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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅱ.v
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研究者エリアナ10

ユークラウドには、エリアナの講座を受ける代わりに魔石を作って持ってくる事を条件としている。

その為に魔石の作り方をユークラウドに教えたのだが、その際にエリアナはその手順しか教えなかった。


普通の人の場合それで正解なのだが、相手がユークラウドの場合、その対応は誤りである。

ユークラウドには、一度に少量の魔力しか取り出す事が出来ないという欠点があり、その事が考慮されていなかったからだ。


魔石作りは、適性があれば平均的に10分弱程度、慣れれば5分程の時間で行われる作業である。

多くの魔力を消費する為1日に沢山作る事は出来ないのも相まって、そう数を多く作る訳でもないため、魔石を製作する事に多く時間を取られる事はほぼ無いと言っていい。


しかし、ユークラウドの場合、魔力を通す魔力門が小さく、一度に使える魔力量が少量ずつとなる。

ユークラウドは本来10分程度で製作が終わる筈の魔石造りに2時間かかってしまうのだ。


付け加えるなら、エリアナはユークラウドに真っ先に教えた方が良いであろう繰り返し詠唱の事を伝え忘れており、ユークラウドの魔石造りの際は、1時間以上、魔力を抽出するという文言を念仏のように唱えなければならないという問題もあった。


2時間魔石作りに時間がかかるのは兎も角、1時間以上同じ文言を唱え続けるという苦行に耐え続けられる人間が何人居るのか?とはユークラウド談。

ブツブツと念仏のように詠唱し続ける姿を想像したエリアナは質問に対する答えを持ち合わせていなかった。


最初の頃こそ、真面目に魔石作りを行っていたユークラウドが、詠唱をサボろうと思うのに時間はかからず、結果としてとった手段は魔石作りに無詠唱を利用するというもの。


詠唱を省略すると魔法の精度は落ちる、それは無詠唱でも同じ事。

頼んでいた筈の風の魔石に不純な他の魔力が混ざり始めたのは、8個目ぐらいからだろうか?


それを、頑張った方だと評価するのか、根性が足りないと思うのかは人それぞれだが、エリアナは自身の配慮が足りなかったと自分を責め、落ち込んでいたりしたことを生涯誰にも話すことはないだろう。

そして、ここで配慮が足りなかった故に、現状、今、とっても困っている自体が起きている訳でもあるのだから、彼女は半分天罰として受け入れてたりするのだが……。


話を戻そう。


この件は、双方反省しもそれで終わりだとエリアナも思っていたのだが、問題が起きたのは、ユークラウドが再びきちんとした魔石を作り始めて、一週間後の事。


ユークラウドが無詠唱で作った魔石、いや魔光石の色が銀に近付き、輝き始めたのだ。

古い文献で複数の魔力が入り混じると銀に近付く事があるという一文を読んだ時、眉唾物であると思い忘れていた筈の記憶が過ったエリアナは、すぐにそれらを人目がつかない所に隠した。


きちんと詠唱で作った魔石はそんな事は無く、銀味に近い色で輝くのは、ユークラウドが無詠唱で作ったため、偶然起きた事なのだとエリアナは推測する。

無詠唱による魔法の精度の劣化により偶然他の属性が混ざるという結果を生み出し、結果として、銀に輝く魔光石が出来たのだと。


詠唱を使った際は言わずもがな、詠唱省略でも、精度はそこまで落ちず、他の属性が混ざりきらないため、こうはならない。

魔闘型はそもそも魔力が混合するほど属性を持っていない。


魔術型で、尚且つ他人より多くの属性を持ち、無詠唱を扱えるユークラウドだからこそ起きた現象。

ユークラウドと同じ魔術型で付加魔法の属性を持っていたとしても、エリアナ、ひいては他の人では、同じことを再現する事は決して出来ないだろう。


このことは、ユークラウドにも気付かれないように隠しているし、念入りに無詠唱を使わない様に言いつけてある。

大金を生み出す術をこの歳で持っていても、要らぬトラブルに巻き込まれるからだ。


エリアナも自身が貰った物ではあるものの、消費方法に困っている。

複数の属性が混ざっている為、彼女の研究には碌に使えないし、何処かで売り出そうものなら足がついてしまい、ユークラウドがトラブルに巻き込まれるため、一向に使い道が無いのだ。

というか、ユークラウドの了承なしに、これを売るなど詐欺と大差ないし、そんなことはエリアナは絶対にしない。


悩んだ末に、エリアナは、ユークラウドが大人になったら、魔光石を丁重に突き返えしてやることを密かに決意する。

だが、それまで、貴重品を持っていることに変わりはなく、彼がが大きくなるまで、時より思い出しては、頭を抱えたくなる悩みの種が生まれるのであった。


エリアナ自身にも責任があり、尚且つ、この秘密を守るため、ユークラウドを責めることは出来なかったエリアナは、能天気な彼の笑顔を見る度、やりきれない思いを度々したのだとか、してないのだとか。

実は、他のユークラウドの厄介の種は、エリアナ側の落ち度も関係している気がするのは、きっと気のせいということにして棚にあげたとかあげてないとか。


そんなこんなでユークラウドの過去に思いを馳せていたエリアナには、ふと、あの箱の中が今どうなってるのかという思考が頭をよぎった。

実は魔光石を封印したあの日から、全く開いていないのだ。


一度考えてしまったら、気になって仕方ない。

好奇心に負けたエリアナは封印した筈の箱を開け、そして、すぐにそのことを後悔する。

魔光石の銀の輝きは過去に見た時より更に強くなっていた。


目の前の光景に思わず、頭を抱えたくなってしまう。

何故、つい開けてしまったのかと、自分を責めるエリアナ。


これだけ輝いていたら、更に価値が高くなることは容易に想像できた。

これでは、元々、粗悪な風の魔石だったなんて誰も思わない。


しかし、もう一度、開いて見たことにより、エリアナには、新しい発見があった。


「(……これは、魔石の感じからして、他にもかなりの属性がある?)」


今分かっている限りのユークラウドの属性は、火、水、土、風、付与の5つ。

無論、これから更に調べるつもりだったし、後1つか2つはあると思っていた。


だが、魔石の感じからすると1つ2つ程度の話では無さそうだ。

全く、いつも、ユークラウドには頭を抱えさせられる。


そう呟いた彼女は小さく微笑んでいた。

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