研究者エリアナ05
今日はエリアナが人生で初めて、個人授業を執り行う日、なのだが。
「私が、人に物を教えられるのでしょうか……?」
エリアナの頭の中は不安で一杯だった。
昨日、流れで、ユークラウドという少年に魔法の事を教える事になり、日取りを改め、今日から授業を始めることになったのだが、今思えば、どうしてそうなったのやら。
一応、学園国家エグゼルクで、教鞭を取っても良い資格の様な物を取った気がするが、何分、10年前の出来事。
誰かに教えを請われる経験は初めてだったし、勿論、人に教えるのも初めてだ。
加えて、エリアナは対人関係が得意な方ではなく、家によく知らない子を招いて、授業なんてまともに出来るかどうか怪しい。
学生だった頃に、教壇の上で堂々としていた先生方を今から尊敬するばかりだ。
今からでも断れないだろうか、なんて考えると、あの少年の寂しそうな姿が思い浮かぶので、まぁ、無理だろう。
世界を回っている上で、情には、流されない様に徹していた筈だったのに、こんなにも自分は脆かったのだと思い知らされることになる。
「…………今回だけは特例です」
何処と無く、そんな言い訳をしてどうにか心を落ち着かせる。
大丈夫だ、私は、冷静に、自分の意思で判断したのだと。
偶々、生まれつき魔法に苦戦していた少年に過去の自分を重ねてしまっただけの事。
もしかしたら、彼の体質を解き明かすことが出来れば、行き詰まっていた研究にもプラスになるかも知れない。
私の判断は何も間違ってないのだと、確認し、不安を完全に消した。
いつ間にか、不安の理由を他人に押し付けようとしていたという事に、気付けばどうと無い事だった。
未熟なのは私なのだから、と。
葛藤のお陰なのかは分からないが、暫くしてやってきた少年とエリアナの会話は、案外、スムーズに進んだ。
「改めて、ユークラウド・フェイディです。これからよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします、ユート」
あいさつは前回の事あってか、あっさりと終了し、ユークラウドが次に出した話題は意外にも受講料に関してだった。
エリアナは全く考えて居なかった問題に、一瞬、面を食らう事になる。
貰う気なんて、元から無かったのだが、考えてみれば、最初に色々な取り決めをするのは当たり前のことかと、自分よりよっぽどしっかりしているユークラウドに感心する。
さて、どうするか?とエリアナは考える。
1番は、受講料と名のつく様にお金をもらう事だろう。
お金に困った時は、村の手伝いによって稼いでるエリアナとしては、とてもありがたい申し出だが、こんな子供に金銭を要求するのは気がひける。
かと言って、親に要求すると、この個人授業自体中止になってしまう可能性が高い。
前も言った様に、この子が魔法について考えるのは早過ぎるのだ。
学校に通い始めるまで、魔法を禁止させられる様な自体は何としても避けてあげたい。
というか、お金を要求された場合、どこからお金を工面してくるのだろう?と疑問になる。
適当に研究の手伝いでもさせれば良いかと、エリアナが結論考えた末に結論付けた時、ユークラウドは何処か心配そうだった。
成る程、この問いかけは、ユークラウドの不安の裏返しなのだ。
断る材料を、エリアナの方に与える事で、いつでも自分を追い返せるように、保険をかけようとして来たのだろう。
「余計なお世話です」
この歳で、気を使い過ぎなユートの姿に、さっきまで悩んでいたのが少し馬鹿らしくなる。
いつのまにか、エリアナはユートの額に人差し指を軽く当てていた。
「心配するなら、授業について来れるかどうかを心配してください」
自分は、こんな積極的な行動を取るのだと、初めて知れた。
きっと、教える側もそうだが、教わる側が不安では、伝わるものも伝わらないのでは無いかと思ったから。
「条件は実験の手伝いにしましょう。内容に関しては、適性を見た後にでも考えます。良いですね?」
エリアナの言葉にユートは大きく頷いた。




