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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅱ.v
42/114

メイドのミシェル06

クリスティーナをクリシアの元に連れて行き、ユークラウドが戻ってきた時、ミシェルの考えた末の開口1番の言葉は謝罪であった。


「申し訳ございません。ユークラウド様。ずっとユークラウド様の時間を削ってしまっています……」


お互いに向かい合わせで席に座り冷めてしまったお茶のお代わりを入れ直し、お茶会を再開しようとしたが、気の利いた会話なんてミシェルには思い付かなかった。

それより先に、思い浮かんだのは謝罪。


ミシェルに暇があると言う事は、それだけユークラウドが多くの雑誌をこなしてくれていると言う事で、それはミシェルにとっての従者失格を意味する。

ミシェルにとっての自分は生粋の従者であり、雑用は自分が全てこなし、主人やその子供にはやりたい事を伸び伸びとしてやっていて欲しいというのが本音であり、それが従者としての最低ラインなのだ。


「そういうのは言いっこ無しでしょ。ミシェルさ……ミシェル。僕たち家族なんだから」


ユークラウドがフォローするも、その言葉はあまりミシェルには響かなかった。

その原因は2人の今までの歩んできた人生に起因する。


ユークラウドにとって、ミシェルは自分が産まれた時から知っていて、4年と言う短い人生の間だが、家族の一員だ。

なので、本当はもっと一歩引いた様な態度ではなく、身近な人として、家族として何の遠慮もしないで欲しいというのが本音。


しかし、ミシェルにとってのユークラウドもそうであると言うわけではない。

ミシェルにとってのユークラウドは、主人の子であり、仕えるべきもう1人の主人であるのだ。


ミシェルは幼い頃から、貴族であったクリシアのメイドとして使え、徹底された従者教育によって人生観を作り上げてきており、それ以外の生き方を知らない。

主人とテーブルを囲んだり、和気藹々と楽しくお喋りなんて行為にはどうしてもためらいが生まれてしまう。


勿論、それを快く思わないクリシアに何度もそういった事を持ちかけられ、皆んなに内緒でそれをやっていたと言う微笑ましいエピソードもある事にはあるし、楽しくなかったといえば嘘になる。

だが、生憎と、主人が許してくれるからといって気を緩めると言った半端な教育は受けたことは無く、今のミシェルは骨の髄まで従者体質である。


特にミシェルからすれば、ユークラウドとクリスティーナはまだ小さな子供であり、2人が大人になるまで従者として使え続ける際、子供故の甘さに漬け込んで友達のように家族のように過ごすのは論外なのだ。


あくまでもミシェルはクリシアとその子供2人の従者、そのスタンスを崩すことはない。

一緒に過ごしていても立場が違う、それがミシェルの考え方の根本である。


ミシェルは、ユークラウドがクリスティーナの面倒を一日中見てくれているお陰で助かっているのだが、それ故にユークラウドのやりたい時間を減らしてしまっている事に、ミシェルは申し訳なさを感じずにはいられないのだ。

そして、そんなミシェルの態度は、ユークラウドからすれば何処か距離のある関係に思え納得がいっていない。


それが現状のすれ違いの原因である。


ユークラウドは態度を軟化させない、もっと家族として過ごしてほしいユークラウドは、言葉を繋ぐ。


「僕もお母さんの事が心配だし、妹の事だって大切だし、自分のことなんていつでもできからさ、もっと僕の事も頼ってよ」

「……ありがとうございます」


ミシェルをフォローしもっと頼ってほしいと伝えるユークラウドだったが、お礼の言葉とは裏腹に申し訳なさそうなミシェル。


ユークラウドはどうしたものかと思考を巡らせるが中々良い解決案が思い浮かばない。

気分を変えようとお茶を口にして浮かんだのは一つの少し馬鹿らしい案だった。


とは言え、ちょっとだけ試しみたい気はしないでも無く、浅く深呼吸をして、顔を少し赤めながら一言、こう告げる。


「僕達家族でしょ?いつもありがと…………ミシェルお姉ちゃん」


瞬間、ミシェルに稲妻が走った。。

ユークラウドとしては、家族として遠慮は要らないのだという意味で使った言葉だったが、ミシェルにとってはそうではなかった。


「お、お姉ちゃんですか……」


お姉ちゃん。

その響きは、長年クリシアに使え続け、従者として過ごし、兄弟なんて物に縁の無い環境にいたミシェルには全く未知のものだった。


思わず、表情が固まるミシェル。

ユークラウドは効果無しか、なんて思って若干諦めてお茶を手にとろうとすると、ミシェルから意外な発言が飛び出てくる。


「………………も、もう一回だけ、お願いしても良いですか……?」


普段は絶対にそんな事は言わないミシェルだったが、今だけは違った。

初めて、砂糖菓子を食べた子供のように、今食べた味が何だったのか確かめる様に、二口目を所望する。


「………………?ミシェルお姉ちゃん……?」


ユークラウドから出たのは、少し悩んだ末の訳の分からないままの疑問系の台詞。

だが、ミシェルにはそれだけで十分だった。


この日以降、何故か、ミシェルが遠慮している様子をみる事は少なく無くなり、テーブルを4人で囲む事も増えてくことになる。

が、度々、何かを期待する様な目をユークラウドに向けるミシェルという光景もこの家の日常となってしまったのだった。

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