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バッドエンドの転生者  作者: 避雷心
序章Ⅱ.v
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幼馴染のリリーシャ05

弟子入り04その後

家のドアが開く音がした。

控えめな物を傷付け無いようにと配慮した開き方。

それだけで、今までの沈んでいた気持ちが吹き飛んでいく気がした。


階段が軋む音がした。

人によって体重や足運びが異なるその音はリリーシャが知っている音。

それだけで、過ちを犯したというのにも関わらず心が喜んでいるような気がした。


コン、コンと音がする。

リリーシャは沈み込んでいた布団から、這い出てた。


「入っていいかな?」

「ん……」


ドアをノックした、ユークラウドを部屋の中に入れる。

床に座ろうとしたから、リリーシャは自分の隣の位置になるベッドの上を指で指示した。


ユークラウドがリリーシャの隣に腰を落ち着かせた所で気不味い空気が流れる。

しばらくの、沈黙。


2人の息遣いだけが聞こえ、時間だけが過ぎていく。

互いに互いの顔が見れない状況。


満月の夜でも無いというのに、不安から、リリーシャには先祖返りの兆候が表れかけている。


リリーシャが見ると、何を喋ればいいのか、ユークラウドは迷っているようだった。

だから、先に沈黙を破ったのは、リリーシャの方。

思いが波のように溢れ収まらなかったからだ。


「ユー……むしした……」

「えっと……それは……………………、ごめんなさい」


それは、確信を吐く言葉だった。


ユークラウドは、言い訳を口にしてしまいそうになるが、踏み留まり謝罪する。

そう思わせる行動をとった事が問題なのだと思ったのだろう。

もしかしたら、何処かのメイドに助言されたのかもしれない。


その反応に1番困ったのは、リリーシャ。

別にリリーシャは、その事を責めたかった訳じゃない。

その理由を聞きたかったのだ。


もし、自分の事を嫌いになってしまったのなら、と言おうとして、言葉が詰まってしまう。

結果として、そう、と短い言葉しか返せなかった。


また、場が沈黙してしまう。

口を開かなければ、言葉を交わさなければとの思いだけが、先にくるが、行動に伴わない。


だから、その言葉を紡ぐ為に更に時間がかかった。

だが、それでも、これだけは聞かないといけないと思ったのだ。


「ユーは…………」


ボソリと小さく、彼の名前を愛称を呼ぶ。

口が、舌が、こんなにも重い物だとは知らなかった。


「わたしのこと、…………きらい……?」


自分の中の1番大きな場所を貫く言葉だった。


大事な要点だけを切り取った、1番聞きたかった大切な質問。

言葉にすればとても単純な問答だったけれど、直線的な言葉とは裏腹に、吐いた側のリリーシャの心はかつてないほど苦しい。


ユークラウドに嫌われてしまったのか、今はそれだけが聞きたかった。

もし嫌われているのだったら、沢山謝ろうと、許してくれるまで謝って、今までの態度を改めようとは考えてはいるけれど、それでも、もし同意されてしまったら、拒絶されてしまったら、私はどうやって生きれば良いのだろうと、ネガティヴな気持ちだけが心を埋め尽くしていく。


何処へだっていいから、この空間、この時間から、逃げ出してしまいたかった。

でも、ここで逃げ出してユークラウドと合わなくなるのはもっと嫌なのだ。


だから、ユークラウドの返答は思いもがけない言葉で、


「き……大好きです」

「っ………………ん……」


その一言にどれだけ救われただろう。

最初、聞き間違いかと思い、何度も、何度も心の中でリフレインするが、そんな事は無かった。


今まで、沈んでいた気持ちが嘘の様に溶けていくのを感じる。

リリーシャはただ、ただ嬉しくて、その思いは、ついに溢れて止まなかった。


「ごめん……なさい…………」


最初に出て来たのは懺悔の言葉。


「……、わ……わたしが……からかった……から……」


たった1週間ぽっちの間に、再開したら言いたかった事、謝りたかった事、沢山沢山積もっていた。

彼と離れていて、自分がどれだけ彼に頼っていたか、どれだけ甘えていたかに自分で気付いてしまったから、言葉にして伝え無ければいけないと思ったから最初に出たのは謝罪の言葉。


「……ごめ……ん……なさ……い」


ほおっておくと、奥から奥から溢れて止まない。

自分が今まで酷いことを言っていたと理解してしまったから。


リリーシャは、自分がユークラウドと一緒にいる為に、無償で色んなものをくれるユークラウドに対して自分を精神的に大きく見せていたのだ。

だが、まだ子供であるリリーシャには、それが自分の事であっても分からず、ただ酷い事をしたという自覚だけが残る。


だから、ユークラウドと距離を置いて、このままでは、ユークラウドと離れてしまうのでは無いかと気付いたのだ。

ユークラウド頼り切っていたのは、リリーシャの方で、ユークラウドがリリーシャの側にいる理由が見当たらない。


ユークラウドの服を掴みすがる様に謝罪するリリーシャ。

嫌な子でごめんなさいと。

だから……。


「すて……ないで…………」


思わず本音が漏れた小さなリリーシャの背中をユークラウドは優しく包む。

子供らしく、言葉では無く、態度でリリーシャへの思いを示すのだ。




一頻り泣いたリリーシャは、ようやく落ち着きを取り戻す。

だが、その様子は何処かおかしい。


「ええっと……、リリーシャさん?」

「やー…………」


久々にユークラウドと再開して落ち着きを取り戻した筈のリリーシャは、ユークラウドに抱き着いたまま離れる様子が無かった。

1週間分を取り戻すという勢いで、しがみついたままのリリーシャは、ユークラウドを離そうとせず、既に5時間以上の時間が経過している。


そろそろ夕ご飯の時間なのにまだ離れる様子がないリリーシャに、流石のユークラウドも戸惑っていた。

先程、様子を見に来た父親のリールイも何時間も動かない娘を見て困惑していたので、仕方ないとも言えるが。


折角、ユークラウドにがリリーシャの母、ルルーシャにバレない様に来た筈がこれでは何の意味も無い。

まぁ、結局、ユークラウドが重く考えていただけで、ルルーシャにユークラウドが怖がられていると互いに知っていながら、何度もリリーシャに連れられて家に行っているのだから、産後とはいえ、言ってしまえばそんな事は今更であるのだが。


リリーシャを襲うのは、ここで離したら、ユークラウドに見捨てられるのでは無いかという強迫観念。

せっかく謝罪したというのに、最終的に力技に頼るのは、やはりまだまだこどもだからか。


そもそも言ってしまえば、ユークラウド自身、何故こうなったか疑問に思っている節さえある。


この後、メイドのミシェルがやってきて、ユークラウドを連れて帰ろうとして、リリーシャと衝突がおこり、2人の仲直りは有耶無耶のまま終わるのである。


結局、2人が平常運転に戻るのに更に1週間の時間を要した。


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