弟子入り11
師匠の家に最後に行った日から、約3週間後の夜。
今、僕は家のベッドで本を開いていた。
日が沈んでしまったら寝るという、この世界の生活はとても健康的に良いのだけど、今僕は、それに真正面から反抗している最中だったりする。
あの日、師匠に貰った3冊目の本を、妹が寝静まった後に読むのが最近の日課なのだ。
こうした、ちょっとした悪行は僕を幼心ながらにワクワクさせてくれる。
隣では妹のクリスティーナがスゥスゥと息を立てて眠っている。
愛娘ならぬ愛妹の寝顔は、とても可愛くて仕方がないのだけれど、あまり気を取られ過ぎていると、何故か意識が落ちてしまい、今日の自由時間が潰えてしまう。
恋人や好きな人の声を聞くと、安心して眠くなってしまうと言うけれど、僕の場合、それが妹なのかもしれない。
また、妹の話に脱線してしまった。
今は本の話だ。
師匠がくれた本は3冊。
世界で最もメジャーな魔法言語の辞書。
魔法理論初級本。
タイトルの無い本。
どれも、読みやすく、分かりやすい、自習するのに最適な本と言える。
特に3冊目。
前の2冊は、この世界で一般的に売られている、手書きの書き写し本であるのに対して、最後の1冊は、コピー機には遠く及ばないものの、印刷したような文字で構成されている。
これは何と師匠が付加魔法で書き上げた、世界に一冊のオリジナルの本なのだ。
もらって数日にして僕の一番の宝物である。
師匠には感謝しても仕切れない。
手作りのプレゼントととは、こんなに心が躍るものなのだと、初めて知った。
ふふーんいいでしょうと、思わず皆んなに自慢してしまいそうになったが、それは事前に師匠に止められている。
紙、ましてや、魔力の通った紙は、ある程度の価値を持つため、あまり見せびらかすものでは無いらしい。
師匠はおくびにも出さなかったが、結構な値段と手間がかかっているみたいなのだ。
次回、師匠の所に行く時までに、お返しの大量の魔石を作っていくのが今の小さな目標。
ちなみに、何故、付加魔法で作られているかというと、この本は未完成だからだとか。
付加魔法で文字を印刷すると、後からでも内容を書き換えたり、付け加えたりできるらしい。
今後、授業の進行度合いに合わせて、この本をアップデートしていくとは師匠談。
更に書いてある事も分かりやすく、簡潔に纏められていて、所々にアドバイスがあったりして、師匠の所に行けなくても、この本から師匠の教えを感じる事ができる。
本当に師匠の暖かさを感じる一冊だ。
そんな好意に全面的に甘えた結果の3冊なのだが、読み始めると中々止まらない。
子供としての性なのか、知らない知識を集めていくのがとても楽しいし、書いてある事もかなり面白い。
しかも、実験に必要な物は魔力で事足りる為、己の身1つで色んなことを実践して、身に着ける事もできる。
昼間に読んだら、間違えなく生活に支障をきたすほど熱中してしまう為、眠くて、誰にも邪魔されない夜に読むようにしているのだ。
成長中の子供の体というのは睡眠時間を多く必要とする為、あまり長くは起きていられないんだけどさ。
この日も、熱心に本を読んでいる内に眠くなってしまい、思考がまとまらなくなる。
「お休み、クリスティーナ」
「………………」
隣で寝ている妹に、声をかけて自らも眠りにつく。
そんな日々が暫く続いて、遂に我が家の家族がもう1人増えることになる。
産まれたのは女の子、2人目の妹だった。




