子である。
無論、本心からの言葉であるが、からかっている部分もあり、割合で言えば、5.5であろうか?
こうも表情がころころ変わる様子を、もう少し見てみたい気もしないが、これ以上はからかっているのがバレてしまう為、その気持ちをぐっと抑える。
「こんなにも魔石を作れる貴重な人材、私は知りません。自身を持ちなさいユート。貴方は唯一無二の価値を持っています」
もっともらしい言葉を並べていくエリアナ。
確かにユークラウドの能力は貴重なのだが、1番の理由は一緒に居て楽しいからであるという事をエリアナは話さない。
結局、相性なのだろう、と。
引きこもり気味研究体質気味のエリアナとおちゃらけながらもしっかりしているユークラウドの相性は思いの外良く、エリアナは彼と一緒に居て楽しいと少なからず思っている自分がいる。
今まで人と関わる事が苦手だったエリアナだが、まだそこまで長い付き合いでもないユークラウドには、その苦手を感じないのだ。
「それに、その子魔闘型なのでしょう?」
自分の中で完結させた話題に蓋をして、もっともらしい理由を上げていくエリアナ。
「私は魔術型で、魔闘型と魔術型では根本的に魔法の発動プロセスが違うので、教えるのは無理です」
こちらの理由も割合を占めるので、けして嘘を付いているわけではない。
けして、複数人に教えるのが絶対面倒くさいし、研究の時間が減るから嫌であるという訳ではないのだ。
ないったらない。
エリアナは、リリーシャにしっかりと断りを返しておく様に頼み、ユークラウドと自分に言い聞かせる様に締めの言葉を口にする。
「天地がひっくり返りでもしない限り、その子を、教え子に取るということはありませんよ」
そして、数ヶ月後の今に繋がるのだ。




